失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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 二天一流、宮本武蔵。たちまち青竹を振ればバラバラにわかれたみたいですよ(わかる人にはわかるやつ)


十九刀目!

「——勝負有り。

 場外反則兼戦闘不能により、口宮冬三郎の負けとします。

 よって、勝者は宮本武蔵」

 

 目の前で起きた非現実に、見ていた部員たちは目蓋を激しく瞬かせている。平然と告げられた決着の言葉を聞いているものはおらず、立ち合い当人である理念は僅かに奥歯を動かし、この場において帯刀許可者に一番近い岡田は驚きもなく瞑目していた。

 

「く、口宮さんが……一撃?」

 

 ある意味原因となった、口宮と同じ道場門下の勝草が呟いた。

 部員たちに広がるのは、驚きの反応。

 それぞれが通う道場にも、強い者はいた。しかし、口宮冬三郎という男はそれらに匹敵するほど強く、こと居合術においては殆どの者が彼以上のものを見たことがなかった。

 故に、唖然。

 そして、驚愕。

 

「続いて、二本目に入ります」

 

 覚めやらぬ中、沖田が次試合を言うが部員たちは騒ついてそれどころではない。

 帯刀許可者という存在が世間では最早当たり前の単語になっている。

 文武両道法の成立当初、バラエティ番組や報道番組では日夜特集が組まれ、それらの存在が比較的近くなったのだが——。

 

 当然といえば、当然なのだ。

 

 帯刀許可者たちは、真剣を用いて(・・・・・・)仕合う。

 法律の庇護下、刃物を持つことが許された例外なのだ。

 その者たちが剣を交わせば——流血し、皮膚を裂き、腹に穴が空く。

 仮にテレビで紹介されたとし、そんな凄惨な現実を伝えるわけがない。

 

 成人男性を一撃で吹き飛ばす。

 大岩を真っ二つにする。

 四メートルの塀を容易く飛び越える。

 

 噂には聞いたことがあり、帯刀許可者ならばあり得るだろうとも考える。

 だが、部員たちは未だ本物(・・)に出会ったことがないため感ぜられることはなかった。

 部活動紹介で垣間見た実力——先に打ち合わせをしておけば、彼らでもできる芸当。逆に言えば、打ち合わせを前提としたFiction(非現実)を無自覚に無計画にNonfiction(現実)で起こせるのがここにいる帯刀許可者(三人)なのだ。

 

「ありがとうございました。

 居合の体勢はもう少し低いほうが、相手のほうが速かったときに対処できると思います」

 

 納刀、そして一礼。

 宮本武蔵は、その儀をもっていつもの笑顔へと戻った。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 武蔵の一撃によって場外へ吹き飛ばされた口宮は、岡田の軽い触診により自然に目を覚ますと判断された。今は畳の敷かれた場所に、部員の一人が準備室から持ってきたバスタオルの上で眠っている。

 

「審判、変わるよ」

 

 一度、試合場から出た武蔵は沖田にそう言った。

 沖田が剣心の方へ向き、視線を合わしたかと思えば二人は入れ替わるように位置を変えた。

 

「二番手、私が行きます」

 

 範囲を示す枠線に立つのは——天然理心流、沖田総司。若き天才剣士として名高い彼女を知らぬ者はこの場におらず、彼らが目指す目標でもあるのはたしかである。

 彼女に対するのは、

 

「儂が行きましょう」

 

 持った木刀を——いや、その身は先にかけて細くなっておらず、持ち手のままに伸びている。鋒はなく丸いそれを形容するならば、木杖が正しいだろう。

 元より武器種は自由。

 さずかに飛び道具は一言いるが、あの程度ならば気にかけるほどではない。

 ほぼ同時に頭を下げ、開始線にまで辿り着くと真剣/(じょう)を構える。

 

「では、二本目の試合は私が務めます」

 

 

 

 星詠学園剣術三本勝負。

 

 【二本目】——。

 

 真剣術部所属   天然理心流

          沖田総司

 

       対

 

 剣術部外部顧問  柳剛流 

          岡田常良

 

 

 

「両者構えて!

 

 

 

 ————始めっ」

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

 合図とともに飛び出したのは、音超えの速さを持つ沖田ではなく、岡田の方だった。

 齢七〇を迎えて脚力に反応速度、戦いにおける全て肉体は衰えを知らず、唯一悩みがあるとすれば視力が落ちたことだった。だが、僅かな障害すらも、他の感覚を研ぎ澄まして対処することによって、未だ柳剛流において最強の名を持つのが岡田常良という男である。

 飢えた狼のように地を蹴り、何十年と練り上げた下腿三頭筋が熱くなる。

 歳を経て、体力の衰えは感じていた。

 それでもなお、自身より歳若い者に勝つにはどうすれば良いか。彼は答えを——短時間による決着にあると見た。

 

「ォ——!」

 

 片手で持った杖を横に凪ぐ。

 一撃は薄い鉄板ならば、凹ませる一撃を持っていた。

 

「甘い……!」

 

 沖田は冷静に対処し、迎え打つのではなく迎え受ける(・・・)ことで対処する。

 鉄の真剣と木製の杖。

 単純に交わった場合、どちらが壊れるかといえば白旗は杖に上がる。刃引きしているといえ抜身の刃、真正面から向かい打てば当たり前の結果だ。

 仮に割れ、予想外の動きをされるほうが敗北に繋がる。それを加味した、受けるという行動。

 

「——ぬ」

 

 極限まで力を抜き、完全な受け流し。軽装を主装備とし、攻撃を受けないことが前提の戦い方をとる沖田にとっては容易いこと。

 杖が止まり、一瞬の停滞。

 互いに反応が出来ていないわけではなく、敢えての間。隙を作るための隙。さらにその上を突こうとする技術。

 競り勝ったのは沖田。

 杖の太身が祟ったか、岡田の視線と被り交差する。

 膝を曲げず、その場で跳躍する。

 身長は沖田の方が低いが、岡田は元より低い体勢だったがために受け身の取りにくい体勢となっている。さらに威力を上げるための跳躍。

 一撃必殺。

 繰り出される突きは、

 

「ふっ」

 

「放し——いや、弾いたっ」

 

 限界まで研磨された、武器を持つ岡田の指は鉄のように硬くなっている。時に自身の体重を支える指先で杖を弾くなど、造作もないことだった。

 空中で隙を作ったはずの杖は、そこから反し攻撃に転ず。

 当たろうとも致命傷には圧倒的に届くことはないが、その後の保障もない。

 回転する杖が眉間に迫る。

 半ば反射、沖田の色濃く錬磨された身体は勝手に正解を掴みとっていく。

 勝利よりも先に、敗北の芽を摘み取る。

 

「————!」

 

 音速の剣戟。瞬きの速さ。

 杖が弾かれ、今度は逆に岡田の方へ向かう。あわや掴み取ろうとする岡田だが、それよりも速く杖が——失墜した。

 上から刺さるように岡田に向かう筈だった突きは、彼よりも先に杖に繰り出されることになった。

 空を掻いた岡田は、意識の切り替えを行う。

 武器を失えば次の武器は——己の肉体。

 ひっくり返るように地面に手を付くと、捩るように踵を左に出す。手首を思い切り捻るように鎌となった足首が沖田に迫る。

 

「聞いたことがあります——」

 

 静かに、沖田の声がした。

 先ほどまで杖に合わせていた視線はすでに岡田を捉え、今にも食い殺そうと——壬生郎の(まなこ)を向けている。

 心臓が掴まれたような感触に岡田の攻撃が鈍った。それと同時にまたもや何もないところを通過していく己の攻撃。

 

「柳剛流は刀に長刀、杖など様々な武具を扱うと。

 しかし、そうでありながら本当の(こわ)さは目に見えた武器ではない」

 

 磨かれた床に、沖田の裸足が摩擦した。

 

 体勢は整っている——。

 

「力ある刀、巧い長刀捌き、卓越した棒術。一時期は関東で一大勢力を誇る北辰一刀流すら凌いだ流派。

 一番危険視すべきは、その鍛えあげられた鋼の肉体……!」

 

 柳剛流は他の流派より自由な戦い方である。

 その証左として、初撃は持っている武器ではなくそれすらも囮にした足技にある。硬い武器、長い武器、強い武器——こと柳剛流においてその原点は、肉体にある。だからこそ己の肉体を鋼に至るまで鍛え上げる。

 武器という技術。

 さらに奥にある、何よりも信頼する肉体というどれよりも裏打ちされた武器。

 

「今回は知っていた私の勝ちです————破ァッ!」

 

 強烈な、彗星の如く尾を引いた一撃。

 

「ぐぉ——ぅぅうう!!」

 

 突出した鋒は岡田の水月を穿ち衝撃を与える。

 壁がなかったのが幸いだろう。

 周囲を囲っていた部員が柔らかい肉壁となり、勢いをつけて飛んできた岡田のクッションとなった。

 

「——勝負有り!

 この勝負、場外反則により岡田常良の負け。

 沖田総司の勝ちとします!」

 

 高らかに沖田の勝利が告げられた。

 部員たちも一本目と違い、まだ一連の動作が見られたためか次第に拍手の音が二人を包んでいった。

 

 

 

 

 

四、

 

 

 

 

 

「……あの突きは堪えますね」

 

 唐竹で殴られようと声一つも漏らさない肉体を持つ岡田も、さすがにあの突きには耐えられなかったようで部員の肩を借りて立ち上がった。痛みが響いているのか片目を閉じ、ようやく歳に合わせた弱々しさが出たといったところだ。

 

「申し訳ありませんが、少し休まさせていただきますよ。

 痛みが引くまでちょっとかかりそうだ」

 

「ええ。

 立ち合い、ありがとうございました」

 

「はい。

 帯刀許可者と立ち合えてこちらも満足です。ありがとうございます」

 

 互いに頭を下げると、再び爽やかな拍手が起きた。

 岡田常良という一流派の頭目が負けた事実よりも、沖田総司の技術、そして敗北しながらも潔く身を引く顧問の姿に戦いの余韻に煽られたのか自然と腰の上がった者もいる。

 審判役をしていた武蔵が真っ二つ、僅かにささくれのように繋がってはいるが使い物にはならないであろう杖を試合場の外へと出した。どこからともなく部員が箒と塵取りを持ってくると綺麗に片付ける。最後に霧吹きと雑巾、それから乾いた雑巾で(ぬぐ)うと試合前の綺麗な状態に戻った。

 

「俺か」

 

 三本目、最後に出てきたのは真剣術部唯一の男——剣城剣心。

 

「ええ。よろしくお願いします、剣城様」

 

 対するは、剣術部主将——山内理念。

 二人は前の四人と同じように頭を下げ、開始線まで歩いて行く。

 一人は日常の如く柔らかな笑みを携えて。

 一人は不気味なほどに無表情な顔を携えて。

 対照的までとは言わないが、落差のある両者の雰囲気に部員たちは息を呑む。

 

「審判は武蔵(わたし)が継続します。準備はよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

「はい」

 

「では——」

 

 

 

星詠学園剣術三本勝負。

 

 【三本目】——。

 

 真剣術部所属   とくになんもないん流(我流)      

          剣城剣心

          

 

       対

 

 剣術部所属副主将 平常無敵流

          山内理念

 

 

 

「試合……、

 

 

 

 ————始め!」

 

 

 

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