PSO2 ~煌々たる白明~   作:クビキリサイクル

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生死を賭けた凍土撤退戦

 

 

 

「ジェネ!!」

 

「え?」

 

 

 ボケっとしてるジェネの腰を、杖を持った右手とは逆の左腕で抱き、その場から飛び退く。

 一瞬遅れて、俺がいた地点に剣が振り降ろされた。

 ジェネごと、ではないが、確実に俺は殺しにかかってきていた。

 

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

『お二人共、大丈夫ですか!? その人は……?』

 

「うわぁ! な、なんだお前ぇ!?」

 

(クソッ!! これに気を取られて探知を切っちまってた!! つか、こんな時からもうこのエリアに来てたのかよ!?)

 

 

 こいつがここにいるのは数日後だと思ってたから、ルートを外れる行為でも安心だと思ってたのに!

 モアは慌てながらも俺達の方に飛んでくる。

 ジェネもようやく状況を理解したようで、急いで両剣を構える。

 どうする……? 俺達三人で掛かったところで、こいつに勝てるビジョンが全く浮かばねぇ。テレパイプで逃げるにしても、隙が無けりゃ起動も出来ないし、出来ても出発するまでに乗り込んでこられたらおしまいだ。となると、いったん逃げて隠れるしかないか……? いや! そもそもこいつをどうやって撒くっつーんだよ!?

 

 

「な、なんですかあなたは!? いきなり襲い掛かってくるなんて……!」

 

 

 虚勢を張るようなジェネの疑問に応えず、仮面野郎は言う。

 

 

「それを離せ……」

 

「あ……?」

 

 

 それ以上は何も言わず、仮面野郎が迫る。

 杖をアイテムパックに仕舞って、エレキを呼び出し、その斬撃を受け止めようと構えたが―――

 

 

「!」

 

 

 その俺の前に人が立ち塞がり、仮面野郎の斬撃を弾く。

 俺の隣に立つジェネではなく、勿論モアでもない。

 

 

「ゼノさん!」

 

「危ない所だったな、ハクメイ!」

 

「いやもうほんと、危ない所でした! マジ怖いですコイツ!」

 

「え、え?」

 

 

 救援に来たのは、ゼノさんだった。

 目まぐるしく動く状況に、ジェネは?マーク。

 ゼノさんの隣には、エコーさんも立っている。

 

 

「な、なんだよ次から次へと!」

 

「モア! お前はちょっとチップの中に入ってろ!」

 

「えぇっ!? わ、分かったけど、大丈夫なのか!?」

 

「お前が外に出てる方が大丈夫じゃない!」

 

「っ! が、がんばれよな! 二人とも!」

 

 

 一瞬悔し気な顔を見せるモアだが、今はそれに構ってられない。

 大人しくジェネの持つチップの中に入っていくモアを見届け、視線を仮面野郎に移す。

 ゼノさんと向かい合わせで、お互い大剣を構えている形だ。

 

 

「二人は、なんでここに?」

 

「嗾けた手前、気になってな。追いかけてきてみたんだが、こりゃどうなってんだ?」

 

「俺にゃヤバい奴に目ぇ付けられたくらいしか分かりませんよ」

 

「……その人、アークスなの?」

 

「そういうの調べるのはお前の役割だろ」

 

「あ……ええっと」

 

 

 ゼノさんの言葉を受けて、デバイスからスクリーンを呼び出すエコーさん。

 前回のメルフォンシーナと同じ動作だが、結果はやはり……。

 

 

「全件検索、完了。該当するデータ……なし。なしってどういうこと!」

 

「おい、お前! どこのどいつだ! 所属を言え!」

 

「…………」

 

 

 仮面野郎は何も言わない。

 

 

「ちぇっ、無視かよ! スカした仮面してやがるし、なんだかいけ好かんヤツだな、お前!」

 

 

 啖呵を切るゼノさんだが、その身体は俺達の方へとすり足でズレている。

 ……ああ、そういう感じか。

 となるとルートは……あっちか。

 それに気付いているのかいないのか、仮面野郎はその啖呵に応える。

 

 

「邪魔をするなら、殺す……」

 

「……はー、退く気はなさそうだな。なら、力尽くでもご退場願うぜ!」

 

 

 そう言って、ゼノさんは身体を捻じり、大剣を力いっぱい引き絞る。

 その様子を見て、俺は右手でジェネの腰を再び掴む。

 

 

「え?」

 

 

 きょとんとするジェネ。その目先で、ゼノさんはPA(フォトンアーツ)を発動。

 

 

「ライジングエッジ!」

 

 

 その場で掬い上げるように剣を振るった。

 地面にある雪を巻き込んで。

 結果。

 

 

「!」

 

 

 仮面野郎とその周囲は、雪の粉塵に覆われて見えなくなる。

 そしてすぐさま俺達側に反転。同時に俺は左腕でジェネの膝も抱え、ジェネの右脇を俺の左肩に抱える、所謂お姫様抱っこの状態になる。

 ゼノさんも武器を背中に担ぎ、呆気に取られているエコーさんを、運ぶ方は楽だが運ばれる方が腹部を圧迫される抱え方、お米様抱っこという米俵を運ぶような状態に。

 その状態で俺達は、右斜め後ろの方へと走り出す。

 

 

「よし! 逃げるぞ!」

 

「イエッサ!」

 

「はぁっ!? ちょっと、威勢よく『ご退場願うぜ!』とか言って逃げるわけ!?」

 

「あんなヤツ相手にんなこと出来るか!! いいから逃げるんだよ!!」

 

「ハ、ハクさん!? わ、わたしは自分で走れますから!」

 

「緊急なんだから我慢しろ! 初お姫様抱っこが俺でもな!」

 

「いえ、それは……」

 

「いいから掴まってろ!」

 

「は、はい!」

 

 

 素直に俺の首に手を回して抱き締めるジェネ。余裕があれば色々あれなあれだが、そんなこと言ってる場合じゃない。

 目前に崖の壁が迫るが、俺達は勢いを殺さず、同時に発動させた。

 

 

「「PD(フォトンドライブ)!!」」

 

 

 体内フォトンの活性化で肉体を強化し、その場からジャンプ。

 4mはあった崖の上まで跳び、降り立つ。

 

 

「えぇ!?」

 

 

 抱えたジェネから驚く声。

 人一人抱えて大ジャンプなんて、通常状態じゃ無理なのは分かっているだろう。これでジェネ、ひいてはモアにもPD(フォトンドライブ)がバレた。が、命には代えられない。今は一刻も早くあいつから逃げることが先決だ。

 跳んだ先は向こう側へと滑り落ちる坂となっているが、俺達は迷いなくそこに踏み出した。

 滑走によってスピードを上げて、どんどん仮面野郎から遠ざかる。突き出た岩もジャンプ台にするか、避けるかの二択だ。ブレーキ無しで環境最悪のスキー場みたいなものだが、この程度は危険の内には入らない。

 

 

「スピード緩められないが、下ろすぞ。出来るな?」

 

「は、はい」

 

「……この気遣いがゼノに出来たら…………」

 

 

 ゼノさんはエコーさんを離す気はないようだが、俺はこの滑走ならスピードに差も出ないと判断し、一声かけてからジェネを下ろす。

 雪を巻き上げながらとはいえ、かなり急な勾配の坂だ。バランス取りながら滑るのは困難だが、前衛クラスのジェネなら問題ないだろう。

 一目散に下へ下へと滑っていく俺達に、ゼノさんの声。

 

 

「いいか! 下まで降りて、テレパイプを起動しても大丈夫なようならすぐに撤退するぞ! 転移が終わった時点で出発するから、そのつもりでいろ!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 仮面の男は、巻き上げられた雪の粉塵を風のテクニックで吹き飛ばしていた。

 しかし、その視界には誰もいない。

 流石の判断だと言えよう。

 ほんの刹那でも彼等の判断が遅れていれば、仮面の男の前から逃げる事は出来なかった筈だ。

 だが、もしもこれで逃げられたと判断しているなら、認識が甘いとしか言いようがない。

 逃げた先は捕捉している。

 既に相当な距離を離されているのにも関わらず、仮面の男はゆったりした動作で、剣を持っていない左手を地面につけた。

 

 

 

「……『揺れろ地盤よ荒々しく(グランドシェイカー)』」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 地震が起こった。

 

 

「ぬあっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「ぅおおっ!?」

 

「うぅわっ!?」

 

 

 四者四様の驚きと共に、全員の身体が宙に浮く。

 重力に従って再び地面と接触しようと、その揺れで再び宙へと投げ出される。姿勢など保てる筈も無く、身体のそこかしこが地面とぶつかった。幸いにも雪のクッションで痛みはない。

 ゼノさんに抱えられていたエコーさんは更に悲惨な状態……ということはなく、ゼノさんがガッツリ抱き締めて地面と接触しそうになる度にその盾となっていた。

 

 

「くそっ! 何もこんな時に来なくていいだろうが、自然災害さんよぉ!!」

 

 

 滑り落ちて、宙に投げ出され、地面に打ちつけられ。その繰り返しが幾度か繰り返された後、ようやく地震は収まった。

 しばらく転がされていた俺達だったが、なんとか姿勢を立て直す。

 

 

「な、なんとか収まりましたね……」

 

「……おいジェネ。まさか一安心なんて言わないよな」

 

「え?」

 

「山での地震で恐ろしいのは……むしろこの後だぞ」

 

 

 森林の山なら、土砂崩れ。

 雪山なら―――

 俺達の遥か後ろの方で、遠いが大きい音がする。

 ゼノさんにお米様抱っこされなおしたエコーさんだけが、後ろだけを見ていた。そして、叫ぶ。

 

 

「う、嘘でしょ!? 雪崩ぇ!!?」

 

 

 チラリとだけ後ろを見れば、白雪の大瀑布が俺達を呑み込まんと、遠くから迫っていた。

 ちっくしょぉ! 仮面野郎と自然災害のダブルアタックとか、最悪の想定してても想定外だろうがよ!

 滑り落ちていく先に切り立った崖。その着地点に大きな雪の絨毯、広場が見えてくる。

 どうする? このまま滑っていけば先に広場には着けるだろうが、雪崩は止まっちゃくれない。

 横に逃げるには雪崩の範囲が広過ぎる。俺とエコーさんが炎のテクニック使ったところで焼け石に水だ。何かを盾にして堰き止めようなんて思える規模でもない。

 となると―――

 

 

「ハクメイ! もっかい全力で走るぞ! その嬢ちゃんを抱えろ!」

 

「そ、そんなんで逃げ切れるの!?」

 

「他に思いつかねぇんだよ! 妙案があるなら教えてくれ!」

 

「なんもないんでそれに賭けます! ジェネ! 背中に跳び乗れ!」

 

「は、はい!」

 

 

 再びお姫様抱っこするような余裕も無いのでそう命じて、素直に応じるジェネ。

 俺の首に腕を回してぎゅうっと抱き付いてくる。

 決して離れないように。

 そうして俺達は、切り立った崖からジャンプ台の如く飛び立つ。

 

 

「うわぁあぁあぁあ!!!」

 

 

 滑っている側が見えないエコーさんが悲鳴を上げる。急に飛び立ったように見えるからだろう。

 その悲鳴と迫りくる雪崩をBGMに、俺達は重力に従って広場の中央辺りに降り立つ。

 着地の衝撃は強化した肉体と雪のクッションで殺し、すぐさま道のある正面へと走り出す。

 

 

「急げ! 雪崩に呑み込まれちまう!!」

 

「ああもう! なんだってこんな時に自然災害が―――」

 

 

 

「『冥府に落ちろ愚物共(デットエンドハーデス)』」

 

 

 

 響きは小さく。

 しかし巨大な何かが押し潰された音がした。

 思わず足を止め、その音の方、俺達がジャンプした崖を見る。

 

 

 

 

 

 雪崩が、消え去っていた。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 雪崩だけじゃない。

 崖も、岩も、滑り落ちた斜面も。山の一部が丸ごと無くなっていた。

 あるのは、背筋が凍るほどに断面が綺麗な谷。

 まるでそこだけが奈落に落とされたかのように。

 

 

「……冗談でしょ」

 

 

 ゼノさんの方も、足を止めてそれを見ていた。

 さっきの地震も雪崩も、自然災害と呼べるものだ。それに巻き込まれれば不幸だが、起こるには現実的な理由があって、現実に起こっても不思議ではない事象。

 だがこれは、明らかに人為的なものだ。

 こんなことが自然災害として起こっていたら、この惑星は人が訪れていいものではない。

 その谷の向こう側。

 先程まで俺達が滑っていて、先が無くなっている以外は何も変わらない斜面を、仮面野郎が滑ってきていた。

 そして、谷を跳び越すようにジャンプし。

 空中で止まったところで、その左手を、俺達が行こうとしていた道へと向けた。

 

 

 

「『掴み握るは邪悪なる魔手(イビルアーム)』」

 

 

 

 その左手から巨大な闇の腕が伸びた。

 大型エネミーさえも一掴みしかねないその腕は、進行方向の道に沿った崖を掴み。

 

 

 

 爆発した。

 

 

 

 衝撃波がここにまでやってきて、思わず腕を盾にする。

 転げるような事は無かったが、身動きの取れない衝撃波に耐え、それが終わると。

 俺達が行こうとしていた道に崖が崩れ落ちて、行き来の不可能なただの壁と様変わりした。

 仮面野郎は、こちら側の谷の端に降り立つ。

 

 

「……退路を、断たれた」

 

 

 ……まさかさっきの地震も雪崩も、こいつが人為的に起こしたっていうのか。

 だとしたらそれも、俺達がこの広場に至るまでに別ルートを取らないよう、急がせる為だけに……?

 あまりにも、規格外。

 あまりにも、常識外れ。

 獲物を逃がさない為だけに、これだけの事をしでかしやがった……!

 

 

「……戦るしか、ねぇってか」

 

 

 エコーさんを地面に下ろし、大剣を構えるゼノさん。

 俺も、それに並んでエレキとスプラッシュを構えた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってゼノ! 無理に決まってるでしょ!? 見たでしょ、さっきの! あんなのとどう戦えって言うの!?」

 

「じゃあどうするんだ!? 逃げ道が塞がれたんだぞ!? ここで戦って勝つしか道はねぇだろうが!」

 

「っ…………」

 

「ハ、ハクさん……」

 

 

 不安げな顔で俺を見るジェネ。

 俺だってこんな所で諦められる訳がない。

 俺にはまだまだ、やりたい事が数えきれない程あるんだ。

 だが相手は、怪物。

 今この瞬間にこの場で全員纏めて殺されてもおかしくない。そんな大規模攻撃を持ち合わせている。

 逃げ道も塞がれ、もう跳び越せるような高さではない。隠れる場所なんて以ての外。

 加えて500mをあっという間に追い詰めてくるような速度。ブーステッドを軽々と受け止める腕力と、フォトンの鎧。

 何よりも、感じる悍ましさ。

 この四人と、モア。全員が全力で立ち向かったところで、勝てる算段がまるで立たない。

 次元が違う。

 世界が違う。

 だが。

 

 

(考えろ)

 

 

 それでも。

 

 

(考えろ。考えろ。考えろ)

 

 

 全身全霊で思考しろ。

 あらゆる可能性を模索しろ。

 死ねばそこで終わりだ。

 終わりたくないなら、生きる為に死力を尽くせ。

 巨大過ぎる悍ましさの中に、僅かに感じる違和感。

 何かある筈だ。

 そこに、何かがある筈なんだ。

 今日遭遇した時から、じゃない。それ以前にも。

 余すことなく記憶を遡れ。

 まずは。

 最初にこいつと遭遇した瞬間から―――

 

 

「終わりだ……」

 

 

 剣を携え、怪物が迫る。

 

 

 

 

 

 




大規模テクニック案の一つは感想欄から頂きました。
【仮面】さんがインフレ過ぎて泣きたくなる。


前話にも書きましたが、活動報告にて閑話のアンケートを取っております。
お気軽に自分の好きなウェポノイドを書き込んでください!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=195460&uid=152969

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