ごめんなさい.....ごめんなさい.....なんてことを.....
「まあ、良かったじゃないか? 私も助かったし、君もーーその、ええと」
今、俺を含めた三人が居るのは、あの瓦礫の山ではなく、魔理沙の家だった。
そこで、何やら剣呑な雰囲気を中和すべく、彼女は話を切り出したが、途中で言葉を切ってしまう。
何と言おうとしたのかは分からない。帰ってきてくれて良かった、かもしれないし、あの鎧から解放されて良かった、かもしれない。
しかし。俺は本当に、戻ってきて良かったのだろうか?
俺の持っていたベルト、ビルドドライバーには暴走の可能性が内包されている。あれを使えば暴走することは確実だし、これはあくまで仮説だが、もしかしたら、生身の、今の自分にも何らかの影響が出るかもしれない。
そんな自分が。果たして、ここに居ていいのだろうか。
「で、説明してくれてないけど。あれは何だったの? あの、木片の山は」
ふと、アリスさんがそう切り出した。
そう言えば、説明する暇はなかった。ずっと、空気が緊張していたからだ。
「それについては俺から話します」
どうにか弛緩し始めた空気に取り入るべく、俺はそう言うと、言葉を紡ぎ始めた。
「先ず、あれは、元々妖怪の邸だったものです。それが、何らかの理由によって解体されたーー」
「何らかの理由?」
実のところ、そこについてはまだ何も分かっていない。何よりも、俺は解体の瞬間を見ていないのだ。それで分かろう筈もない。
「そこんとこはまだなんとも言えないぜ。情報が少なすぎる」
「ーーそれで、俺と、魔理沙さ.....魔理沙は、その邸に居た妖怪が、この妙な結界を作り出し、濃度の高い霧を作り出したのではないかと見ているのです」
言い切ったところで、そう言えばさっき取り逃がした妖怪については触れていないな、とふと思った。
あいつはどうしたのだろうか。助け出されたか。それとも、自力で脱出したか。どうにせよ、まさかまだ埋まっているということはないだろう。
「で、その問題が、どうやったら貴方が魔理沙を襲う構図に変貌するのかしら? そこんところをお聞かせ願いたいわね」
その言葉はどこか高圧的だった。やはり、友人が襲われたことに腹を立てているのだろう。記憶はないが、その気持ちは分かる。
「ええと、それは.....ベルトの能力で.....」
「ベルト? そう言えば着けてたわね、そんなもの。ーーで、そんなリスクの高いものをどうして、」
その言葉を遮ったのは魔理沙だった。
「待て、待て。落ち着け。あの時、誰も暴走するなんて分かっちゃなかった。まだ、「便利なスーツが出るアイテム」ということしか分からなかったんだ」
それは半分間違いであった。
俺は変身中、ずっと頭が冷めていく感覚にとらわれていた。そして、ぼんやりと考えたものだ。このまま頭が冷めきってしまったら、自分は果たしてどうなるのか、と。ーーそこで、自我がなくなるのではないか、と、少しでも思わなかったかと言うと、そうではない。
「ーーーーー」
言う言葉がなくなったようで、彼女は黙りこくってしまった。
「ま、まあ、取り敢えず。暴走対策が立てられるまで、変身しなければいいってことだろ。な?」
変身しなければ。つまり、俺に、遠回しに退陣を要求しているわけだ。
しかし、それに別段不満はない。それどころか安堵してさえいる。これ以上、暴走のリスクを背負って戦うのは耐えられない。
「ーーああ、分かった。変身しない」
「でも、これから、俺はどうすれば?」
立て続けに言うと、魔理沙はまいった、というように頭を掻いてから、「せめて、この結界の破壊に成功するまではこの家で隠れてればいい」ーーと言った。
「で、アリス。聞いてなかったけど、結局手伝ってくれるのか?」
「断る理由ないし、いいけど.....」
二人は戦う気だ。それのサポートができないのは歯がゆかったが、仕方あるまい、と割りきった。
「じゃあ、私たちは出るよ。ーーあ、言っとくけど変なことはするなよな!」
それに分かってる、と苦笑して答えたところで、二人はこの家を後にした。
ーーそこで、俺は気付く。真横、つまり、リビングのテーブルの横に、何やら秀麗な人形が鎮座している。それに、俺は見覚えがあった。そうだ、これはアリスさんの人形だ。
しかし、それがどうしてここに?
「監視のためよ」
ふと。その人形が喋った。
「え、えっと.....録音?」
「私の意識の半分を乗せてる。だから録音じゃない」
彼女はそう、淡々と答えた。
「で、さっきは言えなかったことを言うけど.....貴方、本当に暴走のリスクを分かってなかったの?」
どきりとした。
「ーーそ、れは.....」
「言いあぐねるってのは、負けを認めることと同義よ」
事実だ。
確かに俺の中には、漠漠とした予感があった。このまま戦い続ければどうなるのだろう、という予感が。
「その様子からして、完全には分かっていなかったようね。けど、予感はあった」
高圧的に、摘発でもするかのような声色で彼女は言い放つ。
「貴方、その余波で魔理沙を殺してたらどうするつもりだったのよ?」
それは痛いくらいの正論だった。ただの予感だろうと、この場合、議題が議題だ。あの力が、「自我」という制御を失えばどうなるか、容易に想像がついた筈である。
しかし、同時に俺は思っていた。制御を失うことはないだろう、と。全ての戦いを短期決戦で終わらせれば暴走などしない、と思っていた。
「何も、対策を講じてなかった、です」
叱られて、ばつが悪そうに物事を言う子どものように俺はそう言った。
「ーーふざけてるの?」
「暴走はしないだろう、と思って.....」
「冗談じゃあないわよ!」
その言葉はあの妖怪の拳よりも重く、それでいて辛く俺に突きつけられた。
糾弾するかのようなその言葉。無責任な俺へ向けられた呵責。
「あんたはここに居るべきじゃない」
二人称が「あなた」から「あんた」に格下げされた。当然か。
「その通りです。ーーごめんなさい」
俺はそう言い残すと、未練がましくあのスポルティングのバックを手に取り、ちらりと家を一瞥してから、ドアを開けて魔理沙の家を去った。
行くあてもないのに。
久しぶりの投稿なのに、こんな剣呑な雰囲気の展開でいいのかと我ながら反省しております。