カルデアちびっこ英霊、最後の朝   作:フィンガー

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それくらいは―――許してね?

 

 

「―――……あ、マシュさん。マシュ・キリエライトさん。ちょっと……」

 

「はい?」

 

 

ある一室―――今日は静かなカルデアに、一際大きな音が鳴り響いている。

 

ここで見知った顔とすれ違うことも少なくなった。

皆それぞれが、それぞれの整理を付けながら、また新しい年を迎えようとしている。

 

未来に進むための、過去との清算……歩き出すための一歩、時間を動かすため。

いずれは起こって来た全てが思い出に変わっていくのだろう。

 

この景色を見るのも後何度になるか、これからも見続けるのか、

それはまだわからないけれど。忘れないように、大事に仕舞っておきたいと思う。

 

さしあたっては、この騒々しい部屋から片付けるとしよう。

何やら怒鳴り声と、悲鳴のようなものが入り混じった音で止まない。

ここでは珍しくもないが、また厄介事だろうか……?

 

どうやら最後の最後まで……などと呆れながら、口の端が吊り上る。

でも、不思議と不快な気持ちにはならなかった。

いつも通り、そう思うと嬉しい反面、寂しささえ込み上げる。

 

―――こんな光景を見るのも最後になるのでしょうか。

 

 

「おはようございます。マシュ・キリエライト、入り―――」

 

 

「離せぇぇぇぇえええっ!は・な・せ!!離すのだ、小さき聖女よ!!

また私の前に立ちふさがるのかぁぁぁぁぁあああああアアアアッッッ!!」

 

「助けてーーーーーーー!助けて下さいトナカイさぁーーーーーーん!!」

 

「ああ、楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

「あはは、あははははは」

 

「ケンカ、喧嘩はダメだよ……!」

 

「見てないで手伝ってーーーーーーーーー!!」

 

「―――……一体何事ですか、これは……」

 

 

そう問いかける間もなく、いつの間に居たのか……すぐ傍を人影が通り抜けた。

 

 

「くはははははは!そこ退け、魔酒(マシュ)よ!!

吾が去る前に食えるだけ菓子を平らげに来てやったぞありがたく―――」

 

「くっふっふ!妾もマカロン食べ……んんっ!もとい、民へ別れの挨拶に―――」

 

 

「どけぇぇぇっっっ!退かぬというなら力づくでも―――!!」

 

「―――な、何ぃ!?ぐわああああああああーーーーッ!!」

 

「茨木ーーーーーーーン!!」

 

「……皆さん、いい加減にしてください!!!!!!!」

 

 

そんなこんなと、あれやこれやで、一斉に並んで正座をしてもらう。

彼女達は英霊だ。騒げば騒ぐほど、消費する魔力も大きなっていく。

口を尖らせたくはないけれど、無駄に使える魔力も今のカルデアにはないのだ。

 

 

「いいですか?皆さんも英霊としてですね……―――」

 

「……何故、吾も怒られねばならぬのだ?むしろ、被害」

 

「茨木さんッ!!」

 

「……ぬぅ……」

 

「しっ!黙っておれ……こういう時は黙って聞いておくのが一番じゃ」

 

 

「―――と、そういうわけです、わかって貰えましたか?」

 

「……」

 

 

「返事は!?」

 

「はぁい……」

 

「ごめんなさい……」

 

「うぅ……なんでぇ……」

 

「みんな仲良く、だね……」

 

 

「……もういいか?では、私はマスターに」

 

「振り出しに!?」

 

「アタランテ……」

 

 

「……まずはわたしがお話を聞きます。何があったんですか?」

 

「それは―――」

 

 

―――……と、ここまでの出来事を総括して聞いた。

言葉には出来ないけれど、チクリと胸に刺さるものがあるのも確かだ。

 

 

「―――そういうわけだ。

なので私は、これからマスター……いや、カルデアの全力を賭してでも!

我が信念のため、この子達を守ることにしたのだ!!止めるな、デミ・サーヴァントよ」

 

「……えっ!?でも、今の話の流れのどこでそういう結論になったのですか!?」

 

「どうもこうもない!……マスターの国ではこんな言葉があるそうだな?

“それはそれ、これはこれ”ッ!!

 

全ての子供の笑顔を私は守る。

彼女達は泣いていた。それだけで戦う理由には充分だ!!」

 

「アタランテさんは、彼女達を注意しに来たのですよね?」

 

「ああ。役目は果たしただろう?後は私の仕事だ。

 

なんとしても、この子達をカルデアに残せるよう、直談判だ!

必ず言い聞かせてみせよう、例え宝具を使うことになろうとも!!」

 

 

「―――って言って聞いてくれないんです!なんとかして下さいマシュさん!!」

 

「アタランテは悪くないのよ?悪くないのだわ。どうか、怒らないであげて……」

 

「わたしたちからもおねがい……」

 

「ウィ……」

 

 

「いや、怒る怒らないではなく……綺麗に話がまとまっていたと思うのですが……」

 

「どこがだ!このままでは、彼女達はカルデアから退去しなければいけないのだぞ?

汝はこの子達を見捨てると言うのか!?」

 

「え、えぇ……?

……そうですね……確かに、そうなのですが……」

 

 

どうしよう、困った……と思ってしまった。

綺麗に……綺麗だと思ったのに、それでいいのか?と、どこかで声がする。

 

先輩と出会う前の、まだ何も知らなかった後輩ですらないわたしだったら。

何を、想っただろう……貴方は間違っていますと、否定出来ただろうか?

 

彼女達を、英霊をこのまま残して置くのは、現実的に考えて不可能だろう。

カルデアスは、止まる。わたし達の人理修復は終わったのだ。

 

もしも、このまま彼女達を残してしまえば……マスターは、先輩は……。

世界にとって無視できない脅威として、危険に晒されてしまうかもしれない。

 

聖杯戦争は終わったのだ。

彼ら彼女らの役目は、聖杯戦争を終わらせるために力を借りていただけ。

……残してしまえば、戦争はいつまでも終わらないことになってしまう。

 

間違っていると、簡単に割り切れたらどんなに楽だったのか。

痛むのは、一瞬だけ。わかっているのに、言葉が出ない。

 

それとも、獣のように叫ぶ彼女の言葉の方が正しいのだろうか?

もしかしたら、先輩だったら、こんな時―――なんとかしてみる―――とか。

 

消える命、永遠なんていらない。確かに覚えている。

でもそれは、最初から未来のない彼女達に対してわたしは言えるのか?

 

未来の無い……?チクチクする。

どこかが間違っているような、正しいような、わからない。

 

 

『先輩の未来のために、消えてください』

 

 

違う。

 

 

『アナタ達を残すわけにはいきません。魔力だって、残っていないんです』

 

 

これも、違う。

 

 

『英霊を維持させるのに、どれだけの魔力が必要か知っていますか?

ましてや、四騎……無理です。現実的に、先輩にそこまでの魔力は』

 

 

正しい。

 

 

『百歩譲って、一人を残したとしましょう。

そうなれば、先輩は魔術教会から狙われる……危険が……』

 

 

そうだ。そうなのだ……だから―――

 

 

『先輩のサーヴァントは唯一人、わたしです』

 

 

―――ああ、ダメだ。違う、これじゃない。こうではない。

 

 

[なんとかしてみる。任せて――なら大丈夫]

 

 

―――言うだろう。言って、しまうだろう。

あの人なら、多分……無理をしてでも、言い通す。

 

 

『では、やはりアタランテさんの言うことが正しい?

わたしは間違っていて、このままここを通すべき?』

 

 

……何も言わずに、去って行った英霊達がいた。

本当は、聖杯戦争に参加する……各々の願いや祈りがあったはずの英霊達。

 

当たり前だと―――思っていたのか?

 

本当は、みんな止めるべきだった……?

このままここに、このままここで、また来年も、変わらずに。

 

 

「わ、わたし……わたしは……」

 

「……マシュさん?」

 

「……退いては、貰えないのか?……私を、行かせてはくれないか」

 

 

「でも、でも……」

 

「……」

 

 

―――どうにもならない(の)でしょう(か)?

だって、きっとアナタ達は先輩の心に傷をつけてしまう……しまうかもしれない。

どうにもならないと、わかってしまえば―――

 

“すべての命には終わりがあって、いつかは失うと知っている”から。

 

はじめてわたしに寂しさをくれた人が、ただの孤独に価値を与えてくれたのは―――

―――先輩が誰よりも優しい頑張りやで、普通の人間だったから。

 

幾度となく別れを繰り返しても、傷ついても、何度も……先輩はこんな気持ちで。

わかってしまうから、今のわたしは……止められないわたしは―――

 

 

「寂しいアナタに悲しいワタシ」

 

「―――え?」

 

「アナタの鼓動が聞こえるわ。ワタシの心に響いているわ」

 

「ナーサリー……さん」

 

「ごめんなさい。アナタも寂しさを知っているのに……困らせてしまって」

 

「……わたしは……」

 

 

「あたし(アリス)も寂しいわ。でもね、悲しいことではないのだわ」

 

「……」

 

「寂しい気持ちも、連れて行って貰えるのなら……悲しいことではないの」

 

「違っ……違うんです……わたしは……」

 

「いいのよ?それで、いいの。アナタは間違っていないわ。自信を持って」

 

「それでも……」

 

 

「……うん。わたしたちは、大丈夫」

 

「寂しくない……そう強がれるものね?ふふふ」

 

「む、強がりではありません!本当に……寂しくは……」

 

「寂しいけど、寂しくないね」

 

「……そうですけど」

 

「皆さん……」

 

 

「……納得しろ、と言うのか?お前達も、また私に……」

 

「ありがとう」

 

「!?」

 

 

「ありがとう、心から―――優しいアナタ、嬉しいワタシ」

 

「そうやって、また……」

 

「笑って、笑おう」

 

「!!」

 

 

「……残される方も、見送る側も、笑顔で祈りましょう」

 

「どちらも笑顔でいられたら」

 

「―――ハッピーエンドみたいだもの」

 

 

「……そうか……お前達は、笑うのだな……笑っているのだな……」

 

「そうよ?アナタが言ったんじゃない!だから、笑うわ。笑うのだわ」

 

「そうだな……そうだったな……」

 

 

「じゃあ、行こっか!おかあさんのところに!!」

 

「ジャック!?」

 

「ふふふふふ、安心して?挨拶ぐらいはしましょう。

見送る側に、あたしたちから……それくらいは―――許してね?」

 

「もうっ!!

……そういうことなら、行きましょうか。みんなで!!」

 

「ウィ!」

 

 

早足にタタタッと、振り返ることなく去ってしまいました。

駆け抜けて行く後ろ姿に―――それでもわたしは声が出ませんでした。

これで、良かったのだろうか?答えは出ないまま……これで―――

 

 

「―――すまなかったな……」

 

「……いえ、アタランテさんは」

 

「言うな。私も、少し反省する……」

 

「……はい……」

 

 

「……おいっ!?吾の菓子は―――黙って聞いていたのに!!」

 

「……くふ、怒られている時は黙っておれば、最後に処刑で済むもんじゃったけど」

 

「済んどらんではないか!?……ええい、追うぞ!!なんとしても最後に吾は―――」

 

「そういうわけじゃ、妾たちも失礼するぞっ!」

 

 

「……行ってしまわれました……」

 

「……そろそろ、私も行くとしよう。これで、心残りは―――いや、今でも」

 

 

「―――ッ!待って、アタランテさん!!

わたし、アタランテさんのしたこと、思ったことは間違いではないと思います!!」

 

「マシュ……」

 

「間違いでは、決して間違いではなかったと……それだけは……どうか、信じて」

 

「……ありがとう。やはり汝たちの力に成れて、私は良かったよ」

 

 

獣のような雄叫びを上げていた彼女も、最後には笑っていました。

ですが、その笑顔には寂しさと、悲しみが入り混じっていて―――

 

 

『でも、どうすれば良かったのだろうな……今も』

 

 

―――横顔から、静かに呟いていたような……気のせいだったような。

彼女もまた、答えを出せずにいるのかもしれません……正しいことに迷いながら。

 

 




後、もう一回だけ
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