黒兎の唄   作:サハクィエル

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 遂にビルド本編に出てしまいました、暴走を無くしてしまうアイテムが。
 それを出そうかなーなんて当初は考えていました。それに、見た今でもラビットラビットのアイディアはけっこう好きです。
 ですが、この「黒兎の唄」にそれを出すつもりはありません。


Enemy Down

「解放しろーー」

 

 俺は気付けば、暗闇の広野を闊歩していた。目的も信念も理念もなく、ただあてもない「闊歩」を。

 

 ふと。どこか懐かしく、親しみやすい声に俺は振り返った。

 

 そこには、黒色の鎧を、スーツを着込んだ戦士が立っていた。俺は直感する。その戦士こそ、俺が「変身」しているものなのだと。

 

「解放しろーー」

 

 その鎧は、マスクの下を見せることなく、感情を窺わせない声色でそう言う。叫ぶように、あるいは、ささやくように。

 

「何のことだ?」

 

 俺は思わずそう言い返す。普通、こんな状況で、眼前に鎧が立っていたら逃げ出すだろうに。

 

「我を解放しろーー。マックス・ハザードへと至るのだーー」

 

 マックス・ハザード。聞いたことのない言葉だったが、不思議と舌に馴染む感覚があった。

 

「さあ、解放せよーー」

 

 そう奴が言った瞬間、俺の腰にベルトが顕現される。そのベルトは何故か、紫色の「オーラ」を纏っており、何故かボトルが挿入されていた。

 

「さあーー」

 

 鎧の戦士は言葉を紡ぎつつ、俺の腰に出現したベルトの、深紅のスイッチを指差した。そのスイッチには呼称の通りボタンが付いている。

 

 もしかして、この鎧はこの「ボタン」を押せと言っているのか。

 

 俺は取り敢えず、興味本意でボタンへと指をかける。指がこんな状況だからか重く感じたが、それでも、ボタンにかかった指には頼もしく力がかかった。

 

 そして、スイッチが押されるーーーー。

 

 次の瞬間、ベルトが、否、スイッチが『MAX(マックス) HAZARD(ハザード) ON(オン)!』と猛った。その刹那、ベルトを使用した際に去来する、畏怖するほどの冷静さが脳に顕現し、勢いのままに指がベルトのレバーを回した。

 

OVERFLOW(オーヴァーフロー)!』

 

 そこで、俺の意識は途切れた。

 

 「ようこそ、暴走の世界へ」という、言葉を聞き取ってからーー。

 

 

「ーーうう、ん...?」

 

 空気に臭いがある、というのが、俺が最初に感じたことだった。

 

 カビくさい臭いが、鼻孔をくすぐって離さない。カビ臭さは気性によって敬遠するか好むか別れるそうだが、俺は断然後者で、古本屋やリサイクルショップの臭いは嫌いではない。むしろ好きだ。

 

 しかし、なんだって俺はそんな所で寝ているんだーー。そんな疑問を晴らしたのは、眼前に存在する「者」だった。

 

 その人物はどうやら、椅子に座っているようで、その手には何やら書物が握られている。眼鏡をかけた、細身で薄幸の男ーー

 

「あ、あなたは...」

 

森近 霖之助(もりちか りんのすけ)。しがない道具屋さ」

 

 そこに座っていたのは、さっきの道具屋店主だった。

 

 そうだ。ここは幻想郷と呼称される非常識の世界で、俺は妖怪の攻撃を受けて倒れたのだ。

 

 あの爆弾は痛かったーー。そう思いつつ、恐らく焼けただれているであろう体をまさぐるが、しかし、俺の体は存外、何ともない。

 

「治癒は施しておいた。幸い、意識を失っていたわりには軽傷だったから、完調してるだろう」

 

 俺はそれを聞き付け、立ち上がった。ベットから起き上がり、取り敢えず虚空に向かって拳を振るう。2発、3発と拳が空を切る度に体が揺れるが痛みはない。どうやら運動に差し支えはないようだ。

 

「あ、あの、魔理沙は」

 

「彼女なら出ている。なんでも、森の調査をするとか」

 

 それを聞き、俺は軽く驚愕する。さっきの2戦闘で、かなりの戦闘能力を有しているのは分かったが、それでも単独であの妖怪の対処ができるとは思えない。

 

 見ると、霖之助さんの足許には開け放たれた俺のバックが置かれている。ここからかいま見えるバックの中には、ベルトとドトルがちゃんと収納されていた。どうやら、あの男はベルトを奪っていかなかったようだ。そして、俺はまだ戦える。ベルトと拳さえあれば、俺は戦えるのだ。

 

「どっち行ったか、分かりますか」

 

「さあ、そこまでは知らないがーー森の中心は北だ。そして、この店の出入り口は北側にある。魔理沙を見付けたければ、その方向に行くのが適当なのではないのかな」

 

 それだけ聞くと、俺はバックを引っ付かんで駆け出していた。その部屋を飛び出し、薄暗い店内を突っ切り、出入り口のドアを勢い良く開け放つ。それを少々乱暴に閉めてから、俺はバックからベルトを取りだし、腰に巻きつつ

霧に覆われた森を一迅の風となって駆け抜ける。

 

 500メートルは走った頃だろうか。ふと、前方に人影を捕捉し、俺は足を止めた。肩で息を整えてから、ボトルを取り出して前方に向き直る。

 

 そこには、さっきまで戦っていた深淵に包まれた、「妖怪」が立っていた。そいつはどうやらさっき戦ったやつと造形が同じようだ。触碗が六本あり、深淵に彩られた体を灰色のローブで包んでいる。

 

 そいつもどうやらこちらを捕捉したようで、好戦的に唸ってから、こちらへと駆けてきた。

 

 奴はベルトを奪うために俺を襲う。ベルトを奪う理由はそいつが使いたいからであるが、このベルトがこんな破綻した妖怪に使われればこの世界は終わってしまう。

 

 だから、俺はこのベルトを守るために戦わなければいけない。

 

 次の瞬間、俺は無意識のうちにボトルを振り、それをベルトに挿入していた。焦燥をはらんだ俺の思考を読み取ったのか、いつもよりハイペースな鋳型のフレームが俺をプレスし、『UNCONTROL(アンコントロール) SWITCH(スイッチ)! BLACK(ブラック)HAZARD(ハザード)! CANNOT BACK YOU(ヤベーイ)!』とひとしきり唸った後で黒色の戦士を顕現する。

 

 見ると、その妖怪は俺の眼前3メートルまで間合いを詰めてきていた。後数秒もしないうちに、俺と奴は激突するーー。

 

 その事実を俯瞰したような思考で認識すると、俺は右手を前方に添え、左手を自分の正中線を基準として構える。

 

 2秒、3秒。刹那、妖怪が唸り、三本の手を大上段に構えてこちらへと振り下ろした。しかし、俺はそれに別段あわてふためくような反応を返さず、右手を振るった。腰の捻りと足の踏み込みを入れた、全力の右ストレート。

 

 それはさながら糸を引くように妖怪の鳩尾とおぼしき部分に命中し、そいつを遥か彼方まで撥ね飛ばした。

 

 木が二、三本薙ぎ倒され、破壊音が響き渡る。それを聞きつつ、俺は奴に向かって走り込む。今回、俺は何故か、変身が長引けばいけないようなーー何か、取り返しのつかないような事態になるのではないかという不安感に駆られていた。

 

 だから、短期決戦を仕掛けたのだ。確実かつ即実に妖怪を葬り去る為に。

 

 次の瞬間、俺に対して全ての触碗で攻撃を仕掛けてきた奴に俺は回し蹴りを見舞う。右足での回し蹴りは奴に当たりこそしなかったものの、向かってきていた触碗には綺麗に命中した。水面を打つような手応えなのない感触とともに、奴の触碗が砕けて散った。地面へとさっきまで触碗だった液体が散り、そして霧散する。

 

 妖怪は自分の腕が全て切り落とされた「現実」を認めたくないようで、怒り狂ったように奇怪な言語で喚き散らし、こちらへと向かおうと体をよじる。

 

 しかし、腕がない妖怪は、立つことさえ叶わない。

 

 俺は一瞬だけそれを哀れだと思ったが、直ぐにその思いは打ち消されてしまう。次の瞬間には左足が妖怪の胸に突き立てられ、ゆっくりと沈んでいきーー

 

 そして、貫通した。

 

 それだけで、妖怪の体は霧散し、現象の全てが終わったとき、そこには身に付けていたローブすら残っていなかった。

 

 俺は無感情にそれを一瞥しつつ、ベルトからボトルを抜いて変身を解除する。

 

 霧はまだ、晴れる気配がないーーーー。

 

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