黒兎の唄   作:サハクィエル

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Mad World

「お、お前は.....!」

 

 霧雨魔法店から12分ほど歩いて着いた、開けた土地で、俺はそいつと出会った。

 

 黒い着物に、特徴的な角。それに、白髪。間違いない。あの、以上に強い鬼の妖怪だーー。

 

「ああ、名乗ったかな、オレ。ーー魂を喰らうもの.....霊鬼」

 

「お前を探していたんだが.....手間が省けたなァ。ベルト、戴くぜ」

 

 その言葉で、俺は意識も体も、臨戦態勢へと移行させた。既にベルトは巻いている。後は、ボトルをソケットに挿入して変身するだけだ。

 

 もう俺は、あの二人と関わりがない。ーー暴走したって、誰にも迷惑をかけることはない。

 

 躊躇なく、一抹の寂しさから震える手でボトルをベルトに挿入すると、ベルトはいつもの通り、『RABBIT(ラビット)』『TANK(タンク)』と鳴いた。

 

 そこから赤いレバーを回し、変身シークエンスを完了させたうえで、ロクにポーズも取らずに駆け出した。

 

 変身音が高らかに響く。しかし、それに構っている暇はない。奴は強いのだ。一瞬で戦闘を終わらせなければいけない。

 

 一瞬、黒い鋳型のフレームによるプレスで動きが止まるが、1拍後には既に駆け出せている。刹那、右手を後方へ引ききった俺は、その拳を容赦なく振り抜いた。

 

 だが。そこまで予備動作の大きい攻撃が読まれていない筈もなく、簡単に受け止められてしまう。

 

「効くかよ、こんな攻撃がよッ!」

 

 俺の腕を受け止めたそいつは、叫びつつ、フリーになっている右手でこちらに殴りかかってきた。

 

 その殴打は俺の何倍も速く、一瞬にして俺の体に到達した。鳩尾を衝撃が抜ける。脳を介して全身に痛みが伝わり、低く喘ぐ。

 

「これが、攻撃、か」

 

 ふと。俺は呟いた。

 

 どこか自嘲するような。あるいは、全てを諦めてしまったような声色だった。

 

「あン?」

 

「こんなものは、攻撃じゃ、ない」

 

 俺は手を伸ばす。

 

 ベルトに装着された深紅のスイッチへと。

 

 全てを終わらせる、禁断のアイテムへと。

 

 ーーこれを押せば、もう戻れない。

 

「こっからだよ、霊鬼」

 

 『MAX HAZARD ON(マックスハザードオン)』ーーと! 次の瞬間、上ずった合成音声がかき鳴らされた。

 

 それにより、ベルトの出力が限界まで上昇する。体から紫色の波動が迸り、そして、残った自我が掠め取られてゆく。

 

 ーー暴走状態。彼は、能動的にそれを作り出したのだ。

 

 刹那。足を前方へと突き出し、鎧は霊鬼を蹴り飛ばした。

 

「がハッ.....」

 

 暴走状態のラビットタンクハザードには、敵の装甲を貫通する能力がある。彼はそれを行使し、妖怪の分厚い装甲を突き抜け、霊鬼そのものへと攻撃を食らわせたのだ。

 

 その威力は、尋常ではない。

 

「こ、この.....」

 

 言いつつ、霊鬼は走り寄ってくる。その手には、いつの間にか金棒が握られていた。

 

 奴はそれを大上段に構え、彼へと肉薄した。

 

 しかし、間合いが完全に詰まる前に、彼は既に手を打っていた。ベルトのレバーを回し、ボルテック・フィニッシューー必殺の一撃を叩き込む準備を整えていたのだ。

 

 刹那。彼の間合いに入った霊鬼は、漆黒の強化剤、プログレスウェイパーを纏った彼の回し蹴りを頭部に食らい、そのまま、森じゅうに響くか、というくらいの轟音を伴って吹っ飛ばされた。

 

 それを見据えつつ、悠々と歩く影が1つ。黒い鎧だ。彼は蹴り終えてから、息つく暇なく、追撃態勢の態勢を取ったのだった。

 

 彼は地面に落ちている霊鬼の金棒を手に取ると、それを体の横で構えてーーだらんと垂れているので、構えているかは怪しいところだーー「喰らうもの」へと肉薄する。

 

 気付けば、間合いはもう3メートルほどしかない。十分、必殺の一撃が叩き込める距離だ。

 

 次の瞬間。歩き続けていた彼は歩みを止めた。間合い、30センチ。金棒で十分敵を葬り去れる位置。

 

 彼は金棒を振り上げると、それを大上段から下段へと振り下ろしたーー。

 

 その金棒が、霊鬼に命中する直前。

 

 彼は、体に大きな衝撃を受けて背後へと吹っ飛ばされた。見ると、羽の生えた人型の「何か」が、黒い鎧の、その胸部に追突したらしかった。あまりにも過剰な速度の突進で、踏ん張ることすらできなかったのだ。

 

 そして。その突進で、霊鬼は死んだ。上体を衝撃で消滅させられ、残った下半身が、再生もせずに消えて行く。

 

「くそッ! そんな隠し玉持ってやがったのか!」

 

 それを叫んだのは魔理沙だった。彼女は飛行中、変身煙銃で変身したナイトローグーーさっき現れた癖毛の男ーーに連れ去られたものの、機敏に反応して迎撃し、それを成功。死を免れたどころか、今の今まで、ナイトローグと互角の戦いを繰り広げていたのである。

 

 しかし。羽に身を包み、そのまま体を回転させて突進してきたそいつを、魔理沙は回避しきれなかった。サイドステップの時に左手を上手く引き付けられず、彼女の左腕は現在、大きく歪んでいた。骨折しているのだ。

 

 そんな魔理沙は、まるで「終わった獲物」かのようにーー。ナイトローグは、その手に持ったトランスチームガンにドラゴンボトルを挿入すると、そこから蒼いドラゴンを射出。正確に黒い鎧を射抜き、変身解除まで追い込んだ。

 

「どうやら、役者は揃ったようだな」

 

 ナイトローグは言い、そして、変身を解除した。ーーと次の瞬間、空からドス黒い竜巻が降りてくる。そいつは真っ直ぐに降下し、癖毛の男を包むと、やがて、激しさを増すことなく消えた。

 

「フム.....どうやら霧凪もやってくれたようだ。私の元に、こうして力を送ってきてくれるとはーー」

 

 ブツブツと呟きつつ、その男は懐からベルトを取り出す。ーー深紅のベルトだった。心なしか、その造形はビルドドライバーに似ているように見えた。

 

 男がそいつを巻くと、ベルトは、「Evol Driver(エボルドライバー)!」と哭く。

 

「エボル.....ドライバー.....?」

 

 言ったのはたった今変身解除された少年であった。頭を押さえている。どこか苦しそうだ。

 

「そうだ。これを使えばーー私は神になれる」

 

 1拍と置かず、男は手に握っていたボトルをベルトに突き刺した。ボトルはそれぞれ、「コウモリ!」「発動機!」と音響をかき鳴らす。

 

 『Evol Much(エボルマッチ)! ーーAre You Ready(準備はいいか)?』ベルトが宣言すると同時、彼は側面部のレバーを一心不乱に回し、天狗巣状に赤と紫のパイプを展開させた。それを満面の笑みで見据えつつ、彼は声高らかに「変身ッ!」と叫ぶ。

 

 次の瞬間、パイプが一点に集束し、その中心に一人の戦士を作り出した。

 

 『Bad Engine(マッドローグ)!』ーー。そんな宣言と前後するようにして、ベルトから哄笑が響く。

 

「さて、ベルトをいただこうかな」

 

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