超能力者のトラブる   作:留年の危機学生

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まさか続くとは……(2回目)


本の妖精

 放課後、俺は学校にある図書室に向かっていた。

 目的は借りていた本を返すため。うちの学校の図書室はある種類の本のレパートリーが豊富だとその界隈では有名なのだ。何が豊富なのかと言えば、あの校長だよ? と言ったら大方伝わると思う。

 俺は、出張に行った夫を独り待つ妻が団地に住む男達の手によって幸せなビデオレターを送らされるようになる系の本を持ち図書室までの道を歩く。

 

 

 ドアを開けて部屋に入ると独特な匂いが鼻をくすぐる。実はこの匂い苦手だったり。

 本を返却する。その時に図書委員の女子に睨まれたが渾身の笑みを返した。レディには紳士たれが俺の持論だ。すべてはモテる為に。欲望に正直に生きれば俺は校長ジュニアの称号を賜ってしまうだろう。

 この努力が実る気配は一切ないが。

 さっきの女子にも顔を逸らされたし。直視できない程ヒドい顔してるの?

 まあいい。努力と結果は比例すると偉い人もいっていた。今のまま鏡の前で笑顔の練習しておけばいい。目指すはニコポだ。

 

「そういや食材切らしてたな」

 

 唐突に思い出した。黒咲の食事を作り始めてから食材の減りが早まった。食費は黒咲が律義に払ってくれているから問題ないが、買い出しが増えたのが面倒だ。

 さて、何にするかな。

 昨日あの歌聴いてたし魚にするか。ジャパニーズのDNAがどうのこうのと謳う曲で、ひたすら魚料理を連呼する曲だった。アレは魚が食いたくなる。マグロの刺身でもいいが白身魚の方が食べたい気分だ。たしか今安い白身魚といえば……

 

「鯛か。うん、そうしよう」

 

 そうと決まればさっそく買いに行こう。膳は急げってじいちゃんの遺言にあったし。

 

 

「それならいい所を知っています」

「うひゃあ!?」

 

 

 後ろから声がしてビビって変な声出してしまった。

 振り返ってみれば見知った顔がいた。

 

「や、やあ金さん。こんな所にいるなんて珍しいね」

「少しばかり用があったのでついでに寄っただけです」

 

 金さん。フルネームは金色の闇。自己申告ではそうなっているが、ぶっちゃけ偽名だと思ってる。長く美しいその名通りの金色の髪に、まだ幼いがとても整った顔をしている。その手の同士には大人気間違いなしだ。今日も今日とて黒のボディコン染みた格好をしている。生足が大変お美しいです。

 と考えていたら首筋に金色の刃が。

 

「……なにゆえ」

「えっちぃ顔してたので」

「え、うっそ!? わかっちゃった!?」

「えぇ。加えるなら先ほど返却している時も同じ顔してました」

「あぁ……、下心を隠し切れなかったのか。だからあの反応だったのね……」

 

 困ったなぁ。毎日の練習ではそんな事にはなってなかったぞ。てことは無意識か。となると隠すのは至難の業だな。…………いっそサイコキネシスで表情作ってみるのも1つの手か?

 

「はぁ……」

 

 ため息とともに刃が降ろされる。というか髪に戻っていく。

 この能力は黒咲と同じものだ。いや、本人から言われたわけじゃないがたぶんそうだろう。髪や四肢を武器に変化させるなんて珍しいし。同じ種族、同じ星の生まれなのだろう。

 

「なんでため息」

「また頭の悪い事を考えていたからです」

「マジかよ金さんもしかしてサイコメトラー? だったら早く言ってよ精神防御するのに」

「……タローとの会話は頭が痛くなりますね。あと、心を読む能力は持っていません」

「うっそだぁ。じゃあなんで俺の考えが分かったの」

「貴方は馬鹿な事しか考えないからです」

「すげぇ酷い事言ってるの自覚してる?」

 

 相変わらずの毒舌だなぁ。ま、初めの頃の無口無表情よりはずっといいけど。今みたいにうっすら笑ってくれる方が万倍カワイイ。

 

「てかよく俺に気づいたね。本読んでたんでしょ?」

「気配察知は基本中の基本ですので」

「はえー、凄いっすねぇ。……返却時の俺の顔なんてよく見れたね」

「馬鹿にしているのですか。そのくらい誰にでもできるでしょう」

「え? いやでも返却カウンターが見える場所にはいなかっただろ?」

「……なぜその様なことを?」

「いやだって今持ってるのって小説だよね? カウンター周辺には資料とか辞書しかないし。何、ずっと見てたの?」

「…………そんなことより」

「あ、誤魔化した」

「そんなことより!」

 

 ちょっとカワイイ赤くなりつカワイイつ本で口を隠しカワイイたと思カワイイったら叫んで誤魔化カワイイす金さんカワイイ。

 友達のことが気になってずっと目で追いかけて見えなくなったから移動してコソコソ盗み見してたんでしょ?

 カワイイかよ。

 

「んんっ、そんなことより鯛を買うのであればいい店を知っています」

「―――――何、だと……!?」

 

 思わず後ろによろめいてしまう。

 あの金さんが、極度の人見知りで言葉数が少なくて人付き合いからは最も遠い存在の金さんが。いい店を知っている? つまりおススメの店を紹介してくれる……!?

 

「うっ、うぅ…………」

「なぜ泣くのですか……」

 

 俺の呟きに反応してまで紹介したい店。それはスーパーなどの大型店舗ではないだろう。おそらく市場とか魚屋とか本格的なとこだ。

 つまり、あんなやかましそうな場所に1人で行ったのだ。あの物静かな金さんが。

 何が言いたいかってと絶対美味い。間違いなく美味い。あと金さんのコミュ障が快方に向かっていて嬉しい。

 

「わかった! 金さんがおススメするその店に行こう! 今すぐ行きたいから案内してくれ!」

「! はい、では行きましょう」

 

 こうしてルンルン気分の俺とちょっと嬉しそうな金さんは並んで鯛を買いに向かった。




タロー「このたい焼き滅茶苦茶うめぇ!?」

金色の闇
可愛い
ダークネスの中で一番好き

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