失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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 2章終了でございます。


二十二刀目!

 

 数えてみれば五日。たった五日なのだが随分と濃かった気もする。初めはただ見るだけで良いと言われながら、いつのまにか口を出し手を出してしまった。まあ、沖田さんも武蔵も楽しそうにしていたので良かったのだろう。

 剣術部との三本勝負は先週の出来事で、もう六月も半ば梅雨の時期となっている。どうやら今年の梅雨入りは早く、一週間も長い梅雨になるとの予報だ。星詠学園の近所出身の俺としては、山中にあるこの地域は霧と湿気が溜まりやすいことを知っているため煩わしく思う。

 ソファベッドというのか、男一人が寝転がっても大丈夫な椅子に半分寝転がりながら漫画を捲る。妹から借りたこの漫画はバトル系ラブコメ漫画に属しており、日本刀を構えた主人公が悪の組織に捕まったヒロインを助ける内容となっている。

 適当に読み流し、ページを捲りながら三本勝負のことを思い返した。

 あの日、真剣術部の三本勝ちという結果に終わった三本勝負だが、山内理念という部員たちにとって他道場を含んでも強者たる彼女の敗北を前に唖然としていた。それもその筈で、相手はまともに攻撃をしたのは数度、自ら踏み込んだのは最初と次の二回だけ。ましてや鞘から抜かぬ戦い方に見ていた部員の一部は内心立腹し、今にも白線を踏み越えてくる所存だったがそれは出来ず、最終的には目に見えぬ攻撃によって主将が倒れるのだから穏やかではなかっただろう。

 常人には理解し得ない強さ——。

 驕るつもりはないが帯刀許可者を表すには相応しい言葉だ。

 一先ず山内主将をそのままにしておくわけにはいかず、猫屋敷ともう一人の女子部員をつれた俺は彼女を抱き抱え、準備室の長椅子へと寝かせることにした。保健室という選択もあったが、外傷はなくものの数分で目を覚ますことはわかっていたので、二人に口宮副主将と同じようにタオルで枕を作ってもらい、寝かせると彼女が起きるまで猫屋敷と話しなが待っていた。本当に他愛もない内容を交わしながら少しすると、ふと目を開けた山内主将と包帯越しに目が合った。彼女は微笑むと、猫屋敷たちに礼を言い、元の場所に戻るように指示をした。

 

『手合わせ、ありがとうございました』

 

『こちらも』

 

 準備室から二人が出ていくのを確認し、扉の閉まる音が止む。

 それと同時、

 

『剣城様——』

 

 俺の名前を読んだ声音は、おそらく出会って一番に力の入った様子で、

 

『帯刀許可者とは、皆あそこまでの強さなのでしょうか』

 

 久しぶりに聞いた言葉だった。

 ここに来る前、まだ師匠と国巡りをしていた最中、戦った者の殆どはそう言っていた。

 俺が『国家太刀別認許状』を取得したのは今年初めになるので、その多くは俺に対してではなく——師匠。ふらりと寄った剣術道場、まるで看板破りのように挑んだ先の師範代が言い放ったのだ。

 師匠の強さは今より小さく、帯刀許可者という存在にまだ理解を示していなかった俺をして異常で、災害と称して良いほどの力を持っていた。現在はどこか、学園入学に際し一度故郷に戻ると言っていたのでふらりと旅でもしているのだろう。

 そんな師匠が同じ帯刀許可者と戦っているのを俺は二度、見たことがある。

 一度は、林泉寺に棲まう武芸百般の猛虎。

 そこにいた帯刀許可者は剣だけに留まらず、長刀、弓、棒、杖——ありとあらゆる武器を使いこなし、あの師匠を追い詰め、また拮抗に持ち込まれようが類稀なる技量で最終的な決着は付かず終いとなった。何故決着を付けないのか聞くと、あれ以上は命を失う覚悟が必要で、その場にはまだ未熟な俺と向こうの同世代(弟子)がいた。故に、二人は決着付かずに幕を落としたのだ。

 二度目、伊豆の三島に宝刀を携えた剣客がいると聞き、俺と師匠は海を泳いで訪ねたのだ。そこには噂通り無精髭にざんばら髪を束ねただけの一見浮浪者にも見える男がおり、互いに語るより早く剣を抜いたのであった。

 つまり、俺が人生で見た帯刀許可者は三人……沖田さんと武蔵も含めれば五人か。

 二人が前者三人よりも強い、また同等の力を持つのかはわからない。奥の手がまだあるのは当然で、それを知るのももう少し先になるだと思っているからだ。

 そのため、俺は山内主将の問いに対して「わからない」と答えた。彼女は納得したような、まだ何か言いたそうな表情をして口を結んだ。

 

「はぁ……すごい雨でした……」

 

「だね。まさかいきなり降ってくるとは思わなかったや」

 

 そこまで思い出していると体育館の中をパタパタと走る足音と、開かれた扉から沖田さんと武蔵の二人が入ってきた。

 

「む、雨が降っていたのか」

 

 漫画を閉じ、机に置いて立ち上がる。

 振り返って扉の方を見ると、入り口で小さなハンカチで拭いたのだろうがまだ滴の着いた二人が勘弁と言ったばかりに眉根を寄せていた。

 

「少し待て、今タオルを用意する」

 

 いつか俺が運ばされた大きめの棚から、使わなくなりそれぞれが家から持ってきたバスタオルを取り出した。

 

「どのくらい強さだった」

 

「結構強めだったかな。ここの前の砂地、水溜りになって泥だらけだったもん」

 

「早めに制服を干さないと臭くなりますね」

 

 ついでに棚の取手にぶら下げていたハンガーを二本取った。とりあえずバスタオルを頭に投げ被せ、制服を脱ぐように言った。

 

「ありがとうございます。少々お待ちを……」

 

 一応優等生な沖田さんは止めていた全てのボタンを丁寧に外していく。大して武蔵は暑かったのかボタンをしていなかったので、腕を抜いてこちらに渡してきた。

 

「ごめん、ありがと」

 

「気にするな」

 

 受け取った制服を素早くハンガーに通す。別に持ったままである必要もないので元々ハンガーがあったところに掛けた。ほんのりと温かい。

 脱ぎ終わった沖田さんからも制服を受け取り、ようやく息をつける時間になった。

 

「やっぱり梅雨の時期は降水確率40%でも傘を持ってきたほうがよかったですね。失敗しました」

 

「折り畳み傘を鞄に入れとこうと思っても、明日で良いやって思っちゃうんだよね」

 

「二人とも新都の方の天気予報を見たのか?」

 

「違うの……?」

 

 なるほど。それならば傘を持ってきてないのも理解できた。

 

「星詠学園があるこの地域と、新都の方は間に甲六山(きのえろくさん)があるだろう? そのおかげか、雨や晴れの予報は当たるが降水確率はこっちの方が新都と比べて高くなるんだ」

 

 感覚にして10%から15%ほどだろう。降水確率40%と50%は結構な差があるので大きい。こればかりは地元民だけしか知らない情報だろうな。

 

「な、なんですかそのご当地あるある! 剣心くんが言ってくれてたら濡れずに済んだじゃないですか!」

 

「ふっ……悪いな。ここに住んでいると当たり前のことだから忘れていた」

 

 鼻を鳴らしてそう言うと沖田さんはぷんぷんと腕を上げる。

 

「そういうのは山あるあるだもんねー」

 

 と、笑った武蔵の方に目をやった。

 

「…………」

 

「……?」

 

「…………」

 

「……。

 …………?」

 

「…………」

 

「…………どしたの?」

 

「いや……」

 

 ようやく言葉を発した俺に武蔵は目を丸くした。何事かとこちらと武蔵を見る沖田さんは気付いたように口を開く。

 

「あ、そういえば剣心くんは髪を下ろした武蔵さんを見るのは初めてでしたか……?」

 

 そう——。

 沖田さんが言うように、机を挟んで前に座った武蔵はいつも飾っていた簪を抜いて髪を下ろしていた。薄紅藤(うすべにふじ)色の髪は肩より下へ、頭を拭くために上げられた両腕によって心なしか豊かな胸が突き出されており扇情的な雰囲気を醸し出す。雨露によって全体的にしっとりとした感じを覚え、男女分け隔てなく接する武蔵を嫌にでも女であると意識してしまう。

 数秒して、若干頬を赤く染めた武蔵が気恥ずかしそうにした。

 

「あ、あはは……その……ちょっと恥ずかしいかな……」

 

「……すまん。見慣れていなかったからな」

 

「……」

 

 そこまで塩らしい反応を見せられるとこちらも困る。

 目にかかった髪を払う振りをして前髪を触り、表情が崩れていないかさり気なく確認する。良かった、相変わらずの無表情男だ。

 

「おや、おやおやおや剣心くん……?」

 

 くっ、やはり反応してくるか天然理心流ッッッ!

 座っていた一人用お誕生日席から身を乗り出すように歩いてくる。後ろ手に組んだ指と細くニヤついた目が妙に感に触る。

 容姿が整ってるだけあって強く出れないのが裏目に出た。

 

「はぁ、へぇ、そうなんですねぇ……髪を下ろした武蔵さん可愛いですねー」

 

 肘掛けにもたれるようにして座っていた俺の隣に尻をつけると、背凭れ部分に左手を付けて迫ってくる。

 

「近いぞ——元の位置に戻れ」

 

「やぁですよーだ。初めて見る剣心くんの惚けた様子ですからね。散々に弄ってやりますとも!」

 

「なんだそれは、性格が悪いぞ!」

 

「ふふん。どうとでもー? 別に沖田さんは雨に濡れたことなんて怒ってませんからねー」

 

 根に持ってたのかこいつ……というよりは、どうにかしてマウントを取ろうとしたところ俺が隙を晒したのだろう。

 

「どうですか、剣心くん。髪を下ろした武蔵さんも可愛いですよね?」

 

 挟むようにして頬を掴んできた沖田さんは、首を折る勢いで武蔵の方へ向けた。

 首の痛みに文句を言うよりも先に再び目の合った武蔵が目を逸らすと、いつもの反応と違い戸惑ってしまう。

 

「く、首が折れたらどうするんだ……」

 

「むぅ、正直じゃないですね。

 武蔵を可愛いって言うまで離しませんよ!」

 

「っ——舐めるなよ沖田さん。俺は昔、首に蔓を巻きつけられて大木から吊るされたこともある!」

 

「なんですかその修行!? ただの自殺を装った殺人未遂じゃないですか!」

 

「——離せ」

 

「ダメですっ」

 

「この——」

 

 肩を掴んで沖田さんを退かそうとする。

 ちなみにこのときラッキースケベはない。

 

「ちょ、二人とも喧嘩しないでよ!

 二人というか、むしろ発端みたいになってる私が恥ずかしいからさっ!」

 

 カラリパヤットゥのように激しく打ち合う二人に、顔を赤くして止めようとする一人。

 梅雨初め、誰も寄らない旧講堂棟には雨にも負けない楽しげな声が響いていた。

 

 

 




 このssを書くに至って、よく知らなければならないのは武蔵ちゃんと沖田さんのこと。
 沖田さん……去年の福袋で当たり、アサシンの方は宝具5にしました。

 さて、武蔵ちゃんは?
 水着……持っておらず。
 セイバー……今年の福袋、当たりませんでしたッッッ!!!
       海馬社長! あなたはいつから、サーヴァントになったんだ!!!

 オリュンポスにて狙うしかねぇ!!!!!

 以下、2章後書き。

 1章は三人、また「帯刀許可者(正名:国家太刀別認許状)」について書かせていただきました。
 沖田さんと武蔵ちゃんについては基本的に設定と変わらず、制服を着た二人や体操服を着た二人を……体操服……? 書かなきゃ(使命)
 
 まあさて、2章では「帯刀許可者」の存在について。
 詳しくはまたあとに構想している章にてなのですが、彼ら彼女の存在について、いかにやべぇやつらなのか連ねました。完全にfate/世界を想像してもらうより、刃牙とか何かありえそうな強さを想像していただけると詠みやすいと思います。ローファンタジー的な……。
 登場人物とし、
 剣術部主将 山内理念。副主将 口宮冬三郎。
 顧問 岡田常良
 そして、
 まったくの初心者である 猫屋敷音子。
 「かつて帯刀許可者を目指していた者——岡田常良」
 「次世代の帯刀許可者''候補''——山内理念」
 「ただ剣術を修めるものとしての同世代——口宮冬三郎」
 「素人——猫屋敷音子」
の四名を出しました。
 隔絶した力の差と、憧れ。また、まったくそれを知らなかった者たち(部員など)。
 帯刀許可者との「距離」を示せれば良いなと思い書きました。ただ、年内に描き切りたいと焦りだいぶ端おったところがあるのは……不徳致すところ……くそぅ。

 戦いやそういうぶぶんより!!!
 日常的エロスを書く方が良かったんや!!!
 わかるでしょう! お読みいただいている方々!!! あきらかに二人との絡みを書いている方が地の文がしっかりしており、状況把握がしやすいことを!!! 私もわかってる!!!

 まあ、そんなこんなで主人公の師匠の情報を小出しにしたりした2章最終話でございます。
 では次話は「体操服を着た沖田さんと武蔵ちゃん」で会いましょう。



 猫屋敷さんと理念さんはおっぱいがあるんでちょくちょく出ます。

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