失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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二十八刀目!

 

 球技大会当日の朝。

 俺たち三人は、朝練終了後の部室で体操服で駄弁っていた。いつもならば袴着の後、制服に着替えるのだが今日は違う。種目ごとに試合時間が異なり、開始時刻が疎らになってしまうため予め体操服を着て登校するように指示があったのだ。

 

「久しぶりの朝練でちょっと楽しかったです」

 

「これがないと一日が始まった気がしないや」

 

「……」

 

「剣心は?」

 

「……」

 

「剣心くん?」

 

「……む」

 

「どうしたんです?」

 

「まだ眠たいのかな」

 

 ふむ、どうやら目を瞑っていたところを見られていたらしい。

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 …………………………仕方ないだろう。

 

 何しろ、二人が魅力的過ぎるのだから。

 気付かなかった。いや、気付いていた。それでいて俺は気付かないフリをしていた。

 星詠学園の指定体操服、紺碧色を基調とし、緑色のラインが引かれているのだがその場所が辛い。決してわざとでは無いだろうが、偶然胸部上に存在しているのだ。もちろん俺もある。しかしどうだろうか、これが豊かなモノを持つ二人であったとすれば……目を惹くに決まっている。釘付けだ。吸い込まれる。俺の瞳は今、眼窩にあるだろうか。

 

「今日が楽しみだったからな」

 

「ふふ、子供ですねぇ」

 

「ねぇ、可愛い」

 

 揶揄ってくる二人だが今はいくらでも揶揄ってくれてかまわない。

 眼福と称えるこの光景を脳内に貼り付けるばかりだ。

 

「あ、武蔵さんの種目はたしか――」

 

「――そうだよ。沖田の方も時間が合えば……」

 

 ソファの上で、武蔵が体操座りをしている。

 こんなの……見るしかないだろうに。

 実力のある剣術家、武闘家などの戦いにおいて、目線一つでフェイクを仕掛け、また目玉の動きを偽ることで狙いを分かり難くする初歩的な技術がある。小手先の技を多数持つ俺はそういった技術に長けており、現在もその技を使って武蔵の一挙手一投足を気付かれないように眺め続けている。

 脚は閉じて窺えないが、重力に逆らわず露わになったのは、普段は膝まであるズボンに隠された白い生脚。彼女の袴着、とは違うかもしれないが武道着は元々太ももが露出しているものだった。だが、今はそのときとは違った……煩悩を刺激する蠱惑さを持っていた。

 心無しか、膝に潰された胸が俺を嘲笑っている気がする。

 分かっているさ……お前は俺を挑発しているのだろう? 意気地無しと、男じゃあ無いと。だがどうだ、その山へ入山する権利が俺にはあるだろうか。不法侵入者になった瞬間地主によってばっさりと斬り捨てられる。俺がいくら登山に興味のある男だろうと、持ち主には逆らえないのだ。

 

「バレーボールって、こうやってやるんだよね!」

 

 オーバーハンドパスの真似をした武蔵の胸が再び俺を絡めようと触手を伸ばしてくる。

 

 ――畜生(Damn it!)

 

 これは自分自身だ。

 己の底に眠る、未だ理解できない心の深奥。空を目指す俺の、形に出来ない夢想夢念ッ。

 

「あ、そろそろ時間ですね」

 

「本当だ」

 

「……む、そうか」

 

 立ち上がった二人を見て俺も立ち上がる。

 今日の鞄は軽い。中身は弁当箱と水筒、汗を拭く手拭いだ。

 

「楽しみだな」

 

「ええ、そうですね」

 

「頑張ろっか」

 

 何はともあれ……――今日は、球技大会である。

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

「右抑えろ!」

 

「当たり負けるなよ! まずはゴール下に斬り込め!」

 

 激しくプッシュしてくる体に押されないようにチームメイトである佐渡佐渡(さわたりさど)がボールをキープする。相手チームは事前情報に拠ればバスケ部を六人中四人固めたチームであり、他二人もサッカー部と野球部の混合チームである。それ故にバスケ経験が授業以外でなくとも鍛えた身体で相手を追い続けてボールを奪取しようとする。

 

「うぜん!」

 

「おうさ!」

 

 一際大きな鶴岡うぜんが相手より頭ひとつ高く跳ぶ。隙を見て佐渡はフェイクを交えてパスを出し、ボールは鶴岡の腕の中に収まった。

 

「ここで絶対に打たせるな!」

 

 残り時間はもはや少ない。

 点数も拮抗し、ワンゴール差だ。鶴岡は勢いよくドリブルを始め、バスケ部員二人を体格の有利さから力付くで抜ける。反則にならない勢いで手を伸ばす相手だが、見た目に合わぬ器用さで避けていく。

 

「――やらせん!」

 

「……なっ!?」

 

 しかし、ゴール前最後の壁が立ちはだかる。最後の一人は鶴岡にプッシュをかけ、残り時間を計算してボールを高く弾いた。外に出るか、運良くアウトボールにならずともタイムアップが先に来るだろう。

 

「しまっ……」

 

「よっしゃ……勝った!」

 

 残り三秒。瞬きには十分な時間だ。

 

「誰か!」

 

「最後まで気を抜くなッ!」

 

 たん、と一際大きな踏み足音。体育館に反響したそれに相手チームも含めて全員がそちらに視線を上げる。

 

「――嘘……だろ……」

 

 ボールは床から四メートル近く跳ねている。仮にプロバスケットボール選手がいようとも届かぬ高さである。

 しかし、このコートにはたとえプロはいなくとも――。

 

「剣城……剣心!」

 

「剣城っ!」

 

「お前!」

 

 人外と謳われる人の身を持つ男は、空中のボールに触れた。掴むように片手で握りしめて目前の勝利へ腕を振るった。

 

「ここで……ここに来て!」

 

「――メテオジャム、だと!」

 

 スコアタイムから激しく音が鳴る。時間は‟00:00”を示し、試合の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 午前の部が終わり、昼食を摂るべく教室へ戻っていた。いつもは各々が好きな場所で食べるのだが、今日はクラスメイト全員が揃っていたため、「みんなで食べよう」という室蘭とそれに賛同した春狩によって椅子のみ引いて輪になっていた。

 普段と違う様子に慣れないものの、左右の隣には沖田さんと武蔵が座ってくれたので窮屈な思いをせずに済んでいた。

 

「それで……メテオジャム? とかいう技をやろうとして盛大に失敗したわけだ」

 

「やろうとしたわけではない。

 あのとき、時間が来る前にゴールへ入れるとなるとあれが正解だった。結果的にそうなったのだ」

 

「ものの見事に外しているのを応援席から観てましたよ」

 

「い、一々言わなくとも良いだろうに……」

 

 膝に弁当箱を置き、反芻するかのように沖田さんは片手でボールを投げる真似をした。

 

「でも、まさか剣城がボール音痴だとわな」

 

「うん。ケンケンって卓球でも強かったから何でも出来ると思ってた!」

 

「意外な弱点、なのですかね?」

 

 チームメイトだった鶴岡、沖田さんと同じように観覧していた室蘭と春狩が言った。

 

「昔からあの手の競技は苦手でな。卓球はまだ、ラケットを持つだろう? 刀と見たてればどうにでもなる」

 

「うわぁー凄い脳筋理論だ」

 

「なるほど。では以前私が勝った卓球の試合は剣心くんに刀で勝ったも同然なんですね」

 

「待て、それは違う」

 

 墓穴を掘ってしまった。目敏く拾った沖田さんと言い合いをしていると、もう一人のチームメイトである佐渡が口を開く。

 

「にしても凄い所に入っていったよな。腕は真っ直ぐ伸びてたのに真横行って壁に当たって剣城の方に跳ね返ったと思ったら振り切った踵にぶつかって相手ゴールに(はい)んだから」

 

「……すまん」

 

「気にすんな」

 

 気さくに返してくれると、気持ちが落ち着いた。実際にあそこまでの接戦、入っていれば勝利という状況で外してしまえば中々応えるものだ。

 

「まあ、あそこまでの点数差に抑えられてたのも剣城がぎりぎりまで守備に専念してくれていたおかげだしな」

 

「さすがにこっちバスケ部員無しなのに向こうがガチガチに固めてきてるのは辛い」

 

 球技大会は『バスケット・サッカー・バレーボール』の三種目が行われ、それぞれが一種目選ぶ。一位から最下位までポイントが付けられ、最終的に合計ポイントが多かったクラスが総合優勝になるのだ。種目優勝、個人ではベストプレイ賞などもあるようでそちらを狙っている者もいる。だが、やはり総合(・・)という大きな括りの冠はどのクラスも欲しい。そのため、今回のようにクラス内に参加する種目の部活動生が在籍していれば確実に勝つために一チームに固めてくるのだ。

 なお、B組では女子バレー、次いで男子サッカーが優勝争いに参加出来るとのことだ。午前の部にあった予選も無事通過している。

 

「まあまあ、どうしても出来ないってことはあるからねぇ」

 

 うんうんと頷きながら背中を撫でてくる武蔵。

 

「あの外し方はボールに嫌われてると言っても良いような気がしますが……よしよし、気落ちしないでください。

 ほら、午後は頑張って下さいよ――応援を」

 

 くそぅ、完全に下に見られている。期末試験から二人とは妙な確執が出来ているようで悔しい。今回の期末試験はともかく、二学期の試験結果で何とか勝ちたいものだ。日々の勉強にも力を入れなければならない。

 

「あはは! 何かケンケン(いぬ)みたいだね! ケンケンというよりはケンケン(ケン)だ!」

 

「うちの犬は手強いですよ。何かあれば直ぐに噛み付きます!」

 

「保健所直行だね」

 

 現実的なことを言わないで欲しい。それと沖田さんは調子に乗っているので後で仕返しである。

 

「仲が宜しいですね。剣城君と沖田さんと宮本さんは」

 

 笑いながら春狩が言った。

 言ったのだが、それ以上に膝に乗せて食べている三段重ねの重箱が気になる。口に出す気は無いが、見た目に合わず春狩は食べるようだ。いや……ある意味見た目に合っているのか……。

 

「放課後は毎日一緒に居ますから」

 

「一日でも身体動かさない日があると鈍って仕方ないんだ」

 

「同じだな」

 

 試験期間中は三人の仕合は金曜日のみで、それ以外は勉強に当てていた。空いた時間を見て走り込みや庭で刀を振っていたが、やはり毎日対人が出来るという環境に慣れ始めていたようで、ここ数日は体力が余ってしまい少し寝付きにくい日を過ごした。球技大会がある今朝も三人で鍛錬を行った。

 

「もうちょっとアオハル的な理由を期待したんだけど……」

 

「わかる。正直三人はどうなの?」

 

 切り込むようにそう言ったのは平塚さがみである。肩まで伸ばした黒髪には桃色のメッシュが入れられており、目元には星型のアイシャドウが施さている。巷でいう小悪魔メイクという奴だろう。分からないが。

 彼女の言葉に何気なく二人を見るが、首を傾げながら言葉を探している。

 どう答えたものかと視線を前に戻すと、クラスの大半がこちらを見ていた。

 まあ、仕方ないことだ。

 二人は一般的に見ても優れた容姿を持っている。妹がテレビで特集を組まれていた際も、可愛いらしい顔立ちが指摘され、SNS等で噂になっていたと言っていた。性格も悪辣や陰湿ではなくむしろ逆、人を思いやることができ、最後まで手を貸してくれる姿は惹かれる人物が居てもおかしくはない。現に、俺も二人のことは好ましく(・・・・)思っている。

 

「仮に誰かが誰かに気を持っていたとして、当人の目の前で言えるわけがないだろう?」

 

 二人が口を動かすよりも先にそう述べた。

 

「ぶーぶー」

 

「ケンケンらしいなぁ」

 

「剣城君は魅力的な男の子です。女としては、強い男性に惹かれてしまうものなのでしょうか?」

 

「ありがとう。

 だが、俺もまだまだ道半ば。目的地に辿り着く道すら視えていない。『強い』など、到底自分では思うことも言うこともない」

 

「ふむ……帯刀許可、というものがゴールじゃないんですね」

 

「ああ。むしろ……俺にとっては何かを目指すきっかけになったのかもしれない」

 

「なるほど」

 

「二人はどうなんだ? 剣城みたいな、目標はあるのか?」

 

「あ、たしかに気になる……」

 

 話題はうまく逸れたようだ。春狩が理解して乗ってくれたのかはわからないが、察しの良い彼女だ。きっと気を使ってくれたのだろう。

 

「私はねぇ——」

 

 自分の番が終わったことで食べることに集中する。

 母親の作ってくれた弁当は相変わらず美味く、箸が自然に進む。父親と結婚する前に栄養士と調理師の資格を取ったらしく、普段の家庭料理と相まってプロ顔負けだ。

 ふと、窓から外を見ると身体を動かしている他のクラスメイトが見える。午後から始まる試合に勝ち残った者たちだろう。沖田さんは女子バレー、武蔵は女子サッカーと見事に分かれている上に両方とも残っている。応援がし難いが、嬉しいことには限りない。この身を賭して両方の応援をする。

 

「あ、そういえば」

 

 誰かが言う。

 

「何か、面白く可笑しな(ダーウィン)・プレイ賞があるみたいだから、もしかすると剣城も賞を貰えるかもな」

 

 どうせ貰うなら、ベストプレイ賞とか格好良いものが欲しい。

 

 

 




・クラスメイト
佐渡佐渡(さわたり さど)…茶髪に中肉中背。運動部に入っており、そこそこながたい。
鶴岡うぜん…角刈りみたいで主人公(180前後)より身長が高い。熱血漢なところがあるが、歳相応である。
平塚さがみ…肩まで伸ばした黒髪に桃色メッシュ。なお、メッシュの色は週によって変わる。

・球技大会
 バスケ、バレー、サッカーの三種目男女に分かれて行う。各種目ごとに試合時間が異なるため、開始時刻が違う。

・主人公
 球技が果てしなく苦手だが、何かを握ってやる球技は身体能力を生かしてある程度こなせる。

・ダーウィン・プレイ賞
 現実にあるダーウィン賞から参照し、ダーウィン・プレイと名付けた。
 事実は不名誉な死に様をした者に送られる賞だが、拙作ではポップな位置付けである。



 私は……いつか二人が主人公とイチャイチャしたいがために活動サボって部室で主人公を部室に誘うシーンを書きますよ(断言
 投稿するたびに、一週間に一回は守ろうと考えて結局できないやつ。
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