失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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二十七刀目!

 粛とした教室には机を叩くような音が響く。

 ある生徒は余裕気に秒針を眺め、

 ある生徒は頭を掻き毟りながら鉛筆を走らせ、

 ある生徒は眠りこけて読み取れない者もいる。

 様々な生徒が戦う中――終幕の鐘が鳴った。

 

 期末試験、最終日である。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 部室、いつものようにお誕生日席の場所で立つのは沖田さんだ。彼女の右手には紙コップに入ったオレンジジュースがあり、左手は腰に当てられ胸を張っている。ふふん、と笑う顔は自慢気な様子で唇端が上がり、むふんと鼻息を出した。

 

「これより……」

 

 一拍置き、

 

「――期末試験プチお疲れ様会を行いますっ! いぇーい!」

 

「やぁー!」

 

「おー」

 

 普段から片付けられている部室だが、今日は一際整理されている。部訓の書かれた舞台がある方の壁には、その上から『お疲れ様です!』と達筆な字で書かれた紙が飾られていた。

 溢れないように三人はコップを合わせると思い思いに喉を満たした。

 

「くぅー。頑張った後のオレンジは格別です!」

 

「たまに飲むと美味しい」

 

「毎日飲むと飽きちゃうかも」

 

「ちょっと武蔵さん! 人が嬉しがってる側でそんなこと言わないで下さいよっ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 照れたように笑う武蔵に、沖田さんはもう一度ジュースを並々と注いだ。

 

「ほら剣心くんも。こういうときは食べないと損ですよ!」

 

 無理やりチョコレート棒を口に入れられるどころか喉奥まで突いてきた。慌てて彼女の手首を掴んで離させると、咳払いをしながら食べる。

 

「随分といきなりだなっ……殺す気か」

 

「あっ……すみません。でも、一番頑張ったのは剣心くんなんですから、一番楽しんでくれないと私たちも楽しめないですよ!

 ね、武蔵さん」

 

「まあたしかに。楽しむ云々は別として一番頑張ってたのは剣心だもんね。

 はい、目の前にあった美味しそうなバタークッキー」

 

 礼を言って受け取る。口の中に残っていたチョコレートを茶で流して食べると、程良い甘さのバタークッキーはたしかに美味しい。

 

「このお疲れ様会は別名『剣心くん赤点回避たぶんおめでとうの会』ですからね」

 

 机上には数種類の菓子が並んでいる。

 小袋分けにされたそれらは三人が近くの業務向けスーパーで買ったもので、飲み物も同様にオレンジジュースと茶の二種類が用意されていた。

 

「真正面から否定出来ないのが辛い……」

 

「んふふ、沖田さんのおかげですです」

 

 ピースサインをする沖田さん。

 

「ああ――武蔵もありがとう。金曜日の夜、しっかり昼の補填をしてくれたおかげだ」

 

「君が頑張ったからだよ」

 

 当然と言わんばかりに笑ってくれる武蔵にはやはり感謝しかない。同じように、沖田さんにも。

 

「今日は食べ過ぎてもいけませんね!」

 

 そう言いながら小袋を開けた。

 「食べ過ぎても……」という彼女の言葉には俺と母親の事情がある。

 俺が一週間二人に世話になり、何か礼をしたいと夕食の場で漏らしたのだが、それを聞いた母親がせっかくなので二人を夕食に招待しようと言ったのだ。結局料理を作るのは母親であり、自分は何もしていないんじゃないかと思ったが、友人間で世話や礼やらで難しく考えてしまうと「毎回気を遣ってしまう間柄になる」と父親に言われ、普段の日常から二人の力になれるように意識しなさいと諭されたのだ。

 母親と妹の二人に「そんなこと言えるんだ」と驚愕されていたが、その言葉に納得を覚えた俺はそうすることにした。

 

「ああ、腹を空かせて待っていてくれ」

 

 小さなお疲れ様会は滞りなく進み、適当な会話から今回の試験はどの問題が難しかったかなどを話す。

 意外にも今回の教科で一番難易度が高かったのは国語のようで、俺は自信を持って解けた問題を二人は微妙にずれていたようで悔しがる姿も見られた。

 ちらほらと机上には空袋が目立つようになる頃、沖田さんが「そういえば」と発した。

 

「先週私が言ったことを覚えていますか?」

 

「先週?」

 

「……」

 

 何か、あっただろうか。

 

「むぅ。言ったじゃないですか――――プレゼントがあると!」

 

 

 

『この沖田総司、夏休みに二人に向けてプレゼント(・・・・・)を用意してますともっ!』

 

 

 

「む、たしかに言っていたな」

 

「帰り道のときだね」

 

「そーです! それです!」

 

「プレゼントか?」

 

「はい!」

 

 見た限り沖田さんは荷物らしい荷物を持っていない。一応試験終了後の放課後であるから鞄は持っている。だがそちらに手を伸ばすどころか見ることもない。

 それとも、既に部室に隠していた……なんて、粋なことを?

 

「まあ私からのプレゼントというか……私たち三人の活動実績、部活成立のおかげなのですが……」

 

 いつの日かのように胸ポケットから一枚の紙を取り出した。

 なるほど。帰り際から制服が四角に縁取られていて、気になって仕方がなかったが正体はそれか。

 

「どうぞ」

 

 彼女は菓子を退け、四つ折りの紙を広げると雑に折り目を撫でて直した。

 右上には今日の日付。

 左上には学校名と、部活動名。その下には顧問の高岡先生のフルネームがある。

 読み進め、

 

 

 

「合宿」

「申請?」

 

 

 

 示し合わせたように武蔵と声が合わさると、沖田さんが言った。

 

「そうです……!

 この夏!

 私たち真剣術部は!

 学園から支給される部費と!

 政府から支給されたふんだんな援助金を利用し!

 

 ――五日間(・・・)! 夏合宿に行きます!」

 

「……」

 

「……」

 

 ……。

 

「……」

 

「……」

 

 ……。

 

「……」

 

「……」

 

「…………あれ?」

 

 拍子の抜けた俺たちの反応に沖田さんが首を傾げた。武蔵の方を見ると珍しく口を開けて惚けている。

 何か良いことか悪いことのどちらとも分からないことをやったかのような沖田さんと、口の閉じない武蔵しかいないので無理やり口を開く。

 

「なぜ五日間なんだ? 普通、二泊三日とかじゃないのか……」

 

 妹から借りた漫画もそうだった。

 大抵、『二泊三日の旅行に行くぞ!』の一言なのだ。

 

「いやいや、二泊三日の合宿じゃあ慣れた頃に帰っちゃうじゃないですか?」

 

「……?」

 

「良いですか、剣心くん。

 出発日の一日目は、道中と初めての場所ということで殆どの場合は疲労が溜まっています。場所の散策もするでしょうが、やはり明日のために早めに睡眠を取るのが一番でしょうから大した散策も出来ません。

 二泊三日の場合、三日間の中の二日目は芯と言っても良い。夏だとバーベキューをしたり肝試しに行ったり、川遊びなんかも。たくさん遊べるわけです。

 そして、三日目最終日。

 だいたい夕方に着くのが理想ですから、朝から帰る準備を始めてお昼は帰り道美味しそうなご飯屋さんがあったら入るじゃないですか? そのご飯を食べてる途中、絶対に誰かが言うんですよ……」

 

 沖田さんは人差し指を立ててグイッと近付いてくる。

 

「『もう少しいたかった』と」

 

「……ほぅ」

 

「それで私は考えたわけです。とりあえず、三日以上は滞在しようと。

 そうすれば三日目の『もう少しいたかった』という後悔は消え、次の日は四日目ですから前三日より行動範囲は広がってさらに楽しめますとも! 最終日の五日目はみんなで何が楽しかったのか喋りながら次回はどこに行くのか決めるんです!

 どうでしょーか私のプランは! 最強ですよ! やばいですよ! 沖田さんの夏休み大勝利ですよー!」

 

「な、なるほど」

 

 勢いに押切られて納得したような(げん)を漏らしてしまった。

 

「――い、いいと思うよ!」

 

「む?」

 

「ん?」

 

「夏合宿、二人と行きたい!」

 

「……! ですよね!」

 

「海? 山?」

 

「どっちもあります!」

 

「バーベキューは? 花火は?」

 

「貸切ビーチがあるのでモーマンタイ!」

 

「だって剣心!」

 

「行きますよね?」

 

「待て――そもそも俺は行かないなんて言ってないからな。行くことには普通に賛成だ」

 

「大ですか?」

 

「……大賛成だ」

 

 何なんだこのノリは……。

 

「海があるなら水着を買いに行かなきゃ行けないなぁ」

 

「あ、そうですね。一緒に買いに行きましょう!

 剣心くんも来ますか?」

 

「む、そうだな……俺も水着を持っていない」

 

 ちょうど良かった……。

 ……ん?

 まあ……良いか。

 

「日程とかは決まっているんだろう?」

 

 気を取り直し、一先ず知っておかなければならないことを聞く。

 特に予定はないが、他の予定が入る際被っていればややこしくなる。

 

「8月2日から6日までです」

 

「予定は大丈夫か、武蔵?」

 

「これでも夏休みの予定、ないから」

 

 一体どれでもだ。

 

「まあ、俺も二人に合わせて立てる予定だったからな」

 

 どうせ何もすることがなかった。

 師匠から八月中に便りを送ると入学式前に言われていたが、連れ回されることはない……と思う。

 クラスメイトから遊びの誘いは特にない。何故だろう。二人はあるようだが。

 

「水着は来週かその次の週の頭には買いに行かなきゃいけないかな」

 

「そうですね。決まり次第お二人には連絡します」

 

「うん」

 

「わかった」

 

「交通手段はどうする。車は当然、自由に出せるものがないだろう」

 

「ああ、それに関しては問題ないです。顧問の高岡先生が()まで車で送ってくれますので。そこから()で移動して到着ですよ!」

 

「港……?」「船……?」

 

 いまいち想像していた合宿と違う気がするぞ。

 

「なあ、沖田」

 

「? どうしました」

 

「本当なら一番に聞いておくべきだったな」

 

 心底楽しみな様子の二人を見て忘れていた。

 

「どこに行くんだ?」

 

「私も今の単語で気になった」

 

 沖田さんはにっこりと笑うと、さも当然かのように告げた。

 

「え……?

 合宿って言ったら――――無人島じゃないんですか?」

 

「……」

 

「……」

 

 それは恐らく、天然理心流の普通じゃないのか、とは無邪気な顔をする沖田さんを見て言えたことではなかった。

 

 

 




・後書きによる夏休み夏休み詐欺
 大丈夫です。あと二話で絶対やるもん!

・無人島合宿
 ふーん……えっちっちな予感。

・夏休みまでの間
 何か、えっちっちな予感がする…

・拙作は「学園生活」に重きを置いているので不自然に飛ばすことができず、日常会だけで一話使うことがあります。私も二次小説を読む際それだけで投稿されているのがつまらないので、基本的に二話は投稿するように意識しています。
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