失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

3 / 36
三刀目!

 ホームルームの終わりはチャイムが鳴るとともに合図された。担任である尾鷲先生は最後にもう一度「やることはやって遊び、限度よくやること」と、高校生になってからの責任を説いてくれた。中学のときはわからないが、良い先生すぎやしないだろうか。

 

「終わって参上沖田さん!」

 

「お早い登場なようで」

 

「ふふん、何事も早さが肝心。天然理心に翳りはありません」

 

「どこで流派の長所を出してるんだ、それ。ここで言うことじゃないだろ」

 

「な、なんですと」

 

「――私も帰り支度が終わったよー。三人でどこかに行く?」

 

 右斜め後ろに席がある武蔵も来たようで、朝と同じように三人が揃った。俺が言うのもなんだが、二人は些かキャラが濃すぎではないだろうか。帯刀許可者な時点で一般人を逸してるが、それに比べこのノリ……只者ではない。

 

「もうすぐお昼ですし、駅の方に行ってご飯でもどうですか?」

 

「あ、いいねそれ。私おうどんに一票」

 

「昼、かぁ。確かにそんな時間だな。俺も賛成だ」

 

「じゃ、武蔵のうどんはともかく歩きながらなに食べに行くか決めますか」

 

 沖田さんの一声でそれが決まり、俺たちは駅の方にお昼ご飯を食べに行くこととなった。入学初日に女子二人とお昼ご飯。なかなかの進展ではなかろうか、母親よ。一体どこへ向かって進展しているのかはわからないが……。

 

「しゅっぱーつ」

 

「ですです」

 

「おー」

 

 武蔵、沖田さん、俺と並んで教室の入り口へと向かう。やがて引き戸に手をかけた武蔵を止めたのは今朝初めて話した「室蘭いぶり」、室蘭であった。

 

「ちょっと待ったー武蔵ちゃんに沖田さん、そしてケンケン!」

 

「け、ケンケンっ……」

 

 初めて呼ばれたあだ名に思はず復唱してしまう。真面に学校に行っていた小学校はそんなことはなく、ただ剣城と呼ばれるだけであったのだ。新鮮味溢れるあだ名呼びは学校を楽しみにしていた俺にとって心湧かせるものだった。

 

「そっ、剣城剣心クン。上と下の‟ケンケン”から取ってケンケン! 我ながらナイスネーム」

 

 チェック風にした指を顎に当てた室蘭は丸っこい目をウィンクしながら言った。

 

「で、ね――」

 

と、これから俺のあだ名について話題が膨れると思いきや颯爽と流されると本来の話に入って行く。

 

「実はね、明日の晩ご飯はクラスのみんなで食べないかって話になってて。明日朝いきなり言われても仕方ないだろうから、今日のうちに言っとこーって」

 

「ほんと、私そういうの行きたいと思ってたんだ! 今までお父さんと二人三脚の毎日だったから嬉しいや」

 

「わかりました。では明日の夜は開けておきますとも」

 

 武蔵と沖田さんが了承すると、俺はどうしようかなと思案する。特に予定はなく、また予定が入るのも無いだろう。

 

「じゃ、みんなに私たち三人も行くって言っといて」

 

 返事を返す前に武蔵に俺も行くと言われてしまった。ま、そのつもりだったから構わない。

 

「うん。なら――赤外線ビーム!」

 

 室蘭は胸元ポケットからスマートフォンを取り出すと、最近流行っている連絡アプリ「ROPE」を開いてこちらに見せた。赤外線ではなくバーコードリーダーなのだが、赤外線と言ったの彼女なりの冗談なのだろう。俺も乗じてスマホを取って、最近妹に指示されて入れたROPEでそれを読み取った。

 

 室蘭いぶりさんが友人に追加されました

 

 画面に表示されたOKを押すと、また追加メッセージが来た。

 

 宮本武蔵さんが友人に追加されました

 沖田総司さんが友人に追加されました

 

「ふ、ふ、ふ。隙あり、ですよケンケン」

 

 勢いのままOKを押してしまった。くっ、これでは負けたみたいではないか。が、

 

「なに、こっちにも剣心君の連絡先の追加メッセージが」

 

「沖田さんはともかく、武蔵にまでは遅れはとらない」

 

「くっ、この借りはいずれ必ず……!」

 

 悔しがる武蔵を横目に、室蘭の方を見るとスマホの画面を操作している。ポン、とスマホが鳴る

 

「2- B(28)」のグループに招待されました

 

 と表示されてそのまま入った。

 

「一応、今日の夜にはどこに食べに行くか連絡するから見ておいてね。今のところ新都(しんと)の食べ放題な感じだから」

 

「わかった」

 

「了解です」

 

「はいよー」

 

 室蘭は「また明日」と手を振ると教室の中心へと戻っていった。男女合わさったグループができているようで、輪に加わると楽しそうに会話している。

 

「私たちも行こっか」

 

「ですね」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 私立星詠学園高等学校は山の中にある。

 

 東西には 甲六山(きのえろくざん) と呼ばれる合戦の歴史が残る霊山、少し西に寄った南には第二次世界大戦のおり戦闘機の演習場に使用され岸壁がむき出しとなった渓谷、 獅子ヶ岩(ししがいわ) が存在する。そこから少し東へ進むと 猪ヶ池(いのししがいけ) に繋がり、獅子ヶ岩と猪ヶ池の間が道路になって、南の新都へ繋がる唯一の道だ。

 しかし、山の中と言っても砂地の地面が続いているとかではなく当然開拓されたのだ。コンクリートに舗装された道は都会に比べれば少ないが、商店もそれに寄って接しているため交通の便が良いと言えば良い。よく母親が電動自転車一つで済むと零していたのを思い出す。大型スーパーと、ホームセンターだけなのが玉に瑕である。

 

「いやぁ、良い天気ですね」

 

「小春日和、なのか」

 

「小春日和は秋の季節言葉だから今の時期は違うよ」

 

 武蔵に間違いを指摘されつつ落ちた枝を踏みしめながら駅へと歩く。どんぐり大の石が敷き詰められた黒い歩道はどこか歩きにくい。そのまま山をくり抜いたような道路と歩道は自転車であればがたがたとお尻にダメージが入るに違いない。

 

「む……」

 

 さて。お尻、と言えば沖田さんと武蔵である。ああいや、別に直接二人のお尻に関係するわけではない。もちろんグレー色のスカートの中にあるお尻は気になるのかと問われれば、将来の結婚相手は誰か教えてやろうと聞かれるくらいの早さで「はい」と返事をする。いやむしろ――

 

「んん、お腹が空いたな」

 

 我が心は剣に寄って、剣にある。愚考に気をやる暇があるならば、すべては鞘に収めるべきであろう。やがて辿り着こうとするそこは生半可な気持ちでは至れない。

 頭を振って邪な気持ちを払った。

 

「なんかこう、がっつりしたものが食べたいですね」

 

「牛丼、豚丼……。カツとかも良いかもしれない」

 

「う(どん)

 

 はいはい、と沖田さんと二人で武蔵を流しつつ、駅に着くまでの間なにを食べるか議論する。

 ちなみに駅は新都に続く道路とは逆の北にある。学園からは歩いて40分ほど、自転車で15分だ。駅を使っている学生は歩いてくるか、学校から貸し出している自転車をその間のみ使用している。駅には学園専用の駐輪場もある。二人は自転車が無いようなので、駅は利用していないのかもしれない。

 

「――二人とも、初めて会ったような気がしないのよね」

 

 少し街に差し掛かった頃、武蔵が笑いながら言った。

 

「剣心もお国巡りなんかしてて、沖田も小さい頃から道場で学んできた。私もそんな感じだからさ、いまいち学校とか行っても馴染めないと思ってたの」

 

 気恥ずかしそうに、頰を掻きながら彼女は続ける。

 

「でも、まさか二人も私と同じ帯刀許可者がいると来た、そして強者と見た。二人がいてくれて良かったよ」

 

 帯刀許可者は尊敬されると共にどこか人と乖離しているイメージを抱かれる。国に認められ、刃物を持つことが許可された存在。刃引きされているとは言え武器を持っているのだ。どこか浮いた感情で接せられるのは想像に容易い。

 

「一緒です、武蔵さん」

 

「まあ、俺も同じだな」

 

 暖かい風がブレザーを揺らした。春の陽気が鼻腔を突くと瞼が垂れそうになる。気合いと力押しで欠伸を殺すと頷いた。

 

「ほんと、二人がいて良かったよ」

 

 俺はコミュニケーションに自信がない部類の人間なのだ。よく「俺から◯◯を取ったらなにが残るんだよ!」みたいなシーンがあるがまさにそれなのだ。俺から剣を取ってしまえば残るものは変態思考と少しガタイの良い目つきの悪い男だけだ。前者、剣という特徴があれば学校の友人(・・)は興味本位からできるだろうがそれ以上の関係は成り立たない。やはり、類は友を呼ぶと古人が言うように蛇の道は蛇なのだ。

 

「やっぱみんな同じなんだね」

 

「ま、俺たちの年齢で帯刀許可された者なんて、遡っても少ないからな」

 

「私も知っているのは、兄さんくらいですね……」

 

 つまり、帯刀許可者などと大層な資格を持ちつつも根はやはり年齢と変わりはない。武蔵なんかは少し浮世離れした感じはあるが、俯瞰的に世の中を眺めていたから知った感覚もあるのだろう。

 かく言う俺も、三年間丸々中学に行ってなかったため内心はらはらだ。表情筋が硬いので表には出ていないはずだが。

 

「まっ――辛気臭くなっちゃったけど、二人に会えて良かったよ!今日出会ったばかりだけど、なんだか沖田と剣心くんとは竹馬の友になれそう!改めて、よろしく!」

 

「よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

 花の色が美しい季節になった。春風は鮮やかな桃色と香りを乗せて三人を抜けていく。期せずして集った剣士。一つの場所に集まるにはあまりにも目立つ者たちで、話題を呼んでしまう。だが、世に起すことに意味の無いものは存在しない。きっと彼、彼女らが集まったのもなにか意味のあるものなのだろう。

 

「――あ、おうどん屋さん!」

 

「――丼物もあるみたいですよ!」

 

「――あそこで決まり、だな」

 

 三者三様、少し個性的すぎるのが仇なのかもしれない。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「では、三人に提案してみるかい?」

 

「ええ。当学園には''剣術部''もありますが、帯刀許可者たる者が邁進できるほど名の知れたものではありません。むしろ、日本全国探しても……下品かもしれませんが人外(・・)と称される彼らを伸ばすことのできる組織は教育機関には無いでしょう」

 

「ふむ、その言い方は君の通り今後慎むように。彼らは帯刀許可者であり我が国の誇り、人間国宝に等しい子たちだ。それでも人の枠から外れることはない。私の学園の、可愛い生徒だからね」

 

「失礼しました――山城学園長」

 

 銀縁眼鏡をかけた女性が、執務室と思われる机に座る初老の男性に頭を下げた。品のある様相は、先に自ら下品と前打ち発したとは思えはないほどである。

 山城学園長は並べた書類三枚、右から——剣城剣心、沖田総司、宮本武蔵の生徒プロフィールを見ている。

 

「一人は中学へ卒業時の証書を貰うためだけにしか行かず、およそ義務教育をまともに受けてはいない。

 一人は世に有名な道場の娘。先方からは一通り教育はしているが失礼があれば厳しく指導して欲しいと来ているな。

 そして、最後はかの世界的に知られる二天一流の担い手。こちらも剣城学生と同じような経歴だが、異色と見て良いだろう」

 

「我が学園きっての生徒なのは間違いありません」

 

「だろう? やはりいるものだな。原石、いや、すでに宝石か。ただの書類でしか見れぬ者は今の世の中必要ない」

 

「実力主義、というわけですね」

 

「ああ。こうやって、当日の試験だけで測る学園も一つくらいはあっても良い。出席はどうなるかわからないが、それはこれからの話。なにはともあれ、良い影響を与え、彼ら自身も受けてくれると幸いだ」

 

「きっと良い結果をもたらしてくれるでしょう」

 

「たしか、三人の担当は尾鷲先生でしたね。彼女にも話を通し、彼らに回るようにお願いします」

 

「把握しました。この後すぐ連絡しておきます」

 

 女性は一礼をして部屋を出た。木製独特の開閉音を立てると山城学園長だけになる。

机の書類三枚を丁寧に重ねて引き出しへとしまう。身を覆うサイズの椅子へ背中を凭れると一息吐いた。

 

「……今年も面白い学園になりそうだ」

 

 

 




・山城学園長

別に悪い人とかそんなんじゃない。ただ現代の評価法について疑問を持ち、自身の資産で学校をたてた。
元々政治家で、良家の出。ヒゲを伸ばした好々爺。イベントとか祭りが好き。

・私立星詠学園高等学校

日本で唯一、当日試験のみで合否が下される特殊な学園。
試験は数学や国語、基本教科もあるが倫理や人間学といった高校授業では修学しない分野も含む。基礎教科の点数が低くとも、あらゆる分野に精通した学園なため特殊分野が高ければ将来の社会貢献を期待されて入学が可能となる。過去に犯罪歴が無ければほとんどの人が入学可。
高校なため、もちろん推薦も存在する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。