失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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二十九刀目!

 

 雀色に染まったグラウンドがトンボで整地されいく。坦々たる表面は思わず飛び込んで足跡を付けたくなるが、そんなことをしてしまえば準備運動に入った野球部に非難されること間違いない。

 球技大会の全日予定が終わり、無事Bクラスが総合優勝を掴んだ表彰式の後、俺はクラスメイトと共にグラウンド競技の片付けを行なっていた。室内競技であるバスケットとバレーは女子が担当し、サッカーゴールや整地があるグラウンドは男子の担当であった。

 

「……すげぇな」

 

「改めて見ると自覚するわ」

 

「俺の筋肉でも不可能なことを!」

 

 野次を背に受けながら、ゴールを掴んでグラウンド端へ歩いていく。正確な重さは分からないが、一〇〇キログラムに到達しているか、丁度ぐらいだと思われる。そんなものを片手で一つ、計二つも引き摺ることなく持ち歩いている(?)のだから当然なのかもしれない。

 

「いやぁ、ありがとな剣心」

 

「かまわない。大人数で運ぶより、俺一人で運んだ方が安全だ」

 

「考え方は合理的だけど、目の前で起きてるのはまったく合理的に説明出来ねえよ!」

 

「ジャグリングでもして見せようか」

 

「絶対先生に怒られるからやめてくれ」

 

 冗句を言うと、大袈裟に手を出して止められてしまった。

 最近ではこうして友人と呼べるクラスメイトと諧謔を嗜むこともあり、三ヶ月前を考えると随分と異なる印象を抱かれることがある。「最初は堅いイメージだったが、意外と接し易い」と女子含めて言われるのはもう慣れてしまった。

 

「――あ、剣心くん!」

 

「む、沖田さんと武蔵か。そちらは終わったのか?」

 

「ええ、これから部室に戻るとこです」

 

「先行ってるね」

 

「ああ、分かった。俺も片付けが終われば直ぐに行く」

 

「鶴岡くんと佐渡くんも、新学期で会いましょう!」

 

「ばいばーい」

 

 手を振って離れる二人を見送り、再び歩き始める。

 球技大会前からゴールが位置していた場所に辿り着き、取り敢えず下ろす。校舎に沿う形で置いておかなければならないため、もう一つを二人に任せ、自分は地面に付いた痕を頼りに合わせていく。

 

「『新学期で会いましょう』かぁ……」

 

「だなぁ」

 

 引き摺って地面に穴が空くといけないため、適所持ち上げながら調整していく。体育教師は適当で良いと言っていたが、妙に気になる性質(たち)である。

 何やら二人は哀愁を漂わせているようだが……。

 

「どうかしたか?」

 

 人の悩みに口を挟むのは苦手だが、漏れ出た言葉から先程の二人が要因なことは察することができる。何か力になれかもしれないと思い、巻き込んだネットを解きながら尋ねる。

 

「うーん……剣心に言うべきことじゃないかもしれんが、二人とこのまま行けば一月会えないのは悲しいと思ってな」

 

「ああ。うぜんの言う通りだ!」

 

 なるほど。

 

「夏休みだからな。俺もクラスメイトと会えないのは悲しい……というよりは、寂しくはある」

 

「お――くっ、そう、じゃなくてなぁ!」

 

 悶えるように何か言いた気な佐渡に首を傾げる。うぜんも心無しか、ゴールを引き摺る力が強くなっている気がする。

 

「お前って奴なぁ! 剣心!」

 

「む」

 

「自分の環境に感謝すべきなんだ!」

 

「?」

 

「うむ、確かに」

 

 儼乎(げんこ)たらん雰囲気を纏って鶴岡も頷いている。

 

「俺も鶴岡も、お前みたいにとんでもびっくりな身体能力は持っていないさ。それが才能だけじゃなく、剣心の努力や歩んできた道のりが結んだ結果だってことは理解している」

 

 「でもな」と続ける。

 

「俺が——いやB組男子(俺たち)が言いたいのはそこじゃないッ!

 剣心! お前が……お前が沖田や武蔵といった——可愛い女の子と過ごせている環境に感謝すべきであると言っているぅ!」

 

 指先から光線でも出るのではないかという勢いで指を差され、自身の瞳孔が僅かに揺らいだのを感じた。

 

「良いか、剣心よ」

 

 腕を組み、自身の鍛え上げられた肉体を誇張するように鶴岡が言う。

 

「今や、あの二人は学園一の人気を誇る生徒と言って良いだろう。

 現に、剣心も二人が度々告白紛いな、もしくは告白をされていることは当然知っているだろう?」

 

「無論」

 

 あれは恐らく、入学して一週間も経たず、真剣術部が創部して翌日の頃だった。

 放課後、教室から三人で旧講堂に向かう途中、校舎出入口で上級生と思わしき生徒――制服に付着したピン色から判断――が沖田さんを呼び止めたのだ。入学して直ぐ、クラスメイトですら未だまともな関係が築けていない中、全く接点の無い人物が現れたので俺と武蔵は沖田さんのことではあったが首を傾げたことを覚えている。俺と武蔵の反応はともかくとして、沖田さんは俺たちに先へ行っているように告げ、後から旧講堂にやって来たのである。人に用を聞くのも不躾であると思い、こちらから尋ねることはなかったのだが、結局沖田さんの方から告白沙汰であったと教えられたのだ。

 それ以降も沖田さんは好かれるようで、さらには武蔵も恬淡寡欲(てんたんかよく)的な、けれん味のない様が馴染み深く男子生徒共々偶の女子生徒からもそういった()はあるようだった。

 

「夏休み、どっか行く約束をしてるんじゃないか?」

 

 もの言いたげな目を持ってこちらを見てくる。

 

「ああ。今度、真剣術部の活動として五日間合宿に行くことに……む、その前週に水着を買いに行く予定もあったな」

 

「Jesus! 聞いたかうぜん!」

 

「然り」

 

「なぁ、剣心。俺たち友達だよな?」

 

「そう思っている」

 

「じゃあお願い事を聞いてくれるよな?」

 

「事と次第による。他者に迷惑が掛かることならば聞くことは言わずもがな、内容を知って人道を外す所業ならば俺も考えなければならない」

 

「頼む――」

 

「佐渡が言わなくてもわかる。俺も――頼む」

 

 二人は示し合わせたかのように見事な土下座を披露した。その正調さは練習が始まった野球部の音が、グラウンド端で行われたそれに戸惑いから一時停止するほどだ。

 

「二人の水着姿を写真に収めて送ってください!」

 

「一生のお願いだ、友よ!」

 

 ……。

 何となく察していたが、見事に当たっていた。

 

「……」

 

 ふむ、と顎をなぞりながら考える。

 二人には立ってもらい、懇願するような目は校舎に視線を移すことで一先ず無視をする。

 

「俺が写真を撮る可能性はあるが、二人に送る際には何と言えば良い」

 

「うっ……」

 

「……それは」

 

「本人の預かり知らぬところでそんなことがあれば二人は何と思う。勝手に送り、二人を裏切るようなことはできないからな」

 

 沖田さんや武蔵に確認をとっていれば送れたであろうが、無いのならばそれは出来ない。クラスメイトや友人に順位付けといった失礼なことは到底無いが、やはり一際関係の深い二人については踏み入る所がある。

 肩を落とす二人にどう声を掛けようか迷っていると、ほんの少し前に言われたことを思い出す。

 

「そういえば、春狩がB組のアルバムを作ると言っていたか……」

 

 『余裕のあるときでかまわないので、活動写真を私個人で送って欲しいです』と言われた。これは沖田さんと武蔵も知っていることで、俺たち真剣術部の広報写真として撮影している画像を何枚か送ったこともある。水着写真を広報に使用するのもあれだが、遊んでいる場面は春狩に送ろうか相談していたため了承を得ている。その写真がアルバムに載るのかは不明瞭だが、可能性はあるかもしれない。

 

「それは俺たちも言われたなぁ」

 

「ああ、俺もクラスメイトと遊びに行ったら写真を欲しいと言われた」

 

 やはり、二人も知っていたようだ。

 俺が送るのは無理な話なので、そのことを伝える。未練さが肩に乗っているが、しょうがないと納得してくれた。

 

「わかった、諦めるとすらぁ」

 

「春狩次第だな」

 

「まあ、春狩ならば水着はともかく良いアルバムを作ってくれるだろう」

 

 少し脱線した気もするが、そう締め括って終わりにした。

 ゴールは既に元あった位置に戻している。グラウンドの方を見ると俺たち以外は集まっており、解散の準備をしていた。

 

「ま、楽しかったかどうかくらいは聞かせてくれよな!」

 

「夏休み、男子会みたいのをやるのも良いかもしれん」

 

「わかった。そのときは俺も誘ってくれ」

 

 

 

 

 夕陽と入道雲へ、今年初めての蝉が啼いた。

 それは恰も、一学期の終わりを告げる、夏休みへ向けての——前触れだったのかも知れない。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 感傷に浸るほどの繊細な心は持ち合わせていないと自覚がある。それでもやはり、学園生活を一学期過ごしたということに妙な満足感を持っていた。

 

「ここも見慣れたものだな」

 

 獅子ヶ池の畔を歩き、旧講堂に辿り着く。棚に靴を放り込んで中に入った。

 先に行った二人は、既に袴着に着替え終わっているだろう。グラウンドから会って二十分程は経過していた。

 舞台を見て右側にある部室の扉を引く。

 

「む——」

 

「へ……」

 

「あ……」

 

 中に入ろうと一歩踏むと、未だ下着姿の二人と視線が交差する。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 沖田さんは手前側の椅子で着替えていた。

 椅子に架けられたスカートが、扉を空けたが為に吹いた風によって台座の部分に滑り落ちてく。唖然とした瞳で、桃色の下着が見えるシャツのボタンを止めていた指を静止させていた。

 対して、武蔵は極めて正常に努めようとしているが唇が波打つようにもごもごとしている。体操服を上だけ脱いだ半裸姿のまま茜色の下着がここに来るまでに見ていた夕陽を想起させた。

 

「――すまない」

 

 この間、数える数字もない。

 瞬時に状況を把握した俺は、予め定められていたかのような動きで背後に顔を向け扉を閉めた。

 

「……」

 

 ああ、きっと俺がすべて悪い。

 せめてノックでも、と普段しない行動ではあるが後悔する。

 乙女の柔肌を見た時点で男が悪いのである。

 

「――参った」

 

 その言葉が一体、どういう意味を持っていたのかはわからない。

 こういうときはどうすれば良いのかと、妹から借りて読んだ漫画を思い出し、俺はそっと瞳を閉じた。

 

 今日の鍛錬は、間違いなく一人対二人の内容である。

 

 

 




 世間では春休みですが、夏休み編突入です。
 骨組みの方はできていますがゆえ、いきなり連続投稿が来ると思われますのでよろしくお願いします。
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