シオンの出で立ちは、ハッキリ言って異様だ。
研究員がショップエリアで立ち歩くくらいは珍しいことじゃないが、白衣を常に着ているような奴など、それこそ部屋に籠りっきりで研究に没頭しているような変わり者くらい。それだけならまだ珍しいくらいで済むが、シオンの持つ雰囲気がそうはさせない。変わり者どころか、浮世離れした、人とは何か違うとさえ錯覚する異質さを感じさせるのだ。
それがこんなショップエリアのど真ん中に立っていても誰も気に留めないのは……俺以外の誰にも彼女の姿が見えていない故だ。
周囲の様子を探ってみても、彼女に視線を合わせた人間は過去誰一人いなかった。
そう。いなかったのだ。
「……どんな奴が見えてる?」
「?」
「? リーダーもジェネもなにいってんだ?」
……モアには見えていない、か。
ジェネは首を傾げながらも、シオンにしっかりと焦点を合わせている。
「なにってモア、そちらの白衣の女性ですよ。眼鏡かけて、黒髪の」
「…………」
「……そんなやつ、どこにいるんだ?」
やはり、シオンが見えているか。
しかしこりゃどういうことだ?
そう考え、ご本人に聞こうとシオンを見る。
シオンはジェネを見ていた。
「……赦翼の鳥」
「あ?」
「はい?」
「今はまだ、雛鳥の如く、小さな羽。しかし、何時しか貴方を天高く飛翔させる、大いなる翼となるだろう」
……シャヨクの鳥?
ジェネが、大いなる翼?
「翼? あの、それってどういう……?」
「……事象は変遷を見せ、未だ遠き道ながら全ては確然へと近付いている」
「あの、ですから……」
「貴方の行動が全てを決めるということ。私が表現するのはただそれだけ。……迂遠な言葉を謝罪する」
「やめとけやめとけ。こうなったら、こいつ聞きゃしないから」
「なーなー。二人して何の話してるんだってば」
「私と私達が今言えるのはここまでであり、これからもここまでであることは自明である」
聞き出せることはこれ以上ないってか。
なんなんだろうな、こいつ。
味方なのか、敵なのか。
俺の疑問も見通して尚、という顔で、シオンは続ける。
「……だから、私は願う。貴方の掴む未来が、一縷を掴んだものであることを」
そう言って、シオンは姿を消した。
「あれ? ……なんだったんでしょう?」
「こっちが聞きてーよ! なんだ二人して!」
「ハクさんも見えてたんですよね? 誰なんですか?」
「さぁ? 不定期に現れてポエムっぽい事垂れ流す不審者?」
「なんだそれ!? そんなヤツいたのか!?」
「うーん。でもなんだか、不思議な感じというか……」
しかし、こいつが大いなる翼、か。
他の奴とは違うのは分かってるが……シオンはジェネの何を見てそう言ったんだかね。
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二人はどうやら買い物中だったらしい。
俺も暇が出来たので、二人の買い物に付き合うことにした。
「なー、結局二人がいってた奴ってなんだったんだ?」
「まーだ言ってんのか。ただの不審者だっつったろ」
「そ、それで片付けるのは可哀想ですよ……」
二人が使うマントを見繕うが、果たしてモアのサイズに合うものがあるだろうか。
もうコイツハンカチでいいんじゃね?
適当なこと考えるが、スカーフがそれっぽくなりそうだったので、それにする。
会計を済ませると、ジェネが首を傾げた。
「あれ? ハクさんの分は買わないんです?」
「この前行った感じじゃ、必要なさそうだし」
「マジか! あんな寒いのに平気なのかよ……」
「そう言うならお前も半袖短パンとかやめれ……」
ジェネはまぁ……肌色面積減らしても逆にエロい! とかなりそうだから別にいいが。
「はーい! アークス一の情報屋、パティちゃんですよー! 本日も絶賛営業中!」
「ひゃわぁっ!?」
「おわぁ!?」
「まーた脈絡ないなー」
というわけで横合いから突然パティエンティアが現れた。
素っ頓狂な声を上げる二人を余所に、ティアのツッコミ。
「その割に大した情報を掴んでこれなかったのは誰?」
「過去は振り返らない!」
「振り向きつつ言うなし」
「あの、こちらは……?」
「自己紹介の通り、情報屋の美少女双子姉妹ですと」
「いやぁ照れますなー! お二人さんはデート中!? これはまさかのスキャンダル!」
「そんなアイドルじゃあるまいし……」
「デ、デートなんてそんな……」
「だとしたらこんなお邪魔虫連れてこねーよ」
モアの背中を摘まみ、二人の眼前に差し出す。
「ちょ、おいリーダー! おれの扱いなんか雑だぞ!」
「おおっ! なにこのちっちゃい男の子! なんか飛んでるし!」
「ちっちゃくないやい!」
「これって確か、ウェポノイドですよね? 最近実戦投入されたっていう」
「こんなんでも、全く戦えないってわけじゃねーからな。他の奴がどうかは知らんが」
「そういえばハクメイさんは、ウェポノイド試験のチームリーダーを担当しているって……。主席とはいえ、新人アークスのハクメイさんがオラクルに貢献してるって言うのに、うちの姉と来たら……」
「ああでもでも、休憩スペースでのんびりしているおじいさんと仲良くなったりしたんだよ!」
露骨に話題逸らしたな。
モアの身体を両手で揉みくちゃにしつつ、パティは続ける。
「昔は武器とか作ってたんだって! なんかすごいよねー! かっこいい!!」
「……それは多分、かの有名な刀匠ジグだね」
「あれ? 一緒にいなかったのか?」
「私もパティちゃんと一日ずっと一緒なわけじゃないですから。あんまりイメージ沸かないでしょうけど。というかパティちゃん。情報屋名乗ってるくせになんで知らないの?」
「興味ないから!」
「……あっそ」
「言い切っちゃったよ……」
ジグ、か。
俺も武器製作に携わる身だから、その名に聞き覚えはある。
ある、のだが。
「刀匠ジグ。四十年ぐらい前から武器製作一筋の頑固な堅物さん。でも、最近はからっきし。その手が作った武器はいずれ『創世器』にも至るだろうと言われていたのに、もったいない」
古参のアークスの代名詞と言える、四十年前の大戦争の経験者。その時代では轟いていた名も、今では威光を感じさせないと言ったところか。
そんな今でも、六芒均衡の持つ創世器のメンテナンスは行っているそうだが……。
「そーせーじ? ですか?」
「グッと格落としてんじゃねーよ」
「……『創世器』ってなんだっけ? 最初に作ったソードとかだっけ?」
「そう、採算度外視のプロトタイプ。桁違いの性能で扱い切れないからってデチューンしたのが、今ある武器の元」
「へー、そんなの作れちゃうんだ! すごいおじいさんだったんだねあのおじいさん!」
「いや、あの人は作ってないからね。パティちゃんは少しぐらい人の話を聞いてね……」
呆れて物も言えない風のティア。
「細かいことは気にしない! そっかー、そんなにすごい人なら、あたし用の武器とか作ってもらおうかな!」
「だから今はやる気がなくて……」
「それとも、あなたが作る? あたし用の武器!」
「なんで試してる風なんだ……」
「えぇっ!? リーダー、武器も作れるのか!?」
「そうだったんですか!?」
「いや、作ってるのはその人じゃないって……ボケが多いと大変だな」
お疲れ様です。
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「確か、ここらにいるって話だったな」
「はい。休憩スペースにいる、黒くて厳ついキャストがそうだって言ってましたけど……」
暴投球が的を射たような言動をするパティとティアの背中を見送った後、俺達は刀匠ジグに会いに行くことにした。
今がどうであれ、有名人の居所が知れれば一目見ておきたいと考えるのが人間だろう。
俺としてもかの刀匠の技が盗めればいい……とまでは期待しないが、大戦争の影の立役者に実際に会ってみたい。
そんなことを考えつつ、ショップエリアの休憩スペースを歩き回っていると。
「ん? あれじゃねぇか?」
モアがそう言って指差す先には、成程。確かに黒くて厳ついキャストがいた。
黒を基本色とした中に赤い線が走っている、アングリフ・シリーズのパーツで出来た機械の男は、休憩スペースにあるテーブルの椅子に腰掛けて、茶を飲むでもなく(機械体のキャストだが、食品を食すことも、その栄養素を動力に変換させることも出来る)、ただただ黄昏れていると言った様相だ。
なんか……仕事も趣味もなくて暇を持て余している大人みたいだな……。
遠くから見ててもしょうがないので、そのテーブルに近付いて話し掛ける。
「こんち」
「……なんじゃお主は。儂を笑いにでも来たのか?」
「…………」
食い気味に決めつけられた。
こりゃあ重症だぜ。
「ふん。好きに笑え。この刀匠ジグ、齢七十五にして既に枯れたようだ」
「あ、あの! わたし達、笑いに来たなんて酷い事は考えてませんよ! ただ、あの刀匠さんがどんな人なのか、気になっただけで……」
「む、それはすまんのぅ。だが、燃えカスのようになった儂を見ても、面白くもなんともないじゃろうて……」
ジェネのフォローも功を奏せず、ジグさんは再び遠い目(か? 男キャスト相手の表情変化はわからん)で頬杖をつく。
「燃えんのだ……。かつては泉のように湧いてきていた創造心というものが、奮い立たん」
「はぁ……」
「四十年前の決戦時は心震えた……十年前の死闘もそうだ! 大規模な戦いは情熱を掻き立てる。だが、戦線の鎮静化を受けて、儂の情熱も冷めていった……」
要するに、平和の弊害ってやつか。
今でもダーカーの襲撃はあるが、ゼノさんによると十年前までに比べりゃ可愛いもんだそうだ。四十年前の大戦頃になると、経験しているだけで箔がつく程。まあ経験してても、キャストを除けば第一線を退いたおじいちゃんおばあちゃんだらけだ。
このところダーカーの被害は右肩上がりだそうだが、それを見て可愛いもんだと言われている以上、まるでお話にならないのだろう。
(だから安全だって考えんのも、お粗末な話なんだがな……)
「武器を手掛けたい気持ちはあるが、中途半端な物は作りたくない。これは、職人の矜持じゃ」
「まー、俺の知り合いもそういう時期はあったんで、理解はありますけど」
ほんと、こういうのはいきなりどうこうなるもんじゃないしな。
俺の場合はとにかく作って作って、全ては完成に至る為の中途なのだと自分に言って聞かせたものだ。
今でもその中途。
完成は、創世器を超える事だからな。
「……すまんの。愚痴に付き合わせた。お主には、何故か話しやすくてな」
「気にしないでくださいや。俺も気にしないんで」
「愚痴ついでに、一ついいか? もし、儂の情熱を滾らせるような何かを見つけたら、持ってきてほしい」
「何か? ですかい?」
「インスピレーションを刺激するような、そう、刺激的な何かを、の」
「勿論ですよ! 困ったときはお任せあれ! です!」
「おれも! 頑張ってなんか探してやるからな!」
「…………」
考える前に二人が引き受けてしまった。
ここで「めんどい」って俺が断ったら、俺が空気読めない奴みたいだし、黙っとくか。
本気で嫌なわけでもないし、まぁついでってことで。
「おお、そうかそうか。頼まれてくれるか」
「お、そうだリーダー! リーダーの持ってる武器なら珍しいやつだし、いいんじゃねぇか?」
「えー。これで刺激が来るとは思えないけど……」
言いつつ、とりあえずエレキを取り出して、テーブルに置いてみる。
他にも、ブーステッドみたいな置くだけでテーブルが壊れそうなやつは除いて、自作武器の一式をテーブルの上に広げていく。
創世器を日頃からメンテして目が肥えてるだろう刀匠相手じゃ、大したやつでもないと思うが……。
「ふむ……」
テーブルに並べられた自作武器を見て、手に取ったり、ギミックを俺に確認したりしていたが、やがてジグさんはそれらをテーブルに置く。
「発想は面白いと思うが……儂の刺激にはなれんようじゃ。すまんの」
「いえいえ、面白いって評価だけでも嬉しいですよ。俺も、製作者も」
「しかし、解せんの……」
首を傾げつつ、ジグさんは言う。
解せない?
「見たところ武器毎に様々な機能を付加しているようじゃが……その作りを武器の威力を底上げするのに回せば、攻撃力向上は可能な筈じゃ。この武器の製作者は、何を思ってそうしなかったのか……」
「…………」
「? ハクさん?」
「……なんでもねぇよ。それじゃジグさん、またなんか見つけたら尋ねますんで」
「うむ。待っておるぞ」
二人を伴って、ジグさんの元から去っていく。
……成程。熱が冷めようと、流石は刀匠ってところか。
それにしても、インスピレーションを刺激するような何か、か。
あの人相手じゃ、それこそアークスでも行方知れずの創世器でもないと無理そうだが。
結局作中でジグが作ってるのって、「創世」と「クラリッサⅢ」だけなんですがそれは……。
主人公用の武器作るって言ってたと思うんですけど、星12だったかのあれらがそうだとしたら、創世器って星13、14の武器に悉く及ばないのでは? ……なんて考えることがあります。