戦車乙女たちに追われています   作:神崎識

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これから過去編です。

オリキャラが多々登場予定です。

出会いと言っていますが巧の学生時代の活躍もありますので。


『過去編』巧と戦車乙女の出会い
運命の始まり


これは伊藤巧が12歳の頃の事だ。

 

巧の家は決して裕福とは言えなくて中学と高校は学園艦の航海科での入学を余儀なくされた。

 

だが在学していた小学校で戦車道の小学生向けの講習会が行われた。

 

主催者は西住流だった。

 

当時まだ師範だった西住しほが講師として小学校に訪れていたのだ。

 

戦車道は乙女の嗜みで男子生徒はほとんど居なかった。

 

たまたまそこに居合わせた巧がしほに声をかけられたのだ。

 

「あなたも戦車道やってみない?」

 

しほに誘われ無言で頷く巧。

 

巧は静かであまり喋らない男だった。

 

小学生用のⅡ号戦車ではなくしほのティーガーⅠに連れて行かれたのだ。

 

手をただ引かれてついて行く巧。

 

小学生にとってはティーガーⅠはとても大きく見えただろう。

 

だが巧はティーガーⅠを見た瞬間に気分が高揚した。

 

「こっちよ」

 

ティーガーⅠの車内に連れて行かれて操縦席に座らされた。

 

「エンジンを起動させて」

 

巧は頷いてティーガーⅠのエンジンを起動させた。

 

「クラッチを踏み、ギアを1速に入れて」

 

しほが巧の足元を指を指してクラッチの場所を教え、変速レバーにしほが巧の手と重ねて一緒に1速に入れた。

 

「左右のレバーを前方に倒し、アクセルを踏みながらクラッチを緩めなさい」

 

左右の操作レバーに巧が手をのせた。

 

その上からしほが手を重ねて前方にレバーを倒した。

 

「もう一つのペダルがブレーキよ」

 

手取り足取りとしほに戦車の操縦を教えてもらう巧。

 

当時の巧は夢中で戦車の操縦を教わり上達していった。

 

しほは内心驚いていた。

 

男子でここまで戦車の操縦がうまくなったことにだ。

 

「(一目惚れで彼に声をかけたけど、いい原石を見つけたわ)」

 

その気持ちとは裏腹に気分は高揚していた。

 

自分の娘の婿(自分の息子)として迎えようとしたのだが、戦車道のセンスもとても高かったのだ。

 

「名前をまだ聞いてなかったわね。名前と学年は?」

 

「伊藤巧。小学6年生」

 

戦車を夢中で操縦する巧は素気のない言い方になっていた。

 

「(黒森峰の中等部に入学させれば・・・)」

 

しほの野心が心の中で大きく増幅していた。

 

「しほさん。終了の時間ですが」

 

菊代がティーガーⅠのキューポラを開けてしほに声をかけた。

 

「菊代。今行きます。あなたはそこに居なさい」

 

ちょこんと取り残された巧。

 

しほがティーガーⅠから出て行って少し時が経った。

 

外から声が聞こえた。

 

「この度はこんな機会を設けてもいただき感謝しています」

 

しほの声をただティーガーⅠの車内で操縦席で座って聞いている巧。

 

人に言われた事はよく聞く子であった巧はそのまま座って固まっていた。

 

そのうち外の声がどんどん減っていくのがわかった。

 

こちらに近づく足音と女性の言い争いの声。

 

「しほさん!あなたの帰りを待つ二人の娘が居るはずです!」

 

「菊代。あの子たちの為でもあるのよ。それにあんな逸材は居ないわ」

 

「ですがまほお嬢様とみほお嬢様はまだ小さいのですよ!」

 

怒号の声と足音が近づいてくる。

 

表情には出ていないが巧は内心怯えていた。

 

普段はこんな言い争いは絶対にないのだから。

 

「常夫さんが居ます」

 

「母親からも愛情は必要です!」

 

溜め息をついてしほの顔が変わった。

 

戦車道をしている時の軍神のような顔をしていた。

 

「菊代。黙りなさい」

 

「っ!?」

 

しほのその一言にまるで凍り付いてように動かなくなった菊代。

 

呆れた顔でしほは菊代を放置してティーガーⅠに戻ってきた。

 

「あなた家はどこにあるの?」

 

「近くにあります」

 

「そう。公道での操縦もしましょう。家まで乗って行きなさい。私がサポートしますから」

 

巧が静かに頷いて操縦レバーに手をかけた。

 

静かに前進して校門から出て行った。

 

「(短時間で細かな操作がこんなにできるように・・・)」

 

しほのサポートを受けずとも戦車の操縦は一流になっていた。

 

結局しほのサポートなく巧は自宅に着いていた。

 

「ここがあなたの家ね?」

 

「そうです。先生にお礼がしたいので上がってください」

 

巧は玄関の扉に手をかけて開いた。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

巧としほの声を聞いてのか、家の中から人が出てきた。

 

「おかえりなさい。巧その人は?」

 

家の中から出てきたのは巧の母親の久子(ひさこ)だった。

 

「戦車道の先生の・・・名前聞いてませんでしたね」

 

「そう言えば名乗ってませんでしたね」

 

しほが一礼をして名乗った。

 

「西住流師範の西住しほです。高校戦車道連盟の役員を務めています」

 

母の久子は驚いていた。

 

若き頃の西住しほは黒森峰での活躍で一躍有名人となっていたので母の久子はその事を知っていた。

 

だが息子の巧は驚かずに首を傾げていた。

 

「是非とも息子さんを黒森峰女学園の中等部に特待生として入学させたいと思い、来ました」

 

「く、詳しい話は中で!巧は客間に案内してあげなさい」

 

久子が引き返して行き、巧としほが置いてきぼりになった。

 

「先生こっちです」

 

しほの手を引きながら客間の方に案内して行く巧。

 

「(男の子の手だから大きいわね・・・)」

 

しほ心は自分の夫と手を繋いだ時よりも気分が高揚していた。

 

客間に案内されたしほは椅子に腰を掛け巧の両親を待っていた。

 

数分が経過した頃に騒々しい足音で巧の両親の二人が客間に入ってきた。

 

しほは立ち上がり挨拶をした。

 

「すいません時間を取らせて。西住しほです」

 

「父親の伊藤泰樹(やすき)です」

 

「母親の伊藤久子です」

 

社交辞令でお互いに挨拶を済ませて椅子に腰かける。

 

「今回は息子さんを黒森峰女学園の中等部に戦車道の特待生として勧誘に来ました」

 

「失礼ながら黒森峰は女子高では?」

 

「私の権限で特別に入学させる事ができます」

 

巧は普段は親の決めたことに何も言わないが今回は何か言おうと口をもごもごしていた。

 

「ですが如何せん家には息子を寮に住まわせるお金が・・・」

 

「心配ありません。戦車道の特待生は学費免除と補助金が出ますのでご心配ありません」

 

「それでも家の子が戦車道ができるなんて・・・」

 

「軽く戦車の操縦を教えただけで完璧に操縦出来ていました」

 

「まぐれでは?」

 

しほは机をバンッと叩いて立ち上がった。

 

「戦車道にまぐれはありません。あるのは実力のみです」

 

しほの言葉で巧の両親二人は委縮してしまった。

 

「ですが決めるのは本人です。巧君はどうしたいのですか?」

 

巧はズボンの裾をギュッと掴んで普段出さない大きな声で言った。

 

「戦車道がしたいです!」

 

しほは微笑んで頷いた。

 

そして二人の両親に目をやった。

 

「・・・わかった。巧、黒森峰に行きなさい」

 

「息子が迷惑をかけます」

 

息子の成長に母親は涙し、父は息子の背を押した。

 

しほは立ち上がり一礼をした。

 

「入学の書類は郵送させていただきます。卒業後すぐに熊本に来ていただきたいのですが・・・」

 

「構いませんよ。すぐにでも戦車道で指導をお願いします」

 

「ありがとうございます」

 

この1日の出来事が世界を大きく変える出来事の始まりとは誰も気付かなかった。

 

そして時は過ぎ巧は小学校を卒業して熊本に向かうのであった。

 

そして幼きまほとみほに会うのであった・・・

 

 

 

 

 

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