「よっす。マトイ」
「あ、ハクメイ。またお話に来てくれたのかな? それはとっても嬉しいよ」
この前花を贈ってからというもの、マトイは少しだけ明るくなった。
まだ何か遠慮がちなところは抜けていないが、話し方もスムーズになってきたと言えるだろう。
記憶の方はさっぱりだったようだが……摘んできた甲斐はあったというものだ。
侮り難し、花パワー。
全面的に信じるわけじゃないが、今後女に贈る物の優先度を上げておこう。
「わたし、他の人と話すのがあんまり得意じゃないし……というより、ちょっと怖くて……」
「怖い?」
「フィリアさんは、何かトラウマでもあるのかも、って言ってたけど、詳しくはわからない」
ふむ。怖い、か。
アークスの誰かと何かがあって、記憶を閉ざしてしまったのか。
そうすると、頭を打ったとかの物理的なショックではなく、心因的なショックなのかもしれないな。
物理的だとアークスがマトイを攻撃して、その衝撃で記憶喪失とかになってしまう。
それは困る。
犯人を見つけ出さなきゃ気が済まなくなる。
こんなに可愛いマトイを傷付けた奴に地獄を見せてやらなきゃ、他の事に集中できない。
とはいえ、見つけた時は外傷なんてなかったしな……。
「……でも、なんでだろう。あなたとなら、大丈夫。普通に話せる。うん」
内側で黒いことを考える俺に、マトイは柔らかく微笑む。
「だから、別にいいんだ。わたし、何も覚えてないけど、安心して話せる相手がいるから、いい」
「……そーかい。あ、そうだ。ジェネとはどうだ? 仲良くやれそう?」
「うん。やっぱりちょっと怖いけど、他の人よりちゃんと話せそう。ジェネちゃん、良い子だし」
「ちゃん?」
「あ、その……マトイちゃんって呼ばれてるから、わたしもそうした方がいいかなって。だめ、かな?」
「……それは本人に聞いた方が良いな」
多分喜び過ぎて抱き付かれるのだろう。
目に浮かぶ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「セラフィさん、今回の任務は三人チームだと聞きました。あともう一人は……?」
ショップエリアに呼び出され、俺とジェネ、セラフィさんが三人集まっていた。
このエリアに備え付けられているテーブルを挟んで、俺とジェネが隣り合い、セラフィさんが向かい合う形で椅子に座っている。
「もちろんご紹介させて頂きますが、その前に。お二人にチップについて説明しようかと思います」
「チップ、ですか?」
「例の新技術、ってやつですかい?」
「はい。まず、これがチップです」
セラフィさんはテーブルの上に、正方形のカードのような物を二つ置く。
左のそれ―――チップには、モノメイトが描かれ、右のチップにはナヴ・ラッピーが描かれていた。
ふむ。
これだけ見りゃ、ただのカードゲームのカードだけど。
「このチップの中にはそれぞれ、モノメイトとナヴ・ラッピーが入っています」
「入っています?」
「はい。あ、もちろんエネミーが出てきたりはしませんよ? モノメイトは出てきますが」
そう言って、セラフィさんがモノメイトが描かれたチップを人差し指でタップすると、そのチップの中からモノメイトが出てきた。
明らかに中にそれが入るような大きさじゃないのに。
モノメイトが出てくるのと合わせて、入っていたチップからモノメイトの絵が消える。
「わ! チップからモノメイトが!?」
「……小さいアイテムパック、みたいなもんですかね?」
「ええ。本来のアイテムパックの積載量を減らす為に、こうしてチップの中に入れていくことで小さく納め、アークスの皆様がより多くの荷物を運べるように、というのがチップ開発の始まりです」
成程。確かにモノメイトと言えどこれだけの小ささに納まれば、アイテムパックの中身は節約できるな。
アイテムパックの積載量は、中に入っている物の大きさで決まる。
武器や回復薬、素材その他諸々を考えると、精々50個かそこらってところだ。大金を払えば特別にその容量を拡張することも出来るが、そうするアークスは極めて少ない。しかし、実際問題手持ちの回復薬が無くなったことが原因で息絶えたアークスもいる。ならば、袋の容量を増やすより、入れる物を小さくした方がいいんでは? と考えたわけだ。
容量無限の倉庫を持ってる俺には無用の長物だが。
まぁ不自然に多くの物を取り出せてしまうと目をつけられるから、その辺はいいかな。
「しかしチップの研究を進めていく内に、このチップにエネミーを入れることが可能になりました」
「で、捕獲したナヴ・ラッピーを入れてみたのがこれと」
「お話が早いですね。その通りです。これはモノメイトのように、出てくることはありません」
セラフィさんがナヴ・ラッピーが描かれたチップをタップするが、モノメイトのように出てくることはない。
「中の物が取り出せなくなっているチップを、サポートチップ。出し入れ自由のチップをアクティブチップと分けています」
「なるなる。それで、エネミーを入れたサポートチップの恩恵は?」
隣のジェネがちんぷんかんぷんと言う顔をしているが、そんなに難しい話か?
セラフィさんがデバイスからスクリーンを呼び出し、少しばかり操作すると、俺とジェネにメールが届く。
「お二人に今お送りしたソフトを登録していただければ、装備パレットが使えるようになります。まずはご登録ください」
「装備、パレット?」
「実際に見て頂いた方が早いかと」
そう言われ、ジェネはメールを開き、登録を進める。
…………解析してみたが、問題なさそうだな。
簡単に登録を済ませる。
すると、スクリーンに空欄が五つ浮かんだ画面が映った。
「これは?」
「それが装備パレットです。これに、先程のサポートチップを入れます」
セラフィさんが俺のスクリーンの空欄の一つに、サポートチップを差し込む。すると、差し込まれた先から吸い込まれていくようにチップが消えていく。
完全にその姿を消すと、空欄が浮かんでいた場所に、先程のチップと同じくナヴ・ラッピーが描かれていた。
「これで、ハクメイさんの装備パレットに、ナヴ・ラッピーのサポートチップが登録出来ました」
「登録して、どうなるんです?」
「なんと、登録したサポートチップの中に入っているエネミーから、その力を一部引き出すことが出来るのです!」
「ほぅ」
「えぇ!?」
驚くジェネ。
確かに、ほんの少しだが身体が強くなった感じがする。
体内フォトンの量も増えているし……フォトン感応力も僅かだが大きくなっているな。
こいつはいい。
思わず笑みが零れてしまったのを手で隠し、質問を重ねる。
「一部ってことは、全部じゃないんですね」
「ええ。エネミーのエネルギーをアークスのエネルギーに変える、そのエネルギー変換を行う上での変換効率。あとは単純に技術不足です」
「でも、中に入っているエネミーが強ければ、その分変わるエネルギーも大きくなって、アークス自身も強くなれる」
「その代わり、強いエネミーを入れておけるだけの強力なチップを生産する必要があります。強いチップ程生産コストも増えるので、強さと数は反比例すると思っていてください。そのエネミーをチップ化するのも一苦労ですから……」
単純に大型エネミーを捕獲・チップ化させて、登録で強化ー! ってわけにもいかないってことか。
となると、まずは量産されてるチップで弱い個体をチップ化させていって、このパレットを埋めてく方が先決か。
「えっと……つまり、どういうことでしょう?」
「これにチップを登録させときゃ強くなれるってこと」
「す、すごいです!」
めっちゃ簡潔に述べた俺の結論を聞いて、ジェネは目を輝かせた。
「そう思って頂いて結構です。それでは、これをどうぞ」
そう言ってセラフィさんは、懐から新しくチップを取り出す。
今度は赤髪の子供が描かれていた。
……子供?
「クレイモアのウェポノイドチップです」
「ウェポノイド?」
ジェネが首を傾げると―――
「ったぁーーーー!」
「ひゃぁ!!」
「おおう!?」
触れてもいないチップから、何かが声を上げながら出てきた。
「よっしゃぁー! ようやくオレの出番だぜーーーいっ!」
「……なんだこいつ」
チップに描かれていた子供がそのまま出てきた。
いや……子供にしても小さすぎる。
サイズ的にはサポートパートナーより頭一つ分小さいくらい。そのサイズに子供の身体を縮めたという感じか。
赤い短髪に、橙色のくりっとした瞳。左頬には黒い絆創膏を張っている。そして、両耳を覆い隠すようにギアを着けていた。
服装は白と灰色のTシャツに、袖が短い黄色いジャケットを着て、ズボンは黒い短パンだ。
全体的にやんちゃな男の子ってコーデだ。
しかし一番気になるのは背中に生えているような形で剣、クレイモアの翼があることだ。
それが羽根としての役割を果たしているとは思えないが、とにかくそいつの身体は浮いていた。
一見すれば妖精のような何かである。
「アークス二名、ウェポノイド一名編成の、合計三名チームで動いてもらいます」
「その、ウェポノイドって?」
「ウェポノイドは武器のチップ化研究中に生まれました。クレイモアをチップ化する過程で生まれたのが、こちらです」
「つまり、武器が擬人化したと」
「そういうことです。人格を持ち、アークスに協力的であることから、その有用性が認められています。今回のチーム編成にウェポノイドが選ばれたのも、そのためなんですよ」
そりゃまた、すごいことしてくれるね。
ふふん、と何故かドヤ顔で浮いているウェポノイドは、とてもサポートパートナーのように心持たない機械生命体には見えない。
ここまでいくと、正に命を作ったと言える程だ。
「オレ、モアっていうんだ! ふだんはこのチップの中にいるんだ! よろしくなっ!」
「わたしの名前は、ジェネと言います。よろしくお願いします!」
「試験チームのリーダー、ハクメイだ」
「なーんだ、リーダーいるのかよ。オレもリーダーやりたかったなぁ……」
「そんなナリでよく言えたもんだなおい」
「ちっちゃくないやい!」
明らかにちっちゃい身体で憤慨するモア。
「ま、とりあえずよろしく。アークス新技術の結晶なんだ。期待しとくぜ」
「へへん! 期待しててくれよな!」
チョロイなぁこいつ。
とりあえずモアの小さい手を包む形で握手を交わす。
(…………?)
「このチーム編成で、行動を共にして頂きたいと思います」
「おう! おれが入ったからにはもう安心だぜ!」
「頑張りましょう!」
おー! と右手を天に突き出す二人。
仲良くなりそうだ。
波長が似てるのだろう。
「あ! そうだ! 新しい仲間が出来た事、マトイちゃんにも報告しなきゃです!」
「マトイ? ってだれ?」
「あー、まぁこれから会いに行くみたいだから」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「マトイちゃん。こちら、新しくわたし達の試験チームに入ったモアです」
「よろしくな!」
「よ、よろしく……」
セラフィさんと別れて、ゲートエリア。
メディカルセンター前にて、再びマトイと会っていた。
「モア。こっちは、わたしのお友達のマトイちゃんです。えっと……いい、ですよね?」
「だそうだが?」
「えっと、うん。わたしとジェネちゃんは、お友達」
「~~~~~~~~~っ!」
「わぁ!?」
予想通り、喜びで感極まったジェネに抱き付かれるマトイ。
いやー。美少女同士が仲良くしてるのは、見ててほっこりするね。
頬ずりまで始めたジェネに困ってこちらに助けを求めるマトイの視線を受け流し、モアに話し掛ける。
「保護対象でメディカルセンター通いのマトイだが、まぁ仲良くしてやってくれ。最初俺にしか心開かなかったからな」
「分かったってば!」
「いじわるー!」
さて、紹介も済んだし。モアの実力を測りにまたナベリウスに行きますかね。
短めに投稿。
チップを現実的に使うとこんな感じかなと思ったんですが、便利過ぎましたかね?