失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
一刀目!
「――俺と結婚してください!」
その少年は、一世一代の
「ごめんなさい」
その少年に間違いがあるとするならば、それは急ぎすぎたこと。
結婚とは長年連れ添った男女が自分のことを理解し、分かち合い、やがてたどり着く人類史上最高の契りの儀式。
つまり、彼は
少年が――小学生の頃の話である。
一、
初めに
二つ目に友を斬り捨てた。
三つ目に家族を斬り捨てた。
四つ目に自分を斬り捨てた。
五つ目に――愛を斬り捨てた。
斬り捨てる度に五。
少年は青年へと変わる頃、なにも持っていなかった。
初めの全ては不必要なものだった。二つ目は「お前はおかしな奴だ」と云われた。三つ目は「それも男だ」と受け入れてくれた。四つ目はいつの間にかいなくなっていた。最後は最初から持っていなかった。
道はなく、自分で斬り開いてきた。
それが
一人目に師匠を斬った――自分の力を感じ嬉しかった。
二人目に悪党を斬った――良いことを成したと自慢気になった。
三人目に強敵を斬った――俺には敵わないとわかり鼻が高くなった。
四人目に誰かを斬った――俺はなにをしているのかとわからなくなった。
五人目に自分を斬った――目の前が暗くなり道に迷った。
斬り捨てる度に五。
青年となった少年は故郷へと帰ってきた。
自分のために振るっていた剣を、誰かのために振るいたいと思ったからだ。
‟おかえり”
三つ目に斬った家族は、あの日のように出迎えてくれた。
二、
「ほら、せっかくの入学式なんだから写真撮るわよ!」
「お、それはいいな。なら父さん真ん中行っちゃおっかな」
「なに云ってんの父さん、お兄が真ん中に決まってるでしょ」
「ほんと、馬鹿じゃないの」
「あ……うん、ごめん……冗談だよ?」
母と父と妹が笑いあっている。仲睦まじい光景だ。いつものような、長閑なひと時だ。
「――ほら、早く来なさい
「――お前が主役だぞ、しょうがないから真ん中は譲ってやる」
「――お兄は私の隣、早く来てよ」
平凡な両親と平凡な子供。
それが俺――
「よし、タイマーセットしたぞ!」
「ほら剣心に寄って」
「はい、チーズ!」
フラッシュが焚かれる。
一瞬瞼を閉じそうになったがなんとか耐える。朝が弱く体はまだ寝惚けているが柔な鍛え方はしていない。
「あら、もう八時過ぎだわ。二人とも早く行きなさい。お父さんは遅刻ね」
「げっ、また課長に怒らえる!」
「私も行くね! お兄また放課後」
「じゃ、お母さんもあとで行くからまた」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
入学式が始まるのは九時と明記されていた。確か体育館に集まるのは八時四十五分なのでここから二十分程度の学園には十分間に合うだろう。
「あ――
「ああ、大丈夫だよ。それと彼女は作る気ないから」
刃引き。
文字通り、刃を引いて斬れなくすることだ。
この国では刃引きしている武器のみ国から厳正な審査と、資格を取った場合のみ''帯刀許可''が出ており、公式の場合でも''剣聖''という職業がある。
俺が生まれる前に起きた第三次世界大戦の折、日本の弱体化を嫌った総理大臣が日本国民の実力を底上げするために''武人法''という法律を、憲法改正に至るまで作り上げた。それと同時にもう一つ''文人法''という義務教育をさらに高める法律を作り上げ、テレビニュースでは二つ合わせて''文武両道法''などと呼ばれている。
要するに、今の日本では刀を持った人物が歩いていてもおかしくはないのだ。メディアでも議論されたが、アメリカの銃国家に比べればましだと国民の半数が受け入れたため可決された。
しかし、その資格を手に入れるためには医療資格よりも合格率の低い試験を超えなければならないため、持っているだけでどれだけ強いかの証明になる。
最近は少なくなってきたが、改正された当初は資格を持っていると虚偽する者が出るため''帯刀許可書''を常に携帯している。
「今日もいい天気だ」
四年間国巡りをしていた俺は色々な空を見てきたが、やはり故郷の空は感慨深い。どこが違うのかと聞かれると答えにくいのだが、体に感じる空気の質がなんとなく懐かしいのだ。
「おはよー、一緒の学校だね!」
「うん、今年もよろしくっ」
「お、昨日のテレビ見たか?」
「ドラマだろ? 松岡菜々子可愛いよな」
どうやら中学のときから一緒だったグループがあるみたいで、道すがら同じ制服の子たちが騒いでいる。
帯刀をしている俺はなかなか目立つが、視線には慣れたのでいちいち気にさない。巨乳の女子はこういう気持ちなのだろう。
決して俺の刀が巨乳と同じだとは思ってないが。刀のほうが可愛い!
「おっと、煩悩退散煩悩退散」
危うく欲界に堕ちるところであった。
仏門に下る気は無いが、できるだけそういうのを考えるのは避けている。むろん俺とて男子高校生、体が反応してしまうがそういうことを表に出してしまうと周りに奇異な目に見られてしまうことは明白なので避けているだけだ。
「剣術部があるらしいから、ぜひ覗かせてもらおう」
文武両道法ができてから悪いこともあったが、良いことのほうが多くなったと聞く。
武人法で体を動かし、生活習慣病が改善されて平均寿命が延び、なおかつ六十を超えても背筋が曲がった人は少なくなったのだ。むしろ長年鍛え上げられた体は若者に勝り、力仕事は高齢者のほうが得意なのだ。
文人法でも、その人の質にあった仕事を政府が案内することで社会全体が円滑に周り経済の活性化に繋がったなど。
そして学生である俺たちにどんな恩恵があったのか? それは部活動の種類だ。
運動部では剣術部を主体に槍術部、弓術部など''道''では学べないもの。
文化部ではもっとマイナーなものまで学校側が援助してくれるようになった。それに伴い校舎も新設され、俺が通う高校はかなり大きいと噂だ。事実、受験日には校舎内で迷った。
「八時二十分、予定通り」
砦のようだと誰かは云うだろう。
コの字のような校舎に、真ん中にサッカー、野球が同時にできるようなグラウンドがある。
それが俺の通う高校、
――
だ。
名前が少しキザっぽいが、三年間中学を幽霊在学していた俺が入れる高校は当日の筆記試験合格のみを条件に入学できるここだけだったのだ。
だが侮ることなかれ。なんとこの学園は大学、就業率一〇〇パーセントであり倍率ニ〇〇倍越えというとんでもないエリート学校なのだ。
「……桜が綺麗なところだ」
四月となった今でも桜は今日の日差しを浴びて少し冷たい風に吹かれている。
グラウンドにはそんな花びらが踊るように舞っている。
その様子を見ながらグラウンド沿いの道脇を桜を眺めながら歩く。
「甘い香り……?」
二日前に雨が降っていたため、桜木の土は濡れている。そのため雨水に曝された落ち葉や花びらが虫除けに匂いを出しているのだ。
この匂いなら逆に寄ってくるんじゃないか、など思ったりもするが風に吹かれ腰にさした
「時間潰しにどこかで抜くか」
そうとなれば場所探しだ。
今日は入学式初日なため在学生は殆どいない。目的地の体育館は校舎を抜けた先にあるため入学生はグラウンドを突っ切って中に入ったのを見ている。つまり、奥先には誰かいるだろうが側面の校舎裏などには誰もいない可能性が高い。
「場所、場所……あまり見られたくないものだからな」
とりあえず抜くために足を早める。
道脇に逸れていく姿は今も後ろでグラウンドを横切っている誰かが不思議そうに見ているだろうが、関係ない。抜けるときに抜いておかなければ授業があるので、この先抜き時間はどうしても少なくなるのだ。
――隙あらば抜け
それが国巡りをしてきた俺の自訓だ。
ここでいいか、と思い周りを見る。
どうやら裏庭のようで、小さな池と台車に乗せられたジョウロ以外はなにもない。もちろん誰もいない。
「よし」
腰に手をやり目を瞑る。
視覚情報が途絶え、聴覚が鋭敏になるのが感じる。
手に握るのはごつごつとした感触、一定の重さがあり全てが俺にマッチしている。
風が吹く。
桜が舞う。
そして——抜く。
音がした、まるで金属を裂いたような。
抜刀の音ではなく、抜刀のさい音速を超えたため刀身が空気を
「……」
型は無い。
我武者羅に振るっているように見えるだろう。
上から下、右下から左上、左横から右横へ
まずは一刀、次に二本目を抜く。
腰の回転を入れ、まるで舞踊のように。
かつて師匠が云っていた——武道とは舞道。
最近になってようやくわかった気がする。
「――ふ」
たまたま舞っていた桜を斬り散らす。
斬り散らす度五。
刀身には僅かに含んだ水滴すら付着しない。
こうやって剣を振るうっている間が一番楽だと思う。
頭で考える段階はとうに超え、次の段階は身体が動く。
無心になって剣を振る。
「――っ」
一瞬、
俺が剣にのめり込むきっかけになった過去。
今思えば、自分が悪いと理解できるし馬鹿なことをしたと思う。逆にあの子には悪いことをしただろう。
あの日から俺は学校に行かず、師匠のとこに入り浸り国巡りを始めたのだ。
優しい女の子だった彼女は自分のせいだと嘆いているかもしれない。
そんな想いを払うが如く刀を伸ばし、大きく回転する。
この瞬間が、一番スッキリする。
嫌なことも、面倒なこともすべて斬り払えたと感じるのだ。
「……ふぅ」
身体に熱は感じるが汗は掻いていない。
逃すように息を吐き、刀を鞘に収めた。
「まだまだだな……」
目指すは頂のその向こう。
誰も見ぬ果ての先。
誰からも聞かず、云われずにいつの間にか目指していた
自分なら行けると信じ、鍛え続けている。たとえそれが、総てを斬り捨てこととなっても。
二刀のままに、空を目指す。
剣聖すら斬り捨てる覚悟はある。
そろそろ時間だな、と思い道を戻る——ときだった。
気配がする、誰かに見られていたか? 別に見られても問題ないが……。
「――すごいですよあなた!」
「――私と同じ二刀なんだ!」
「ふ、二人……?」
左右の物陰から出てきたのは二人の女生徒。制服についている桜のブローチから入学生だとわかる。
しかしその腰には——刀がさしてある。
「あれ、私以外にもいたんですか?」
「おっと、私以外にもいたんだ」
左から出てきたのは桜と同じ色の髪を持つ少女だ。真っ白な肌は病弱そうだが、身体の芯は整い強者のそれを感じる。
右から出てきたのはまるで紅葉のような髪を持つ少女だ。さした簪で髪をあげ首元が眩しい、腰にさした刀は二刀で俺と同じだ。
「すまん、誰……?」
二人はきょとんとした顔を見せると、和かに名乗った。
「――天然理心流が門下、沖田総司です!」
「――二天一流が継承者、宮本武蔵ここに推参!」
「あ……特に何もない流、剣城剣心!」
一重にこれが運命の出会いと呼ぶ奴なのだろうか。
奇しくも出会った三人。
一人は、愛を捨て
一人は、病弱さと戦いながらも信念を曲げぬ少女。
一人は、祖が遺した記憶を頼りにそれを越えようとする少女。
それは、やがてかけがえのない仲になっていく三人の初めての――、
「トクニナンモナイン?流ってなんですか?」
「お爺様に聞いたことがあるわ。徳仁難門那陰流、それは恐ろしい剣術流派だって」
「ええっ、そんな流派が……」
三人の初めての出会いだった。
・剣城剣心【主人公】
名前が厨二っぽいが文字打ってると逆に好きになってきた。
拙僧は猫に田中さんと名付けるような人間なので、割と気に入っている。
小学生の頃一世一代の告白をしたがあえなく撃沈。それから逃げるように剣にハマった。
・沖田総司
本人だが本人ではなく子孫みたいな設定。
天然理心流が門下生で、実力も高い。
・宮本武蔵
本人だが本人ではなく子孫みたいな設定。
二天一流という新免の子孫のみが継ぐ流派の継承者。実力も高い。
・文武両道法
背景設定というやつで、沖田さんや宮本ちゃんが刀さしても違和感ないような法律です。
・国巡り
これは世界規模ではなく、尾張国、武蔵国、播磨国などのこと。家族に許可をもらって師匠と二人珍道中。
・家族
基本放任主義。もちろん正すときは正すが、本人が強い意志を持っているときはそれを尊重する。
・特に何もないん流
作中で主人公が適当に考えた流派。特に何もない。
・徳仁難門那陰流
剣術界において魔王の系譜とも呼ばれる極僅かな者が使う作中では実際にある流派。
日本の山奥にてその実態があり、完璧に継承しているのは一人や二人。山をも斬ると都市伝説になっている。
・最後に……
夜の寒さが一時的にぶり返してきましたね。
花粉症もひどくなって、鼻にかさぶたできました。