「―――……お前達ッ!!」
「きゃあっ」
バァーンッ!と壁を叩く音が鳴り響く。
まあ、子供が騒げば大体お察し、叱られるのは当たり前。
恐ろしき野獣の(見た目通りの)ような、怒声が辺りに木霊する。
「まったく、何をそんなに騒いでいるんだ?スタッフが怯えていたぞ」
「あ、アタランテさん……ごめんなさい……ナーサリーが」
「と、止まらないのだわ!怒るなら、怒って!!怒られても、物語は続けるんだから」
「ほう、なるほど。……私は子供は好きだが、傷つかない程度であれば何でもするぞ」
「か、解体!解体す……」
「ジャック。子供には躾をするのも、親の役目だが?」
「わわ……と、友達は……友達なら」
「バニヤン!嫌われるとわかっていても行動するのだな?
ならば、覚悟を持って挑むが良い」
「ふぇぇ……」
「ほら、見たことですか!ちゃんとしてないから怒られるんですよ?」
「ジャンヌ、威張っているだけが聖女の嗜みか?さぞ、気持ちが良いのだろうな」
「なんでぇ……止めてたのにぃ……」
「ナーサリー、ナーサリー・ライム。其方の物語は―――誰の為の物語なのだ?」
「そ、それは……あたし(アリス)は」
「……絵本の物語を読んでいたのは誰だ?
何の為に、誰の為に、呼ばれたのかを忘れたのか?」
「……」
「誰の物語に寄り添った?私も、お前も、お前達もだ!」
「だって、だって……それでも……」
「……私とて、辛い。だが、物語を続けると言ったからには考えてみるがいい。
―――目覚めることのないそなた(アリス)を見続ける気持ちを、な」
ここにいるのは、寂しい英霊だ。
どんなに幸せに過ごした所で、事実が変わることはない。
始まりも、終わりもない。
終わっていたから始めて知った、誰よりも終わることの寂しさを。
悲しい終わりが、確かにそこにあったから。
でも、まだ終わっていない人達がここにはいた。
こんなワタシたちでも、力に成れるアナタたちがここにいた。
いずれ終わりが来て、限りある命なのに―――
―――未来を望んだ人達の、眩しいほどの輝きをこの眼で見ていた。
尊い、と思ったのは誰だったのだろう。
物語を見て、終わることと始めることを知り得たのは、何の為だったのか。
望んだ人達の想いを知っている。
こうであったら良かったと、このまま続けば良かったと。
寂しかったアナタを知っている。悲しかったワタシが知っている。
何度でも繰り返すから、何度でも繰り返せるから知っている。
―――悲しいことだけが全てじゃなかったと知っている。
……もう一度、同じことが出来ないとしても。
繰り返したことは無駄ではなかったから。
先に進めるのは嬉しいことなのだと知ることが出来た。
それでも、寂しさだけはあり続ける。
悲しみを乗り越えても、何度となく先に進む喜びを知っていたとしても。
寂しい気持ちは置いてけぼりで、寂しいからこそ悲しみも喜びも尊いモノへと変わっていく。
「……寂しいわ。あたし(アリス)は、あたしたちが消えるのは悲しいことではないの。
みんなで―――ここで出逢えたのは奇跡みたいなものだから―――
もう二度と遊べないかと思うと、お茶会が開かれることはないと、寂しいわ……」
「ナーサリー……」
「……どうしてかしら。忘れちゃっているのかしら。
―――最初からあたしたちは永遠なのに……」
いつの間にか、沈黙の空間が、静かな廊下と同じガランとした静寂が広がっている。
誰も言葉が出てこなくて、言葉にしたら消えてしまいそうで。
このままここから―――
「……です……」
「え?」
「……寂しくないです!ざびじぐありまぜんッ!!」
「じゃ、ジャンヌ?」
「みんなで、海を見ました!私は、絶対に忘れません!!」
「……」
「離ればなれになっても、私がどこにも居場所が無かったとしても!
この気持ちが無くなったりはしないんです!だから、寂しくありません!!」
「……強がりだわ。涙でグシャグシャの、意地っ張りだわ」
「ええ、そうです!強がります。寂しいです!!
離ればなれなんて、本当は嫌です!!」
「なら―――やっぱり」
「寂しくないです!!」
「!?」
「寂しいけど、寂しくないんです!
―――出逢えたことは無くならないから、別れることが嫌なだけなんです……」
「それは」
「どっちも!どっちもあるんです!!
どっちかだけじゃ、ダメなんです。どっちもあるから、好きなんです!」
「すっ!?」
「えぇ!?」
「覚えています。忘れませんから、消えても消えません……残らないけど残ります」
「む、矛盾だわ……矛盾ばっかり、わからない……」
「私だって、わかりません!……でも、特別な出逢いをした私達だから、わかるんです」
「……」
「私は成長しないけど、成長した私を見ることが出来たから。
最初から偽りの、成長した私が大好きな人との絆を結んでいたから―――
―――決して解けることのない、絆を」
雨は止まずとも、空は晴れます。
雪は残って、暖かい日差しの中でも溶けまいと春を待ちます。
風邪に寝込んでも、傍に誰もいなくても、アナタの傍に寄り添います。
続いているのです。終わりは続いている。
結び目が解けない限り、いつまでも、どこまでも。