失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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十一刀目!

 

「お二人の趣味はご存知ですか?」

 

 武蔵が始めた「互いに何か気に入るものを持ってくる」という競争が始まった矢先、俺は春狩目黒という頼もしい今時女子の手を借りることに成功した。どうせなら二人が喜ぶようなものという漠然であり難しい拘りを伝えると、春狩は嫌味な様子を見せることなく知恵を絞ろうと思案してくれる。

 

「趣味、か……」

 

 思い返せば、今日が来るまでの約一月互いの趣味について話したことはあっただろうか。

 毎日の話題はそれぞれ違い、テレビや流行のらしい(・・・)話題を上げて会話しているのだが、俺たちに踏み込んだ内容はあまり無かった気がする。たまに鍛錬の方法や刀について話すが、これを趣味に繋げることは難しい。

 

「武蔵はうどんで……沖田さんは弁当箱に沢庵が詰まってるな」

 

「そ、それは趣味ではなく好物だと思いますが……」

 

 いや、春狩もあの量を見れば好物の域を超えてると理解するぞ。

 

「では、無難なものにしますか?

 女の子同士だと櫛や手鏡など、身だしなみ用品を贈りますが今回は剣城君からお二人です。剣城君自身もそういったものを贈るのは抵抗があるかもしれませんし、文具などが妥当では」

 

「文具か」

 

 無難だろう。

 無難だが、無難が過ぎる。

 俺は知っている。いや、わかっている。あの二人が俺のことなんか考えずに、ただ二人が贈って面白いという私欲を満たすためだけに何かを買ってくるなど。

 そう来るとわかっていながら俺だけが使える物を贈っても悔しいだけだ。

 

「……二人で回ってみましょう。一人で回っていらした先ほどより、二人で見ればまた新しい案が思い浮かぶかもしれませんわ」

 

「む、そうするか。すまないな、春狩」

 

「いえいえ。こうして休日、殿方と歩くのも女子高校生らしいというものです」

 

 あ、なんか緊張してきた。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「――ありがとう、春狩。おかげで助かった」

 

「剣城君が満足そうで何よりです。私も空いた時間に見て回れたので、おあいこですね」

 

 なんて良い子なんだろうか……これは本当にお返しをしなければ。

 

「いや、それだけだと俺の気がすまない。俺なんかで良ければ、なにかあったときに声を掛けてくれ。こういう類は苦手だが、役に立てることがあるかもしれない」

 

「まあ――棚からぼたもち。それならば大切にしなければなりませんね。剣城君のお手を借りれる券は貴重です」

 

「ああ。遠慮なく言ってくれ。尽力する」

 

「ありがとうございます…………そろそろ時間ですね。私はこのあたりで」

 

「最寄り駅までくらいなら送っていくが」

 

「大丈夫ですわ。私が外出する際は常に警護の者が付いておりますので」

 

 なるほど、だから半径二〇メートルに殆ど位置の変わらない人間が四人いたのか。名家だとは聞いていたがここまでとは。

 てっきり誘拐を企んでいる者たちかと勘違いした。

 

「わかった。また学園で」

 

「また学園で、剣城君」

 

 春狩と別れて約束の場所へと向かう。

 手に持ったのは二人用の贈り物、紙袋に入っている。

 やれやれ、最初からこれにすれば良かった。

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「お、剣心が最後」

 

「女子を待たせるなんて最低ですよ」

 

 何故俺は着いた瞬間罵倒されているのか。

 

「どうでした?」

 

「まあ、二人が好きそうなものがあった」

 

「ほぅほぅ、剣心くんのセンスが光りますね」

 

 そういえばこの発端はセンスがどうのこうのだったな。二人に合うものを自分で考えて、ならば少し失敗したか……。

 

「ついでにストラップにできるよう加工してもらってな」

 

「へぇ、そういうのだと鞄に付けれて良いですね」

 

「だろう?だから沖田さん、ゴールデンウィーク明けからはぶら下げてくれ」

 

「お任せください。初めてのプレゼントです。三人の思い出として、ずっと大事にしてますよ!」

 

「武蔵も、な」

 

「りょーかい、良いよ」

 

 約束を違えないのが武人の常だ。

 二人も了承した手前、これで逃げられない。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 ゴールデンウィークも終盤、明日から普段の授業日がやってくる。

 ここ、私立星詠学園では中間試験というものが存在せず、期末試験によって学期の成績が決まる。唯一、三学期のみ一年間の範囲が出題されるため中間試験と分けられるが、それを吉と見るか凶と見るかは人それぞれだろう。なにが言いたいのかと言うと、ゴールデンウィーク終盤にもかかわらず、こうして真剣術部の部室となる旧講堂体育館の一室で駄弁っているのは中間試験の心配がないから、なのだ。

 

「使用しない備品から貰ってきたけど、ソファは正解だったね」

 

 革張りの茶色、武蔵が手を広げて寝転んでもまだ少し余裕のあるソファを見ながら頷いた。

 

「ですね。他にも色々と持ってきたおかげで随分と快適空間になりました」

 

 学園から持ってきたものはソファをはじめに、カーペットにラックや本棚になりそうなもの、自分たちで水を入れて使用する電子レンジほどの冷水機もある。

 トイレは舞台を挟んで反対側に男女別トイレがあり、元々が体育館だったためシャワー室も完備されている。あとは台所があれば済むことも可能だろう。ちなみにシャワー室は使えるように、壊れていた水道管を誠心誠意修理させてもらった。他意はない。

 色々なものを搬入したわけだが、それでもまだ空間に空きはある。一応顧問である学年主任の高岡先生に聞くと、今は現体育館に移動したが元は卓球台やマットを保管しておく部屋らしく、そのため広い空間であると。

 結局、二〇畳弱の広さは三人では持て余している状況だ。

 

「あとはあれですね、ベッドとか布団があれば完璧です」

 

「それ良いかも!宿直室の使わなくなった布団とかもらえないかなぁ……」

 

 まったく、この神聖な部室をなんだと思っている。

 そんなものは近くのホームセンターで羽毛のものを買ってくるぞ。三人で川の字で寝よう。

 

「たしかに布団があれば昼寝くらいはできるな」

 

「ええー、そんなの地味ですよ。どうせなら毎月最後の週はお泊まりとかどうですか?家から持ち寄った食べ物で、夜まで語り合いましょうよ!」

 

「コンロとかいるかな?」

 

「買える場所はあるが、少しでもボヤ騒ぎになれば面倒だ。ある程度の食料ならば俺の家から持って来られるぞ」

 

「そう言えば剣心の家は学園から近かったね。もしかしたらお世話になるかも」

 

「台所を貸していただければ、私たちが手作りしても良いですしね」

 

 毎月はともかく、俺も彼女たちの手料理が食べられるのは役得だ。連れて行ったときの妹の反応が気になるが、機会があれば招待しよう。

 ちょうど読んでいた漫画が読み終わったので、机に重ねている次巻を手に取る。

 

「さっきから何の漫画を読んでるの?」

 

「これか。妹から高校生活の参考にしろともらってな。『PANI(ぱに)っくダークネス』という漫画なんだが、浮世に見識の薄い俺からすれば、今時の高校生活が理解できる良いものだ」

 

 表紙は鮮やかで桃色の色調が濃い。

 妹曰く、一見勘違いされそうなジャンルらしいが読めば読むほど良さがわかるらしく、俺も一巻ずつ丁寧に読んでいる。当初は『魅!!男ゼミ』を渡す予定だったが、学園のことを聞いてからこちらに変更したらしい。

 一冊取った武蔵が食い入るように読んでいる。

 

「うわぁ……中々刺激的な……」

 

「わ、私も剣心くんがどんなものを読んでいるのか検閲を――」

 

 それに釣られた沖田さんも一冊取る。

 

「世の中こんな転び方があって良いんですか……」

 

「ちょっと刺激的だけど、内容は意外と面白い」

 

 武蔵は偶然一巻を取ったようで、ちょうど導入でわかりやすい内容だ。やはり一度読んでしまうと気になるのかそのまま読み進めている。

 

「ねぇ、この漫画ここに置いていく?」

 

「そのつもりで持ってきたからな」

 

 返事に満足したのか、武蔵は「ありがと」と言って目線を戻した。

 沖田さんの方を見て見ると、読んでみたいが一巻は武蔵のところにあるので断念した模様。

 

「何か他にも持ってこようか」

 

「良いんですか!?」

 

「あ、ああ」

 

(うち)ではアニメや漫画は鍛錬の妨げになるからって、厳しい目で見られるんですよね……主に兄さんが」

 

 道場内部の事情は聞いていたが、サブカルチャーを弾圧されるほど厳しいのだろうか。

 

「リボンは良くて単行本は駄目とかいつの時代ですか……」

 

 なるほど、そっち系か。(ぴー)TAタイプの兄弟。

 

「妹が集めているから、暇があるとき家に来れば良い。興味があるならば馬が合うだろうさ」

 

「剣心くんのお話によく出てくる妹さんですね」

 

「ああ。俺よりできた妹だ」

 

 今年で中学三年生、来年は高校生だ。家からの距離と、大学へ進学する予定なので良条件が揃っている星詠学園を受験するとのこと。試験の異質さから、何か一芸に秀でていなければ入学できないと勘違いされがちだが、余程の芸が無ければ学力の有無を躱すことはできない。四月から受験勉強に力を入れているようで、朝の時間にテキストを広げている姿をよく見る。

 

「妹さんも剣術を学んでるの?」

 

 兄妹の話が気になったのか、それともひと段落ついたからかはわからないが武蔵が聞いてくる。

 

「いや。妹は特に武術の心得はない。ただ運動神経は良いから、もし始めたら五輪くらいは軽く出場するだろうな」

 

「妹贔屓だ」

 

「シスコンですか」

 

 失敬な、妹を想わない兄などいない。

 しかし、贔屓目に見ずとも妹の身体能力が高いのは事実だ。普段は半目開きの眠たそうな表情だが、一度遅刻しそうになったとき、二階窓から飛び降りて塀に着地し、走り去った光景を忘れてはいない。学力の方は言わずもがな、である。

 

「妹も二人に会いたいと言っていた。また連れてくるよ」

 

妹と会わせる約束をし、その後も他愛無い話で時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

四、

 

 

 

 

 

 ゴールデンウィーク明け初日。

 

(いか)ついストラップ付けてるね、武蔵ちゃん……」

 

「う、うん……貰い物なんだ」

 

「沖田さんも、すごいね」

 

「でしょう!?私も可愛いと思って付けてるんですよ!」

 

 無関心を装い、頬をついてその声を聞いていた。元凶たる青年は、視線の先にある二人の鞄に付けられたウデムシとオオヤスデを眺め、あいも変わらず感情の無い表情で鼻を鳴らしたのであった。

 

 

 




・らしい会話
らしい会話、というのは別に冷めているわけではありません。話数的には十話重ねていますが、一応まだ出会って一ヶ月なので入学してまだ猫被ってるあの状況です。あの感じ苦手なんすよねぇ……。
はやくイチャイチャさせろ。

・プレゼント
主人公から二人にはウデムシ君ヤスデ君。念押されてカバンにつけてくれるように頼まれたため、泣く泣く付けている。
二人から主人公がもらったものは……決めてない。やべぇぞ、やべぇぞ……後から活躍させるかもしれないから、大丈夫大丈夫。

・部室
学園から歩いて数分の池、その周りを半周して横に入ったところにある旧講堂体育館を再利用した。部室は体育館に入って、舞台を見た右側にある元用具室。様々な部活が物置として使用していたため、かなり広く20畳弱ある。三人で(というかほぼ主人公が)使わなくなった備品を運んで良い感じにしている。

・『PANIっくダークネス』
ある日、高校生だった主人公のもとに女の子が落ちてくる。
一体何なんだと驚くが、女の子は追われているから「助けてくれ」と主人公に助けを求める……。

——その日主人公は、運命に出会う。


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