失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
おっおっおっ沖田さん。おっおっおっ、水着沖田さん……おっおっおっ。
――
この世界にはおよそ二種類の人間に分かれる。
一つ、陽のあたる場所に生き、学生ならばクラスの者たちに発破をかけ先導したりするタイプ。
二つ、陰さす場所に身を置き、決して先頭には立たず裏方に徹することで前者を補佐するタイプ。
これを陽キャラと陰キャラと言い、二分割した社会で人間は生きている。あくまでも妹に聞いたことを適当に掻い摘んで解釈しただけなので当っているのかわからないが、確かに社会の縮図を表すに適した言葉だと思われる。そして、それらの中に階級制度を取り入れた結果、
「おぉ!おぉ!ここが新都の中心ですね!」
「人がいっぱいだなぁ。それになんかお洒落な感じ」
二人とも都会に馴染んだ容姿と服装だが、如何せん行動が田舎者のそれだ。自身が他と抜けたところがあり、迷惑をかけること度々だが、それをやられるとなんとも恥ずかしいこと……。
「二人とも、眺めるのも良いが移動しないか?」
随分と目立っていた。
俺たちがいるのはバス停前、新都中心と言われる
「む、そうですね。お昼を食べて散策といきましょう」
一先ず移動を開始する。
何を食べるか決めながら散策するが、道中目移りすること多々。外から唾をつけるくらいならば良いが、さすがに中に入られるとお昼の時間が過ぎそうだ。
「先にお昼だ。これ以上過ぎると、会社員でいっぱいになる」
指を指しながら小物店に入っていく二人の腕をとる。
もう適当に目に付いた店で良いだろう。
「剣心……」
「むぅ、絶対あとで付き合わせますからね!」
一、
『
「――これは!うどん君の限定ストラップ!」
「うわ、なんですかそれ……微妙」
「な、なにをぅ!
このざらつきをも再現した丼、艶で油を表現した天ぷら、絹のような麺!これを至高と言わずなんと呼ぶか!」
「うどんさんも良いですけど私はこちらの桜餅のほうが……」
「うどん
色々なキャラクターのストラップなどが陳列する棚の前で二人は楽しそうに言い争っている。いや、本人たちにとってはただの会話なのだが、沖田さんに比べ武蔵の熱が入っているため少々苦笑いしてしまう。一体どこからそのうどんに対する過剰な気持ちが湧いてくるかはわからないが、''うどん君シリーズ''とやらを次々と籠に放り込んでいるので余程欲しかったのだろう。
「どう思いますか、剣心くん」
小さな歩幅で寄ってきた沖田さん。
「武蔵さんはこれよりあっちのほうが良いんですって」
真横の位置に着くと胸の前に手を広げて二つのストラップを見せてきた。
――俺の右肩に左手を乗せて。
「…………」
……………………。
「…………」
――っ。
…………!――ッッ。
…………ふぅ。
この娘はまったく。やれやれ、だぜ。
「どっちも良いと思うよ」
「――え?」
「んん――どちらも良いんじゃないか?」
「えぇ、そうですかぁ?絶対桜餅の方が良いと思うのに……はっ、よもや剣心くんも武蔵さんの仲間!」
安心しろそれはないから。
「ちぇ、剣心くんならわかってくれると思ったんですけどね」
そうぼやいて沖田さんは再び武蔵の下へ戻って行った。
しかし、うどんと桜餅か。
武蔵はうどんで、沖田さんは桜餅。なかなか二人の好物として似合っているというか何というか、俺も二人を見習ってキャラ付けをしたほうが良いのか。だが、漫画の主人公を参考に一度試そうとしたのだが公然わいせつ罪で捕まる可能性があったので断念した。
武蔵なら武蔵で、普段から白目を向いて「うどん……うどん……」と連呼しているので、食べ物関連で立ち位置を確立するのは難しいだろう。むしろその何も無さそうな、不気味なまでの無表情が俺のキャラだとクラスのみんなにも度々言われたので、すでにそういうのはあると考えても良いのか。
「けんしーん!」
お前もか、武蔵。
「沖田がこのぴんくのほうが良いって言うの」
「はぁ……俺はその手のものはわからんぞ。むしろ武蔵のほうがわかるだろ」
小走りで来た武蔵は俺の左肘付近の服を指先で摘み「ちょっと来て」と合図するかのように引っ張って来た。
精一杯の表情筋を駆使し、緩みそうな顔を誤魔化す。剣術やってて良かったと心から思った。
「この人形なんですけど――」
どうやら今度はストラップから人形へと変わったようだ。次はどんなキャラクターがいるんだと先に立っていた沖田さんが振り返ったとき、二人の正気を疑った。
「この――ウデムシ君なんですけど……」
「私は絶対ヤスデちゃんの方が可愛いと思うんだよね」
両手に抱えるように持っていたのは、刺々しい外殻に強靭な腕が特徴的なウデムシ。 それに絡まるように巻きついているのはオオヤスデと言われる不気味な虫。樹脂製なのか、異様にリアルなのがネックだ。
「いや……それはどうだ……」
というか、先に行こうとしていた店はどこに行った。最初に入ろうと止めた場所はなにやら女性が入りやすそうな門構えだったぞ。こんな変なマニアックが好きな場所ではなかった。
「ほーう、そう言うなら剣心くんはどんなのが良いんですかぁ?私たちのセンスを疑うならば自分のセンスを見せてくださいよ!」
「お、それは気になる。日頃の無趣味な剣心くん、ここで隠されたセンスが光るのか!」
めんどくさそうなことに巻き込まれた。普通に買い物することはできないのか。
「よし、ならば三十分後にそれぞれの相手に合いそうな品物を持ってこの店の入り口に集合!」
「良いですね。勝負事には負けませんよ!」
「じゃあ開始!」
武蔵はさらに店の奥へ、沖田さんは店の外へと飛び出して行った。取り残されたの俺一人、今の会話を聞いていたのか店員が不憫そうな顔でこちらを見ていた。小さく会釈をし、互いに視線を逸らすとどうするかとため息を吐いた。
「どうしようか」
誰にも聞こえないように漏らした。
二、
いきなり始まったが、中途半端なものを送っても面白くない。どうせなら二人が喜ぶような、笑えるものが良い。
この店にはすでに武蔵がいるため、とりあえず外へ出る。
モールのようになったこの場所は多数の店が点在しており、幸いウィンドウショッピングには最適だ。
「む、スマホケースにもこんなに種類があるのか……」
ぶら下がった見棚的なところを見遣って歩く。雑貨屋が多く、やはり今の流行なのかスマートホンのケースやイヤフォンが並んでいる。
互いに気にいるもの、なんて言っていたが要するにプレゼントだ。渡しも渡されもあまり無かったが、個人的に普段使いしているものをプレゼントされても困る。特にスマホケースなどは人の視線に敏感だ。的の外れたものを渡されても部屋の隅で埃まみれになるのが関の山。
ぐぬぬ、難しい。
「ふむ……」
女性用下着屋だ。
買って持っててやろうか。あの店頭の紫と黒のやつとか。
女性店員が察したのかこちらを横目で見た。
踵を返す。
「残り二十分か」
壁にかけられていた時計はすでに開始から十分進んでいる。適当に歩いたわけだが、目ぼしいものは見当たらず。このまま歩いていても仕方ないので店を定めて入った方が良いだろう。
小物やアクセサリーが見える店に入ろうとしたとき、背後から名前を呼ぶ声がした。
「――あ、剣城君」
振り返るとそこには清楚な装いをした……春狩がいた。
「奇遇だな、春狩」
「ええ。剣城君も……お買い物ですか?」
「そんなところだ」
肩越しから行き先を覗いた春狩はくすりとサイドの三つ編みを揺らした。学園とは違う髪型に妙な新鮮さを覚える。
「ごめんなさい。剣城君がそういう店に入るのは想像できなくて」
「気にするな。俺も入りたくて入るわけではないからな」
手短に訳を話す。何か力になってくれるかもしれない。
「――なるほど。それでここに…………両手に華ですね」
「まあ、そう見えるかもな」
食虫タイプの。
「わかりました。ではこの春狩目黒、剣城君のお手伝いをさせてもらいましょう」
張った胸に拳を乗せる。
頼もしくはあるが、いつもの凛々しい様子と違い可笑しく見えた。
・丸ノ宮(まるのみや)
新都の中でも特に賑やかな繁華街。
主要企業や、様々なお店が乱立している。怖い人やえっちなお店、おたく御用達の二次ショップなど、だいたいは行けば揃う。
・春狩目黒(はるかりめぐろ)
学年主席、おっぱい清楚。クラス会のときは彼女の両親が経営する店を使わせてもらった。尋常じゃないほどの金持ち。