失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
そして六限目も終わり、放課後が来た。今日はクラスメイトでご飯を食べに行くので18時には新都にいなければならない。
高岡先生と話した後、特に二人とは放課後について話していないので俺は件の体育館を見に行きたいと思う。入れはしないだろうが、外観だけでも暇つぶしに行くのだ。
「ねえ、この後はどうするの?」
と、鞄を持つと武蔵が話しかけてきた。
「さっき高岡先生が言っていた体育館を見に行こうと思っている。まだ決まったわけじゃないが、時間を潰すにはちょうど良い」
現在の時間は15時30分。新都にはバスで20分、そこから春日野宮までは15分ほど歩くので行って帰ってバス停までは良い時間になるだろう。
「そうなんだ。私もついってて良い? というかついて行こ」
なんと横暴な、だが許そう。
「沖田も誘う……って、なんだか忙しそうだからやめてあげるか」
武蔵の目線の先を見ると、何やら数人の女生徒と戯れる桃色娘が一人。スマホを出しながら話しているあたり、すでに友人ができたとみた。やるな、そっち方面でも天然理心が出ている(意味不明。
「私もああやって喋れると良いんだけどね」
教室を抜け廊下へ出る。木張りの床は一歩踏み出すと軋む音がしてなかなか風情がある。テレビなどで紹介される学校はコンクリートが常だが、この学園では耐震補強部分以外は木造建築という珍しい特徴を持っている。さすがに消火栓等は鉄製だが、雨戸も木製なのはきっと学園長の趣味であろう。
「そうか? 武蔵の性格なら余裕そうだが」
一回生の教室は三階にあるが、特に人も多くなかったのですぐに外へ出た。二回生、三回生は三日の明日から登校するようなので今は部活動の声しか聞こえない。
「んー……たしかにそうなんだけどやっぱ根は剣士なつもりだから趣味とかが合わないんだよね。剣心くんみたいに丸々いなかったわけじゃないから、何度か中学も行ってたんだけど微妙だなぁみたいな――いや、お話するのは全然楽しいから好きなんだけどね!」
気持ちはわかるような気がする。まだ二日と経つ学校だが、なんとなく自分は浮いた感覚があった。帯刀許可者という特殊な存在で、いつの間にか剣の道を歩かされていたためどこか普通の精神がすり減って老成したようだ。
師匠と会う前の俺はどこにでもいる少年。クラスの女の子のスカートをめくったり、女教師に甘えるふりをしてその胸を堪能したものだ。それが今はどうだろう、隣を歩く武蔵のスカートをめくってないし胸に顔を埋めていない。これはもう成長だろうか、成長だ。
「これから見つけていけばいいんじゃないか、そんなものは」
「……?」
「趣味も経験もない人間なんて路傍の石より多くいる。幸い意欲はあるんだ、武蔵なら簡単だろうさ」
少し呆けたような顔して、武蔵は表情を崩した。
「あはは、そう言ってくれて頼もしいよ……なんだかお爺ちゃんみたい」
おいそれはどういうことだ。たしかに表情と喜怒哀楽は師匠のせいで削がれた気はするがそこまではいっていないはず。外に出すことは無いが、内に眠る情欲はいつでも昇龍波となって打つことができる。
「『見た目より老けてるね』とはよく言われる」
妹にも、近所の人にも。失敬な。
「気にしてたらごめんね……」
「別に、いまさらだ」
校門に差し掛かったときだ、後ろから慌しく声を出しながら走ってくる気配があった。
「――ちょいちょいちょーい! なーに沖田さんを残して二人で帰ろうとしてるんですかぁ!武蔵さんと剣心くんが教室にいなくて取り残された感半端なかったんですからねっ!」
ずざーっ、と砂埃を立てながら滑り込んできたのは沖田さんであった。勢いよく靡くスカートにちらりと見える太ももが目の保養になる。
どうやら沖田さんは一緒に帰る予定だったらしく、新しくできた友人と話している隙に俺たちが教室からいなくなっていたのこと。気を遣ったのが裏目に出たようだ。一言謝ると「別に怒ってませんしー」と拗ねたように唇を尖らした。
「今から猪ヶ池のほうに行くが、沖田さんも来るか?」
「むむ、もしや体育館ですか?」
「ああ。先に見ておいても罰は当たらないだろうし、活動拠点になるんだ。気にならないか?」
「ええ、ええ。是非お供させていただきましょう。というか、どう考えても私に関わりそうなことによく省いてくれましたね!」
「気にしないんじゃなかったのか?」
「それとこれは話が別ですぅ。これから切削琢磨する仲間を良くも置いてきやがりましたね。合宿のとき覚えといてくださいよ、剣心くんだけ野宿で申請しときますから!」
「それはおかしい。野宿でも構わないが、そのときは二人とも一緒だぞ」
「私は良いかなぁ、楽しそうだし」
「なっ、武蔵さんまでまさかの乗り気ですか!」
師匠が言っていた。「一人で生きていくの絶対無理、なんてことを言う人がいるけど人間、案外一人で生きていけるんだよ」と。そして、俺は樹海に放り出され二ヶ月間のサバイバルに突入したのだ。最初は食べる物に困ったがなんとか選び出し、洞窟を寝ぐらにしていたが雨が溜まった。そのため、洞窟に居続けることが困難になりボロ屋を建てた。最後には風車付きの小洒落た洋風建築に仕立て上げたものだ……懐かしい。
むろん、浮浪者等に使われないため自分で壊したのだが。
一、
新都——かつては酒の醸造で栄えた山と海に挟まれた、日本でも少し珍しい地形を持っている都市だ。なだらかな山脈から吹き降ろされる
「久しぶりに来たけど相変わらず人多いなー」
「ですね」
後頭部に手をやりながら言った武蔵に沖田さんが賛同した。
時刻は18時と少し、集合時間は18時30分と連絡があったので十分間に合うだろう。場所は貸切店らしく、なんとクラスメイトの両親が経営する店舗で優しいお値段になったとのこと。食べ放題式で、立食と座席が選べるマルチなお店らしい。
「あそこだな」
小洒落た看板が目立つ、達筆な字で''春''と書かれた店だ。小さくガラス張りになった窓から中の様子が見え、伺うと見知った制服がいる。どうやら時間までに殆ど集まっているようで俺たちが最後かもしれない。
淵についたドアベルを鳴らしながら扉を開けると、奥に続く廊下にいた何人かがこちらに向いた。
「おお、ケンケンに武蔵ちゃんたち!こんばんは」
店内は暗めの茶色に、灯篭のような灯りが淡く光る。決して見えないというわけでなく、落ち着いた雰囲気を醸し出す場所だった。
ほんの少し、制服であるのが場違いな気がする。
「お邪魔しちゃうよ、いぶりちゃん」
「こんばんは」
名簿を取っていたのだろう。バインダー片手にペンを動かしていた室蘭と、その隣にいた倉吉が控えめに手を振った。
「お座敷と、立食部屋があるけどどっちにする?もちろん移動できるから安心して」
「どうしようか」
「荷物もありますし、先に座敷が良いんじゃないですかね」
「同じく」
「じゃあ座敷の方をお願いします」
「了解。赤い暖簾のところだよ」
案内された赤い暖簾をくぐる。畳座敷と、掘り炬燵のような机が置かれておりおそらくだが六人部屋のだろう。
「見てくれ。帯刀許可者用か刀掛台がある」
俺が指差した方向は、回の字のように机が中心になっている一番奥だ。誰かの親が経営していると話していた手前、俺たち三人のために用意していてくれたのかもしれない。確かに普通の食事処では困ることもあるため大助かりである。
「立食もあるって言ってたので少し食べたら行ってみますか?」
もちろん立食には行くつもりだ。というか、人数もそちらの方が多いはず。ならば友達百人斬り計画を密かに企てている俺に行かないという考えはない。ちなみに沖田さんと武蔵、室蘭がいるので残り九十七人だ。
とりあえず、沖田さんの考えに賛成して少し食べて行くことにした。立食といえど話すことが大半になるため、並べられた食べ物も食べる暇がなくなるだろうとの予想である。
「春野菜もありますよ」
「俺は川魚が良い」
「大皿に小鉢をいくつか頼もっか」
機械式なようで、パソコンの画面のようなスマホから選んで注文していく。使い方には厨房に直接表示されると書いているので店員を呼ぶ必要はないようだ。
「これからは密会するときにここを使えますね」
と、沖田さんがよくわからないことを言っていたので苦笑いで流しておいた。武蔵のほうは少年心を擽るような単語に反応したのか、面白そうだと話が広がっていく。それを流し目で見ていると「失礼します」と声が聞こえ、店名と同じ柄が入ったエプロンの店員が料理を持ってやってきた。
「春野菜の天ぷらに川魚の彩り和え、鳥の燻製ハーブ——」
一品、二品と並んでいく。小鉢が多いとはいえこんなに頼むとは。確実に元を取りに来ているな。少し食べていくという
そして、
「――でかっ! なんですかこれっ、ちょっと剣心くんなんてもの頼んだんですか!」
「あははっ、なにこれ。こんなもの見たことないや!」
「いや、待て。本当に俺は知らないぞ」
鮮やかな料理が並んでいくなか、真ん中を裂くように陣取るのは銀鱗を持った巨魚――イトウであった。
「いやぁ、まさかこんな大食漢だったとは……それだけお腹が空いてるなら私たちは
「だねぇ。これは仕方ないや」
何と意地の悪い輩達……!誰がこんな大きいのが来ると思っていたか。二人は通常サイズの川魚が出されれば適当な言葉を並べてその嘴で啄むつもりだったに違いない。だがしかし、どうだ今の二人は。ニヤニヤと目を細めながら笑っている。
「――こんばんは。宮本様、沖田様、剣城様」
と、如何して二人にこれを押し付けようと考えていると店員が去った後に現れたのは同い年くらいの制服を着た女生徒。
「……!」
あれは——あのおっぱいは……!
「おおー。あなたはたしか、新入生代表さんだね」
「春狩目黒、と申しますわ」
「ここを用意してくれたのは春狩だと聞いた」
「ええ、お父様が是非にと」
「ありがとうございます、春狩さん」
「気に入ってくださると幸いです。帯刀許可者様方に懇意にしていただけると父も喜びますわ」
「ちゃっかりしてますね」
「てへ」
可愛い。
「さて、他の方々にもご挨拶しなければならないので行きますわね。よろしければ立食室でお話を聞かせていただける嬉しいです」
「おっけー、またあとで」
「立食室はここを出て左手奥にありますので。では」
慣れた様子でお辞儀をすると春狩は別の座敷に行ったのか立ち去った。
できればイトウさんを一口でも処理していってほしかった。
「じゃ、食べますか」
「ですね」
「ああ」
「へぇ、てことは剣城は中学に一度も行ってないのか」
「沖田は東京から来てんだね」
「武蔵ちゃんのこの簪すごい可愛いよ!」
なんとか三人でイトウさんを片付け、座敷から立食へとやってきた。どうやら大半は立食で食べながら親睦を深めていたようで出遅れてしまった。
「(最初からこっちにしとけばよかったですかね?)」
「(ああ。あのイトウさんがあったからな……)」
隣で会話していた沖田さんが耳元で囁いてきた。俺はまだあのイトウさんを忘れていないぞ。
「俺さ、帯刀許可者に会ったときに一回だけ聞きたいことがあったんだけど……どうやったら認められるんだ?」
そして、見事なマスコットになっていた。
三人で団体行動していた手前、ここに来て扉を開けたときのみんなの目は怖かった。まるで羊と狼である。
「許可、か……」
そういえば、俺は許可を得る試験などしただろうか。師匠と国巡りをした四年と少し、それらしいことをした記憶がない。適当なことを言うにもいけないので、二人に目をやると微妙な顔をしていた。
「強いて言うならば私は同じ帯刀許可者である兄さん、道場の方々と試合をしましたかね?」
「んー。私はたぶん、こっちを打ったときに決まったのかな?」
やはりこれといった試験はなかったのか二人とも曖昧な風に答えた。
沖田さんは道場で試合、武蔵は腰にある二本のうち一本、長刀のほうを指の腹で撫でながら言った。
「武蔵ちゃんの剣は自分で造ったの?」
「そうだよ。私の一族……流派かな。すべてを納めた者は代々その証として自分で刀を打ってものにする。そこでやっと一人前、世に出られるレベルだからね」
「――二天一流
「ま、知る人は知るってやつかな。私も天然理心流、成人待たずして
「えへへ。恥ずかしいですねー……まあ、沖田さんはその名の通り天才剣士なので仕方ないんですけど!」
でれでれと囃し立てられたのに気を良くしたのか、沖田さんは人差し指をつんつんしながら言った。
「剣城のほうはなにかあったのか?」
「なにか、か――」
武蔵ら含める視線が刺さるが、あいにくと特にない。
「たぶん、師匠と国巡りしてる間に何かあったんだろうが……何も言われなかったな」
「あ、聞いたことある。それはあれだね、師匠が表に出さない合格条件をいつのまにか満たしていたーみたいな」
「SUBUTAのコケシ先生もそんな感じだったな」
「うんうん」
と、周りのクラスメイトは憶測を立てながら話している。
俺としてはいつのまにか師匠が帯刀許可書改正式名称――「
・地域
モデルは原作通り神戸の街です。
新都も神戸(こうべ)の読み方をもじって「しんと」にしただけです。
学園は北側にあり、南側に山を超えておりたところに新都があります。
・イトウ
巨大川魚
・国家太刀別認許状
通称、帯刀許可書。正式名称。
国家太刀別認許状を保持した成人に認められた場合のみ発行される。なお、認許状を保持するものは年一回に特別試験を受け、帯刀に相応しい人物か評価される。