さて、そろそろ完結に向かっていっているこの小説。自分でも分からないうちに、どんどん初期プロットが崩壊していってます。
収拾つくかなぁ.....?
ちょっと言い過ぎたか。魔法の森に住む人形遣い、アリス・マーガトロイドはそんな思考をしていた。
彼ーーあの少年のいい加減な態度には正直腹が立つ。しかし、人間というのは皆そういうものではないのか。誰しもどこかいい加減で、そのことを取り繕ったり、割りきったりして生きているのではないか。
第一、彼や魔理沙は、「暴走するなんて知らなかった」と言っていた。あの少年は予感こそあった、と言っていたが、しかし、そんな漠然としたもののために動ける人間など居ないのではないか?
人形とのリンクを一時的に切って、彼女は真横を向いた。アリスは魔理沙と並走ーー飛行しているのでその形容は正しくないかもしれないーーしていたので、そこには魔理沙が居る筈である。
しかし。そこに魔理沙の姿はなかった。
「ーーーえ」
声が漏れたのは一瞬だった。魔法使いとしての勘が、彼女に「危機」の来訪を告げていたからである。直ぐ様、待機を命じていた周囲の人形を展開させ、辺りを見渡す。完全な臨戦態勢だ。
魔理沙は如何なる理由によってか消えた。それは間違いなく、「攻撃」だ。こんな局面でふざけるような性格ではない、彼女は。
周囲に敵の姿は見えない。霧が濃い所為で見えないだけかもしれないが、とにかく周囲に生物の存在はない。
ーー厄介なことになった。彼女は歯噛みしつつ、防衛隊の人形のうち、2機を探索に向かわせてゆっくりと降下していく。
まだ敵の姿は見えない。しかし、何も見えない暗闇に、相手は確実に潜んでいる。
次の瞬間。探索に向かわせていた人形の糸が切れた。糸が切れる理由は、この局面に於いては1つ。捜索を恐れた敵が人形を殺した場合だけだ。
人形が殺されたということは、近くに敵が居る可能性が高い。アリスは直ぐ様、遠距離攻撃の出来る人形を横並びにさせ、手頃な草むらに向けて光弾を一斉掃射した。いっそ場違いな発射音がかき鳴らされ、狙った草むらが焼き消える。
しかし、そこに敵はいなかったようで、後には沈黙だけが残った。
アリスは今一度辺りを見渡す。だが、やはり敵は捕捉できない。
魔理沙が拐われたこともあり、彼女は焦燥にかられていた。
それから5分が経過しても尚、彼女は気を張り続けていた。どこから敵が襲ってきてもいいように、だ。これは魔法使いとしての異常な精神力が成せる技だった。
ーーしかし、突如響き渡った轟音によって、その集中は一瞬途切れてしまう。
それにより出来た一瞬の隙を突き、「攻撃」が飛んできた。
それは矢だった。攻撃方法は弓か。刹那に、彼女はそんなことを思った。
次の瞬間、ぐさり、という、やけに重々しい音が辺りに響いた。そこに、肉の弾ける音や、流血の音は混ざっていない。
矢はアリスを護る人形に刺さっていた。そう。彼女は無傷ということである。
刹那。矢の出現方向から、完全に相手の位地を把握したアリスは、攻撃用の人形2体を専攻させつつ、自身もその方向へ突撃した。
彼女は人形と視界を共有することによって、相手の正体を掴んでいた。
相手は人間だった。魔法使いですらないただの人間。
しかし、その「人間」はーー。
アリスの人形を、防御用、斥候用問わず全て打ち落としてみせた。
最初は何が起こったのか分からなかった。敵は何の予備動作も取っていないし、矢だって放っていなかった。おおよそ「攻撃」と呼べるものの気配はなかった筈なのだ。
しかし。彼女は、繊維がボロボロになって地面に落ちていく全ての人形を見て悟った。これは「能力」なのだと。人間が持つ特殊能力なのだった。この一連の現象は。
劣化能力ーー。周囲に霧状の波動を散布し、それに触れた物質を劣化させる能力。それを使い、「繊維」を「劣化」させることによって、この敵は彼女を無力化したのだった。
ーー彼女は知るよしもないことだったが、この森の「霧」は、彼の能力だった。尤も、森の霧は「劣化」の作用を持ち合わせていないのだが。
そんな男は、勝ち誇ったような笑みを浮かべて隠蔽態勢を崩し、弓を繰ってアリスの方向に矢を射出した。この距離での攻撃。全く回避できない攻撃ではないが、しかし、回避は難解極まる。
ーーと。アリスの腕に突き刺さったその矢は、肉を貫いたことで運動の全てを肉の中で消費して静止した。
「.....妖怪をーーなめんじゃないわよ.....!」
だが。アリスは痛がる素振りこそ見せたものの、肉体的ダメージは少ない、と、矢を体から抜き放ってしまうと、深紅の弾丸をそいつに向けて射出させた。
銃弾よりも速い弾丸は、男の足を貫き、地面に衝突したところで無数の粒子となって消滅した。
何の細工もしていない、通常の弾。美しさを競うスペルカードルール上で放てば、白けることこのうえない単純過ぎる弾。
それでも、今回の敵を倒すのには、それで十分だった。
そいつはその弾を食らい、無様にも転倒した。その足からは血が流れ出ている。一方、さっき貫かれた筈のアリスの傷は、既に完全に再生していた。
「さっきも言ったけど、敢えてもう一度言うわね。貴方、妖怪をなめてるの? こんな何の細工もしてない矢で妖怪が倒せるとでも? たかだか手を1つ潰したくらいで、戦意喪失するとでも? 通常の弾1つ避けられないで、敵うと思ったのかしら?」
それは、元々人間だった者のみが理解し得る、失望にも近い情けない感情であったかもしれなかった。人間はここまで浅はかな種族だったのか、という落胆の意。
「まさか、だろう」
ーーと。ふと、男が喋った。
「それよりも、あんた気付いてなかったのかい?」
「ーー何ですって?」
気付いていなかったのか。ーー何に? とアリスは思った。
「自分の力が、ちょっとずつ、ちょっとずつ弱まっていくのをさ。存在力、といってもいいか。そんなものが、体から抜け出ていくのを感じなかったかい?」
「なめてるのか、と訊いたな」
「それは逆だ。全くの逆ーー。あんたの力を警戒して、尊敬してるからこそだ.....!」
次の瞬間。素早く天に向かって掲げられた手から、ドス黒い力の奔流が迸った。
「もう、止められない。たった今、ずっとかき集めてた、この森の「力」を、本部に送った」
「何、言ってーー?」
アリスは目の前で起こっていることが理解できなかった。しかし、1つだけ分かったことがあったのだった。
今戦っていた相手は、用は、時間・力稼ぎの為の捨てゴマだったのだ。この状況は仕組まれていて、謀った本人は「力」とやらを受け取ってほくそ笑んでいるということなのだ。
魔理沙。彼女は焦燥や不安などからそう叫ぼうとした。
しかし、その叫びは、次いでかき鳴らされた音に打ち消される。
「
バットエンジン。蝙蝠、もしくは悪のーー機関という意味だ。
何かただならぬことが起こっている。アリスはそれを理解して空を仰いだ。
さっきの音で、森の霧は大方晴れていた。元々存在していた茸の胞子などは相変わらず残っているが、霧は完全に残っていた。
「何が起こったの.....?」
呟きつつ、彼女は、その問いの答えを知っていそうな人物の方向を向いた。
そして絶句する。ーーそいつは、足元から霧となって空間に溶けていた。否、消滅していると言った方が正しい。
「ああ、やっぱりだ。あの人は
霧となった彼の体は、渦を巻いてどこか一方向へと向かっている。それは、さっきドス黒い力の奔流が送られたのと、同じ方向だった。
やがて。眼前の「人間」は完全に消滅した。
アリスは、それを見届けもせず駆け出していた。