PSO2 ~煌々たる白明~   作:クビキリサイクル

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vs森林を駆る雌雄爪獣

 

 

 

 俺とジェネは、それぞれ別々の木の陰で息を潜めていた。

奴等の見分け方としては、鬣が大きく広がってる方がファングパンサー、鬣が身体を張っている方がファングパンシー、という具合だ。

 ファングパンサーとファングパンシーの両体に、動きはない。

 だが、たまたまではなく、明らかにこちら側を意識していた。

 

 

(こちらに気付いている……のは確実だとして、動かないのは様子を窺ってるだけか。はたまた正確な位置を掴めてないのか)

 

 

 気付かれたのはこの際仕方ないとしよう。

 問題はこの後どうするか。

 向こうが正確な位置を掴めてないなら好都合だが……確かめるか。

 ジェネを見る。

 ジェネもこちらを見た。

 

 

「…………」

 

「! …………」

 

 

 言葉なく、ただ左手で持ったタリスをジェネとは反対側に向けて下に振る。ジェネはそれを見て頷いた。

 これは事前に決めたサインの一つ。

 「俺がこっちに向けてスプラッシュを投げるから、お前はそこで様子を見てろ」という意味を持つ。上に振れば「投げると同時に敵に突っ込め」。上下に振れば「俺と同じ方向に走れ」。他には……まぁそれは今度でいいか。

 考えたサインを全部話したらモアと一緒に頭を抱えていたので、とりあえずこれは覚えとけと厳選したサインの一部だが、これはちゃんと覚えてたようだ。首を傾げたら後でお仕置きのつもりだったが、この分ならそれもなしかな。

 そんじゃ……始めるとするか。

 スプラッシュを投げて、離れた場所にある木々の間に停滞させる。

 

 

(……ザン!)

 

 

 声なく、テクニックを発動。

 PAとテクニックは、声に出さずとも発動は可能だ。声に出した方がそれに応える周囲のフォトンも反応し、より威力を高められるだけに過ぎない。

 今回は威力どうこうではなく、向こうがこちらをどう捉えているかを確かめるために放ったものだ。声に出して位置を捉えられたら元も子もない。

 スプラッシュも、向こうからは軌道が見えないように投げた。

 これで奴等が俺達を正確に捉えていないなら、スプラッシュの方向に行く筈。そこを横から突いてやるつもりだが、果たして……?

 風の刃が片方―――ファングパンシーへと向かっていく。それを見据えてファングパンシーは、()()()()()()跳んできた。

 

 

(チィ! 見つかってたか!)

 

「散開!」

 

「はい!」

 

 

 俺は左に、ジェネは右に跳ぶ。ファングパンシーが突撃と同時に繰り出した爪が、俺達が隠れていた木々に深い爪痕を付けた。

 両断とはいかなかったが、爪痕の深さに耐えきれず、木々は倒れていく。

 

 

(なんでバレた? ………臭いか? それとも、ブーストエネミーの特徴か?)

 

 

 ダーカーはアークスに強く反応するそうだから、その名残が侵食された個体にも出たのかもしれない。

 が。

 

 

(考えるのは後!)

 

 

 着地と同時に、反転。ファングパンシーに向かって走る。

 ジェネも少し遅れて、敵に向かっていった。

 チラリと、ファングパンサーの方を見る。

 奴は未だ大樹の上で傍観の姿勢。

 この共棲エネミー達は、一方が最初に獲物と戦い、消耗してきた途中からもう片方が参戦してくるのが狩りのスタイルなのだと資料で読んだことがある。ブーストエネミーとなっても、それは残っているのか。

 

 

「エレキ!」

 

 

 スプラッシュを仕舞い、エレキを呼び出して両手に持つ。

 ファングパンシー……めんどくせぇ。パンシーは俺の方へと向いて、木々を引き裂いた右前足とは逆の左前足を振り上げて、迎撃の体勢を取る。

 俺を引き裂いてから、向こうから見て左から来るジェネを迎え撃とうって腹か。

 引き裂かれた木々達が大きな音を立てて倒れる。

 迫る左前足。

 地面を這う横薙ぎの爪に対して俺は―――

 

 

「メギド!」

 

 

 ()()()()()()()()テクニックを発動し、爆風で跳んだ。

 

 

「グァ!?」

 

 

 跳躍の余地なく飛び上がった俺に反応できる筈もなく、パンシーの爪は空を切る。何の手応えもなく振るった前足に引っ張られ、パンシーの姿勢は崩れた。

 その隙を見逃すほど甘くはない。

 

 

「シュートポルカ!」

 

 

 身体のひねりと回転を利用した3連の斬り上げを繰り出した。

 一撃目は牙の中で一番鋭い犬歯を左側一つ。

 二撃目は左目。

 三撃目は左耳を半分切り裂いた。

 急所を斬られたパンシーから悲鳴が上がる。

 その頭を蹴り、横に跳躍。

 

 

「ジェネ! そいつの相手してろよ!」

 

「はい!」

 

 

 着地し、走る俺の背で、更に肉を裂く音。

 向かう先は、パンサーが上から見下ろしている大樹。

 走りながら俺はアイテムパックから、球状のものを取り出し、大樹に乗るパンサーの更に上に向かって投げる。

 

 

「?」

 

 

 それを見送り、パンサーは首を傾げる。

 が、すぐに興味を失ったのか、俺の方に意識を戻した。

 大樹に辿り着いた後も勢いを失わないように、大樹の周囲を回るように走る。その途中で大樹と大樹の間にスプラッシュを投げ、分離させて停滞させるのも忘れない。

 大樹の上空で投げた勢いを失い、重力に従って落ちようとする球。

 それに向かって、テクニックを発動。

 

 

「グランツ」

 

 

 小さな光の矢が六つ、球に刺さり、球が弾ける。

 そして、()()()()()()()()()が降り注いだ。

 

 

「フォイエ!」

 

「?! ギャォオ!」

 

 

 下から迫る俺が放った爆炎と、上から降ってくる液体のヤバさを、獣の本能が感じ取ったのか。

 パンサーはすかさず、パンシーがいた大樹に跳び移る構えを見せる。

 想定通りに。

 

 

「獣の考えることは単純で読みやすいなぁ!」

 

 

 走る勢いそのままに、俺は分離させたスプラッシュの破片、その一番低いものに飛び掛かった。

 とはいえ、俺の跳躍だけで届くような高さではない。

 しかし、届かせる方法がある。

 正確には届かせるテクニックがある。

 

 

「ゾンディール・弐式!」

 

 

 一番近くの破片に、()()()()()()()

 破片に到達したと同時に解除。続けて最寄りの破片にゾンディール・弐式。

 到達と同時に解除し、最寄りの破片でもう一度発動。

 その手順を繰り返していき、やっとこさ到達する。

 パンシーと同じ高さ、同じ地点に。

 

 

「!? バァア!!」

 

「ぅお!?」

 

 

 横っ面に現れた俺に、パンサーは身体の捻りだけで爪を振るってきた。

 咄嗟にエレキで防御したが、受けきれず胸に浅くない爪痕を一文字に刻まれる。

 同時に、パンシーに向かっていた勢いも殺され、飛ばされそうになる……が。

 

 

「クッソ! ゾンディール・弐式!」

 

 

 身体を捻ってくる直前に投げて、パンシーの首に張り付けたスプラッシュに、もう一度俺を引き寄せた。

 両足で首を固める。

 そうこうしてる内に、飛び移ろうとしていた大樹までもうすぐという所に来ていた。

 勿論これについても考えてある。

 さっき投げたのと同じ球体を、その大樹に向かって投げる、と同時に。

 

 

「フォイエ」

 

 

 その後を追うように、爆炎。

 大樹の幹の上面に球体が叩きつけられ、中の液体が飛び散る。

 その液体に爆炎が触れ。

 

 

 

 一気に燃え上がった。

 

 

「!?」

 

 

 もうわかると思うが、この液体の正体は油だ。

 中でも特に引火性が高い、俺特注の油。それを風船のようにすぐ破れる球体に詰め込んだもの。

 こんな森林だらけの地帯でぶちまけて引火しようものなら山火事待ったなしだが、この原野は広い。この大樹が燃え上がって横倒れになろうと、他の木に燃え移る心配がない。原野に生えている草も疎らで、連鎖的に木まで燃えることはないのだ。

 そして、パンシー。浸食されようと獣の本能には逆らえないのか、火に対する恐怖が尋常じゃない。

 立てる場所が一瞬にして燃え上がる火で埋め尽くされた大樹に着地し、燃え移る前に跳んだ。

 どこを目標にしてるわけでもない、ただ火から逃れる為の跳躍。

 中空から重力に従って落ちようとしているパンシーに、俺は笑った。

 多分凶悪な笑みだったろう。

 

 

「ダメだなぁ。そこは多少燃え移ってでも、俺を振り落とさなきゃ」

 

 

 目の前にあった右目に、エレキを突き刺した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『お、おいおい! あれ、大丈夫なのかよ!?』

 

『周囲に燃え移ることはないので、山火事になる心配はありません! ですが、倒木に注意してください!』

 

 

 片目片耳を切り裂かれたファングパンシーが我武者羅に振るってくる爪を、後ろに跳んで躱しつつ、わたしはモアとセラフィさんの言葉を聞いていました。

 少しだけ視線をズラして見れば、二つ並んだ背の高い大樹の上部分、枝葉が燃え上がっています。

 轟々と。

 

 

「っ……!」

 

 

 わたしはそれを見ていませんが、ハクメイさんが火をつけたのだと思われます。

 他に火をつけられるようなものは考えられません。

 けど……どうしてハクメイさんは、この美しい自然の一つに、火をつけてしまえるのでしょう。

 頭が良くて注意深いハクメイさんだから、きっと間違って、ではない。故意に火をつけたのだと思います。

 一体、どうして―――

 

 

『ジェネ!』

 

「っ!」

 

 

 目と鼻の先にファングパンシーの腕が迫っていました。

 咄嗟に剣を構えて防ぎましたが、体重差は覆せません。

 薙ぎ払う腕の勢いに逆らえず、横っ飛びに飛ばされます。

 

 

「うあぁっ!」

 

 

 地面に二回バウンドし、背中を強く打ちつけました。

 受け身を取る事も出来ず、地面に身体をガリガリと削られ、ようやく止まります。

 

 

『ジェネ! 大丈夫かよ!?』

 

「……っ、い、た……!」

 

 

 なんて、こと……。

 戦闘中に考え事して、ダメージを受けるなんて……。

 こんなんじゃ、強くなるのを待ってもらうどころじゃない。

 強くなれない。みんなを、守れない。

 わたしはずっと、弱いまま……?

 

 

(そんなの…………嫌、です……!)

 

 

 手をついて。

 ふらついて。

 力を振り絞って。

 なんとか、立ち上がりました。

 顔を上げた先には、こちらに向かってくるファングパンシー。

 

 

(わたしは……強くなるんです!)

 

「カマイタチ!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(お、ダブルセイバーのギアか)

 

 

 既に死体となったパンサーの上から降りる。

 ほんと、しつこい奴だった。

 右目を突き刺して、左目も切り裂いて、突き出た顎も上から下まで貫いて、それでもまーだ暴れやがるからな。

 最後には頭にエレキを突き刺して、でも頭蓋骨に邪魔されて貫けなかったから、引き抜いて逆側から刺して、そのまま墜落して地面がエレキを押すようにして、ようやく頭を貫いて絶命した。

 落ちながらやったんだから、俺も器用だよね。しかも墜落の衝撃はパンサーを下敷きにして逃れたし。

 流石俺。

 さて、次の仕込みの為に奔走しますか。

 ジェネだが……今しがた向かってくるパンシーに対抗して、ダブルセイバーのギア、『カマイタチ』を使ったところだ。

 多くのクラスには、ギアと呼ばれるものがある。武器の特徴、クラス武器の特性を発揮する為のもので、ジェネのダブルセイバーのギアは『カマイタチ』と言う。

 カマイタチは、僅かの時間だが自分の周囲につむじ風の如き斬撃を纏わせるようなもので、近付いた敵をスパッと切り裂く。

 

 

(とはいえ、カマイタチ自体の攻撃力は低いし、射程範囲も狭いから、本人の攻撃に追撃する用のもんだ)

 

 

 弱小エネミーならともかく、あの巨体相手じゃカマイタチもお構いなしに攻撃してくる。防御も期待できないだろう。

 それが分からないジェネじゃない。……うん、ない。きっと。

 つまり、今度は攻撃を当ててやるって心構えの表れってことだ。

 

 

(相手してろとは言ったが、時間稼ぎしときゃ良かったんだけどな)

 

 

 俺ならともかく、新人が一人で相手するようなエネミーじゃないし。

 多少なりとも攻撃は加えられていたようだが、その代わりに本人もダメージを受けたようだ。

 そうこう考えている内に目的の場所に辿り着く。

大樹の根本に。

 

 

(ま、いいか。ここまで来りゃ、俺らの勝ちはほぼ決まりだ)

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ファングパンシーが右前足を振り上げて跳んでくる。

 ここまで戦って、大体の攻撃パターンはわかってきました。

 こうして前足を振り上げた時は、そのまま振り下ろして来るか、地面を這うように薙ぎ払ってくるか、のどちらかです。

 四足歩行の生物は、足が速い分、身体の伸びた部分が足か頭か尻尾かだから、人間の腕のように自由でいられない。だから、攻撃もいくらか人間より制限される。

 前足での攻撃が終わった後、体勢を整える為に一度地面に足をつく必要があり、振った足を途中で曲げることもない。

 短い時間でしたが、ハクメイさんが教授してくれたことです。

 ファングパンシーは右の前足を振り上げた。

 ならわたしは。

 

 

(右斜め前!)

 

 

 ファングパンシーから見て左上に、わたしは跳びました。

 そちら側はハクメイさんに目を潰され、死角となった場所です。

 振り下ろした腕を空振りしたファングパンシーはわたしを見失い、硬直します。

 その隙を、逃してはいけない。

 左のこめかみに埋め込まれた浸食核を、わたしは跳躍した身体を捻り、回転斬りの要領で切り裂きました。卵のような核が両断され、内側から黒い靄が溢れたのを横目に、更に回転。首の頸動脈の上にある皮を斬りました。

 ファングパンシーの皮が分厚く、頸動脈に届きませんでしたが、カマイタチが加える追撃が頸動脈に傷をつけます。

 耳をつんざくような獣の悲鳴。

 それに顔を顰めつつ、ファングパンシーの後ろに着地します。

 あれ以上の追撃はカマイタチがファングパンシーの皮膚を薄く切るのみでしたが―――致命傷を与えた。

 後はこのまま、倒れるのを待つだけ―――

 

 

「ゾンディール・弐式」

 

 

 急に身体が引っ張られました。

 

 

「え!?」

 

 

 何にも掴まれていないのに、身体が勝手にファングパンシーとは逆方向に引っ張られていきます。

 混乱に陥るわたしの眼前を、ファングパンシーの後ろ足が通り過ぎました。

 

 

「っ!?」

 

 

 頸動脈を切られても、まだ!?

 手負いの獣は恐ろしいとは聞きますけれど、あんなにすぐ反撃してくるなんて……!

 油断した自分に歯噛みしますが、それと同時にわたしを引っ張る力は止まりました。

 いえ、止まってはいません。

 目的の場所に辿り着いただけで、そこからわたしを動かそうとせずに尚も引っ張り続けます。

 振り向いてそれを確認すると、わたしの腰に破片がくっついていました。

 

 

「……これって」

 

『リーダーのタリスだってば』

 

 

 つまり、リーダーのタリスがわたしを引っ張り上げたということでしょうか?

 疑問を解決する前にファングパンシーと戦うのが先、と結論付けて、正面を見据えます。

 が、それは大きな音によって遮られました。

 メキメキメキと、木が壊されていくような音です。

 

 

『……何の音だ?』

 

「? なんでしょう?」

 

 

 音のする方へと視線を向けます。

 そこでは。

 

 

 

 枝葉が燃え盛る大樹が、倒れようとしていました。

 

 

 

 

『えわぁあああああ!?』

 

 

 モアが叫ぶのに対して、わたしは呆然としていました。

 その大樹がわたしの方に倒れようとしているからではありません。

 大樹はファングパンシーに向かって倒れようとしていて、わたし達には被害が及ばないようになっています。火が付いた大樹が倒れようとしている光景は迫力満点なのもありますが、それ以上に。

 燃え盛る炎は大樹の枝葉に付いていますが、幹には火が回っていないのです。

 なのに倒れようとしているのは、大樹が切り倒されたからでした。

 それも、倒れる方向が定まるように調整して。

 

 

「!? バァア!!」

 

 

 ファングパンシーは危険を感じ取ったのか、その場からすぐに退避します。

 ですが……片目も片耳も潰され、頸動脈を斬られた身体では、そう遠くへは逃げられません。本来の速度が出せず、まるで歩いているような足取りで、それでもなんとかその場に倒れてファングパンシーを潰そうとしていた大樹から逃れます。

 しかしそこに、もう片方の大樹が倒れて。

 ファングパンシーを炎で包みました。

 

 

「ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 逃げた先に倒れてきた大樹の炎に焼かれて、ファングパンシーは断末魔をあげます。

 火元の大樹から必死に逃れ、身体をゴロゴロ転がそうと、その炎はまるで衰えることなく。むしろ勢いを増して、獣を焼く臭いを辺りに撒き散らしていく。

 次第に抵抗する力も弱くなり。

 一時は大きくなった断末魔も、段々と音が弱くしていって。

 その姿は……浸食されてダーカーとなってしまったもののそれとは思えませんでした。

 

 

「そろそろいいかな」

 

「あ……」

 

 

 やがて身動きもしなくなったファングパンシーを見届けていると、見た事のない両剣を手にしたハクメイさんが隣に立っていました。

 大樹の枝葉の上空に向かって、ボールのような物を投げ、それに向かってテクニック・グランツを放つと、光の矢が刺さったボールが弾け、中から何かが大樹に向かって降り注ぎました。

 

 

「こ……粉?」

 

「おう。居住区にある消火器にも使われてる粉でな。半端な水よか断然消火の効率が良い」

 

 

 重たい音を立てて大樹の火をあっという間に覆ってしまった粉塵は風に乗ってこちらにも運ばれてきますが、ハクメイさんは風を巻き起こしてそれをやり過ごします。

 風のテクニックの応用だとハクメイさんは言いますが、わたしのアークス歴が短いとはいえ、こんな使い方をする人は初めて見ました。

 粉はファングパンシーの炎をも消しましたが、その身体が再び起き上がる事はありませんでした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「で、で、でっかかった……!」

 

「あ、危なかった、ですね……! ペチャンコにされるかと、思いました……」

 

「まぁどっちかっつーとペチャンコにしてやったのは俺の方だが」

 

 

 モアがデバイスから出てきて、腰が抜けたように座り込む二人を尻目に、粉塗れになったファングパンシーに近寄る。

 探知じゃ生死までは分からないが、生きてる気配は感じない。近付いても問題ないだろう。

 傍にまで近寄って、座り込む。

 

 

『あれだけの巨体を、よく撃破しましたね! ファングパンサー・ファングパンシーの共棲エネミーを、新人アークスのみで倒した記録はほとんどありません。それをブーストエネミー相手に……お見事です!』

 

「リーダーの、お陰です。フォローされて、ばっかりで、申し訳ないです」

 

 

 ジェネは乱れた息を整えている最中。

 ……あの時。

 ジェネが浸食核を切り裂いた時、俺も大樹を切り倒す作業をしながらそれを見てたが。

 

 

「……こう、きたら、そっから」

 

 

 すぐ後に頸動脈を斬られたにも関わらず、妙に落ち着いてたような……。

 いや、落ち着いてたってよりは、呆然自失って奴か?

 

 

「ブーンってやって。そんでもって」

 

 

 それもあって大樹の火で燃やしてやる策は上手くいったんだが、ちっと気になるな……。

 

 

「目ん玉をブスーって……」

 

「ブツブツブツブツうっせーぞモア」

 

「……モア? どうしました、変な動きをして」

 

「ち、ちがうやいっ! しゅみれーしょん、してんだいっ!」

 

「しゅ、しゅみ?」

 

「シミュレーション、ね」

 

 

 粉の下は黒焦げになっていたので、観察も終わりにして、二人の所へ戻る。

 ふむ。ちっと傷付いちまったし、モノメイト飲んどくか。

 これくらいはレスタでも行けるが、動き回って結構疲れたし。

 

 

「ほんとはデッカイのをコテンパンにして、そんで頭の上に乗ってやるつもりだったんだ! なのにさっ! リーダーがバーンってやってダーン! ってやるからさっ!!」

 

「ついぞ姿を出さなかった癖によく言うわコイツ……」

 

「モアってやっぱり、まだまだ子供なんですね……ふふふ!」

 

「なぁっ!! ば、ばかにしたなぁー!」

 

 

 ぷんすか怒るモアだが、ジェネに言われたのを気にしてか、手を上げるようなことはなかった。

 

 

「そーだリーダー。ここまでする必要あったのかよ?」

 

 

 ビシッとモアが指差すのは、枝葉が焼け落ち、切り倒された大樹二つ。

 ジェネもそれを見て「あ……」と漏れ出たような声を出し、悲壮気味な顔をする。

 

 

「まぁ、言い訳はせんよ。大樹を焼いて、切り落とす。それが俺が咄嗟に考えた、一番安全に勝つ方法だった。そもそも勝てないと思ったんなら、挑もうとしなかったからな」

 

「そりゃ、そーかもだけどさー……」

 

「…………」

 

「別にお前が弱いからとかじゃないぞ、ジェネ」

 

「え!? な、なんで分かったんです!?」

 

「わっかりやすいんだよお前……」

 

 

 ジェネの視線は、俺の胸の傷に注がれている。

 モノメイトで血は止まりつつあるが、傷は傷だ。

 総合的に見りゃ自分の方が傷が多い癖に、他人の傷ばっか心配しやがって。

 

 

「俺一人でも、俺と同じくらいの実力がある奴がもう一人いても、同じ方法とったぞ俺は。そうしなきゃ勝てないわけじゃないが、さっきも言ったように一番安全だからそうした。そんだけだ」

 

「そう、ですか……」

 

「ほら。回復するぞ」

 

 

 息は整ったものの、未だ地面にへたり込むジェネに、回復を掛ける。疲れも幾分か取れたし、これぐらいならすぐ終わるだろう。

 ああ、そうだ。

 

 

「よくやったな」

 

「…………え?」

 

「正直、あそこまで戦ってられるとは思ってなかった。時間稼ぎで十分だったが、期待以上だったよ」

 

 

 人を褒め慣れてるわけじゃないが、こういう事はちゃんと褒めてやらないと、良い上司とは言えん。

 俺がいつもフォローしてるお蔭だと思って、停滞されても困る。

 それに、一応本心の言葉だ。

 

 

「…………!」

 

「……ほら。治療終わったぞ」

 

 

 喜色に染まっていくジェネの顔を見ながら、立ち上がる。

 うーむ。なんか気恥ずかしいな。

 

 

「リーダー! おれは? おれは?」

 

「お前はあれサイズでもちゃんと戦えるようになったら褒めてやるよ」

 

「ぐぅっ! つ、次はやってやるってば!」

 

「……ふふ!」

 

 

 ぞいっと鼻息荒くなっているモアの横で、ジェネが立ち上がる。

 

 

「なんだか、嬉しいです。人に褒められるってことって、あんまりないですから」

 

「そう?」

 

「はい。でも、特別嬉しいのは、強いあなただから……()()()()だからだと思います」

 

「そりゃよー……ハクさん?」

 

「あ、えっと……その、渾名、です。ずっと考えてたんですけど、一番しっくりのがハクさんで……」

 

 

 もじもじと、ジェネは指を絡ませる。

 ……ほぅ。

 ハクさん、か。

 そんな風に呼ばれたことはないが、成程。呼ばれると中々しっくりくるもんだな。

 

 

「いいとおもうぜっ。呼びやすいしな」

 

「ああ、俺もそれでいい」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ただしモア、テメーはダメだ」

 

「なんでだってば!?」

 

 

 ジェネの俺に対する呼び方が変わったところで、俺達は先に進むことにした。

 

 

 

 

 

 




アイテムパックが実質無限だから、備えに備えるリーダー・ハクメイ。にしても備えすぎだと思いますけどね。
こういう、ゲームじゃ操作テクが必要だったり、めんどくさいだけで使わないような技を使わせて戦うのって楽しいです。自分の文章力で再現できてるだろうか……画力があれば漫画にしたいんですが……。

何気に距離の縮まった二人ですが、果たしてこんな簡単に仲良く……なってもおかしくないな。ジェネだし。
モアが活躍するには、まだまだ成長が必要です。

緊急のアプレンティス、めんどくせぇ(ゲーム内愚痴)
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