失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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十六刀目!

「うちのアナログ道場と違って木人形まであるとは良い道場ですねー」

 

「いや、それ自分で言って大丈夫なの?」

 

「良いんですよ別に。アナログなことは間違いないですから」

 

「ええ……」

 

 道場の中心にて、部員たちが鍛錬する様子を見ていた沖田と武蔵は剣術部の環境に自身の道場を比較してぼやいていた。

 

「見に来るだけだったけど、意外と来てみると楽しいかも」

 

「ですね。

 帯刀許可者と区別された私たちではありますが、そうでない人からでも学べる機会はたくさんあります」

 

 武蔵は腕を組みながら大きく頷いた。

 

「それで、剣心くんは何をしているんですか?」

 

 沖田は端の方で、何やら木刀で木人形を三点突きした剣心を見ながら聞いた。

 

「隣のクラスの子なんだけど、学園に入学してから剣術部に入ったらしくて、まったくの初心者だから剣心が基本だけでも教えるって言ってた」

 

「なるほど。まぁ、私たちを放っているのは何か嫌なので明日の朝練にでも追求しましょう」

 

 ある種内輪が強い空間に、まったくの初心が一人。基本的なことを主将が教えたとはいえ、それでも聞きたいことはたくさんあっただろう。猫屋敷も困ったことがあれば素直に尋ね、部員たちも答えてはくれるのだが、やはり流派間の考えの違いというものは大きく、特定の人物に聞かなければ専念して成長することは難しい。しかし、それをしてしまえば当人の鍛錬時間を潰してしまうことを猫屋敷は理解していたため、最初に教えてもらったことを実直に、自分が納得できるまで繰り返していたのだ。

 

「今どき我流なんていないもんなぁ」

 

「難しいですからねぇ」

 

 どことなく優しい目付きになっている二人は剣心の説明を熱心に聞き入る猫屋敷を見ていた。

 

「おや、剣心くんに動きが」

 

「これは山内主将の下ですな」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 山内主将に案内され、道場入り口すぐ横にある準備室へと入る。そこには木人形の手入れ用具や新品の袴着、果ては籠手や具足なども丁寧に保管されていた。

 その一番奥、使わなくなった様々なサイズの木刀が大量に差し込まれている手作りであろう木箱に近付いた。

 

「これでよろしいですか?」

 

「これだけあれば、十分です」

 

 伺うように聞いてきた山内主将にそう返した。

 背中から覗き込むようにしてこちらを見ているが、気に留めることなく幾つかの木刀を抱えていく。ちなみにあと二歩ほど踏み込んでくれれば非常に気に留める事態になるのは言うまでもない。

 

「猫屋敷さんの様子はどうでしょう」

 

 使える木刀を選別していると、彼女は呟くように尋ねてきた。

 振り返った先には長椅子に座る彼女がおり、心なしか眉が下がっているように見える。

 

「どう、とは」

 

「……猫屋敷さんが入部して一月。私は基本を教えるつもりで様々な振り方を教えましたが、それが彼女にあっていたのか疑問に思っています」

 

 ふむ、どうやら山内主将は自分の選択に蟠りを持っているらしい。

 基本を教え、まずは剣に慣れる。

 言葉にすれば当然で、たとえ行動に移しても納得できる。しかし、彼女は剣の振り方すら知らない猫屋敷をそのままのやり方で、半ば放置してしまっていたことを悔やんでいたようだ。

 

「ご自身の道場で、初心者の方を教える経験はなかったんですか」

 

「ありました——ですが、私たちのようにある程度身体ができている者ではなくもっと小さい、幼児を対象としたものでした。彼ら彼女は未だ身体はできておらず、教えることのできる範囲も少ない。

 剣術部の主将をしていると部員に教えを乞われることもありますが、それは元から基本を習得している者に対して。この二年間で、猫屋敷さんを除いて初心者が入部してくることはなかったので、私自身その差に如何し難い感覚を覚えていました」

 

 そして——自身を「浅はか」と括った。

 

「——申し訳ありません

 帯刀許可者の剣城様に、このようなことを……」

 

 跳ね起きたかのように立ち上がり頭を下げてきた山内主将に首を振って気にしていないと仕草をする。

 物理的悩みならば解消できるかもしれないが、精神的悩みに安易に関与することはできない。今はこうして、猫屋敷の面倒を見ていることが彼女の荷を軽くすることに繋がれば何よりである。

 何本も持った木刀を抱え直し、猫屋敷の下へと戻った。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「戻った」

 

「あ、おかえりなさい……?」

 

 語尾に疑問符をつけながら猫屋敷に迎えられる。彼女は熱心にも最初やった脚幅の確認を反復していたようだ。

 さて、と息をついて抱えていた木刀を並べていく。

 色、太さともにおよそ変わらないが、サイズはそれぞれ二本ずつ違う。一番短いもので 約30cm(一尺)から約180cm(六尺)に至る長いものまでを用意してきた。並べられた木刀に首を傾げた猫屋敷を見遣りながら口を開く。

 

「その木刀、両手、片手、どちらで振っても振りにくいと感じるだろう?」

 

 猫屋敷が木刀を振り続けて一月。ようやく剣を振ることに慣れてくる時期だが、それでも違和感のある動きをしていた。猫屋敷の様子を見るに特別怠慢を犯していたわけではないようで、一月経ってその感覚があるならば限りなく性に合っていないか、そして長さが合っていないかの二択に絞られる。昨日今日を見ると、根本的な問題であるセンスの有無を考えても意味はなさそうなので、山内主将に頼み余りの木刀をいくつか借りてきたのだ。

 そう言われた猫屋敷は両手で振り、その後片手で振ってみる。

 今まで両手振りだったため、片手に慣れていないことは当然だ。

 しかし、

 

「両手より……片手のほうが振りやすい気がします」

 

「そうか——では、猫屋敷が一番振りやすい長さを選ぼう。長さはどれでもかまわず、持ち方にも特に意見するつもりはない。

 自分が一番振りやすく、持ち易く、持てるだけ持つんだ」

 

 俺はそう指示すると、猫屋敷が木刀を一本ずつ手に取るのを見守る。

 一本一本、氷の張った湖を歩くかのように吟味するその姿に少し懐かしい感覚を思い出す。俺が初めて木刀を持ったときも、あのように師匠に並べられた木刀を選ばされたのだ。当時は剣=かっこいいという考え方だったので、興奮しながら選んでいたのを覚えている。

 

「これは……ん……短いほうが……」

 

 持っては振り、繰り返す。

 その様子を眺めながら思案する。

 一月前まで、剣術のけの字も知らなかった彼女がなぜ剣術部に入ったのだろうか。新しいことを始めるならば、中学時代に継続していたテニスを除いて女子サッカー部やソフトボール、文化部でもこの学園にはかなりの数存在している。その中でも敷居の高い剣術部を選ぶに至ったのは、何故か。

 

「——これが、良いと思います」

 

「振れるのか?」

 

「はい。今までのものよりは」

 

「わかった。ならば、その二本(・・)を軸に猫屋敷の基本を作り出していこう」

 

 二本——そう言った視線の先には、約45cm(一尺半)の小太刀を二本持った猫屋敷が立っていた。

 その姿にやはりと納得する反面、希有な才能を持ったものだと内心興がった。

 それもそのはずで、彼女には初めから一般的長さの剣を振る才よりも、小太刀のような短いものを振る才のほうが優っていたのだ。気付いたのは昨日に見た振り下ろしから、弾かれた木刀の動き。上衣の上からはわからないが、彼女は元々左右の腕に偏りがあったのだ。ましてや中学時代にテニスをしていたとなればその差は然と現れる。両手に持てば腕の長さと筋量から違和感を感じるのは当たり前で、たとえ努力しようとも何年も振り続けて身体を変えるしかないだろう。だが、身体が整形された年頃の彼女に、それを伝えるのは酷なこと。ならば、早めの段階から彼女——猫屋敷には猫屋敷独自の動きを身につけてもらおうと考えたのだ。

 そして、俺は自分が使うようにと持ってきていたまったく同じサイズの木刀(・・・・・・・・・・・・・・)を二本抜いた。

 

「同じ——もの?」

 

「まあ、そう言うことだな」

 

 脚幅を確認し、自分が振れる剣を選択した。この時点でようやく、猫屋敷は入り口に立ったのである。

 

「俺が教えるのは基本となる、さらに骨の部分だ。その後、上手く肉付けが行えるかは猫屋敷の努力次第にある」

 

「——は、はい!」

 

「では、素振りの基本から入る」

 

 流派とは——到達地点が見えているものだ。

 奥義の習得をもって皆伝とし、弟子たちはそこを目指して鍛錬を積む。皆伝者はそこからさらに研鑽をするか、その場で満足した者は無気力なままに己の実力に胡座を掻く。

 しかし、我流ともなればどこまで走り続ければ良いのかわからず、見えず重たい樹々を斬り倒して歩まなければならない。たとえ彼女が三年間のみ、剣術に関わるとしても生半可な努力ではどこかで倒れるのが関の山。

 

 我流と銘打ったその先に、一体なにがあるのかは——俺も知()ない。

 

 

 

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