カルデアちびっこ英霊、最後の朝   作:フィンガー

1 / 5
子供だけの楽園?

雪は振り終わり、いつかは溶けて行くことでしょう。

風の音が聞こえます。冬の寒さから春の訪れを待ちながら、新しい朝がやってきました。

喧騒から解き放たれたこの場所も、今ではシンッと静まり返った寂しさを残します。

 

幾人かのサーヴァントは自らの役目を終えたと、人知れず居なくなった者もいるそうです。

マスターに最後の挨拶を残して、足早に去って行った人も。

去る前に出来得る限りのことをしたと、満足しながら消えて行ったようなのも。

 

聖杯を巡る戦いを、支え歩いた英雄達の凱旋です。

皆、思い想いの心を胸に、一人、また一人と去って行きました。

輝かしきは円卓の騎士達、古き時代の神話を体現したかのような王の軍勢。

そして、悪逆の限りを尽くした罪過の影幻。あるいは、誰とも知らない無銘の英雄。

 

―――残るは、何者でもない虚空のアナタ。本当は、還る場所のないワタシ。

 

このまま居なくなったら、二度とは会うはずもない別れ。

すぐそこまで迫るタイムリミットに、怯える朝がやってきました。

 

新しい朝、善き未来の産声。

眩しいくらい輝いているのに、晴れない空と止まない雨音。

それが、ずっと頭に響いているのです。

 

ほら、今もまだ聞こえるでしょう?

冷たい雪が振り終わった後の、身体を刺すような強い雨が。

傘を差さなければ、凍えて風邪をひいてしまいます。

 

ああ、どこかで雨宿りをしなければ。これでは帰ることも出来ないね。

だって仕方がないじゃない。外は雨が降っているんだもの。

もう少しだけ、ここに居させて下さい。せめて、この雨が止むまでの間だけ。

 

……なんて。どうしたのかな……これではまるで―――

 

 

「バッドエンドだわ……」

 

「え?」

 

「……寂しいわ。寂しいわったら、寂しいの!」

 

「ど、ちょ、暴れたらダメですよ!」

 

 

そう、ここにいるのは行き場のない寂しい英霊。

一人は大きいようで、今は小さな女の子。

一人はこんな寒い場所でも、薄着薄着の幽霊みたいな女の子。

一人はモコモコ暖かそうな、白いケープを付けたサンタさん。

暴れる一人は女の子のような、誰かを写して模られた本。

 

 

「寝ても覚めてもザワザワ、ザワザワ!落ち着かないわ、落ち着けないわ!」

 

「どこ行く気ですか!?ちょっと、ジャックも見てないで手伝って下さい!!」

 

「おかあさんの所にいくの?……でも、なんだか今日はやだな……」

 

「いくんじゃなくて止めて下さい!ダーメーでーすー!!」

 

「……ハンバーグが食べたい……」

 

 

もうすぐここから出て行く(いなくなる)のに、片付け一つも出来ないで。

日がな一日、お菓子と紅茶と、大きなパンケーキを囲みながら。

一日、また一日が過ぎて、クリスマスも過ぎ去り、思い出に変わる頃。

 

騒々しいのは、ここにいる間だけ。

後はシンと静まり返る廊下が続き、ポッカリ開いてガランとした部屋ばかり。

 

寂しい、寂しいと言うけれど、ついこの間まではとても楽しく賑やかだった。

多分、今ある人生で一番幸福な時間を過ごしていた。

誰かが望んで、誰でも望んで、誰かといたかった。誰かと一緒にここにいた。

 

友達と、友達と、ここにはいない友達と。

わたしたちを呼んでくれたトモダチと。

わたしたちを見てくれた、覚えてくれた大切な人達。

 

ずっと、一緒にいたいと想えるような……アナタとワタシ。

ああ―――こんな時間が永遠に―――終わらなければいいのにと、

心のどこかで感じてしまう。それは、赦されないことなのに。

 

あの日に泣いた分だけ、わたしたちは喜びを知った。

笑い合えた分だけ、また悲しみが募ることも知っていた。

それでもこうして出会ったわたしたち。

いつか、離ればなれになることもわかっていた。

 

寂しいことはない。それは、嘘だ。

悲しいことでもない。そうして、割り切らないといけないだけだ。

 

バッドエンド、不幸な終わり。

終わる物語は、どんな理屈を並べたって幸せなんかじゃない。

 

本当は、終わらないから幸せなのだ。

それに気が付かないのは、終わる命が目を逸らしただけ。

そうしなければ、きっとバッドエンドは終わらない。

いつまでも、誰もハッピーエンドに辿りつけない。

 

始まらなかったわたしたちでさえ、終わりが待っているなんて。

……こんなの不公平。断固、抗議しよう!おことわり、おことわり!!

 

だって、そうでしょう?そう思うでしょう?

そうじゃないと、寂しいでしょう悲しいでしょう?

 

本を閉じる瞬間は好きで(良くて)も、二度と開けないと知っていれば。

もう見ることが出来なくなるページの分だけ、時間を止めたくなるでしょう?

 

それは寂しいの、悲しいことなの。

何度も繰り返すから、忘れてしまっているだけ。幸せでいることを諦めてしまっただけ。

 

だから、終わることのないまま始めましょう。

始まりから、始まりへ。ずーっと続くの、物語は終わらないの。

閉じようとした本のページはまだ続く、続いているわ。

 

さあ、このまま一緒に、どこまでも冒険を続けましょう?

安心して、わたしたちは永遠よ。

 

 

「いまこそみんなでカルデアを出奔して、子供だけの争いのない国を作りましょう!」

 

「やめてください!そんなことしたら、きっと悪い未来が訪れます!!

何故かはわかりませんけど、間違いなく碌な事にならないと神の啓示が!!」

 

「えー?わたしたちはいいと思うけど」

 

「絶対、カルデアが崩壊する未来しか想像できませんってば!」

 

「解体する?」

 

「開拓……おもしろそうだね。一日あれば、更地は作れると思うよ?」

 

「しませんっ!バカなこと言ってないで止めてくーだーさーいー!」

 

「ちびっこ王国と名付けましょう。楽しいわ、楽しいわったら楽しいわ!」

 

 

大人のいなくなった部屋で、ワイワイガヤガヤまだ続けている。

でも、そろそろここにも大人が来る。

その時こそ、別れの時になるのはわかっていた。

 

そうなってしまうのがわかっているから、そうなる前に、そうなる前に!

残ったわたしたちで永遠の国を、いまこそ、子供だけの楽園を現実に!

わたしたちだけの……そう、決して大人の入ることは出来ない―――

 

―――ネバーランドを!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。