失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
「見てくれ、妹よ。友達が三人も増えた」
家のリビングでスマホを印籠のようにしながら言った。
「お、お兄に初日から友達……だと……」
いつもは眠たげな瞼をぶら下げた妹の女が見開かれている。思いがけないところで新しい表情を見れたわけだが、馬鹿にされているようで素直に喜べない。四年間家族をほっぽり出して放蕩していた俺への罰なのか。
「沖田さんに宮本さん、そして室蘭さん……このアイコンは女……!」
桜に団子、紅葉に温泉、新都のほうで撮ったであろうイルミネーションのアイコン。妹がどこから導き出したのかわからないが当たっている。先日母親が妹はよく友達を家に連れてくると話していたが、ここまでの推理を見せられたら認めざるを得ない。
ぴこんぴこん、と妹が凝視する最中もグループ会話が進んでいるのか音が鳴っている。
「み、見てもいい?」
「うん。構わないぞ」
妹は細長い指で画面を触る。さすがに一人で見るのは申し訳ないと思ったのか、ソファに座っていた俺の横に腰を下ろした。
室蘭いぶり『明日の夜は新都の
ウラル山脈貼ったので各々で確認お願いします』
倉吉伯耆『いぶりちゃん、ありがとう』
篠山丹波『あざっす』
益田いわみ『ありがとー! 絶対行くっ』
千島紗那『さんきゅーべりーまっち』
岩城そうま『お、URLまでわざわざありがと』
「へえ、お兄明日ご飯食べに行くの?」
「ああ。室蘭から直々に誘われてな。どうやら俺たちが必要らしく是非、とのことだ」
少し胸を張った。誇張した気もするが間違いではないので良いだろう。
「いや、クラスだし数合わせだと思うけど……それに帯刀許可の話を聞きたいのもあると思うけど」
「む、それだが沖田さんと武蔵も俺と同じ帯刀許可だぞ」
「ええっ。同じクラスに三人も……そんな奇跡が」
もっと驚いても良い気がするが、俺が友達ができたと言った時に比べやけに淡白だ。それでも信じられないのか瞬きが多くなっている。
「はい。返信返さなくて良いの」
「お、そうだな」
妹から返してもらうと、お礼ラッシュが起きているグループを眺める。スマホを持ったこと自体数ヶ月前からなので、この流れが当たり前なのかはわからない。ま、初日なので話題を出して話すのは敷居が高いというものだ。
キーボードを開き、いざありがとうの''あ''を打つとはたと指が止まった。
――ありがとう
送るのは当然だが「ありがとう」だけで良いのか?他の人に倣って「ありがとう、助かった」なんて一言付け足したらどうだろう。感謝も伝えられ、これから学園生活に馴染むきっかけを作ってくれて助かりましたといった意味を伝えられる。
そこまで打って、また指が止まった。
よく考えろ。助かった、これだけじゃあ何から助けられたかわからないではないか。ただでさえデジタルなマシン。これによっていじめなどが始まるとニュースで特集されていた。思いが伝えにくいツール、ならば正直に思いの丈を綴った方が俺も相手もすっきりする。
そんなことを考えつつ、打ち終わった文章に不備がないか確認する。
「――待て待て」
掻っ攫うように、送信ボタンを押すだけのスマホが取られた。
「なにこれ……『‟ありがとう”室蘭。俺は小学校の上回生から中学のすべてをまともに行かないで暮らしていた。そんな俺が高校から、いかな当日試験で決まる奇特な学園といえど友人やクラスと馴染めるか不安だった。でも、室蘭が話しかけ、食事会を設けてくれることで俺にもさらに友人を増やすきっかけができた。まだ室蘭のことを知らない俺だが、室蘭が力を貸して欲しいときがあればすぐに尽力しよう。改めて、ありがとう室蘭。‟助かった”』……全消し」
な、なにぃぃぃ!
妹よ、なぜ消した。俺の感謝を誠心誠意込めた一文。これから始まる室蘭との学園生活の足掛かりが……。
「良い、お兄。こんなものは短くで良いの。室蘭さんは別にメッセージで承認欲求を満たそうとしてないだろうし、どうせ明日会うんでしょ?そのとき、この場合はご飯のときかな。直接『ありがとう』の一言が伝えられたら十分なの……ほい」
キーボードをスライドさせて画面を押した妹は投げるようにスマホを返してきた。一体なんて返信したのだと見返すと、俺のメッセージはわけのわからない『ありがとう猫』とかいうブッサイクな猫のスタンプと化していた。
「なっな、なんだこれ」
「スタンプ。今はそれで良いの。お兄は見た目ゴツくて堅物なんだからギャップ萌え狙いでおーけー」
室蘭いぶり『@剣城剣心ケンケンってスタンプ使ったりするんだね(`・ω・´)』
「なんかよくわからない顔が送られてきた」
「無理に返さなくても良いよ。グループは別に返信を期待するもんじゃないし。なにか用があるなら個人で送ってくるだろうから。良い、お兄。返信はできるだけ短くで良いから。もしなんか意地悪な言い方になりそうだったら、それは電話するなり翌日直接言うとかで処理すること」
「わかった」
「ちゃんと覚えといてよ」
「任せてくれ、覚えた」
お風呂入ってくる、と一言言うと妹はリビングから出ていった。今日は両親ともに会社泊まりで帰ってこない。テレビを見ようかとリモコンを取るべく腕を伸ばすと、俺しかいない空間にROPEの通知音が鳴った。
「武蔵からか」
ホーム画面に武蔵の名前が見えるとスライドさせて開く。茶色のアプリをクリックすると武蔵の個人メッセージを見た。
武蔵『今日は美味しかったよ、ありがと!』
いつの間にやら撮ったのか、俺と沖田さんが並んで丼を傾けている写真が送られてきた。
――返信はできるだけ短く
妹の言葉が脳裏によぎる。
俺は言われたことは次から意識して直すタイプである。で、あるならば悪いが武蔵でお試しさせてもらおう。素早く打ち、スマホの電源を落とした。ソファの角に投げ置くとテレビを見るべくリモコンを取った。
そして、俺は気付かなかった。俺の返信を見た武蔵が『???』と返してきているのを。
武蔵『ちょっとちょっと沖田、剣心くんから意味わからない言葉送られてきた!(トーク画面添付)』
沖田『え、なんですそれ。‟た”ってなんかの暗号……というか、いつの間に写真撮ってたんですか!』
武蔵『えへへ。ついつい嬉しくなっちゃって、あんまり美味しそうに食べてるから』
・
「なるほど、それで昨日の意味わからない単語が送られてきたのね」
「いや、‟た”って単語なんですか。単語というか文字じゃないですか」
翌日の昼休み、武蔵とそれを知った沖田さんに事の経緯を説明した。
武蔵から送られてきたメッセージに「俺も楽しかった」の意味も込めて「楽しかった」と送ろうとし、さらに短縮した‟た”を送ったのだ。さすがに寸前でどうかと思ったが、とりあえず送って見ようと送った。翌朝、武蔵からの返信にうまく文字にできなかった俺はこうして話している現状に戻る。
「それはそうと剣心くん。妹さんがいたんですね」
「ああ、今は中学二年なんだ。一応俺の方が年上だが、昨日みたいな現代っ子的なことは妹の方が圧倒的先輩だからな。助かっている」
「それわかるかも。私もたまにスマホの使い方とかわかんなくなるもん」
やはり俗世離れした人間にとってハイテクマシンは難しいものらしい。俺も連絡ツールとして持っているだけで、思えばそれ以外の活用はしていない気がする。
「沖田さんは別に苦手じゃない感あるな」
「うーん……私の家は別に山奥にあるわけじゃないですからね。兄さんはともかく、上の姉二人がそういうのが大好きで……」
話を聞くと、沖田さんには姉が二人いるとのこと。特に聞く兄さんとは道場で師範をしている兄貴分のことで血は繋がってない。頼れる兄貴らしく、どうやら道場も主に彼主導で纏められ規律厳しいらしい。まあ、厳しくない道場はあっても意味ないので当たり前と言えるが。
「昨夜も剣心くんたちのことを根掘り葉掘りと大変でしたよ」
「武蔵は飄々としてるからな。そんないい加減な奴といるのは心配なんだろう」
「ちょっと剣心くん?昨日が初対面なのに二日目で辛辣じゃない!」
馬が合うとはこの事で、武蔵はこのあたりがあってるような気がする。
「や、むしろ剣心くんのほうに興味津々でして。男っ気がなかった私にてんやわんや……おまけに兄さんの許嫁であるお琴さんまで知りたがってる様子で」
とほほ、とじゃっかん白い顔でぼやいた。
「もしかすると、我が道場に召される可能性があるのでそのときは張り切って来てくださいね!」
「天然理心流か……国巡りで幾人か相対したことがあるが、師範クラスはまだ無いな」
「ずるい!私も行くんだから!」
「あ、はは。そこで拒否しないあたりがらしいですね。道場はいつでもその門を開いています。中に入れば狭くなりますが、大歓迎ですよ!」
門を表しているのか身振り手振りを揺らしている。それと同時にメロンさんも美味しそうにブレザー越しに動いている。今日も一日頑張れます、ありがとうございます。
沖田さんの話から、やがて話題は授業の話題へと移り変わる。英語が苦手など現代国語は行けそうだ。生物は天体は好きなど色々である。
「――剣城くん、宮本さん、沖田さんはいる?」
教室の前入り口から尾鷲先生が入ってきた。次の授業は古典であるから、数Ⅰ担任である彼女は俺たちのために来たのだ。三人で歩いて行くと、手招きしながら廊下に出た。
「来ましたね」
外に出ると、尾鷲先生とはまた違った女教師がいた。銀縁眼鏡と切り揃えられたボブカットは少し
「初めまして、私は一年の学年主任を担当する高岡です。担当教科はないけれど、なにか相談があれば聞くのでよろしくお願いします」
頭を下げられたので、こちらも頭を下げて返す。癖で名乗り上げそうになるがここは学校、必要はない。
「今日は折り入って、三人に提案、相談があって来ました」
高岡先生から話されたのは思いも寄らぬものだった。
簡潔に述べると——創部しないか、という提案。帯刀許可者である三人は当然剣術部に興味を抱くだろうと見越していたが、仮にそれに入っても剣術部員には申し訳ないが帯刀許可者に比べると実力は落ちる。ならば新しく創部し、三人が自身を除く他二人の帯刀許可者と切磋琢磨出来るような場所を作らないか、とのこと。
「創部、ですか」
「……」
「もちろん、学園側からは最大限のバックアップをさせていただきます。帯刀許可者三人入学という星詠学園創始に比肩する事。これだけで当学園の評価が上がりますが、さらに帯刀許可者が所属する部活動は日本に一つです。どうか、考えてはもらえないでしょうか」
さらに提示されたのは創部した場合の利点。まず、活動内容は剣術部よりもより実践的になるため今は使われていない体育館を貸してくれるとのこと。場所は学園から約五分南東に歩いた、猪ヶ池を挟んだとこにある。二回生と、昨年卒業した三回生が多かったため元あった講堂を補強した建物らしい。そして、部費関連。これは少し生々しい話になるのだが、帯刀許可者を抱える公的組織は国から金銭が支給される決まりになっている。俺たち学生からすれば未来への投資、と前向きな言い方ができるが要するになにかあったとき頼みますよという前払いみたいなものだ。それはさて置き、部費は通常の三倍は出るらしい。一体なにに使うんだと言いたいが、そう言った裏の事情があるから仕方ない。
「部費の使用申請さえ出していただければ、こちら側が受諾して許可を出せます。よほど無関係で私的なことには出せませんが、そこの判断はあなたたちに任せることになるでしょう」
要するに、みっともないことはしないでくれということだ。
「まあ、夏合宿と称してどこかに行くのもありですね。現に、他部活動も毎年計画して合宿には行っています」
「山に温泉海の幸……!」
「スキーに観光雪だるま!」
琴線に触れたのか二人の目が輝いている。
「私たち学園側は生徒に楽しい学園生活を送ってもらいたいです。帯刀許可者であるあなたたちと言えど、年齢はまだ学生。身を削り修練をすると聞きますが、長い人生世に倣って学生らしいことに精を出すのもいかがでしょう?」
「剣心くん、これは良いチャンス!」
「だよだよ、創ろう創ろう部活動!」
「…………」
考えろ考えろ。拒否する理由はない。もとより二人の剣客がいるだけでこの学園に来て良かったと思う。さらに専用の部活を作ることで、実践的な鍛錬もして良いと来た。さらには合宿。
――武蔵におっぱい沖田さん!
答えは得た。
「別に俺は構わない。二人は良いのか?」
「良いとも!実践的な鍛錬に合わせ、金銭的援助もしてもらえるなら断る理由はなし!」
「私も大丈夫です。同じ帯刀許可者、競い合うことができるならば尚更です!」
決まりみたいだ。
「良い返事を聞けて良かったです。こちらも創部に向けて書類を用意しておきますが、一応保護者の方にもご説明を」
「わかりました」
「了解です」
「はい」
高岡先生は最後にそう言うと、また一礼をして去って行った。厳しそうと思ったがそれは第一印象だけで、聞くと声音は優しいものでまた話したいと感じる。
「ひぇ〜、まさかの部費三倍。さすがね……」
後ろで聞いていた尾鷲先生は口に手を当てて声をあげた。
・ROPE
まああれみたいな連絡アプリ。
・妹
妹。兄貴がこんなんだけどしっかりしてる。小さい頃から主人公とは関係が薄かったが、むしろそれがあるから関係は良好。家族以上兄弟未満みたいなすごい関係。
・沖田さん一家
兄さん一、姉ニ。お琴さん。
兄、沖田さんの兄。実際は兄貴分、が正しい。たくあんを推し、鬼のルールを遵守する鬼の人。本来は流派でくくれない人だが、今作では新撰組のような役割も追加されている。
姉ニ。いずれ出てくる。
お琴さん。兄の婚約者。芯の強い人間。いずれ出てくる。
・高岡先生
銀縁眼鏡の学年主任。能面だが休日は飼い猫に話しながら家事をしている。
・真剣術部
剣術を超えた、特例部活動。詳細は本文に出てきます。