失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
山内主将と連絡先を交換し、約束の週になった初日。俺たち三人は放課後になって剣術部の道場へ訪れていた。
『一意専心』と掲げられた内部は隅々まで丁寧に清掃され、床が鏡のように反射している。一応畳敷きの空間も存在しており、当然埃一つ落ちていない。
ある種の神聖さが包む空間に足を踏み入れた三人を待っていたのは、規律良く正座をして待つ部員だった。
「おはようございます、皆さん」
『おはようございます、山内主将』
「今週は先週にお伝えした通り、帯刀許可を所持する御三人に来ていただきました。基本的に私たちの鍛錬を見ていただくという形ですが、身を締め、痴態を晒さぬよう普段より真剣に取り組むように」
そして鍛錬が始まった。
ふむ、どうやらこの部活では全員が同じことをするのではなく、それぞれが違う技を習得することに重きを置いているようだ。
俺たち真剣術部の活動場所である旧講堂棟よりひと回り小さいくらいの道場にはいくつかの塊が点々とできている。木人形に、腰に下げた木刀で居合をする者がいれば、二人一組で交互に激しく打ち合っている者もいる。その様子を見ていた俺たちに山内主将が歩いて来た。
「いかがでしょう。未だ未熟、しかし将来有望な後輩たちがいると思うのですが……」
そう言われて、改めて見渡す。
「えーっと……私はあんましわかんないんだけど……良いんじゃないかな?」
武蔵は沖田さんに助けを求めるように視線を流す。
「剣術部の鍛錬はともかく、この形態ならば各々道場で鍛錬したほうが良いのでは?」
「たしかにそうかもしれません。しかし、道場で鍛錬するよりも、こうして同年代同士が肩を並べ、剣を振っている状況のほうが互いに発破をかけられると思うのです。自分自身が言うのもなんですが、やはり私たちは少年少女の半端者。隣人に今よりも上を目指そうと努力している者がいれば、明日の自分よりも強くなろうとするのが……その、私も含め、ここには
包帯を隔てた目尻はきっと下がっているに違いない。それほどまでに、彼女の言葉には優しさがあった。
「ライバルがいるのが一番だからね。剣心と沖田みたいに」
「そうですね。やはり、負けて悔しい人と競い合うのが一番強くなる近道だと思います」
師匠が言っていた。
人にとって、若者とは熱した鉄であると。
叩けば形を歪め、冷やせば成型される。そうやって成長し、何でも吸収する時期なのだと。
「ライバル——か」
思わず呟いたその言葉を、無視せず拾った武蔵が意味ありげな笑みを浮かべて己を指した。サムズアップ、というのだろう。
「ふむ……剣城様。修行中、あなたにもそのような方が?」
「いや、いなかったな。俺は師匠と二人きり、全国を歩き回っていた」
しかし、ライバルではないが同い年の強者はいた。
あれはたしか東北のほう、春日山城の方へ行ったときの思い出だ。師匠と同じ帯刀許可者が寺にいると聞き、二人で向かったのだがそこの弟子が俺と同い年だったのだ。
その寺の師匠も突飛な性格だったが、弟子もなかなか痛烈な感じだったので今はどう変わっているだろうか?
……まあ、昔話はさておき、剣術部の方へと集中する。
道場鍛錬の経験は無いのだが、この場所では沖田さんが言ったように特殊な形態が取られているようだ。多流派が入り乱れ、それぞれのグループによる鍛錬。実戦練では様々な技を見て経験できるために良いと思う。何気なく全体を見るが、殆どが考えながら剣を振っている。
ふと気付くと、隣で山内主将と話していた二人が消えている。どうやらただ立っているのも飽きたようで、時々歩きながら声をかけている。本来なら俺もそうすべきなのだろうが、如何難しい。
「む——」
それぞれの間を縫うように歩いていると、端の方、一人で木人形相手に木刀を振っている女生徒がいた。
「やぁ! せぁ! はぁ!」
その剣筋は世辞にも良いとは言えず、すべてが辿々しい。使い方もわからない幼児に箸を渡したかのように剣先が揺れ、木人形を切っていると言うよりはぶっていると言ったほうが正しそうだ。
さしもの俺もそれは無視することはできず、そちらへ向かった。
「ふっ! しゃっ! はっ!」
位置的には真横にいるにも関わらず気付く様子はない。集中しているとはいえ、一心不乱過ぎやしないか。
「あー……すまない」
「やっ! せっ! どりゃ!」
……無視をされた。
だが、めげない。
「んんっ、聞こえているか?」
「そりゃ! らぁ! せい!」
「聞こえているか!」
少し声を張り上げると、ようやく動きが止まった。
肩で息をしながら剣を下げると、こちらへ向いた。
「何の用でしょうか?」
紺髪は肩まで伸ばされ、前髪は目に掛かる程度。猫のように鋭い瞳ははっきりとこちらを捉えている。ハスキーな声音が特徴的だ。
明らかに警戒色が漏れているが気にせずに口を開く。
「真剣術部一年、剣城剣心と申します。山内主将が最初に言われた通り、剣術部を見学させてもらっています」
「もちろん、聞いてました。なにやらとんでもなく強い人たちが見にくると」
「強いかどうかはさておき、あなたは」
「——
「そう……か。わかった。じゃあ猫屋敷も」
「私のこれは癖のようなものでして、できればお気になさらず」
「了解した」
ひとまず名前を交わし、自己紹介をする。猫屋敷の様子から無駄話を続けても意味はないだろうと感じたのですぐに本題に入る。
「猫屋敷、正直に答えてほしい。剣術に触れてどれくらいだ?」
彼女の鍛錬を見て、まず思ったのは剣の握り方。基本はできているが、それだけであり自分の握り方ができていない。木人形に振り付ける様子から慣れていないのは一目瞭然で、どこか振り回されているような感覚があった。たとえ女子、それも肉体的に小柄であっても何万何百万と素振りを繰り返せば筋力が足らずとも振方に慣れが生まれ、体全体を使った動きができるようになる。
しかし猫屋敷は、特にそういったこともないようだ。
「——一ヶ月です!」
ビシィッ! と、さも当然のように言い切った彼女の言葉に花火が散った。
「あー……詳しくは知らないが、ここは剣術部だ。みんな色々な流派に入っているようだが、猫屋敷は?」
「——我流です!」
……おぅ。
一、
猫屋敷音子、一年A組。
身長は高く、一七〇を若干超える程度。猫のように鋭い瞳にその体躯から入学当初は怖そうな人物と思われていたが本人にそのような気はなく、雰囲気からくる勘違いだと周囲に理解されたためクラスでは特に浮くことなく過ごしている。性格は一度決めたら「やめない・曲げない・諦めない」タイプらしく、良い意味で実直、悪い意味で頑固である——と、教えてくれたのは我がクラスメイトこと室蘭だ。猫屋敷の名前を出したことから色物っぽい目を向けられたが、剣術部の名前を出して何となく説明をしておいた。
剣術部に訪れることになってから一日目の夜。
俺は自室にて猫屋敷について考えていた。
猫屋敷によれば、最初は剣術部に入る気はなかったのだが高校からは新しいことを始めたいと思い剣術部に入ったようだ。部活、と銘打っているが現実は各々が通う道場の延長線上であり、ある意味一生を剣術に従事するような志を持った者の集まりであるため浮いてしまっている。むろん、山内主将はそんな彼女を疎外することはなく、他の部員も彼女を仲間外れにすることはないのだが自身の鍛錬もあるために必然的に彼女を一人きりにしてしまっている状況が続いているらしい。
『彼女はまだ剣を振ることに慣れていませんので基本を教え、回数を重ねるのが今の目標としています』
猫屋敷についてメッセージを送るとすぐに返信があった。
「……」
たしかに慣れていない。
何本も木人形を相手にさせるのは当然といえる。
しかし——どこか違和感があるの事実。
今一度猫屋敷の動きを思い出す。
剣を振り上げ、振り下ろす。木人形に当たり、弾かれながら下がる。限りなく簡素化すればこうだ。
爪先に力を入れ、土踏まずに勢いが伝達される。踵から腰へそのままの流れで持っていき、腰に乗せた重心を崩さぬように前へ、そして上半身全体で両手に持った木刀を振り下ろす。甲高い音とともに木刀があたり、弾かれて後ろに下がる。
一連の光景を思い返すと、紐解くように違和感が解れていく。
この考えが合っているのかどうかは明日確かめるとしよう。幸いにもバランスよく沖田さんと武蔵が見ているようなので、初心者である猫屋敷を俺が注視することに対してヘイトが集まることはないはず。
山内主将にもそれを伝え、俺は明日のことについて考えるのであった。
・猫屋敷音子(ねこやしき おとこ)
2章におけるおっぱい枠その2。1は誰かって? ふん、出ているよ。
見た目、雰囲気共に刺すような感覚が出ており、第一印象は怖い人。しかしそれを自覚しているためか口調は敬語をとり、一度話せば勘違いだったとわかってもらえる。
沖田さんよりおっぱい大きい(重要)
肩まで伸ばした紺色っぽい髪の毛。身長170あるのでモデル体系といえばそう。猫目が特徴的である。