サバイバル・オブ・ザ・モモンガ   作:まつもり

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第十九話 動像

王都リ・エスティーゼの西側に位置する住宅街。

多くの集合住宅が建っており、住人には職人や兵士等が多い。

 

王都では中流程度の収入を得ている者達が多く住む場所だった。

 

時刻は真夜中だが、その区画は現在怯えや不安の混じった声で騒然としていた。

 

通りに面した集合住宅の窓から顔を出す者達が見つめているのは、土がむき出しになった道を彷徨く人型の物体。

この場にいる殆どの者は見た事がないであろうそれは、王国では魔術師組合の拠点くらいでしか存在しない人造のモンスター、ゴーレムだった。

 

荒く削った木製のパーツを人型に組み合わせた人形と、茶色い土を捏ね上げたような歪な人形。

それらがまるで自分の意思を持っているように動き回る光景は、住人達が恐怖を覚えるのに十分だった。

 

そして、その様子を魔法で登った屋根の上から興味深そうに伺っている者も一人。

 

(今の所、人を襲う気配はない。 ノンアクティブモンスターという事か?)

 

ユグドラシルのモンスターは、プレイヤーを見ると直ぐに襲いかかってくるアクティブモンスターと、敵対的な行動をしない限り襲ってはこないノンアクティブモンスターの二種類がいる。

 

もし召喚されたモンスターにもこの方式が適応されたなら、ゴーレム達が歩き回るだけで大人しくしている理由は理解できる。

 

(都市の中に現れたモンスターを、暴れださないとは言え放っておく事はないだろう。 予定通り、この世界の人間の戦いを見るか)

 

ンフィーレアに依頼書の件と、モンスターの出現の因果関係に気づかれにくくする為、依頼書を使用可能にしてから一週間待った。

場所が街中という事もあり、今回モモンガに戦う気は全く無く、透明化により隠れながら現地人の戦闘を観察する事を目的としている。

 

(さて……、少し待つか)

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

王都の魔術師組合に所属するマジックキャスター、ログワルドは目の前のモノをじっと見ながら眉を顰めていた。

 

高度な魔法により動作する意思なき人造、ゴーレム。

最も弱いとされるものですら、高位のマジックキャスターが数人がかりで一年間はかけなければ作成出来ない。

 

王都の魔術師組合本部にも木動像(ウッドゴーレム)が二体、警備兵として配置されているが、あれは戦力として期待されているというよりも、組合の技術力と組織力を示す象徴として置いている面が強かった。

 

この都市の一角に、そんな魔法技術の粋を集めた存在が大量に出現したのは三日前。

始めに対応に当たった王都の警備兵達は、ただ歩き回るだけで暴れたり、人を襲ったりはしていないゴーレム達に縄をかけて移動させようとしたらしい。

 

しかしゴーレム達は拘束しようとした瞬間に今までの様子が一変し、対応に当たった兵士達を襲い出す。

その時に暴れだした木製のゴーレム三体は、二名の死者と負傷者を多数出しながらも警備兵の手で鎮圧。

 

兵士だけでは手に負えないと判断した警備隊は、冒険者組合に応援を要請し、残りのゴーレムは全て冒険者が討伐してしまったらしい。

 

確かに出現したゴーレムは何らかの敵対的な行動を取らなければ人間を襲わないようだったし、一体一体相手出来るのなら、比較的実力の低い冒険者チームでも討伐は出来るだろう。

 

事件の発生した時刻が真夜中だった事もあり、魔術師組合がこの出来事を知った夜更けには、ゴーレムは一体残らず討伐されてしまっていた。

 

「愚か者どもがっ!」

 

思わず罵声を上げてしまう。

 

魔術とは森羅万象に干渉し、秘められた世界の秘密を暴く至高の学問にして、無限の可能性を秘めた技術である。

そうログワルドは信じているのだが、残念ながら王国の政治を決める上層部は、どうも魔術を軽視しているらしい。

 

病気を治したり傷を癒したりという、分かりやすい奇跡を見せつける事が出来る神官とは違い、低位階の魔法しか使えない魔術師は生活に密着した活動をしている事が多い。

 

土木工事や香辛料等の資源の生産、探知系の魔法を使用した警備業務。

それらは無くなれば確かに困るものではあるが、神官の魔法とは違い、無くては命に関わる場合は少ない。

 

それに魔術師は神官よりも強力な攻撃魔法を習得しやすいが、例えば国家間の戦争に魔術師が参戦する事は滅多にない。

優秀な魔術師を一から育てる時間と手間、才能の希少性を考えると、軍に組み込んで組織的に運用するのは至難の技だし、それよりも一般的な戦士を多数育成する方がよほど簡単で、戦死した場合の損失も少ない。

 

普段の活動が地味で、戦場に駆り出す事もしにくい魔術師の王国での評価は低く、上層部の中には手品師と同列扱いするものもいるくらいだ。

 

だからこそ、王都に緊急事態が発生した時も魔術師組合が直ぐに頼られる事は無く、全てのゴーレムが破壊されてから事後調査を依頼されただけだった。

 

実際にゴーレムを作成した経験もあるログワルドが、ゴーレムの残骸の中から比較的まともな部位を並べて調査する内に、ある事に気がついた。

 

何というか、全体的に作りが粗雑なのだ。

形が整い、丁寧に削られた滑らかな形状をした魔術師組合にある木動像(ウッドゴーレム)と同様に、通常はゴーレムの体を作成する時は、腕のいい職人に依頼して最高級の材料を加工してもらう。

 

多くの手間と人手、そして金が掛かるゴーレムの作成に取り掛かる時は、どの段階に置いても手間を惜しまないものだ。

 

だが今回現れたゴーレムは、まるで見習いの職人が急ごしらえで作ったような歪な体をしている。

確かに多少形が荒くても、素材や込められた魔法の力が同じならば、能力に大きな変化があるとは思えないが、せっかくゴーレムを作るなら見た目ですら少しでも良いものにしたいと思うのが人情だろう。

 

これを作成した者達は余程の変わり者だった、あるいはゴーレムの作成を大した事ではない、と考えていた。

 

後者は普通ならば有り得ないが、合計二十五体ものゴーレムが現れたという事を考えれば、もしかしたらと思ってしまう。

 

今回の事件を引き起こした者の動機を明らかにする事は、魔術師組合の領分ではないし、追求するつもりもない。

だがゴーレムの作成者が、簡易的にゴーレムを作る方法を知っているのだとすれば……。

 

ログワルド自身の探究心を満たしたい気持ちも大きいが、同時に王国における魔術師の地位向上にも繋がるだろう。

 

せめて動いている状態のゴーレムを調査出来れば良かったのだが。

ログワルドはそう心の中で呟き、今日何度目か分からないため息を吐いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ゴーレムと人間の戦いを見る限り、レベル100に到達しているような強さを持つ存在は確認出来なかったが、一体にかなり苦戦している者達もいれば、一人で数体を余裕で相手取るような者もいた。

 

そしてやはり、アイテムや金貨のドロップは無し。

アイテムはドロップしない事も多いが、金貨はどんなモンスターも必ずドロップするので、依頼書で呼び出したモンスターは倒しても何もドロップしないと考えていいだろう。

 

(前回といい、今回といいモンスターの出現場所は、依頼書が修正された地点からそう遠くはない。 人里から遠く離れた場所で使えば、目撃される可能性が少ない場所にモンスターを出現させる事も出来るかも知れないが、そんな所にンフィーレアを連れて行く自然な理由が思いつかないな……)

 

しかも、もしモンスターに襲撃されてンフィーレアを失えば、二度と依頼書を使えない可能性もある。

 

悩むモモンガの脳裏に先日、ンフィーレアが漏らした言葉が浮かんだ。

未だに蘇生魔法の使い手の情報は見つからないらしいが、見つかったとしてお金はどうやって稼ぐつもりなのか。

モモンガのその問いかけにンフィーレアは、将来は冒険者になろうと考えている、と漏らした。

 

(街道での護衛やモンスターの討伐を生業とする職業だったな。 ……ンフィーレアが冒険者になれば、都市から遠く離れた場所に行くこともあるだろうし、強くなればモンスターに襲撃されて死ぬ可能性も減るだろう。 ただ、このままでは時間が掛かりそうだな……)

 

ンフィーレアは今日も魔術師が開いている私塾へと通っている。

ただモンスターを倒せばレベルが上がり、次々と魔法を覚えられるユグドラシルとは違い、この世界では難しい理論を長い時間をかけて学ばなければ、魔法を使えるようにはならないらしい。

 

(この世界で強くなる条件はどうなっているんだろうな……。 出来ればンフィーレアにも、早く強くなって欲しいけれど……)

 

まあ、焦り過ぎても仕方ない。

モモンガはそう考え、今日も文字の勉強を始める事にした。

 

 

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