こころとカラダ   作:ヤムチャしやがって

2 / 3
どうもお久しぶりです。
とりあえず書き終えました、第2話をどうぞ。




迷子少女の探検記?

 映画やドラマでしか見たことのない大きな大きな邸宅。というか宮殿?

 ここはあたし奥沢美咲が所属する『ハロー、ハッピーワールド!』の創設者にして、あたしから平穏という名の日常を奪ったクラスメート、弦巻こころの自宅である。

 相も変わらず苦笑しか起きないほど広い庭を抜け、これまた大きな大きな扉、その横にある何やら高価そうな装飾が施されたインタフォーンへと指を伸ばす。

 

 がちゃり。インターフォンの音が鳴り終えるとほぼ同時、扉がひとりでに動き邸宅の中への道が開く。

 

「お待ちしておりました。今日はわざわざお越しいただきありがとうございます」

 

 開いた扉の先。そこにはいつものスーツ姿に身を包んだ黒髪の青年、こころの執事兼弟のカラダさんがいた。執事らしい綺麗なお辞儀をした後、姿勢を元に戻すと扉の淵へと移動。どうやらお邪魔しても良いらしい。

 それにしてもカラダさんもよくやるなぁ。こっちは学校とバンドだけでもいっぱいいっぱいだっていうのに、毎日毎日、しかも朝から晩までこころのお世話なんて……あたしだったら給料よくても断るなぁ……。

 

 弦巻宅へと足を踏み入れたあたしたち。先行し案内をするカラダさんへ、メンバーの一人である薫さんが声を掛ける。

 

「やぁバトラー。今日の君は一段と凛々しいね」

「いえいえ、瀬田様こそ今日は特に美しく……ああ、髪をお切りになられたのですね」

「ふっ、子猫ちゃん直々のお誘いだからね。美しい姿で応じるのが礼儀というものだろう?」

 

 いつも通り、平常運転の薫さんを難なくいなし会話を進めるカラダさん。やはり日々こころの相手を務めているだけあり、無駄の一切ない省エネ対応だ。

 それにしてもよく髪を切ったなんてわかったなー。確かに言われてみればわかるけど、そんな些細な変化を一瞬で見抜くなんて。すごい観察眼。

 

「かっちゃんかっちゃん! 差し入れだよ! 出来立てのうちのコロッケ!」

 

『かっちゃん』。カラダさんをそう呼び、ハイテンションな声で袋を差し出すのはベース担当のはぐみ。差し出された袋は両手で抱えるほど大きく、中身がパンパンで膨れ上がっていた。

 ていうか、その中身全部コロッケ……だよね。好きなのはわかるけどさ、その……ちょっと多すぎない?

 

「わざわざありがとうございます北沢様。後ほどお部屋へと運ばせていただきますね」

 

 袋を受け取りつつお礼を述べるカラダさん。どうやら今日の会議のおやつは北沢家のコロッケになりそうだ。いや、美味しいからいいんだけど。

 それからはぐみのソフトボールの試合の話や、薫さんのいつもの儚い談義をしている間に目的の部屋へと到着。

 

「お嬢様、皆様をお連れしました」

 

 ノックをし、扉越しにそう伝えると、がちゃりという音ともに扉がひとりでに開く。いや、中にいた人物が開けたと言ったほうが正しいか。

 

「みんな来たわね! ほら、中に入って入って!」

「お邪魔します! こころん!」

「お邪魔しているよ、こころ」

「お邪魔してまーす」

 

 現れたのは我らがリーダー弦巻こころ。いつもと変わらぬ元気いっぱいな声で私たちを部屋の中へと招く。

 そして部屋に入るや否や、こころは首をかしげ不思議そうな視線を私たちへと向ける。

 

「あれ? 今日は花音は来ていないのかしら?」

 

 そして一言。予想外の言葉にあたしはそれを理解するまで数秒の時間を要した。花音さんがいないってそんな馬鹿な。今日はあたし達と一緒にここまで来たし、いないなんてこと……。

 

「あ、あれ⁉︎ かのちゃん先輩がいなよ! さっきまで一緒にいたのに!」

 

 ありましたよ……。というか花音さん、さすがに方向音痴と言っても限度が……。

 この場に花音さんの姿がないことに気づき慌てるはぐみ。そんな彼女を宥めたのは意外にもこころだった。こころはあたふたするはぐみの名を呼ぶと、なぜか瞳をキラキラと輝かせ

 

「大丈夫よはぐみ! きっと花音は家の中を探検しているんだわ!」

「そ、そうなの⁉︎ なんだよかったぁ!」

「こうしちゃいられないわ! 私達も花音に続いて探検しにいくわよ!」

「おー! かのちゃん先輩に続けー!」

 

 こちらが言葉をかける間も無く、こころとはぐみは部屋を飛び出してしまった。これで迷子が計3名。思わずため息がこぼれてしまう。

 

「ああもう! なんで集めた本人がどっかに行っちゃうかなぁ⁉︎」

「ふふっ、そんなところもまた、こころの魅力というものさ」

「いや笑えませんから。というか、この馬鹿でかい屋敷から花音さんを探すだけでも苦労するっていうのに、こころ達まで加わったら手に負えませんよ」

「かのシェイクスピアは言っていた。物事によいも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなる、と……。つまり……そういうことさ」

 

 いやいや、どう考えたってこれは悪い事態ですって。このままじゃ会議どころの騒ぎじゃ無くなっちゃいますから。

 いつものように、わかって使っているのか怪しい名言を口にする薫さん。メンバーの過半数がいないという状況にも焦ること無く、優雅に佇む様に思わず口が動く。

 

「薫さんはなんというか、落ち着いていますね。てっきりこころ達と一緒に行くのかと思ってましたけど」

「ふふっ、それも面白そうだ。が、今回はここで迷子の子猫ちゃんが来るのを待つとしよう」

 

 意外や意外。3バカの一人である薫さんに、まさかおとなしく待つという選択肢があったなんて。

 予想外の言葉に戦慄を覚える私へ気づいていない薫さんは、開け放たれた扉を見つめながら言葉を続ける。

 

「慌てなくとも、すぐに花音は来るさ。今頃、ナイトが迎えに行っているだろうからね」

 

 そう囁くように呟かれた言葉で気づく。この部屋一緒に入ったはずの、あの人の姿がいつの間にか消えていることに。

 

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 

「ふえぇ……ここどこぉ……」

 

 弦巻家の邸宅。その中のとある場所にて、少女、松原花音は一人涙を流していた。

 

「み、美咲ちゃーん。はぐみちゃーん……薫さーん……」

 

 返事はない、どうやらはぐれてしまったようだ。助けを呼ぶために名を呼んだはずが、迷子を再確認させる結果となってしまう。そして図らずも再確認した事実に、花音の体が小刻みに震える。

 

「なんではぐれちゃったんだろう……。こころちゃんの家に入るまで一緒だったのに……」

 

 確かに美咲の後ろをついて歩いていたはず。だというのに、気がつけば美咲はおろか共に来ていたはぐみや薫、そして出迎えてくれたカラダの姿すらも見失ってしまった。

 今までも方向音痴──はぐれたり迷ったりすることは多々あったが、なぜかここ最近その能力にさらに磨きがかかっているように思えてならない。仮にステータスがあるとすれば、きっと己の画面には『迷子(EX)』と記されているに違いないだろう。

 そんな迷子の申し子と化しつつある花音。これ以上遅れて会議の時間を遅らせるわけにはいかない、となけなしの気合を入れ、とりあえず屋敷の入り口へ戻ることを目標に歩き出す。

 

 しかし方向音痴とは恐ろしいもので、歩けば歩くほどなぜか目的地から遠ざかるという、一種の呪いを受けているのだ。

 それは花音も例外ではなく

 

「あ、あれ? こっちじゃない……?」

 

 入り口を目指して歩いていたはずが、なぜかたどり着いたのは博物館のような場所。骨董品や美術品、果ては絵画など、古今東西のさまざまな作品が収められた部屋。

 一般人が住む家にはまずないであろう、そんな異質な空間に今、花音は迷い込んでいた。しかもこの場所自体がそれなりの広さを持っており、現在花音は出口へたどり着くことすら困難な状況へ陥っていた。

 

「ふえぇ……高そうなのがいっぱい……」

 

 さすがは弦巻家。飾られた美術品などの一つ一つが、素人目でも高価なものだとわかる。いったいいくらするのだろう、そこまで考えたところで花音はそれ以上の追究をやめる。

 きっと自分では想像もできないほど高価なものなのだろう。そう考えたほうが精神的にもいいと、彼女の本能が告げたのだ。

 

「そ、それよりも、早く出口を見つけないと」

 

 そうは言うが松原花音よ。いったいどうやって正しい道を行くというのか。はっきり言おう、彼女では自力で元の場所に戻ることは不可能!

 

「そ、そうだ、電話で場所を知らせれば……」

 

 ようやく、まともなアイディアを出す花音。カバンからスマホを出し、国内でもお馴染み某通話・メールアプリを起動する。そして羅列した登録者の中、最も頼りになるであろう人物へ電話をかける。

 

「あ、あれ? つながら、ない……?」

 

 しかし一向にコール音がなる気配がしない。何度かけても繋がらない電話に不信感を抱いた花音はスマホの画面を確認。そして繋がらなかった理由を知る。

 

「電波圏外……」

 

 画面左上に表示された『圏外』の文字。その二文字を目にした花音は絶望でうなだれる。美術品を納めている部屋だけあり、騒がしいのはNGということだろうか。

 とにかく、これで最後の手段すらも失ってしまった花音。もはや打つ手なし、このまま誰かが訪れるまでこの広い部屋に一人、じっと待たなければならなくなった。

 

 しかし都合よく人が訪れるだろうか。いや来るには来るだろうが、それが今すぐかとなると話は違ってくる。

 電波は圏外、しかも自分の力で出口までたどり着く確率はかなり低い。極限の状況下にさらされた花音は、この状況を打破すべく思考をフル回転させる。

 

 ──あなた達も、困った時は呼ぶといいわ! どこへだって駆けつけてくれるんだから!

 

 とある日、金髪の少女が自分たちへ言った言葉を思い出す。

 名前を呼べば駆けつけてくれる。もはや御伽噺の中での出来事だが、残された手段はこれしかない。

 そして花音は藁にもすがる思いでその名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 

 

「花音さん! よかった、無事だったんですね」

 

 無事部屋にたどり着くことができた花音。そんな花音を安堵の表情で迎え入れる美咲。

 

「ごめんね、迷惑かけちゃって」

「いえいえ、無事に来てくれただけで十分ですよ」

 

 しょんぼりと、申し訳なさそうな顔をする花音。そんな彼女を美咲が宥めていると、バンッ、と入り口の扉が勢いよく開き

 

「あ! 見て見てこころん! かのちゃん先輩戻ってきてるよ!」

「本当だわ! ねぇねぇ花音、探検は楽しかったかしら! どんなところに行ったの? 教えてちょうだい!」

 

 現れたには花音に続き探検に出かけたこころとはぐみ。二人は花音の姿を見つけるや否や、すぐにそばへと駆け寄り質問を始める。

 探検していたと認識している二人の言葉に、迷子という認識の花音は何が何やらと困惑の表情を浮かべる。

 

 時間はかかったがメンバーが全員揃い、騒がしく、もとい賑やかになる室内。

 しかしこれ以上会議の開始時間を長引かせるわけにはいかないと、美咲がこころに呼びかける。こころは思い出したかのように顔をはっとさせ、そして右手をこれでもかと突き上げると叫ぶ。

 

「それじゃあ、ハロー、ハッピーワールドの活動会議を始めるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 




かのちゃん先輩の迷子スキルは魔改造されています。
だって執事+迷子の女の子って、あれでしょ?
某コンバットバトルストーリーじゃないですかー。

今後何かと某作品に寄る場合がありますので、温かい目で見守ってくださればと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。