失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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 プロローグのため、短めです。






四章
三十刀目!


 朝、起きて鑿を差し。

 昼、食べて玄翁を振るう。

 夜、意識を失うまで木粉に埋もれた。

 

 男は――余所の一人近付かぬ場所で、自身の求め得るすべてを造っていた。

 瞼の裏に焼き付くは、一度見たあの剣豪。

 

 そして剣豪に――無常を垣間見た。

 

 ただ一つ、あれを自身の手で。

 一心不乱に男は常住に彷徨い続ける。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「暑いな」

 

「暑いですね」

 

「うん、暑い」

 

 新都中心地、丸ノ宮――待ち合わせによく使われるリンゴ山――とは言うが、実際には繁華街の中にある小さな石造りの空間――で俺、沖田さん、武蔵は少々項垂れていた。

 地面から生えた林檎の上半部を模したであろう石のオブジェに背中合わせになりながら、口を開く。

 

「今日は晴れのち曇り。この時間帯だと絶対曇りだと思ったんですがね」

 

「まあ、仕方ない。今日は爛々とした天道を拝めただけ幸運だったと思おう。ほら、入道雲の中に何か潜んでいそうだぞ」

 

「どうせなら龍とかいないかな。斬れるか試してみたい」

 

「ぶ、物騒な……」

 

 夏休みに入ってまだ初週。俺たちは新都に降りて、八月頭にある合宿の準備と称して買い物へ訪れていた。とは言うものの、実際のところ必要なものは特になく、今日の目的はもっぱら試験最終日に二人と約束した水着を買うためであった。

娯楽を楽しむつもりなのでいつも腰に下げている刀は三人とも置いてきており、ラフな格好をしている。何となく違和感があるのは剣士の性だ。

 

「さて、休憩もそろそろにしてお店に行きましょう」

 

「センター街のお店だよね? 地図ないと迷っちゃいそう」

 

「何となく場所はわかってるので、沖田さんについてきてもらえば安心ですよ!」

 

「それは大丈夫じゃないときに言う言葉じゃないか」

 

 適当に言葉を交わしながら立ち上がる。

沖田さんによるとセンター街の中なので、歩いて三分もかからない。

休日であるためか、俺たちと同じような買い物客が多く、人を避けながら進んでいく。

 

「ちょ、見て! 都うどん!」

 

 駅前によくあるうどん専門店を見て武蔵がはしゃいでいる。絶対にはしゃぐような店ではないと思うのだが……。どうせなら手前にある年紀の入った西洋建築物とかにしてほしい。

 

「わかったから、落ち着け」

 

 袖を引っ張る腕を掴んで前を歩く沖田さんに寄って行く。

 彼女はその気配にもちろん気付くわけだが、心なしか早足になっていた。

 そんな武蔵を引きずりつつ、センター街の建物に入る。ショッピングモールのようになった内部はいくつもの店が並んでいた。

 

「地図があるぞ」

 

「あ、本当ですね。先に確認しておきましょう」

 

 水着、屋? だろうか。俺にはまったく分からない。合宿では水着を使うと聞き、俺も家のものを探したのだが残念なことに小学生低学年用のみでサイズが合わなかった。さすがにそれで行けば変態の烙印を押されることは間違いないので、俺もついでに買うつもりだ。

 沖田さんが細い指を差しながら店舗の場所を確認している。

 水着ショップ『Sea-k Pine』――ずいぶんと小洒落た名前である。

 そのままエスカレーターに乗って三階を目指す。

 

「どんな水着を買おうかなぁ。いまいち流行とかが分からないんだよね」

 

「今年だとパレオが巻かれたものですかね? 私も見識が深くないので、雑誌で読んだくらいなのですが……」

 

「だよね……」

 

 と、こちらを見てくる二人。

 

「待て、俺は本当にそういうミーハーなものは分からないぞっ」

 

「いや、でも唯一の男の子なんだから意見くらいは聞いておかないと」

 

「私たちの水着を見れる唯一の男子かもしれないんですよ!」

 

 二人は冗談交じりに言ってくる。

 唯一と言われると惹かれるものはある……く、唯一か。

最近、二人は純朴そうな雰囲気を一変して、今のように揶揄ってくることがある。日常のギャップからおくびには出さないもののこちらはこうして焦らされること度々である。しかし、言葉尻は僅かに上がったりしてしまうため、それを耳聡く拾って二人は追撃を加えてくるのだ。

 これも全て、あの日に二人の肌を見てしまったこと(・・・・・・・・・・・・・)が原因なのだろう……。 

 沖田さんと武蔵は私たちの不注意だと言ってくれたものの、嫁入り前の柔肌を見たのならばこちらが全て悪い。こうして弄ばれようが、降参の意を示して手を上げ続けるだけなのだ。

 

「とにかく剣心くんも私たちに似合う水着を選んでくださいね!」

 

「うんうん、良いのを選んでくれたらそれにしようかな」

 

 このときの俺は目的地である水着ショップが――――女性専門店だとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 




・『Sea-k Pine』
 sea…海。
 +k=シーク=seek=求める
 pine=パイン=パイナップル=南国や海などを象徴とさせる。おっぱい。

 たぶん自分が書いてきた中で一番切れてる言い回しだと思いましたね。

 プロローグともいえるものが終わり、ようやく本編といえる各章に突入しました。
 当二次小説の世界感が伝わってくださるとありがたいです。


 ちなみに、武蔵ちゃんの水着はあの変なやつじゃありません、はい。



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