雪は振り終わり、いつかは溶けて行くことでしょう。
風の音が聞こえます。冬の寒さから春の訪れを待ちながら、新しい朝がやってきました。
喧騒から解き放たれたこの場所も、今ではシンッと静まり返った寂しさを残します。
幾人かのサーヴァントは自らの役目を終えたと、人知れず居なくなった者もいるそうです。
マスターに最後の挨拶を残して、足早に去って行った人も。
去る前に出来得る限りのことをしたと、満足しながら消えて行ったようなのも。
聖杯を巡る戦いを、支え歩いた英雄達の凱旋です。
皆、思い想いの心を胸に、一人、また一人と去って行きました。
輝かしきは円卓の騎士達、古き時代の神話を体現したかのような王の軍勢。
そして、悪逆の限りを尽くした罪過の影幻。あるいは、誰とも知らない無銘の英雄。
―――残るは、何者でもない虚空のアナタ。本当は、還る場所のないワタシ。
このまま居なくなったら、二度とは会うはずもない別れ。
すぐそこまで迫るタイムリミットに、怯える朝がやってきました。
新しい朝、善き未来の産声。
眩しいくらい輝いているのに、晴れない空と止まない雨音。
それが、ずっと頭に響いているのです。
ほら、今もまだ聞こえるでしょう?
冷たい雪が振り終わった後の、身体を刺すような強い雨が。
傘を差さなければ、凍えて風邪をひいてしまいます。
ああ、どこかで雨宿りをしなければ。これでは帰ることも出来ないね。
だって仕方がないじゃない。外は雨が降っているんだもの。
もう少しだけ、ここに居させて下さい。せめて、この雨が止むまでの間だけ。
……なんて。どうしたのかな……これではまるで―――
「バッドエンドだわ……」
「え?」
「……寂しいわ。寂しいわったら、寂しいの!」
「ど、ちょ、暴れたらダメですよ!」
そう、ここにいるのは行き場のない寂しい英霊。
一人は大きいようで、今は小さな女の子。
一人はこんな寒い場所でも、薄着薄着の幽霊みたいな女の子。
一人はモコモコ暖かそうな、白いケープを付けたサンタさん。
暴れる一人は女の子のような、誰かを写して模られた本。
「寝ても覚めてもザワザワ、ザワザワ!落ち着かないわ、落ち着けないわ!」
「どこ行く気ですか!?ちょっと、ジャックも見てないで手伝って下さい!!」
「おかあさんの所にいくの?……でも、なんだか今日はやだな……」
「いくんじゃなくて止めて下さい!ダーメーでーすー!!」
「……ハンバーグが食べたい……」
もうすぐここから出て行く(いなくなる)のに、片付け一つも出来ないで。
日がな一日、お菓子と紅茶と、大きなパンケーキを囲みながら。
一日、また一日が過ぎて、クリスマスも過ぎ去り、思い出に変わる頃。
騒々しいのは、ここにいる間だけ。
後はシンと静まり返る廊下が続き、ポッカリ開いてガランとした部屋ばかり。
寂しい、寂しいと言うけれど、ついこの間まではとても楽しく賑やかだった。
多分、今ある人生で一番幸福な時間を過ごしていた。
誰かが望んで、誰でも望んで、誰かといたかった。誰かと一緒にここにいた。
友達と、友達と、ここにはいない友達と。
わたしたちを呼んでくれたトモダチと。
わたしたちを見てくれた、覚えてくれた大切な人達。
ずっと、一緒にいたいと想えるような……アナタとワタシ。
ああ―――こんな時間が永遠に―――終わらなければいいのにと、
心のどこかで感じてしまう。それは、赦されないことなのに。
あの日に泣いた分だけ、わたしたちは喜びを知った。
笑い合えた分だけ、また悲しみが募ることも知っていた。
それでもこうして出会ったわたしたち。
いつか、離ればなれになることもわかっていた。
寂しいことはない。それは、嘘だ。
悲しいことでもない。そうして、割り切らないといけないだけだ。
バッドエンド、不幸な終わり。
終わる物語は、どんな理屈を並べたって幸せなんかじゃない。
本当は、終わらないから幸せなのだ。
それに気が付かないのは、終わる命が目を逸らしただけ。
そうしなければ、きっとバッドエンドは終わらない。
いつまでも、誰もハッピーエンドに辿りつけない。
始まらなかったわたしたちでさえ、終わりが待っているなんて。
……こんなの不公平。断固、抗議しよう!おことわり、おことわり!!
だって、そうでしょう?そう思うでしょう?
そうじゃないと、寂しいでしょう悲しいでしょう?
本を閉じる瞬間は好きで(良くて)も、二度と開けないと知っていれば。
もう見ることが出来なくなるページの分だけ、時間を止めたくなるでしょう?
それは寂しいの、悲しいことなの。
何度も繰り返すから、忘れてしまっているだけ。幸せでいることを諦めてしまっただけ。
だから、終わることのないまま始めましょう。
始まりから、始まりへ。ずーっと続くの、物語は終わらないの。
閉じようとした本のページはまだ続く、続いているわ。
さあ、このまま一緒に、どこまでも冒険を続けましょう?
安心して、わたしたちは永遠よ。
「いまこそみんなでカルデアを出奔して、子供だけの争いのない国を作りましょう!」
「やめてください!そんなことしたら、きっと悪い未来が訪れます!!
何故かはわかりませんけど、間違いなく碌な事にならないと神の啓示が!!」
「えー?わたしたちはいいと思うけど」
「絶対、カルデアが崩壊する未来しか想像できませんってば!」
「解体する?」
「開拓……おもしろそうだね。一日あれば、更地は作れると思うよ?」
「しませんっ!バカなこと言ってないで止めてくーだーさーいー!」
「ちびっこ王国と名付けましょう。楽しいわ、楽しいわったら楽しいわ!」
大人のいなくなった部屋で、ワイワイガヤガヤまだ続けている。
でも、そろそろここにも大人が来る。
その時こそ、別れの時になるのはわかっていた。
そうなってしまうのがわかっているから、そうなる前に、そうなる前に!
残ったわたしたちで永遠の国を、いまこそ、子供だけの楽園を現実に!
わたしたちだけの……そう、決して大人の入ることは出来ない―――
―――ネバーランドを!!