失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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三十一刀目!

 

 五日分の着替えと適当な洗面用具。あいにくとスーツケース的なものを持ち合わせていなかったため、ボストンバックで持っていくものは精査しなければならない。無人島の宿泊先には洗濯機が設置されているようで保険をかける必要がないのが救いか。なぜ洗濯機のような、無人島にも関わらずそういったものが置かれているのかは疑問であるが。

 

「お兄、せっかくだし何かお土産お願いね」

 

「ああ、わかった」

 

 そう言われるが行き先は無人島だ。確実に土産屋はないと思われる。道中、道の駅などあれば良いのだが……。

 刀は前日に研ぎ、解体して問題がないか確認している。点検道具も優先して荷物に入れており、向こうで何かあっても対処できるだろう。

 帯刀許可を持つ彼女たちとの一週間の鍛錬、必ず実りあるものになるはずだ。

 

「よし――」

 

 呟くように喝を入れ、靴紐を強く結ぶ。

 一応、部活動の範疇ということもあり生き帰りの道中のみ服装は制服だ。無人島に到着次第、袴着かラフな格好になる予定で、靴も部活動中に履いている下駄を持っていく。

 

「行ってくる」

 

「いってらっしゃーい」

 

 見送りは妹のみ。両親二人は仕事と用事があるため家にはいない。一週間、心配な気持ちもあるが国巡りで俺がいなかったのは数年もあるので杞憂だろう。

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「――すまない、遅れた」

 

 星詠学園正門にて沖田さんと武蔵の二人、そして夏であるのも関わらず黒いパンツスーツで決めた学年主任兼真剣術部の顧問たる高岡先生がいた。

 

「時間通りだから大丈夫ですよ」

 

「まだ五分前だしね」

 

「そうか……高岡先生、おはようございます」

 

「おはようございます、剣城君。二人にも聞きましたが忘れ物はないですか?」

 

「ええ、前日の今朝にも確認してきたので大丈夫だと思います」

 

 高岡先生は頷くと、続ける。

 

「わかりました。

 定刻通り、10時には三人とも揃っていますね……では、少し早いですが車を回してきます。そのままお待ちを」

 

 銀淵眼鏡をくいっと上げると、高岡先生は学園に入っていった。

 今日は高岡先生が新都より南にある港へと車で送ってくれることとなっている。港に着き次第瀬戸内海の有人島を目指してフェリーへ乗り換え、そこから島民によって無人島に案内される予定だ。

 

 高岡先生がここにいるのは、新都より南にある港まで車で送ってくれるためである。

 無人島までの道のりとして、港に到着してからは瀬戸内海の有人島にフェリーで向かい、有人島からそのまま滞在することなく無人島に向かって島民の漁船で移動することになる。

 これを沖田さん一人で準備したのだから、任せきりになってしまって悪いというか、彼女の唐突な行動力には驚いてしまう。

 数分もすると高岡先生が乗った車がやってくる。車種は詳しく分からない。ただ、Hマークからホンダ製なのは確かだろう。生真面目な雰囲気を持つ高岡先生だが、このような群青色のスポーティな車に乗っているとは思わなかった。

 

「後ろを開けるので荷物はそちらへどうぞ」

 

 荷物をトランクに載せて、俺たちは車に乗る。

 助手席に沖田さん、後ろに俺と武蔵だ。

 高岡先生が左手でギアを倒すと重音とともに車が振動し、前後から車がきていないことを確認すると発車した。

 

 

 

 

 

 出発して数十分、雑談を交わしていた俺たちだが、会話の途切れた合間を縫って高岡先生が口を開いた。

 

「――そういえば、今回あなたたちが合宿に使用する無人島について知っていますか?」

 

「島について?」

 

「ええ」

 

 無人島に行くとは聞いていたが、思えば名前は知らなかった。部活関連の提出物は沖田さんが取り仕切っており、両親に説明したときも「楽しんでこい」の一言でそれ以上は聞かれなかったのだ。妹ととも話したが、結局何をして遊ぶべきかなど、歳相応なものばかりである。

 いや、そも無人島に名前などあるのだろうか……?

 

「今回、『柄ノ島』という有人島を経由してあなたたちは無人島に行きますが……柄ノ島がどういう場所か知っていますか?」

 

 沖田さんが答える。

 

「パンフレットもある観光地ですよね? 最近、柄ノ島町長が変わって一気に活性化したと聞きました。何やら日本では希少価値の高い海洋生物やイルカの群れが見えるとか何やら」

 

 観光地ならば、そっちに合宿をすればよかったのではないだろうか。それに、生のイルカを見てみたいという気持ちはある。

 言おうか迷っていると、隣にいた武蔵がバックミラーで沖田さんに見えない位置で唇に人差し指を当てていた。

 ……まあ、他人がいない環境の方が周囲を気にせず動けるために都合が良い。うん。

 

「柄ノ島から西に数キロ、住人のいない『繰島(くるしま)』が合宿先の無人島になります」

 

「沖田、知ってた?」

 

「もちろん。

 流派の門下生に、柄ノ島町長の親戚筋の方がいて、今回はその伝手で頼んだんですよ。二一世紀以前から人の手が入っていない島なようで鍛錬には持ってこいだと」

 

「……なるほど、沖田さんはそれで繰島を知っていたのですか。

 私の方もあなたたちが滞在すると聞き、事前に調べたのですが……あまり情報がありませんでした。

 柄ノ島の区役所に尋ねたところ、そちらも最低限の地方史だけで具体的なことは……」

 

 他の部活動より自由度の高い真剣術部だが、最低限の確認や保証は当然存在する。たとえ帯刀許可者であろうと、不測の事態を避けるために高岡先生は確認をしたのだろう。

 

「とはいえ、柄ノ島自体は非常に風光明媚な観光地です。繰島も同じように都会の騒がしさを忘れられるような場所だと良いですね」

 

「高岡先生は柄ノ島に行ったことがあるんですか?」

 

「去年の慰安旅行が柄ノ島だったのです。瀬戸内海にあるため、蒸し暑いかと思いましたが、高い建物がなく、海風が通る地形なため心地の良い場所でした」

 

「なるほど……」

 

「ですので、沖田さんが合宿先に柄ノ島から向かう繰島を提示して来たときは少し不可解に思いました。そんな環境があるならば、柄ノ島だけではなく、繰島も話題になっているはずなので」

 

 たしかに、柄ノ島が観光地として有名ならば繰島も活用されているはずだ。観光地にもいくつか種類があり、人工物を目的とした観光地ならば柄ノ島だけが注目されるのも分かるが、柄ノ島は自然や海洋生物の観察に湧いている場所だ。宿泊施設や、それに伴ったキャンプ体験を考えると開拓され、同様に話題になっていてもおかしくはない。

 

「帯刀許可者であるあなたたちに早々危険なことはないと思われますが、体調を崩したり、何か問題があれば直ぐに連絡をして下さい。

 私も本島から直ぐに向かいますので」

 

「分かりました。二人のことは責任を持って私が面倒を見ますので、お任せください!」

 

 ぽん、と豊かな膨らみを避けて胸を叩いた沖田さんに、苦笑いをしながら高岡先生は言う。

 

「正直、初年度からいきなり一週間の無人島合宿を申請してきた沖田さんが一番私的に注意して欲しいのですが……まあ、そこはお二人が上手く止めてくれると信用しましょう」

 

「ぇっ、どういうことですかそれはっ!

 沖田さんが一番の問題児みたいになってるじゃないですか!」

 

「剣城君。あなたは国巡りをしていたとき、野宿やキャンプをしていたと聞きましたが大丈夫ですか?」

 

「向こうにはロッジもあると聞きます。本格的な野営にはならないと思うので問題はないでしょう。それに、有毒生物の身分けは概ね付くつもりなので、変なものを食べようとしていればすぐに止めます……沖田さんを」

 

「――ちょっと!」

 

「私も一応山育ちだから、食べれるものとそうじゃないものくらいは区別できるよ?」

 

「む、武蔵さんまで……」

 

 いつの間にか味方のいなくなっていた沖田さんが、涙ぐましく俺と武蔵を見てくる。

 合宿はかまわないのだが、まさかの一週間とサプライズにするには如何せん長い期間だった些細な意趣返しだ。

 

「その様子だと問題はなさそうですね――――おや、海が見えてきました」

 

「おおっ、おお! 遂にここから私たちの無人島合宿が始まるんですね! くぅ〜、青春ですよっ!」

 

 テンションの上がった沖田さんはダッシュボードに手を当てて身を乗り出している。

 

「危ないぞ」

 

 襟を軽く掴んで元に戻す。

 高岡先生の言う通り、一番見ておかなければならないのは沖田さんかもしれない。

 有料道路を抜けると新都の中を進み、途中、人気の多い中華街を通り過ぎる。新都のシンボルたるや赤いハーバータワーが姿を見せているフェリーや貨物船が出入りする、ここ——ポートランド周辺は瀬戸内海の中心的な港湾だ。

 

「……」

 

 張りが生まれているのは俺も同じで、少し浮ついてしまう。視界に映る海は想像以上に輝しく見えた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 今話しは少し短めですが、次話からはまた元の文字数に戻ります。
 
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