失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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十二刀目!

 

 埃一つ無く、ただ朝陽差す旧体育館の中心に甲高く鉄が当たる音。時にリズム良く、時に不規則的に、摩擦による火花が起きていた。

 それは、星詠学園にて新しく発足した真剣術部の活動。基本的に自由活動なのだが、三人は部活動紹介の日の放課後には顧問である高岡先生も含めておよその規則と志し……家訓ならぬ()訓、そして活動内容を決めていた。

 

《部訓》

 

一、剣は勝ちに有らず

一、己をもって刀と為す

一、One for all,All for one

 

《規則》

 

一、鍛錬怠ることなかれ

二、隣人に優しくあれ

三、毎日掃除

 

 などなど、あくまでも一部を上げただけだ。

 さて、お気付きの方もいるだろうが、部訓・規則ともに三は真剣術部唯一の男たる剣城剣心――俺、であり、弁明をさせてもらいたい。

 もはや言い訳の類であるのだが、これらを定めた放課後、俺はいきなり沖田さんに武蔵とともに会議室に呼び出されてそこで待つ高岡先生とこれらの話し合いが始まった。活動内容はそれぞれが出し合い、簡潔にまとめたのだが上記二つについていきなり武蔵が決めようと切り出し、唐突に始まったのだ。沖田さんに武蔵は道場、あるいは二天一流という形式流派の下学んでいたので参考になるものはあっただろう。しかし、俺は違う。まったくない。野生のライオンが言葉で生存方法を教えるだろうか――? ……否。ライオンは子を崖に、つまりあえて生態系の沼へと放り出すのだ。

 …………。

 なにもなかった。

 俺も武蔵みたいに「剣は勝ちにあらず」とか、沖田さんのように「己をもって刀と為す」のようにかっこいい部訓を作りたかったさ! しかし、その場では思いつかなかった。「毎日おっぱい」とか「お尻が二つ」とかしか思いつかなかった! 追い打ちに、武蔵が「こういうのは直感だから今決めよう」と言い切り仕方なく俺は英語の授業で聞いた「One for all,All for one」にしたのだ。……

ああ、恥ずかしい。唯一の救いは高岡先生が嬉しそうに聞いてたことだ。

 

「――――考えごと、かなッ!」

 

 ――そこで、意識が戻る。

 決して、目の前の存在に集中していなかったわけではない。

 ほぼ同時、数瞬違えて三方向からやってくる蓮撃。刀は二本しか持っていないはずだが、彼女——武蔵の技量は容易く幻の一本を作る。

 

「違う――どうやって切り崩すか、考えていた」

 

「はっ――簡単には!」

 

 大きく跳躍し、身を翻して着地する。しかし、その隙を逃さずに武蔵が肉薄してくる。

 

「せい!」

 

「ふっ――」

 

 右手に刀を、左手に鞘を。

 武蔵の二刀を受け止め、刹那の攻防に付いて来れない脳を置き去りに感覚を頼る。

 腕力で無理やり鍔迫り合いをずらし、回し蹴りを繰り出すが俺と同じような、それよりも小さなステップで避ける。回し蹴りによって背を向ける俺と、僅かに宙を浮いた武蔵。

 適当に鞘を背後に振った。

 

「――おわっ! ……でも」

 

 喉仏狙って出した一撃は避けられ、武蔵の追撃を許す。左に偏った身体を無理やり捻って右手の刀を出す。

 

「……っ」

 

「これで――」

 

 が、読まれていたそれは、まるで跳び箱の容量で俺の真上にいる武蔵の存在で意味のないことを悟る。

 膝を伸ばし、足先を床につける。

 

「――終わりッ!」

 

 衝撃とともに二十メートルは離れた壁付近まで飛ばされた。刃を潰しているため、切り傷はないがその勢いは簡単には消せない。三、四歩蹈鞴(たたら)を踏んでようやく静止した。

 

「勝負有り! これは武蔵さんの勝ちですね!」

 

「……ああ。俺の負けだな」

 

「はっはー! この前に出し抜かれた返しはとったよ! でもしっかり当てたかったなぁ」

 

 「当てたかった」、武蔵はそう言った。

 

「ふむ。剣心君の回避能力は三人の中で一番かも知れませんね。私も防御力にはあんまり自信がないので鍛えていますが、なかなか匹敵するような……」

 

「勝つのも大事だが、俺は負けないことを根幹としている。どんな状況であれ、いつでも脱することができる動作を確保しているのが俺の戦い方だ」

 

 だから、小技が多い。

 いわゆる必殺技のような一撃はなく、小さな技を集めて量で圧す。鍛えた一撃に匹敵するには、同じく鍛えた一撃か、それに匹敵する質量を持つ技が必要だ。幸いにも師匠は数多の技術を知っている人であったため、色々なものを教えてもらった。

 

「なるほど。たしかに負けなければ勝ちに繋がるわけだから、そういうのも大事か……」

 

 む、余計なことを言ったか。このまま行けば次も負けそうだ。

 むろん、負けるつもりはない。

 

「よしよしっ、次は私と武蔵さんですよぉ! 剣心君、審判お願いします!」

 

「わかった」

 

「よっしゃ、行くぞ沖田!」

 

「行きますよ武蔵さん!」

 

 真剣術部、ある日の風景だ。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 昼休み、俺は教室で昼食をとっていた。しかし、いつもの二人は一緒ではなく、沖田さんと武蔵は互いの友人と食堂か中庭に繰り出している。俺は寂しく一人でと考えたが、弁当箱を取り出したときに話しかけてくるクラスメイト(人影)があった。

 

「――けんけん、一緒に食べないか」

 

「かまわないぞ」

 

 座った状態なので声の主を見上げ……ることなく、まっすぐ見遣る。そこにいたのは紺色の髪を膝裏まで伸ばし、どこか眠たそうなイメージを思わせる幼、

 

「んんっ」

 

 少女――千島紗那である。

 

「風邪か?」

 

「いや、なんだかボクに対して不愉快なことを考えていた奴がいるようだ」

 

 見た目は幼いが、口調は芯が通っている。

 どうやら本当に変わっていないようで、本当に……

 

 ――本当に七年前から変わっていない。

 

「勘違いだろ」

 

「いや、あれは絶対に勘違いじゃない。きっとボクを見た目から判断するか、数年来にあった幼馴染がボクのことを幼女と言った感覚だった……」

 

 どんな感覚だそれは。そのシックスセンスには脱帽せざるをおえない。

 

「千島――」

 

「紗那」

 

「……千島」

 

「紗那」

 

「…………紗那」

 

「ん。ボクに用かい、けんけん」

 

「ああ、いや……何でもないんだが。とりあえず座ったらどうだ?」

 

 俺の机に弁当箱を置いたまま立っていた紗那を尻目に、立ち上がって隣の椅子を借りる。何度か話したことはあるので、あとから断りを入れれば良いだろう。

 

「ありがと。気を遣ってくれるのは相変わらず変わってないね」

 

「別になにも変わってないぞ?」

 

「いや、それは無理があるよ。

 身長もルックスも強さも人気も、昔とは大違いだ」

 

 真正面からそう言われると、少し照れてしまう。顔に出すことはないが、雰囲気で伝わってしまっているだろう。

 これで紗那が胸が大きく、尻が丸ければ鉄の意思で一切外に出さず抑制できるのだが……。

 

「ボクは取り残された気分だよ」

 

 気分というかもはや姿は七年前に取り残されている。

 

「そんなことはない」

 

 当然、正直に言えるわけがない。

 

「そうかなぁ……たしかに身長は4ミリ伸びたから……自分ではあんま自覚ないけど、他の人から見たら結構変わってるのかなぁ」

 

「――ッ!? ……!」

 

 よくわからない感情の渦が心底から浮上してこようとしたので無理やり押さえつけた。

 もはやその未成長遺伝子は不老の類か長寿のものなのではないか? 献血とかいけばなにかしら事件に巻き込まれそうだ。とは言いつつも、身長に変わりはないが顔付きなどは女性らしく成長している。俺が知っている紗那はもっと幼く、一緒に泥だらけになってはしゃいでいた記憶にいる。今はその雰囲気はとうに消え、第一印象はともかく、話してみると理知的な声音が澄んでいる。見た目に惑わされなければ、中学はきっとモテていたに違いない。

 

「それにしても、まさかけんけんがこの学園に来ると思わなかったな」

 

「そうか?」

 

「うん。だって、けんけんはいきなりあのとき(・・・・)ボクの側からいなくなったんだもん。一言くらいあったらともかく、何も言わずにどっか行っちゃったからもう会えないのかなって」

 

「それは、な……」

 

「いや、責めてるわけじゃないよ? けんけんにもやりたいことはあるだろうしさ、そこに文句を言う権利をボクは持ち合わせていない。

 でも、幼馴染に一言くらいあっても良いんじゃないかなって」

 

「紗那――悪い」

 

「……ははっ、不器用だなぁ。

 前はそんな感じじゃなかったのに」

 

 前――つまり、俺が師匠と出会い、剣の道を歩む前。剣にまったく興味はなく、戦うことにも、その山巓たるを知らなかった自分。

 今を形成する全ての始まりは――

 

「――あのときがきっかけなのかな、けんけん」

 

「さぁ、な。

 そのときは師匠についていこうと必死で、覚えてない」

 

「……君はまだ彼女を――」

 

 

 

「――沖田さんが帰ってきましたよー、剣心くん!」

 

 

 

 紗那が何かを言おうとしたとき、後ろの扉が開いて沖田さんに名前を呼ばれた。顔だけそちらに向けると、目があった沖田さんは陽気そうにこちらへ寄ってきた。

 

「おやおや。あなたはたしかクラスメイトの千島さん」

 

「やぁ、よろしく。沖田さん」

 

「よろしくです。

 それで、お二人が昼食をとっているとはなにやら親密そうな……」

 

「どうかなぁ。ボクとけんけんの関係は内緒だよ?」

 

「――幼馴染だ」

 

「もうっ、けんけん乗ってよ!」

 

「幼馴染の方でしたか……」

 

 俺と紗那がほとんど空の弁当箱を並べている端に、沖田さんが持っていた小さな二段弁当を置いた。そのまま俺の両肩に手を添えると、「幼馴染」という単語を反復した。

 

「ということは、今も昔話に花を咲かせていたんですか?」

 

「そうだよ。昔はけんけんも今みたいな感じじゃなくて、活発な子だったんだよね」

 

「活発な剣心くん!? この強面能面、GW(ゴールデンウィーク)に出掛けた際私たちをナンパしようとしていたしつこそうな人たちが隣に歩いて話す彼を見ただけで方向転換した剣心くんが!」

 

 やめろその長い突っ込みは地味に傷付く。

 

「よしよし、じゃあ話してあげようじゃないかそのときのけんけんを!」

 

 そう言った紗那に、一瞬目を向けるが彼女は小さく頷いた。

 

「くくく、千島さんからの昔話があればこれで私も剣心くんにマウントをとれるわけですね」

 

 一体何だその理由は、まったく。

 沖田さんはいつの間にかもう一つ椅子を持ってきており、隣に座ると紗那に昔話を催促している。大した思い出もないので、聞いてもつまらないと思うが……そのときばかりは、見た目と違い察しの良い幼馴染に感謝するのであった。

 

「ん? 何か思ったかい、けんけん」

 

「いや――」

 

 鋭い。

 

 





・星詠学園真剣術部、部訓ッッッ!

一、剣は勝ちに有らず——宮本武蔵の剣術思想からくるもの。「剣は勝ちに有らず」。五輪書は精神的強さを学べたり、落ち着きたい時に読むとかなり効果的であるッッッ! 以上!

一、己をもって刀と為す——かの天才剣士沖田総司は、剣術を部下に教える際「刀で斬るな。体で斬れ」と言ったという噂からくるもの。個人的におっぱいは沖田さんの方が好きッッッ! 以上!

一、One for all,All for one——星詠学園コミュニケーション英語Ⅰ、教科書からくるもの。意味は「一人はみんなのために、みんなは一人のために」。良い言葉だねッッッ! 以上!

・宮本武蔵
 このss、武蔵ちゃん強すぎ問題。仁王とかどうやって勝てば良いんや……。

・千島紗那
 主人公の幼馴染。
 錯覚していないかな? いつから、数年来に会う幼馴染が学園の姫様系美乳黒艶幼馴染に成長していると勘違いしていた?
 ほんと鏡花水月と言ってあげたいくらいのロリ体型(需要アリ)。

・その他
 お待ちなさっていた方、申し訳ない。ようやく次エピソードが固まりましたので、書いていきます。いや、出来ていたのですがキャラ構想に手間取りました。書いていくうちに、いつのまにか2.30話くらい先の話を三話ほど書いてしまって……てへ。
 週末書き溜めて来週から連投できれば良いなぁって……。

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