走る。
俺とアフィンで、声の聞こえた方へと。
途中道が分かれていても後で合流するような、一本道と言える道程だったので、迷うことは無い。
遭遇するダーカーも走りながらテクニックで消し去る。
普段の俺なら考えられないハイペースだ。
「相棒!」
その隣で、文句も言わずに並走するアフィン。
当の本人である俺でさえ半信半疑だと言うのに、助けを求める声が聞こえたという言葉を信じて付いてきているのだ。
図抜けたお人好しだと言えよう。
或いは、それ程までに今の俺が切羽詰まっているのか。
「探知はどうだ!? ダーカー以外になんか反応あったか!?」
「ダーカーと争ってる原生種しかいねぇよ! だが、こっちだ! 多分!」
「わかった!」
そこでわかったと言えるお前、すごいと思うよ。
正面に見えた岩を回り道せずに飛び越える。
立ち塞がった土砂崩れもスピードを落とさずにテクニックで吹き飛ばす。
(くそ……俺の探知範囲は500m。こんだけ走ってて、まだそれに引っ掛からねぇのか?)
その個体から漏れ出る内蔵フォトン量の大小を量れる
しかし、今の今まで範囲を最大限に広げて、その隅々まで注意を払っても、未だ人間らしき反応がない。
ここまで来ても見つからないなら、声が聞こえる筈など無いと言うのに。
なんで俺は奥地を目指して走ってんだか。
(それも、この引っ張ってくるみたいな感覚のせいだ)
声は途切れたのに、まるで俺の手を引いて導くかのような感覚。
その気になればそれを振り払うことだって出来るだろう。
だが、まずその気にならない。
俺がそれを望んでいるかのような気さえしてくるのだ。
(あー腹立つ。こういう訳のわかんないものに振り回されるの嫌いなんだよな)
出来る事と、起きた事だけを信じる。それは変わらない。
だから、これはこれで事実として受け止めよう。
問題はその中身があまりに不明瞭で気持ち悪いことだ。
シオンといい、今の俺といい、この感覚といい。
誰かに操られているようなのにも関わらず、何故か全くそんな気がしてこない。
帰ったら、あの女をきっちり問い詰めなきゃ……。
「ん?」
「相棒? 見つかったか?」
走りながら首を傾げた俺に、アフィンは聞く。
「いや、確かに新しい反応だが……これは違うな。普通にアークスの二人組だ」
「アークス? それって、訓練生か?」
「それも違う。片方は普通ってのも違う。こいつは、…………強いな」
もう片方は一般のアークスと変わりないが、強い方はあのゼノさんと同等以上だ。
アークスロビーに行って分かったが、ゼノさんは他のアークスと一線を画している。
(けど、なんだ? この禍々しい感じは。純粋悪のダーカーとは違う、ドロドロした気味の悪さ――――――っ!!?)
その時。
俺達の後ろから、また新しい反応。
さっきのとさえ比べ物にならない、とてつもなく大きく、悍ましい反応が。
俺達に急速接近していた。
(なん、だよこのスピード……!? 四足歩行の原生種どころか、キャンプシップだってこんなに速くねぇぞ!?)
「アフィン! 隠れるぞ!」
「え? き、急にどうしたんだよ!?」
「ヤバい奴が近付いてきてる!! このままじゃ、接敵することに―――」
最後まで言えなかった。
そして、立ち止まざるを得なかった。
目の前に現れたから。
俺達の後ろから疾風を伴って通り過ぎ、そいつが。
仮面の男が、俺達に相対していた。
「……おいおいおいおい。なんだよあいつ……なんか気味悪い」
アフィンが及び腰になってそう言う。
気味が悪い、なんてものじゃない。
こいつ……底が見えない。
レギアスを見た時だって、ここまでの底知れなさは感じなかった。
「人間……だよな? でもなんだ、これ……」
「……アフィン。絶対にコイツとは戦うな」
「え?」
「コイツ……間違いなく、六芒均衡より強い」
「は、はぁ!?」
驚愕の声が上がる。
それはそうだろう。今俺が言ったことは、アークスの象徴たる六芒均衡よりも、目の前のこの仮面の男の方が強いということなのだから。
仮面の男は、急ブレーキを掛けて 片手を地面につけた体勢だ。
そこから、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
「俺が直接知ってる六芒均衡はリーダーのレギアスだけだが、レギアスが六人揃ってもコイツに勝てる気がしない。それだけ、コイツは底が見えない」
「ど、どうすんだよそんな奴!? 俺等だけで勝てるわけないじゃんか!?」
「どうするかって? 決まってんだろ……」
フレアを取り出し、構える。
同時に
フォイエを最大並列起動数、60発起動。
全弾着弾目標――――――仮面の男。
「三十六計逃げるに如かず!!」
発射した。
着弾を確認しようともせず、アフィンのいる左側へと走る。
「うひぃ!」
アフィンもそれに連れ立って左側に走った。
勿論、あんな化物クラスの反応を持つ奴をこんなので倒せるなんて思っていない。だが着弾さえすれば、フォイエの爆炎と、その後の黒煙で目くらましくらいは出来る筈だ。その間に身を隠して、あいつをやり過ごす。
まともに相対しようなんて思っちゃいけない。
何よりも命を優先。
果たして俺のフォイエ60発は、上下左右から仮面の男へと襲い掛かり―――。
「……ナ・グランツ、局所展開」
その全てが。
突如出現した光膜のカーブに逆らわず、仮面の男の直前で上空へと曲がっていった。
「はぁ!?」
軌道が曲がって天高く打ち上げられたフォイエ全弾は、上空で巨大な爆発を起こす。
俺が予想していた結果は叶うことなく、俺達と仮面の男の視界は晴れたまま。
(なんだよ今の!? ナ・グランツ!? あれは、光のドーム内で光線弾を反射させて攻撃する上級テクニックだろうがよ!?)
俺の驚きを意にも介さず、仮面の男は武器を出現させる。
まるでダーカーを出現させるかのように、禍々しく。
一見すれば、フォトンで構成された刀身が青ではなく紫であること以外、何の変哲もないコートエッジ。
それを持って、仮面の男はこちらへと向かってくる。
一歩で回り込まれた。
「え?」
先行していたアフィンの前に出現した仮面の男は、呆けた隙を見計らって腹部に回し蹴りを叩き込む。
「ぐあぁっ!」
「アフィン!」
蹴飛ばされたアフィンは、その先にあった木に激突して、その動きを止める。
木にしても細くはない樹木が、大きく揺れた。
その結果を確認し、俺へと向かってくる仮面の男。
「……殺す」
「くそっ! なんなんだテメェはぁーーー!!」
アイテムパックからブーステッドを呼び出す。
掴んだ瞬間に、
「ノヴァストライク!!」
身体を基点に横回転する
前にロックベアに使ったツイスターフォールとは縦と横の違いがあるが、
が。
ガキンッと。
鉄同士が衝突したような音を立てて。
左手で止められた。
「うっそだろお前!!?」
ロックベアを割砕したあの時の一撃以上の威力だぞ!?
どういう皮膚の硬さを―――くっ!
左手でブーステッドを受け止めたまま、右に一回転して、右手に持ったコートエッジを薙いでくる。
俺の首を狙ったそれを、しゃがんで避けた。
髪の毛が一部斬られたような感覚。
紙一重ならぬ、髪一重。
ブーステッドをアイテムパックに仕舞い、新しい武装を呼び出す。
「エレキ!!」
電撃を纏った双小剣。それをクロスさせ、打ち下ろしてきたコートエッジを両手の剣で受け止めた。
こっちの手が痺れてくるような重い一撃だった。
だが……次に痺れるのはてめぇだ!
エレキにフォトンを流し込み、電撃を増幅させる。
大型エネミーでさえスタンさせるであろう最大出力だ!
「…………」
(……おいおいおい。効いてねぇのかよ!?)
電撃にも耐性ある身体とかどうしたら―――いや、違う。
コイツ、全身を覆うようにフォトンを展開してやがるのか!
その鎧が、電撃を受け流して地面にまで電撃を逃がしてる。
そうか、くそ! さっきブーステッドを素手で受け止めたのも、この鎧があったからか!
「ぐがっ!?」
腹を押すように蹴られた。
さっきのアフィンのような回し蹴り程ではないようだが、それでも胃の中の物が逆流しそうなヤクザキック。後ろにあった壁に激突させられる。
壁と衝撃のサンドイッチをされた。
「がっ……く、そったれがぁ!」
痛みを振り切り、すぐさま立ち上がった。
が、うつ伏せに倒れる。
「く、ぅ……!」
くそ、が……。
こんなところで……こんな訳の分からないまま、終われるかよ……!
俺はまだ、何にも――――――
その時。
意識が一度途切れた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『……これで、彼女は苦しみの連鎖を離れ、安らぎを得る』
――――――え?
『【深遠なる闇】も、消えて果てる」
――――――誰だ、お前は?
『ああ、長かったな……』
――――――俺は今、誰だ?
『ここまで、とても、長かった……』
――――――俺は今、何を想って、泣いて……?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――――――っ!?」
意識が戻ってくる。
痛む身体と、それに広がる土と草の感触。
顔を上げれば、そこには仮面の男が。
(なんだ、今のは……?)
まるで自分が別の誰かになっていたかのような、そんな感覚だった。
俺の知らない誰かの記憶を、追体験したような。
夢の中で誰かになっているような感覚を、リアルに味わったかのような……。
「……っ!」
仮面の男は、左手で頭を押さえていた。
しかし頭を振って、何かを振り払うような仕草をすると、左手を空に掲げた。
「! ぐ、ぉお……!」
ヤバイ。
何をするつもりか分からねぇが、このままだと確実に死ぬことだけは分かる。
あの左手。
掲げた先に、何かヤバいものが集まろうとしている。
(立てよ……! こんなところで、死ねるわけねぇだろうが……!)
「……『
その時。
俺の後ろから、仮面の男へと何かが飛来してきた。
「!?」
「っ!」
何かを集めようとしていた仮面の男はそれを中断し、飛来してきたものをコートエッジで受け止める。
その飛来してきたものは、人だった。
巨漢と言える、大柄の男。青い髪をオールバックに纏めた、鋼拳を装備した黒いコートの男だ。
(コイツ、さっきの……!)
「おいおいおい……気紛れでも、たまには任務に来てみるもんだなぁ。面白ぇことになってるじゃねぇか」
仮面の男が右手の鋼拳を弾く。
首を薙ごうと振るうが、躱す。
大柄の男が左のフック。躱される。
大上段から振り下ろされたコートエッジと、右拳の鋼拳が鍔迫り合いになる。
「うまそうな獲物が二匹も同時に……くふ、くふふっ! ふははははっ!」
その男は、感じる禍々しさそのままに、狂おしく笑った。
(……二匹?)
仮面さん、やることなすことえげつない。