失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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 連続投稿でございます。
 


三十四刀目!

「意外と道は整っていますね」

 

「ああ。たしか、元々繰島にも人が住んでいたんだったな?」

 

 おそらく、この島の中心に向かって伸びているであろう道のようなものもその名残だろう。足の感触からただ樹々を切り開いただけではなく、掘り返して砂利でも入れているのか草木は殆どない。人間の使わなくなった道はそのまま獣たちの道として活用されるので、ヤギや野ウサギの移動ついでに食べられてるのかもしれない。

 

「第三次世界大戦時中までは住んでいたようですよ」

 

 俺と沖田さんは釣り竿を掲げた武蔵を見送ったあと、二人で森へと入っていた。右手にはビニール袋を持ち、中には野草を入れる予定である。一応、獲物を縛るための縄はロッジから持ってきているが、果たして使うことになるのか。

 刀は置いてきており、代わりにマチェットを提げていた。

 獲物を狩る際、虎やライオンでなければ俺も沖田さんも十分素手で対処可能だ。罠を仕掛けなくとも、森の中での気配察知は国巡り時代、師匠に嫌と言うほどやらされたのである意味お手の物だろう。場所さえ沖田さんに伝えれば健脚を生かして回り込んでくれるはずだ。

 

「――あ」

 

 と、いざという時のことを考えていると素晴らしいものが目に入る。

 

「どうしました?」

 

 声を漏らした俺に沖田さんも止まってこちらを見てくる。

 

「こっちに来てみると良い」

 

 小首を傾げながら近づいてくる沖田さんに手招きをして、俺が立っていた場所にいてもらう。

 どうやら、まだ気が付かないようだ。

 背後に立ち、見易いように指を差す。

 

「あそこに美味しいものがあるぞ」

 

「ん? 一体どこに……」

 

「あそこの木に生えたキノコじゃないぞ。二股に分かれた、細い木の根元あたりを見ると」

 

「細い木、ですか? 細い木、根元…………あ! あれはまさか!」

 

「ああ――筍だな」

 

「やりましたね、剣心くん! 大収穫ですよ!」

 

 微妙に時期はずれているが、筍は煮ても焼いても美味しいので夕飯の大皿に乗せることが出来るだろう。山菜、魚と煮込み料理をしても良い。

 

「早く取りに行きましょう!」

 

 差していた指ごと沖田さんの手のひらに握られて筍に走り寄って行く。刀を振るっているとは思えないほどの柔らかさだ。あー、役得。

 

「筍の掘り方は知っているか?」

 

「ふふん、任せてくださいよ。これでも私、天然理心流の門下生の中でも筍を掘るのは達人級なんですよ」

 

 ならばと、ポケットに詰めていた軍手を沖田さんに渡す。これもロッジに置いてあったものだ。

 

「見ていてくださいよ」

 

 そう言っては沖田さんはしゃがみ込み、軍手をする。少し大きいようだが掘るくらいなら問題ないだろう。僅かに水分を含んだ土は栄養価が高いのか黒く、沖田さんの指でも簡単に掘り返された。本当はクワやスコップで筍を傷付けないように掘って、根っこが見えてきた時点で一気に掘り返すのだが素手でもいけるだろうか?

 

「むむ、中々下に長い筍ですよ」

 

「手伝おうか?」

 

「いえ、まだ私とこの子の戦いは終わっていません。ここからが必殺技の使い時……!」

 

 既に二十センチ近くは掘っている。それでも赤色の部分は見えていないので、中々強情な筍だ。

 

「ふんぬっ、ふんぬっ!」

 

 それから五センチほど掘るとようやく根っこが見えてきた。しかし、よく考えると反対方向も同じように穴を掘らなければならないのではないだろうか? 上から無理やり抜いてしまうと確実に折れてしまう。

 

「マチェットは使えるか……」

 

「取り敢えず掘りましたがどうやって抜くのか失念していました」

 

 それでもちょっとドヤ顔なのは何故だろう。眩しい達成感はやめてもらえないだろうか。どうやって抜くか考えるも反対方向は木の根になっているため、同じように掘ることは不可能だ。植物の根は人間が思っているより深く、強固なもの。時にコンクリートすら突き破ってくる強靭な生命力はさすが太古の生存競争を生き抜いてきただけあると感嘆するばかりである。

 

「よし、交代だ」

 

「どうするんですか?」

 

 沖田さんから軍手を貰う。

 

「こちらから裏側へ手を回して、折れないように抜いてしまおう。土が柔らかいから恐らくいけるはずだ」

 

「よし、ではその作戦で行きましょう! ……と、手持無沙汰なのも申し訳ないので、私は周辺の散策をしてきますね」

 

「ああ、頼んだ。俺も無事採れたらそちらに向かう」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「――よし」

 

 立派な、少し熟し過ぎもするが筍が採れた俺は自然とそんな言葉を口にしていた。

 

「とりあえずこれがあれば見栄えは完璧だな」

 

 武蔵が釣ってくるであろう魚幾匹かと、沖田さんが今探している山菜。もしくはこれから見つける山菜も合わせれば立派な食事が出来る。白身魚があれば簡単に作ることの出来る山菜蒸しなども良いだろう。

 一先ず、別れた沖田さんを探さなければならない。

 何となく気配は捉えているのですぐに見つかるはずだ。

 

「ふむ……」

 

 それにしても、この島はどうやら結構人の手が入っているようだ。戦前は人が住んでいたこともあり、その名残なのだろうが家屋の基礎跡などが散見される。最も、それも殆ど自然に覆われ一年も経てば見えなくなるだろうといったところ。人工物が自然物に還る霊妙な雰囲気に踏み入ってはいけないような感覚に襲われた。

 師匠と国巡りをしていた頃、自然――という人の感覚で語れぬモノについて多く学んだ。それは山奥に放置されたり、谷から落とされたり、飛騨山脈に潜むとんでもない大きな化け狒々と戦わされたりと色々理由はあるのだが、本当に怖いものは理解の出来ぬ漠然としたものだという考えを植え付けるためだったと帯刀許可証を貰った日に聞いた。

 自然の掟を侵すほど、怖いものはない――。

 そして、その自然が今、この島では意志を持って覆おうとしているのだ……とはいえ、別にそこまで意識することはない。要するに無駄に枝を折ったり、汚すな、ということだ。この島も開発候補地と言っていたのでそのうち自然と人の共存する場所になるのだろう。

 そんなことを考えながら足を進め、沖田さんの気配が近くなっていく。

 

「沖田さん」

 

 主道とも言えるのか、この森に入った道の脇にしゃがみ込んで何やら唸っている。

 

「うーん……あ、剣心くん」

 

「無事に筍は採れたぞ。何かあったのか?」

 

「いえ、実は……」

 

 沖田さんの視線の先、即ち地面なのだがそこを見ているようだ。

 

「山菜を探しているとこんなものがありまして」

 

 溝があった。

 ただの溝である。

 しかし、違和感を持つ溝だ。

 主道を横切るように真っすぐ引かれた溝は何かの印のように奥から奥へと続いている。深さは人差し指の第一関節に届くほどで、偶然風に吹かれて出来たとは思えない。ただ、人間によるものだとしてもただの道端にこんなことをして何の意味があるのか。

 

「一体何の跡だと思いますか?」

 

 可愛らしく上目遣いで問うて来る沖田さんに口を開く。

 

「動物だ。それも体重のある、猪の群れがここの道を頻繁に行き交いしているのだろう」

 

「猪ですか? こんな風になるんですか?」

 

「特に猪の歩く道はこうなることが多い。この道のように開けた場所を猪が歩く場合、警戒も兼ねて同じ道を歩くんだ。群れの猪は先頭のボスを追ってまったく同じ線を辿る」

 

「だんだん地面が削られてこうなる、と」

 

「まさに獣道だな」

 

「へぇー、少し博識になりました」

 

 沖田さんはここからここ、といった風に指を伸ばして線をなぞっている。

 

「む――」

 

 そんな姿を眺めつつ、俺はあることに気付いた。

 

「沖田さん。少し待っていてくれ」

 

「ここでですか?」

 

「ああ。すぐに戻ってくる」

 

 俺の捉えた匂いが確かなら確実にあるはずだ。

 沖田さんには少し待ってもらい、その溝へ沿って森に入る。先は二メートルに満たない急斜面になっており、落ち葉で滑る可能性もあるため飛び降りるようにして跨ぐ。枯れ枝などを踏み鳴らして進むとすぐに目的地が見えてきた。

 

「この広さと深さなら泳げそうだ。水も……問題ない」

 

 樹々の天井に囲まれながらも中心は陽の光が差し込んだ十メートル四方の沢は魚の影が見える。岩場は苔が生えた部分とそうではない部分があり、休憩場としても活用できるだろう。海で泳ぐのも良いが、山があるならこうした場所でのんびりと浮かぶのも気持ち良いものだ。

 手拭を浸して顔を洗いたくなったが、すぐに戻ると言った手前沖田さんの下へ向かう。

 

「沖田さん。良いものを見つけたぞ」

 

「もしや二本目の筍――いや、まさかマツタケ!」

 

「違う違う。そこまで上等なものではない」

 

「剣心くんの言う良いものですから、期待しちゃいますよ」

 

 そんなことを言いながら二人で沢を目指す。途中、先ほどの急斜面を通るため俺は先に降りて沖田さんに手を差し出す。

 

「ありがとうございます――えいっ」

 

「――?」

 

 本来ならば別に手を出さなくとも大丈夫な場面だ。沖田さんは特に脚力に優れ、このくらいの高さから無遠慮に飛び降りても何ともないバネを持つ。それでも俺が手を出したのはある意味紳士としてのマナー。「大丈夫です」と返されるか、手を取って着地を手伝うかの二択だ。

 しかし、ここでまさかの三択目が沖田さんによって執行された。

 着地まで二秒間、僅かな刹那に俺の思考は加速している。

 風に揺れる桃色の髪。空気抵抗によって肌に張り付いたシャツが沖田さんの胸を強調させる。僅かに捲れ上がった裾から白い肌が覗いた。

 

「ほっ――と」

 

 形容し難き感触だった。

 言葉には出来ない。しかし答えは今、腕の中にある。帯刀許可者として無駄に鍛えられた認識能力が沖田さんのソレがどうなっているのか容易に想像させた。思わず驚いて差し出していた片腕で強く抱いてしまったのも仕方ないだろう。筍を持っている左手が自由でなかったら両腕でもっととんでもないことになっていたに違いない。

 

「まさか飛び込んでくるとは思わなかった」

 

「あれ、違いました……?」

 

「手を貸すだけのつもりだったな」

 

「えへへ、頼り過ぎちゃいました」

 

「いや、かまわない」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あの」

 

「どうした?」

 

「そろそろ離していただけると……さすがに恥ずかしくなってきたと言いますか……何と言いますか……」

 

「む、すまない。髪に付いた蜘蛛の巣を取ろうかどうか迷っていた」

 

「うぇっ!? 本当ですか! もうっ、早く言ってくださいよぉ。取ってください。お願いしますっ」

 

 「ん」と沖田さんは目を瞑る。

 何だこの状況は……! 誰にも邪魔をされない沢の畔に年頃の男女が二人きり。ましてや沖田さんは俺の腕の中にいる。咄嗟に嘘を吐いてしまったことによって何とか誤魔化せたが、煩悩に支配された俺はもう沖田さんが唇を突き出しているようにしか見えない。今すぐ頭を岩に打ち付けたいが、まずはこの状況を打破するのが先決。いつもより近くの沖田さんをまだまだ堪能したい気もあるが、これ以上は度が過ぎる。

 空也天也宙也――心を落ち着け、優しく沖田さんの髪を払う。時折摘まむような動作も入れ、蜘蛛の巣が無くなったことを告げた。

 

「やはり森の中は油断なりませんね。虫は嫌いではないのですが、身体に付くのはどうしても」

 

 柔らかい感触を失って少し悲しい気がした。

 

「それで、剣心くんの良いものとは――」

 

「すぐに着くぞ」

 

 ひと悶着あったが、無事に沢を沖田さんに見せることが出来た。その風景に沖田さんは顔を綻ばせ、水着は持って行っていなかったが軽く足を入れて二人で遊んでいったのは武蔵に内緒である。まあ、はしゃぎすぎて裾が濡れた沖田さんのズボンで簡単にばれるのだが。

 

 

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