PSO2 ~煌々たる白明~   作:クビキリサイクル

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俺としても内心ドッキドキの判断でした

『ハクメイ。あんたはまた一人で本読んでるのかい?』

 

 

 

『他の子はみぃんな遊びに行ったってのに、ほんと空気の読めない子だよねぇ。いや、あんたは読めないんじゃなくて、読まないのか』

 

 

 

『この孤児院にいる子はみんな友達。みんな家族。そういうスタンスでやってきてるってぇのに、あんただけはいつまで経っても馴染もうとしないねぇ』

 

 

 

『けど、あんたは友達がいらない訳でも、家族がいらない訳でもない。人一倍どころじゃないくらい、欲張りな子だからね』

 

 

 

『あんたはただ、ここの誰ともそういう関係になりたいとは思えないだけだろう? そうやって縛られるぐらいなら、一人で勉強してる方がよっぽど楽しいってだけだろう?』

 

 

 

『孤児院にいる子供達。このあたしでさえも、あんたにとっちゃとりあえずの住処にいるだけの同居人。全く、可愛くないったらありゃしない』

 

 

 

『それで? またなれもしないって笑われたアークスになる為の勉強してんのかい?』

 

 

 

『……あたしからも、あんたはやめといた方がいいと言うよ』

 

 

 

『あたしも昔はアークスだった。どれだけ危険で、どれだけ才能が物を言う世界なのか分かってるさ』

 

 

 

『あんたは賢い子だ。アークス以外なら、何にだってなれる。何でだって、一番になれる。それこそオラクル上層部の、更にトップに立って、アークスを顎で使うような人間にだってね』

 

 

 

『才能のないアークスなんかより、よっぽど安全で、よっぽど成り上がれる道だろう』

 

 

 

『それでもあんたは、アークスになるって言うんだろうね』

 

 

 

『周りに笑われようが、あたしの親心に泥を掛けようが、あんたはアークスになりたいって、そう欲するんだろうね』

 

 

 

『あたしゃ心配だよ。一体誰が理解してくれるだろうね。あんたの積み重ねている努力を。気が狂いかねない鍛錬を。正気を疑う研鑽を。理解されないまま、あんたは罵られ、そして褒め称えられるんだろうね。()()なんてチャチな言葉で』

 

 

 

『そんな苦労が報われないまま死ぬかもしれないようなアークスに、あんたがそこまで拘る理由なんか知らんけど、あんたにとっちゃ大事なことなんだろうよ』

 

 

 

『だったら、絶対に諦めるんじゃないよ。絶対に、それを捨てるんじゃないよ』

 

 

 

『あんたは賢いのに、諦め悪い大馬鹿で、他人を利用してでも自分の強欲を満たす、可愛くない奴。それできっと、誰よりも幸せになれる男さ』

 

 

 

『中途半端に満足するなよ。格好悪くても足掻いて生き延びて、最後には老いて枯れ果てて、布団の上で満面の笑みで死ねるような、そんな人生を送りな』

 

 

 

 

 

 言われなくともそのつもりだ。

 俺は、強欲なのだから。

 力も。金も。女も。地位も。名誉も。

 この世に遍く全てを手に入れて、俺は最強最高のアークスとなるのだから。

 だから俺は望む。

 だから俺は戦う。

 だから俺は諦めない。

 だから俺は勝ち取る。

 だから俺は―――

 

 

 

 こんな所で、死ぬ訳にはいかない。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ったく、この俺がこんな簡単な事に気付かないとはな」

 

「え?」

 

「いや、それだけあいつが脅威過ぎて、目が眩んだって事か。走馬灯まで見えるとか、ダセェったらありゃしねぇ」

 

 

 仮面野郎は、()()()()()()考えられないような速度で迫ってくる。

 ゼノさんは矢面に立とうと、前に出た。

 その肩に、手を置く。

 

 

「大丈夫ですよ、ゼノさん」

 

「は? 何言って」

 

「あの大規模攻撃は、俺達には向かない」

 

 

 そう言って、俺はスプラッシュを奴の頭上高くへと向かって投げて。

 仮面野郎に向かって走り出した。

 

 

「!? ハクさん!!」

 

「なっ、何馬鹿なことしてるの! 死ぬ気なの!?」

 

「っ……! PB(フォトンブラスト)!」

 

 

 制止の声は届いているが、俺は速度を緩めない。

 向こうも俺の行動に驚くことなく、どころか願ってもないとばかりに速度を上げてきた。

 俺の後ろで、ゼノさんから声が響く。

 

 

「『ヘリクス・ブロイ』!!」

 

 

 姿は見えないが、恐らくあの四足獣が召喚されたのだろう。

 並の攻撃じゃこいつには掠り傷さえ負わせられない。そして、その攻撃に巻き添えになる程俺が未熟ではないというのも、ゼノさんにはわかっているのだろう。

 それが無くてもいけるつもりだが、ナイスサポートだ。

 残り数歩で接触する、という所で、仮面野郎は姿勢を低くした。

 剣を持っていない左手で、雪を、その下の土を掻き上げるように振るう。

 

 

「ラ・ティーガ」

 

 

 その地点から、棘のような岩の槍が続々と生えてきた。

 っ、土を操るテクニックまで扱うのかよ。さっきの地震もこの系統か。

 だが、思った通りだ。

 俺の身体を貫かんと迫る岩槍を前に、俺は―――

 

 

「イル・ゾンデ!」

 

 

 雷の鳥へと姿を変え、その槍をやり過ごし。

 仮面野郎の頭上後ろに踊り出る。

 

 

「!」

 

 

 今日出発する前に奮発して買った、俺が今持つ唯一の上級テクニック。

 僅かばかりの時間とはいえ雷そのものとなって高速移動するこれは、俺のようにテクニックを扱いながら接近戦もするアークスには、なんとしても欲しかった。買うのが一日遅れていれば、打つ手が無かったかもしれない。

 仮面野郎が俺の方に振り返ると同時に、ゼノさんのヘリクスが岩槍を破壊した。

 勢いを落とさず、そのまま仮面野郎へと迫る。逆様になった体勢の俺は、重力に従って落ちる。

 その俺の首を薙ごうと、仮面野郎は剣を横に振るう。

 その剣に合わせて、俺も右手のエレキを振るった。

 

 

「ぅおらっ!!」

 

 

 ガキィン! と剣戟。

 踏ん張りの利かない俺の身体はいとも容易く飛ばされる。

 同時に、ヘリクスの角も仮面野郎を刺し貫かんと迫る。

 

 

「……ふん」

 

 

 左手でその角を掴んで、突進を止めた。

 

 

「嘘だろ!?」

 

 

 というゼノさんの声。

 俺にとっては想定していた最悪という程ではない。軽く振り払われなかっただけマシなくらいだ。

 弾き飛ばされた俺は地面を一度跳ねてから体勢を立て直し、雪を巻き上げながら着地する。

 その俺に向けて、仮面野郎はヘリクスを軽々と持ち上げ。

 投げてきた。

 

 

「ゾンディール・弐式!」

 

 

 仮面野郎とは反対側に待機させていた、上空から分裂させたスプラッシュの破片に俺を引き寄せる。

 一瞬遅れて俺がいた場所に、ヘリクスが叩きつけられる。

 前は説明しなかったが、元々ゾンディールは磁力によって発生させた地点に敵を引き寄せるテクニック。敵性反応をプラス極、発生させた地点をマイナス極と考えれば分かりやすいだろう。

 そして弐式は、そのプラス極を敵性反応からアークスに変えたものだ。

 つまり、アークスを引き寄せる磁場ということ。

 仮面野郎がどちらかは知らんが、どちらであっても射程範囲外。俺だけがそのスプラッシュの破片へと到達する。

 これで更に近付いた。

 もう少し……!

 

 

「…………」

 

 

 敵から目を逸らさないままバック走で()()へと向かっていく俺に、仮面野郎はその左手を向けた。

 

 

「イル・スィク」

 

 

 現れたのは、子供くらいならば丸呑みしかねない極太の蛇。

 それが水によって形成され、うねりを上げて俺へと迫ってきた。

 

 

「土だけじゃなくて、水まで生み出して操るか。だが!」

 

 

 エレキを仕舞い、呼び出したのは両剣。

 

 

「回炎『パイロソーサー』!」

 

 

 呼び出した両剣を、円盾を作るように回し、その水蛇の正面に構える。

 回炎といっても、剣が燃えている訳じゃない。

 ただ、剣先に超高温の熱があり、更にその剣先は、視認出来ない程に細かく、高速に、チェーンソーが如く動き続けている。その切れ味は、大樹を一太刀で切断してみせたことから推して知るべし。

 パイロソーサーに直撃してきた水蛇は、その身体をぶつかった先から水蒸気へと変えていく。

 それで視界が塞がれることなどないように、俺は水蒸気を風のテクニックで吹き飛ばし、霧散させる。

 やがてそれも途切れ、同時に俺もようやく()()に到達した。

 そして、仕舞っていた()()を左手に呼び出す。

 仮面野郎は、左手を掲げる。

 

 

「……『塵へと還せ黒星(カタストロフィ)』」

 

 

 掲げた仮面野郎の左手に、彗星と見紛うばかりの闇が集まる。

 ……形だけはメギドっぽいが、大きさが桁違いだな。もしかして、あの時やろうとしてたのもあれか?

 

 

「ハクメイ、逃げて! それを喰らったらあんた、跡形も無くなるよ!!」

 

「くそっ! やめやがれ!」

 

 

 エコーさんがテクニックをチャージし、ゼノさんが大剣を持って仮面野郎に向かっていく。

 ふむ。狙いが分かってると分かってないとだと、こうも焦りに違いが出るのか。

 さっきまでの俺もああだったと思うと、恥ずかしくなってくるな。

 

 

「ハクさん!! や、やめてください!! その人を、殺さないで―――」

 

「そんな悲壮感出さんでも、そいつはそれを放れんよ」

 

「―――え?」

 

 

 ここに着いたなら、もう焦る事はない。

 俺が立つ、今ここ。

 この仮面野郎が作り出した、この谷の目先ならば。

 

 

「お前も、そんな虚仮脅しはもう通用しないことくらい分かってんだろ? そっちの心臓に悪いし、さっさと消したら?」

 

「…………チッ」

 

 

 酷く苛ついた様子で、仮面野郎は掲げていた左手を握る。同時に、集まっていた闇も霧散した。

 あんなもんを出したり消したりが一瞬とは……ほんと底が知れない。

 

 

「考えてみればおかしな話だよな」

 

 

 さて、答え合わせと行こうか。

 時間を稼げるなら結構。

 このまま退いてくれるなら御の字だ。

 勝てたら文句なしだが、流石にそこまでは望まない。少なくとも、今は。

 

 

「前に会った時は弱ってたそうだが、その時もお前はそれを使おうとしてた。なのに、遭遇してすぐには撃とうとしなかった。さっきの見るからに、弾数制限があるとは思えないにも関わらずな」

 

 

 弱ってたから撃てなかった、のではない。

 撃つ気がなかった、のではない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()、だろ?」

 

「…………」

 

 

 仮面野郎は何も答えない。

 だがそれは、図星だ。

 

 

「だから、お前はまずアフィンを蹴っ飛ばして、俺の巻き添えにならないようにした後に、そいつを撃とうとした。けど、ゲッテムの邪魔が入った。そして、邪魔が入ったから撃てなかったのでもなく、お前はあいつやメルフォンシーナが、俺の巻き添えになる位置にいたから撃てなかった」

 

「…………」

 

「さっきにしてもそうだ。わざわざ近くに来て剣を振るってこなくても、お前の大規模攻撃で遠くから察知されるまでもなく俺を殺すことくらい簡単だろう。なのに、それをしなかった。()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「ゼノさん達が来て、お前は……なんだっけ? 邪魔をするなら殺すーとか言ってたが、ありゃ完全に脅し文句だ。本気で殺すつもりなら、雪崩をほっといて呑み込ませるなりなんなり出来たろうに、それをしなかった」

 

 

 そこまで考えれば、答えは簡単だ。

 もっと前から気付いててもよさそうなもんだが、そこは言ってもしょうがない。考えつかなかったのだから。

 俺は言う。

 

 

「お前は、俺以外を殺す気がないんだ」

 

 

 俺に対する殺意は本物だろう。

 だがそれは、他を殺してまで達成する目的ではない。

 不気味で何を考えてるのか分からないこいつだが、一度考えてみればそういう答えが出てくるのだ。

 

 

「そして今、ジェネやゼノさん達と離れて、大規模攻撃でも俺一人だけ殺せる状況にあるにも関わらず、それをしない理由は……()()だろ?」

 

 

 チマチマと小技で俺を仕留めようとしていたのは、もう一つ目的があるから。

 俺が跡形も無くなるような攻撃をすれば、アイテムパックにある()()()も、跡形も無くなるからだ。

 

 

「それは……さっきの杖? それが理由って、どういうことです?」

 

「さぁ? けど、こいつはこれがどうしても欲しいらしい。俺を殺すことは二の次にしてもな」

 

 

 そうでなければ、「それを離せ」など言わない。

 まるで「これを手放せば見逃してやる」とでも言うような口振りはな。

 左手に持った、この怪しげな杖。俺としても気になるところだが、それに拘って命を捨てるような真似はしたくはない。

 右手のパイロソーサーの刃先を、杖に向ける。

 

 

「それじゃあストレートに命令しようか」

 

「…………」

 

「こいつをぶった斬って谷底に落とされたくなかったら、大人しく引き下がれ」

 

 

 流石にこの距離を、俺が反応するまでもなく迫る事は出来ない筈だ。出来るならとっくに俺を刺し殺してるだろう。

 何か怪しい動きをするようなら、すぐさまこいつを両断して、半分を谷底に落としてやる。残り半分といえど、修復の可能性が残っている以上、それを持っている俺ごと消し飛ばす事はない。

 この仮面野郎なら谷に飛び込んでも平気な面してそうだが……その時はその時で、奴が飛び込んだ後にパイロソーサーで谷の断面を削り取って、雪崩を被せてやろう。

 それでも生き残るのだとしても、手に入るのは半分。残り半分は俺の手の中にある。

 ……考え得る限り最悪なのは、問答無用で突っ込んできて、俺が両断して谷底に放り込もうがそれに目もくれず俺を殺して、俺が持つ半分を手にしてから谷底へと落ちていけばいいと考える事だ。

 その時は、本当に賭けに出るしかない。

 一見壊れているこの杖を、更に壊されるのは避けたい、と考えてくれりゃいいが……。

 

 

「…………」

 

 

 果たして仮面野郎は、僅かばかりに思考するように顎に手を添え、それが終わると。

 俺にその左手を翳してきた。

 

 

「っ、脅しじゃねぇんだぞ!!」

 

 

 パイロソーサーで、杖を断ち切―――

 

 

 

 

 

『――――――』

 

 

 

 

 

 杖から、声が響いた。

 

 

「……あ?」

 

 

 思わず、動きを止める。

 幻聴ではない。

 声と言うにはあまりにも不鮮明で内容は聞き取れなかったが、ただの音でなかったのは確かだ。

 それが、この何の力もないガラクタから響いた。

 

 

「――――――」

 

 

 仮面野郎も、左手を翳したまま、硬直していた。

 ()()、出来ていた。

 そして、それを見逃すゼノさんではない。

 

 

「スキありッ!!」

 

 

 後ろから迫り、仮面野郎の左頭部に、大剣の一撃。

 纏っていた筈のフォトンの鎧も硬直と同時に解いてしまったのか、その一撃はクリーンヒットする。

 にも関わらずその頭が断ち切れることは無く、奴から見て右側に弾き飛ばされる。

 そのまま転げることはなく、飛ばされながらも爆転するように跳ね、見事に着地する。

 だが、その仮面はゼノさんによって罅が入っていた。

 

 

「……チッ!」

 

 

 さっきよりも大きな舌打ち。

 仮面野郎は左手で罅が入った仮面の左頭部を押さえる。恐らく、そうしなければ仮面が落ちてしまうのだろう。

 

 

「おいおい、業物がイカレちまったよ」

 

 

 かくいうゼノさんの剣にも、罅が走っていた。

 鈍器として扱えばまだ戦闘は継続できるが、剣として斬ることは出来ない。そんな状態である。

 

 

「……だけどまぁ、おあいこってところか」

 

「……おのれ、ハクメイ!」

 

「…………おいおい。俺の名前を恨めし気に呼ばれても困るぜ」

 

 

 さっきの声は気になるが、まだ状況は続いているのだ。後回しにしなければならない。

 そう思って仮面野郎を睨みつけるが…………仮面野郎は仮面を押さえたまま、高く跳び上がって。

 

 

 

 この広場を囲む崖を易々と跳び越し、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……ぅあー」

 

「ハクさん!」

 

 

 脅威が去っていった事に安堵したら、腰が抜けてしまった。

 その場に座り込む俺に、ジェネが駆けてくる。

 

 

「ふー……とんでもないヤツだったな。お前さん、大丈夫か?」

 

「いやー……割とマジで死を覚悟しかねなかったですねっとぉ!」

 

 

 座り込んだ俺に、ジェネは飛び込むように抱き付いてきた。

 

 

「良かった……良かったです……! わ、わたし……ハクさんが、死んじゃうんじゃないかって……怖くて……」

 

「……あー」

 

 

 ジェネの頭は俺の横にあるので、その表情を見ることは出来ないが……見なくても、ジェネが涙ぐんでるのが声で分かる。

 うーん。まぁ確かに死にかねない行動だったよなぁ。やんなきゃマジに死んでたかもしれないとはいえ。

 背中に腕を回して、ってのはあれなんで、パイロソーサーをアイテムパックに仕舞って、あやすようにジェネの頭を撫でる。

 

 

「まー心配は有難いけどさ、ジェネ。俺そんなに懐かれる程何かしたか? そこまでした覚えないんだが」

 

「……そんなこと、ないですっ。両親以外に、あんなに優しくしてもらえたの、わたし、初めてだったから……」

 

「そりゃまた。俺は優しくしたつもりないんだが」

 

 

 あれくらいでこんな事言えちゃうとか、どんだけ優しくされない人生だったんだよ。

 こいつ自身はこんな風だっつーのに。恩知らずばっかだったのか、あまり深く人と関わってこなかったのか。

 ちょっとは落ち着いたのか、涙ぐむ声は聞こえなくなってきた。

 そんな俺達に、エコーさんの声が降ってくる。

 

 

「ほんっと、無茶するよね君。問答無用で掛かってこられたらどうするつもりだったの?」

 

「谷底に身を投げるつもりでした」

 

「はぁっ!?」

 

「んで、追ってきたあいつが飛び込んできたら、落ちる前にワイヤードランスを壁に引っ掛けて。あいつが落ちるのを見送ったらそのままよじ登るってとこですね。怖いのは、あいつがそのまま落ちてくれるかどうかで」

 

「それ以前に君が危なすぎるでしょーが!!」

 

 

 怒られた。

 ジェネもちょっと怒ったのか、抱き締める力が強まってちょっと痛い。

 いや、俺も出来たらそれはしたくなかったよ? ただ、それぐらいの覚悟でないと切り抜けられなかっただけで。杖の声であいつが固まらなかったら、そんなことに―――

 

 

「…………」

 

「まぁいいじゃねぇかエコー。なんにせよ、あいつは撤退して切り抜けられたんだ。結果的に全員生きてる。今はそれを喜ぼうぜ?」

 

「それは、まぁ……そうだけどさ…………」

 

「ハクメイ」

 

「あ、はい」

 

「命は大事にしろよ……ってのは分かってるだろうからいいか。大事にしてるからこそ、あれだけの事が出来たんだもんな。俺達もお前さんの判断に救われた。礼を言うぜ、ありがとよ」

 

「んー……お礼を言われるのはなんか違う気がしますが……ちゃんと受け取っておきます」

 

 

 ……まぁ、この事はこれで終わりとして。

 ようやくジェネも俺から離れたところで、質問を投げかける。

 

 

「ジェネ」

 

「え? はい」

 

「お前にはさっき、この杖から声が聞こえたか?」

 

「は? 声?」

 

「あ、はい。何を言ってるのかは分からなかったですけど……」

 

 

 ……やっぱり、ジェネには聞こえたか。

 顔をゼノさんに向ける。

 

 

「ゼノさんは?」

 

「いや、そんなもん聞こえたか?」

 

「あたしも聞いてないけど……」

 

『オレもそんなの聞こえてねーぞ』

 

 

 モアが、ジェネのチップスロットの中で言う。

 そういや忘れてた。

 ロジオからも通信が届く。

 

 

『……私の取得したデータにも、そのような音声情報はありません』

 

「そうか…………」

 

 

 ……やはり、シオン関係、もしくはそれと同系統の何かなのか?

 どちらにせよ、仮面野郎がそれを狙った理由が分からん。

 

 

「ところで、モア? もうあの人はいません。出てきても大丈夫ですよ」

 

『えっ!? い、いいいいや! オレはまだこえぇから、チップの中に入ってるよ!! うん! 早く帰ろうぜ!』

 

「? どうしたんです? そんなに慌てて」

 

 

 怖がってる、にしては明らかに狼狽え方が違う。

 チップの中にいるモアは、バツの悪いような、引き攣った笑顔。

 …………まさかお前、マジで?

 

 

「それについては同意見だな。確か、ウェポノイドだったか?」

 

『オ、オレはモアって言うんだ! よろしくな!』

 

「おう、よろしくな。まー、ハクメイ。お前さんも気になる事はあるんだろうが、考えることはロビーでも出来るだろ。早いとこ帰ろうぜ」

 

「……そですね」

 

「学者さんよ、あんたの欲しかったデータって奴も集まっただろ?」

 

『はい、そちらも十分に取れています。……ですが何故、ハクメイさんへの依頼内容をご存知なのですか? 掲示板では、地質調査とは書きましたが……』

 

「あー……先輩ってのはな、後輩のやる事為す事全部把握してるんだよ」

 

「あたしに調べさせたくせに」

 

「いきなりバラすなっての! ほら、さっさと帰るぞ!」

 

 

 あいつが戻ってこないとも限らない。俺達はせっせとテレパイプを起動し、キャンプシップでアークスシップに帰投した。

 

 

 

 

 

 




ちょっとだけ、ハクメイの内面について触れた回でした。

仮面さんは、甘ちゃんな訳ではありません。黒人チームも迷いなく壊滅させましたしね。
ただここの仮面さんは、原作以上に引き摺ってる事があるだけなのです。

12/20追記
ゼノのPBはユリウスじゃなかったので、修正しました
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