どこまでも手を伸ばす   作:ナナシ名無し

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カバディ少年の〈エンブリオ〉

 □【拳士】アーテム

 

 

 

「話は聞かせて貰ったわ!その話私も混ぜて貰うわよ」

 

 

 

 ・・・・・・、さあてどうしようか。

 取り敢えず無視しとこう。そうしよう。

 

「それじゃあクライム、初心者狩場に戻ろうか。今日ログインしていられる時間もそんな残ってないし」

「・・・わかった。行こうぜ、お前の〈エンブリオ〉もそのうち孵るだろ」

 

 クライムも考えは同じようだ。

 そのまま何食わぬ顔でその場を離れようとする。

 

「ちょっと!無視してんじゃないわよ!私も混ぜなさいってば!」

 

「そういえばトップPKになるって言ってたけど、具体的に何するの?」

「あー、具体的には何にも考えてねーよ?」

「何で疑問系?」

 

「ちょっとー?ちょっとってば」

 

「細かいことは良いだろ?取り敢えずレベル上げて、いい装備手に入れて、強い奴を狩る。それだけだ。PKになろうがそれは変わんねー」

 何も難しいことは無い。

 ひたすらに強くなり、強敵に挑み、狩る。

 基本的なゲームの遊び方。

 PKもそれと対して変わらないとクライムは言った。

 強敵、か。

「・・・なんかワクワクしてきたかも」

「いいねー。お前もノリノリじゃねーか」

 

「待ちなさい!待たないと攻撃するわよ!」

 

 ・・・さて、流石にこれ以上無視するのは可哀想だ。足を止めて振り向き、応対する事にする。

 クライムも僕を見て足を止めた。

 

「そんなに一緒にPKしたいんですか?」

「さっきは俺らの戦い止めた癖によ」

 

「・・・やっと止まったわね。後数秒遅かったら、本当に攻撃するとこだったわ」

 

 まさか本気であの爆音を街中で放つつもりだったのか?僕らの戦いを迷惑行為だと止めたのに?

 そんな事したら確実に迷惑プレイヤーとして掲示板に晒されたり、NPCに捕縛されたりするだろうに。

 

 ・・・もしかしてこの子、馬鹿か?

 

「別にPKに興味があるわけじゃないわよ。あんた達、そこそこ強そうだし私の下僕一号・二号にしてあげようと思ったのよ」

 

 ・・・・・・この子は何を言っているんだ。

 ロールプレイか?ロールプレイだな。まさかこんな往年のラノベに出てきそうなコッテコテのキャラが素の筈がない。

 きっとそうに違いない。

 

 どうにか言いくるめて立ち去ろう。そうしよう。

 そう思った矢先、

 

「ああ?何でおめーみてーなチビに従わなきゃいけないんだ?」

 

 何やってんだクライム。

 ちょっと短気すぎやしませんかね。

 それともなに?

 君もそういうノリのロールプレイなの?チンピラAみたいな言動して。

 

 目指すはトップPKでしょ。ドカンと構えてようよ。

 

「じゃああんた達、私と勝負しなさい。私が勝ったら、あんた達は私の下僕よ」

「上等じゃねーか。お前に俺らが殺れるのか?」

 

 

 ああ、もう戦う流れになってる。僕まだ〈エンブリオ〉も孵化してないのに。

 

 ん?

 

 何か今変な感覚が。

 

 

「それじゃどこか開けた所に行きましょう?街の外がいいわ」

「おう、ぶっ殺してやらぁ」

 

 あっ、〈エンブリオ〉が孵化した。

 えーっと〈エンブリオ〉の説明はーっと。

 

 メニューを開き、〈エンブリオ〉の欄を探す。

 あー、なるほど。そういう能力か。

 

「おい、行くぞアーテム。こいつに俺らの力を見せつけてやろうぜ」

 

「ちょっとー、あんたも速く来なさいよ。それとも負けるのが怖い?」

 

「・・・ごめんごめん。今行くよ」

 取り敢えず、この爆音少女で試すとしよう。

 

 

 ◇

 

 

 □【拳士】アーテム

 

 さて、やって参りましたのは〈イースター平原〉。王都アルテアの東門を抜けた先にある初心者狩場の一つだ。

 初心者プレイヤー達が一生懸命に手持ちの武器を振るい、〈エンブリオ〉と共に戦っている。

 彼らのような真っ当な初心者に対して、いきなり対人戦を始めようとしている僕らは、極めて異質だろう。

 

 ・・・はあ。本当に何でこんなことに。

 

「それで?どっちが先にやるの?」

「俺に決まってんだろ。で、ルールはどうすんだ?デスペナになるまでやるわけにもいかねーだろ」

「初撃を当てた方の勝ちで良いんじゃない?」

 

「それでいいわ」

「異議なし」

 

 さて、邪魔にならないように離れておこう。

 十メートル位でいいかな?

 僕は邪魔にならぬよう距離をとり、二人へと視線を移す。二人は各々の〈エンブリオ〉を構え、準備万端といったところ。

 殺る気まんまんだなあ。表情が恐い。

 

 

「それじゃあ始めていい?」

 

 

「ああ」

「いいわよ」

 

 

「それじゃあいくよ。ーー始め!」

 これから起きるであろうアレ(・・)に備え宣言と同時に耳を塞ぐ。

 そして、

 

 

『《ハイパーヴォイス》!!』

 

 

 スキル名の発生と同時に放たれた爆音。その音の過ぎ去った後には、僅かに抉れた緑の大地と、遠くで横たわるクライムの姿があった。

 ・・・やっぱりこうなったか。

 ていうか頑丈だなクライム。デスペナになると思ったのに。

「頑丈ねあんた」

「いってー」

 爆音少女の声に答えるように、痛い痛いと言いながら、クライムがよろよろと立ちこちらへと歩いてくる。

「相手がメガホン持ってたんだから音による攻撃が来るって分かるでしょ普通。何で何の準備もなしにこの喧嘩買ったの」

「一応避けるつもりだったんだよ。速すぎてよけられなかったけどな」

 どう避けるつもりだったんだよ。

 相手の攻撃は音速だぞ?

 

 

「あんたもやる?」

 少女がポーションらしきものを飲み干すと、こちらに聞いてくる。

「当然」

 僕の〈エンブリオ〉の能力からすれば確実に勝てるだろう。それに今の攻撃は強力だが、欠点もある。そこを突けばいい。

 

 その場で軽く屈伸。

 それからクラウチングスタートの体勢になる。

 準備完了。

 

 

「クライム、いつでもいいよ」

「私もいつでもいいわよ」

 爆音少女がメガホンを此方に向けながらそういう。

 

 

 

「よーし始めるぞ。3,2,1ーー始め!」

 

 

 

「《爆天》」

『《ハイパーヴォ、っ!?』

 爆音は一つ。

 僕の背後で起きたソレのみ。

 相手のスキルが発生することはなく、僕の拳が爆音少女を突き飛ばした。

 

 

 音速の攻撃をどう攻略する?

 “相手の発声の前に攻撃すればいい(・・・・・・・・・・・・・・・)”。それが一番確実で楽な方法だ。

 

 

 

 《爆天》。

 生まれたての僕の〈エンブリオ〉、【爆天風刃 フラカン】のアクティブスキル。

 自身を弾丸の如く弾き出す、風の爆弾。

 

 

 別に本当に弾丸と同等の速さで進むわけではないと思う。

 けど、それで充分。例え音速の攻撃であっても、本人まで音速で動いているわけではないのだから。

 そして、彼女が発声を終える直前に、僕のスキルの発声は必ず終わる。

 

 

 7文字と4文字。

 

 どちらの方が速く読み終わるかなど、それこそ愚問というものだ。

 

 

 ◇

 

 

 □【暗殺者】クライム

 

 ありのまま今起こったことを話すぜ!

 俺が爆音に吹き飛ばされ負けた後、アーテムと爆音少女の戦いが始まったと思ったら、いつの間にか爆音少女が遠くへと吹っ飛んでいった。俺を一瞬で倒したあの爆音少女がだ。

 何を言ってるかわからねーと思うが俺も自分で何を言ってるのか良くわかんねー。

 だが一つだけ言えるのはアーテムの野郎が、爆音が放たれる寸前にあの爆音少女をぶっ飛ばしたってーことだけだ。

 

「すげーなアーテム!何やったんだ今?」

 スキルの反動か爆音少女と一緒に吹っ飛んでいったアーテムへ駆け寄り、その勝利を褒め、どんなスキルを使った結果こんな事になったのかを聞いてみるとする。

「ああ、〈エンブリオ〉が孵ったんだ。ほんのついさっき。それを使って、相手がスキルを使う前に殴り飛ばしたんだ。勢い強過ぎて自分まで吹っ飛んだけど」

 どうやらようやく〈エンブリオ〉が孵ったらしい。今の攻撃から考えて、爆発を使う〈エンブリオ〉か?けど、爆発の時、火は出てなかったよな。

 じゃあ何だ?風とかか?

 

 

「ていうか容赦なさすぎ。少女相手に全力で殴るのかよ」

「・・・お前の武器よかましだろ」

「それもそうか」

 

 

 

 ◇

 

 

 □【拳士】アーテム

 

「屈辱だわ」

 起きた少女が開口一番放ったのは、そんな毒に溢れた一言だった。まるで拗ねたようにほっぺを膨らませそっぽを向いている。

 流石にやり過ぎたか。

 もう一方のスキルをつかえば良かった。

「屈辱なのだわ」

「いやそんな二度も言わなくても」

「まさかスキルを使う前にやられるとは思わなかったわよ!何よあれ!」

「いや、ただスキルで自分をぶっ飛ばしただけだけど」

「そんなスキルを持った〈エンブリオ〉が生まれる何て、あなた変態に違いないわね」

 

「ほう?負け犬が偉そうにほざくじゃねーか」

 

 

『お前が言うな!』

 

 

「それで?こっちが勝ったわけだけど、どうする?クライム」

「仲間にしてやろう」

 

 

『は?』

 

 

「仲間にしてやるって言ってんだよ。お前強いし。何より、未来のトップPKとなる俺を倒した女だ。良い戦力になる」

「確かに強いスキル持ってるし、戦力になるってのはわかったけど、何でそんな偉そうなんだクライム」

 何かこいつのこと少し分かってきた気がする。あれだ皆に愛されるタイプの馬鹿だ。

 

 

「・・・わかったわよ。仲間になればいいんでしょ」

「お?以外と話がはえーじゃん」

「負けたのだから勝者達に従うわよ。けど覚悟しておきなさい!いつかあんたらを服従させてやるんだから」

「おっしゃ。俺はクライム、こいつはアーテムだよろしくな」

「よろしく」

「・・・クミンよ。よろしく」

 

 こうして、僕ら三人はパーティーとなった。

 

 果たしてこの三人で上手くやっていけるだろうか?

 不安も多いが、取り敢えず良いスタートダッシュを踏み出せたのではないかと思う。

 

 

 To be continued.


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