失恋したから剣にて空を目指した男のラブコメ学園生活   作:神の筍

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九刀目!

 

 

 入学式から一週間は経ち、だいたいの友達やグループが出来て来た頃。それでも度々話題に上がるのは件の三人だった。どうやら学園のことはテレビでも特集され、今年度異例の帯刀許可者三人の入学と、改めて学園の異色性を中心に紹介されていた。

 学園内までカメラが来なかったのは学園長の配慮か、電話取材等は了承したが勝手に写真や動画はとらないでくれと契約したかららしい。さすがに元政治家である学園長には向こうも食い下がれなかったのか多少の伺いはしたがすぐに下がったとのこと。

 

【いかにこの若き剣士たちが、同世代の子たちに良い影響を及ぼすか――もちろん三人にも注目ですがこの三年間で星詠学園からの卒業生にも注目です】

 

【そうですね、本当に『国家太刀別認許状』を持った方々は心、技、体の三つが誠実でなければ貰えないものです。

 これ中村さん、かなり生徒たちにとって良い環境と言えますよね?】

 

【ええもちろんですよ。私も同じ学生なら転校したいくらいですね】

 

【ははは、いやぁお気持ちはわかります】

 

 夕方のニュースで俺たちのことが紹介されていた。

 星詠学園についてのフリップがスライドされると、今度は影になった三人の人型パネルが出される。

 

【では次は実際に入学した三人について見ていきましょうかね】

 

 むふ、何だろうか。少し恥ずかしい。

 

【あのですね、最初の一人はおそらく皆さんも知っていますでしょう天然理心流の天才剣士沖田総司さんです】

 

【あぁ、知ってるわ。去年私取材行ったで】

 

【見たことありますね。すごく可愛らしい()でした】

 

 箇条書きに沖田さんのことが書かれている。

・十四歳にして印加を取得。以来天然理心流史上最年少師範となる。

・帯刀許可書を取ったのはその前後。

・愛刀は加州清光。

など国の文武省のホームページに載っているようなことが纏められている。

 

【さて、お次はこの天然理心流に負けない、むしろ海外ではこちらの方が有名ではないでしょうか。二天一流、開祖と同じ名前を持つ宮本武蔵さんです】

 

【ええー、すご!本物?】

 

【はい本物でございます。文武省に確認をとったところ、正式な二天一流の継承者です。二天一流は当代とその教え子は必ず一人。なので唯一の二天一流ですね】

 

【すごいなぁ。というかすごいとしか言えんわ】

 

【またビッグネームが出て来ましたね……】

 

・二天一流唯一の継承者。

・噂では開祖に匹敵する技量を持つ。

・金打ちに到達し、愛刀は自身で打ったもの。

 中々どうしてこの番組は持ち上げてくれるじゃないか。深くソファに座ってくつろいでるが、手元に置いていたリモコンの録画ボタンを押す。それと同時に二人からスマホにメッセージが届いた。

 

 沖田さん『見ましたか、天才剣士!いやぁ申し訳ないですねー(写真付き)』

 

 武蔵『ビッグネームだなんて嬉しい(写真付き)』

 

 それぞれ自分が解説されているタイミングを計らって撮った写真を送ってきた。

 なるほど、ならばと俺も次は自分の番なのでカメラ機能をオンにする。

 

【さあ最後でございます。女子学生女子学生と来まして男子学生。剣城剣心さんです】

 

 等身大を目標に作られたであろう一番大きなパネルに横へ来ると、アナウンサーがフリップを持って立つ。捲られたフリップは二人と同じように簡単に……、

 

剣城剣心

・男

 

「……」

 

【……】

 

【……実は彼、素性が掴めない謎の剣士でして、文武省の説明を見ても年齢性別などしかありませんでした。特に流派もないのか、言うなれば野生の剣士なんですかね】

 

【なるほど、求道者タイプ】

 

【むしろ今の時代では二人より珍しいですよ。型にはまらない剣術は戦国時代には主流でしたがそれ以降は流派に分かれて行きましたから】

 

 補足や付け足しはそれはそれは饒舌になり足るや。

 

 沖田さん『説明欄男は草(写真付き)』

 

 武蔵『どんまい(写真付き)』

 

 ――沖田総司がグループのプロフィール画像を変更しました。

 

 この後ろ派ホックめが!

 

【ただ学園側の電話取材によりますと、彼はこの歳で国巡りを終えて経験は二人以上にあるんじゃないか、と言っておりまして……今回特集を組むきっかけにもなりました星詠学園真剣術部。その紹介のときに行った模擬実戦では前の二人を出し抜き背後を取った技量を見せたようです】

 

 剣心『出し抜かれた二人、精進するんだぞ』

 

 沖田さん『次は無いですし!』

 

 武蔵『同じく!』

 

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 ということがあった日の翌日。

 

「男が来ましたよ武蔵さん」

 

「男が来ましたなぁ沖田さん」

 

 ニヤニヤする二人を無表情でやり過ごし、昨日の特集もほどほどに話題はゴールデンウィークについてだった。

 

「新都の方は何度か行ったことはあるんですがゆっくり見て回ったことがないんですよね」

 

「私も落ち着いて来たのが最近だから観光でもしたいな」

 

 前から聞いていた通り、二人は新都で遊んだことはないという。沖田さんは実家が電車で北東に向かって一時間ほどのところにあり、暇だからと行ける距離ではなかった。武蔵は関東の方から来ているためまったく縁が無かったとのこと。

 仕方ない。

 

「案内しようか?」

 

「お、いいの?」

 

「ああ。俺も詳しくはないが何となくわかる」

 

 小さい頃はよく母親に連れられていたので僅かに覚えている。繁華街は今やどんな風かわからないが、場所の案内くらいは可能だろう。

 

「でしたらゴールデンウィークは街に繰り出しましょうか」

 

「賛成、お昼も食べよ」

 

「昼前に学園前集合で大丈夫か?」

 

「了解です」

 

「おっけー」

 

 起きて食べて寝て食べて寝てという予定を入れていた俺はゴールデンウィークに二人と遊ぶという予定を入れた。きっとこれで俺もりあじゅう(・・・・・)という仲間入りだろう。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

『良い、お兄。初めて一緒に遊びに行くんだからまずは無難に服装を褒めるんだよ?今ははまだ入学したての猫被りでだらしなさとかを見せられない時期だからきっと向こうも服装には気を使ってくる』

 

 そしてゴールデンウィーク初日、俺は約束の学園前で妹の言葉を思い出していた。

 妹によればまだ出会ったばかりの俺たちは隙を見せていない仲であると。また、互いに良い印象を抱かせようと模索しながら、手探りに仲を深めている途中らしい。

 そうであるならば、それをわかっている俺たち自陣の方が先手を取れる。

 妹はものの数秒で検索をかけて二人が着てくるであろう今流行りの服装に見当をつけ、ある程度の身体付きを俺に問うとさらに選択肢を絞った。別にそんなにあいつらの身体など覚えていなかった俺だが、とりあえずスリーサイズと身長は口頭で伝えておいた。

 訝しむような妹の目は初めて見た。いろんな表情が出来てお兄嬉しいぞ。

 

「おーい剣心くーん!」

 

 将来が楽しみな妹は一先ず置いておき、駅方面からやって来た沖田さんの声に反応する。そちらを見ると軽く手を振りながら歩いてくる姿があった。

 

「おはよう、早かったな」

 

「そういう剣心くんこそ、楽しみにしてたんじゃないんですか?」

 

 策得たりと聞いてくる沖田さんに、まあ確かに楽しみにしていたので「そうだ」というと「弄り甲斐がありません」と返してきた。

 並んだ沖田さんの服装をバレないように眺める。

 布地が何枚も重なったような桃色のロングスカートに、ゆったりとした白シャツはサッシュベルトによって止められ、スタイルの良さが際立っている。お山が二つ、眼福だ。

 さて、なんて言おうか。

 

「沖田さん」

 

「はい?」

 

「似合ってるぞ」

 

 シンプルに。事実だけを伝えた。及第点だろう。

 

「――どこがですか?」

 

「……!」

 

 その一言は俺を震撼させるのに、現状一番適切なものだった。

 

 ――どこが……?

 

 どこが似合っているのか。全部だ。全部に決まっている。元あった沖田さんの可愛らしさは春色の服装によってさらに際立っている。

 それをどこ、という返しできた。俺は何て言えば良いのだろうか。そうだ、強いて言うならば、

 

 

 

(――キュッとしまったお腹から滑り台のような胸が良いです)

 

 

 

 などと言えるわけはない。

 そうやって太刀合うとき以上に脳を回転させているともう一人待ち合わせの彼女が来る。

 

「お待たせ、私も早く来たんだと思ったんだけど二人の方が早かったか」

 

 一人暮らしだという武蔵は学園から歩いて少しのとこにある住宅街からやって来た。それを見た沖田さんは小走りに寄るが、俺は先の回答がまだできていない。いや、あの様子から沖田さんまた揶揄う気で言って大した答えなど期待していないのだろう。

 

「……で、剣心くんが私の服装を」

 

「うんうん」

 

「似合ってるって……」

 

「意外とそんなこと言えるんだ」

 

「なので私はどこが、と聞いたわけです」

 

「なるほど。だから固まってるわけだ」

 

 おい沖田ァ!なに話してんだよ!

 

「んふふー、そういうことなら。どう、私も似合ってる?」

 

 ファッションモデルのようにその場で回転した武蔵の格好はデニムパンツに薄い橙色のセーターを着た、学生服の武蔵とはまた違う装いだ。

 

「も、もちろん似合ってるぞ」

 

 だけでは終わらず先に先手を打っておく。

 

「その髪飾りとかオレンジ色のセーターとかズボンとか。あとスニーカーと靴下も良いと思うぞ。ポケットに入ってるのは財布か、それも良い、うん」

 

「うわ、雑な褒め方!」

 

「ポケットに入ったまま財布を褒められてる人初めて見ましたよ……」

 

 結局俺に対する弄りは武蔵にも伝染し、女心、とまではいかないものもこういうときは何と言えば良いかを教えてもらった。女性的には具体的にかつ一番凝ってるところを言ってもらえるのが嬉しいらしい。

 沖田さんの場合は髪色と季節に合わせた彩さを。武蔵は普段の学生服とは違う感触の服を着て来たことに。

 師匠からそういうことを学ばなかった俺はまだまだということだろう。

 

「なあ二人とも」

 

 学園からバス停へ向かう道中、ほぼ葉桜と化した桜を指差す。

 

「なぜあれが綺麗か、風情があるのか説明できるか?」

 

 二人は葉桜を見て首をかしげる。必ずどこかであれは綺麗だと口にしたことがあるだろう。だが、なぜ綺麗か考えたことがある人が世に何人いるか?昔の歌詠みならば息をするように考えただろうが、普通に生きてその美しさに理由をつける者などいない。

 

「桜の木だから、葉に桃色が混ざっているから、風に吹かれる姿が寂しく感情を揺さぶられるから……色々あるかもしれない」

 

 それでも、と続ける。

 

「なにか足りない。あれを表現するには言葉では捉えきれないなにかがあるんだ。

俺が二人に抱いたのもそんな漠然とした、しかし確かなものだった。今更だが、どこが、と聞かれて簡単には答えられないな」

 

 語彙力の無さは仕方ない。これから勉強していけば良い。ただそれらしい言葉を並べるのも申し訳ない、そう思った。

 

「……」

 

「……」

 

「無知な俺を許してくれ」

 

 バス停に着くとちょうどバスが来たところだった。行き先表示は『新都行き鶏噴水前』。

 これであっているな。乗ろうとし、後ろを見ると二人は向かい合い視線を交わしていた。

 

「乗るぞ」

 

「……わかってますよ」

 

「タイミング良き良き、かな」

 

 ぎこちない笑みにどうしたんだと疑問を持ちながらバスへと乗車した。

 

「……誰から学んだんでしょうね、あれ」

 

「……どうだろう、意外と天然物なのかも」

 

 なにはともあれ、ようやく新都へと出発したのであった。

 

 

 


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