失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活 作:神の筍
恙無く親交会(?)も終わり、家に帰ると妹に様子を聞かれた翌日。昨日と引き続き晴れた空の下学園の校門を潜るとそこはまるで祭りのような活発さが顔を見せていた。見渡す限りの——人、人、人。ほとんどが上回生だろう、それぞれの看板やプレートを首にぶら下げた生徒が一年生の勧誘合戦を行なっていた。
「バド部、今上回少ないのでレギュラーに入れます!」
「水泳部どうですかー?夏は冷たい水、冬は温水プールでやってまーす」
「ダンス部員募集中です!初心者大歓迎!」
と、声を張って自身の魅力をアピールする。どこの部も力を入れているのか、強引そうな引き合いで連れてかれる一年生もいるが、やはり絡み文句を言われたおかげか表情がにやけ面なのは勧誘者の手腕なのだろう。
軽く校門を超えてゆっくりと歩きながら考える。
おかしい。
心の中で呟く。
最近妹から貸してもらった漫画で『最強チート学園物語アルティメットティーンズ』というものがあった。その漫画は異世界、などではなくこの世界を題材に描かれた物語。文武両道法が生まれ、日本に多くはないが武人が存在する世の中に若い男子学生が一人、その腕は剣聖に勝らずとも劣らずといわれる帯刀許可者であった。ネット動画などを通じてある程度名の通った彼は俺と同じよう、入学式を終えた部活動勧誘会で運動部の引っ張りだことなるのだ。
しかし、
しかしだ。
今の状況はどうだ。多少なりとも腕に覚えがあるのに俺という帯刀許可者に興味を持って声をかけてくださるのは、
「あの……オカルト……興味ないかな?ひひ、守護霊が入った方が良いって言ってるよ」
「未来が見える、未来が見える。ああ、これは危険な相だ。はやく占い研究部に入った方が良い」
なんだこの二人!?
一人はオカルト研究部と言っているぼさぼさの髪を伸ばした死装束のような白衣。もう一人は中世の魔女のような帽子に、内側が赤く外側が黒紫のマントを羽織り、水晶を持った占い研究部の何某。
どう見ても文化部である。バカにするわけではないが、曲がりなりにも腰に刀をぶら下げている男が学園敷地内に入ってからこの二人にしつこく勧誘されているという現実。というかそれ以前は俺を見た運動部勢が誰から話しかけるか、とお見合い状態で鍔迫り合いあっていたのが二人が来てから波が引くように消えていった。
「お願い……入って……」
「むむ、水晶によると君が入らなきゃ今年の部費は三割カットと出ている」
何とか曖昧な笑みを浮かべてまだ決めかねていると伝えるが柳に風で返されている。
どうするかと思案していると彼女たちの背後から見知った顔が一人。ぞろぞろと引き連れた運動部を巧みにかわしながらこちらに向かって来ている武蔵の姿があった。
「おはよー、剣心……お、やっぱり勧誘を受けてたか。いやぁ、活気があってすごいや」
「おはよう、武蔵」
後頭部に手をやりながら寄ってきた武蔵に挨拶を返す。二人を抜けて横に立つと、ん、と首を傾げた。
「――っ」
死装束の女生徒が顔を青くして震えていた。
尋常ではない。なにか怖いもの、いやその感情に限定されず
「ど、どうしたんだい? 幽ちゃん」
「
小さい頃に見た怪獣映画を思い出した。たしかあのときも彼女と同じよう、町に現れた怪物を——ゆっくりと、信じられないと言わんばかりの瞳で見上げたあの姿。
俺ではない、武蔵が来てからだ。
胡散臭いと一蹴するだろうが、武蔵だからなにか本当にとんでもないものが憑いてそうだ。ああ、ゴジラとか。
「くっ、覚えておくと良い男子学生よ。私たち草の根文化部はまだ諦めていない。あと三年、無事に過ごせると思うなよっ、行くぞ幽ちゃん」
「うんっ、あ……ひひ、ばいばい」
一人は指をさし、もう一人は手を振って去って行く二人を見送ってようやく校舎に向かって歩き始める。なんだかうんと疲れた数分だった気がした。
「沖田はもう教室にいるらしいよ。職員室に用があったらしくて、部活勧誘の嵐を免れたって」
「俺も早く来ればよかったな」
「ほんとその通りだよ。他の運動もしてみたいけど、私たちは一応すでに創部が決まってるからね」
「しまった。俺もそう言って断れば良かったのか。あの二人のキャラが濃すぎて思い出せなかった……」
「あはは、たしかに」
未だ歩き慣れていない校舎に入り、すぐの階段を上がって教室に向かう。教室にはあの嵐を抜けて来た猛者どもと、開いた窓からさすにもたれかかって下を見る沖田の後ろ姿があった。
ああ、お尻がちょっと突き上がってる、鷲掴みにしたい。
「おはようっ、沖田よ!」
「おっ、と。おはようございます、武蔵さんに剣心くん」
「おはよう、沖田。(いろんな意味で)良い朝だな」
っと、南無三南無三。
「すごい人ですね。二人も上から見てすごかったですよ。こちらに向かって歩いてく二人に声をかけようか何十人かついて来てましたし」
「さすがにねー。やっぱり目立つかな」
「ですね。ちなみに剣心くんが変な二人に絡まれたのも見てましたからね」
「なに、助けてくれても良かったものを」
「無理ですよ。出たらきっと私も引っ張りだこですからね!教室から助けようとでもしたら私は三年間変人扱いで青春を終えることになります」
指を立てて説明する沖田。
「それに」
続けて、
「二人は新しい部活――真剣術部の部員なのでしっかりしてもらわないと」
そう言った沖田は胸ポケットから丁寧に四つ折りにした一枚のプリントを取り出す。
再生紙かなにかはわからないが、そこには真剣術部の設立決定とともに、その大々的な発表を学園内で行うために体育館での部活動紹介の時間で「模擬実践/演武」を行って欲しいと通達されていた。
一、
『真剣術部創部について』
真剣術部とは、2×××年4月から創部された部活である。部員は国から支給された「国家太刀別認許状」を所持している者に限る。
必須事項については下記に記す。
記
・「国家太刀別認許状」所持者のみ入部可能とする
・活動場所は「講堂体育館」とする
・「講堂体育館」は三年間一般生徒の立ち入りを原則禁止とする
・責任者は学年主任
・沖田総司、宮本武蔵、剣城剣心が学園に所属する三年間のみとする
・真剣術部の規則については、学園の部活規則ではなく国の「国家太刀別認許状」所持者の規則を第一遵守とする
・しかし、一部私立星詠学園高等学校の部活規則に則るものもあるとする
・
・
・
……
以上
二、
「模擬実戦/演武」と実戦の差は一体何なのか、と聞かれるとその明確な差は当てるか当てないかであろう。模擬実戦は当てないが戦っているように見せ、実戦は斬り合って血を見る場合もある。
さすがに生徒の前でそういったものを見せるわけにはいかないので今回は当然模擬実戦なのであろう。かと言って、実戦より見応えのないものと問わればそれはないと即答する。斬る前に剣を止めるのはかなりの技術が必要だ。それなりの達人となれば僅かに寸止めにしようとした隙間に容易く刃を入れて反撃をしてくるし、そも普通に寸止めが難しいときもある。
即ち、模擬実戦といえど気は抜けないのだ。
「……」
一年生の授業開始初日はどれも自己紹介ばかりで少し退屈である。たまに教師がおもしろい話題を振ってくれるため笑えるはするのだがお堅い教師に当たったときの自分語り、もとい教科の説明は何度夢うつつとなったことか。
ちらりと横を見遣れば、左斜め上には沖田さんが退屈そうだが真面目に話を聞いている。右を見れば武蔵が盛大に舟を漕いでいる。ほんとどこのバミューダなんだと突っ込みたくなるほどに。そして一度がくんとジャーキング現象を起こすと目を開けた。奇跡的に見ていたクラスメイトは少なかったのか、気恥ずかしそうに様子を伺う武蔵と目があった。
俺は静かに前を向いた。
「――さて、ともかく数学とは一見なにに使われているようかわからないが、私たち身の回り全てのものに応用されて使われている。その基礎を学ぶために……」
時計の針がもうすぐ授業の終わりを告げようとしている。やっと数学が終わる。一番苦手な教科である。
「では今日の授業はここまで、明日からは触りといえど本格的な内容が始まるので目を通すくらいは教科書を読んでくるように」
教師は最後にそう言い、挨拶をして出て行った。
入れ替わるように尾鷲先生が入ってくる。
「ほいさー、じゃあホームルームして終わるぞ」
尾鷲先生はとりあえず一日なにか無かったか、明日は部活動紹介なのでできるだけ休まないこと、授業でわからないことがあれば水・金の放課後は補修授業が誰でも受けられることを伝えた。
「あ、沖田と宮本と剣城。3人はあとで話があるので残っておくように」
教室が一瞬騒つく。普通ならば悪いことをしたのか、と勘ぐるがそれも杞憂で三人の共通点を挙げれば栓無きことだ。
どうせすぐわかることなので特に考えずにホームルームが終わり、放課後がやってくる。前の教卓で作業をしている尾鷲先生のところに行く前に、沖田さんが小走りで寄ってくる。
「なんの話ですかね?」
「む、沖田さんも知らないのか?」
「ええ」
今朝も創部の紙を持ってきていた手前、事前に話があったのだろうと勘ぐっていたが違っていたらしい。彼女の桃色のアホ毛が心なしかはてなマークに見えてくる。
「ま、行けばわかるでしょ」
武蔵も来たようで、三人で教卓へ向かう。
「先生、お話とは一体なんでしょう」
沖田さんが先頭を切って尋ねる。
今日の日誌の返信を書いていた先生は顔を上げた。
「大したことじゃないんだけどね。学年主任に聞いたんだけど、三人は明日、部活動紹介に出るんでしょ?」
「ええ、まあ」
規則上、俺が所属することになる真剣術部は新入生の募集などしない。しかしそれでも参加することになるのは話題性と宣伝、そして「学園にはこんな生徒がいる」という刺激促進だろう。打算的なものも多いだろうが、それよりもこの実力が注視される学園では切磋琢磨という言葉どおりの効果を見込んでのものと思われる。
「高岡先生は創部申請で忙してまだ詳しく話を聞けてないんだけど、服装とかはどうするつもり?」
ユニフォーム的な話だろうか。
バスケ部ならば全体的にゆったりとしたノースリーブ風。野球部は砂地に擦れて良いよう少し強めに作られている。ユニフォームに限らず、バッシュやスパイクといった道具の話も含めてだろう。
「一応会議で上がったのは学園側は特に指定の服装は無いってことかな。さすがに相応しくないものくらいの区別はつくだろうけど、そうじゃなければ自由。でも部活動紹介っていう行事の中だから、ジャージとか着るなら学校用体操服にしてほしいかな」
「なるほど、軽薄な感じじゃなければ構わないと」
「そう」
「でしたら私の方は道場着があるので、それを着れば問題ないと思いますが……」
「ん、私も大丈夫かな」
「ああ。俺も国巡りをしていたときの袴がある」
「そういうのだったら全然おーけね。よろしく。
刃物のことだけど、当然刃引きしてるだろうけど血が流れるようなことはご法度。あなたたちにこういうのも失礼かもしれないけど、万が一にもないようにお願いします」
「わかりました」
「はーい」
「了解です」
「それくらいかな……あとは、うん。特にない。明日はきっと注目されるだろうから緊張しないようにね。それに、私も含めて学園長や先生方も生で見られる帯刀許可者の模擬実戦はすごく楽しみにしてるから、頑張って」
楽しみにしている。
ああ、それはきっと俺も同じである。希少価値の高い帯刀許可者。彼らは世に尊まれる存在であり奇人変人の代名詞である。かくいう俺も逸人だと自覚は少しあるがまだまともな方だろう。
それでも、それでもだ。やはり、強い者と戦えるのは、なんと楽しいことなのか――。
最後に、妙に苦笑いをしながら「終わりかな」という尾鷲先生が妙に印象的だった。
三、
家に帰ってきた俺はそそくさと自室へ入る。
ずっと空きにしていた部屋で帰ってきたときには小学生のままの内装だったが、さすがに今は置いていたものをほとんど捨てて年相応のものになっている。やはり一番変わったのはベッドの大きさだろう。子供用だったもの大人用、セミダブルを越してダブルになっている。寝返りを三回うっても落ちないのは魅力的であった。
そのベッドの下にある、付属タンスを開ける。そこには俺が国巡りのときに集めたものや、ずっと着ていた袴が仕舞われている。
「問題ないな」
灰色の上着に、黒色の袴。汚れが目立ちにくいように選んだ師からの頂き物だ。ほつれがあれば自分で治し、身体が大きくなれば当て布をする。さすがに子供用を今の体躯に合わせて誤魔化すことはできなかったため、二代目だが補修した傷跡が少し目立つ。
一番下にあった‟徳”の字が金糸で彩られた黒い羽織は置いたままに立ち上がる。ベッドの上に上着と袴を置くと、今度は刀掛にかけた刀を取る。
鞘から抜き、柄を顎に持って直線にする。鈍りはない。特殊な技法で刃引きされた刀は刀身に一つの傷もない。銘を、
――
俺が持つ二刀のうち一つ。
鍔が無く、通常の刀より太い刀身が特徴的だ。柄はもう一本も同じく黒色に統一している。
この刀の持ち主は武家上杉の上杉景勝。今では重要文化財に指定されるほどの上物だ。
鞘にしまって元に戻す。明日は模擬とはいえあの二人と刃を合わせるのだ。無駄に夜更かしなんてして身体に不調が出れば申し訳ない。ならば、今夜はなにも考えず眠りにつくのが吉だろう。
春少し風が暖かい今日日。
現代に生きた剣客が鉄を打ち鳴らす。
それでも安らかに眠れるのは、やはり彼ら彼女らが世に相応しく奇人変人なのだからだろう。
・占子ちゃん、幽ちゃん
占い研究部、オカルト研究部。一応違う部活だが、人数の少なさから合同部として存在している。
占子ちゃんはほんのり赤っぽい黒髪を肩まで伸ばし、制服の上に中世魔女風のコスプレをしている。
幽ちゃんは燻った銀髪を腰までのばし、大きな目の下の隈が目立つ。ちなみに寝不足ではなく体質。白装束姿。ちなみに授業時間などはちゃんと制服を着ている。