「そういえば、なんですけど」
キャンプシップの中で、ジェネが尋ねてくる。
「ハクさんとゼノさんが、えーっと、ふぉとんどらいぶ? って言ってたあれ。なんなんでしょうか?」
『失礼ながら、私も気になっていました。それに、通常のアークスでは考えられない身体能力。あれも、それを言った後に発露していました。一体どういうものなのでしょうか?』
「あー」
やっぱ言及してくるよなぁ。
今俺達は、俺達の乗ってきたキャンプシップにゼノさんとエコーさんも乗せて、アークスシップへと向かっている途中だ。二人が乗ってきた方は、アークスシップ側の遠隔操縦で帰投させるとのこと。
モアは頑なにチップから出てこようとはせず、俺達四人がいる空間の中、ゼノさんエコーさんの夫婦......二人は、困ったように顔を見合わせる。
とにかく、俺の口から説明することにした。
「まぁ簡単に言うと、身体強化の技術ってやつだ。体内フォトンそのものを活性化させて、身体能力をざっと五倍に引き上げる。それでもあいつにゃ全然及ばなかったがな」
『ご、五倍ですか!?それはまた、凄まじい技術ですね』
「ああ。俺はゼノさんのを見様見真似して、ゼノさんは正体不明の師匠さんに教えてもらったってよ。ね?」
「あ、ああ。そうだそうだ。他の奴は全然出来ないっつーのに、こいつとアフィンだけは真似出来ちまったんだよ。師匠に教えてもらっちゃいたが、俺も正直良く分かんねーっつーのに」
……今にして思えば、ゼノさんの師匠さんと仮面野郎って、どっちもヤバイ存在だよな。
片や俺の完全上位互換で、並列起動数5000の演算を行う怪物。
片や自然災害を人為的に起こす大規模攻撃と、
最強最高のアークスを志す以上、いずれは超えて行かなきゃいけない壁だ。
つっても、ほんとどうしたもんか。
今回はあいつの目的を利用して生き延びたようなもんだが、あの状況であいつにも何か打つ手があったようだった。もし杖からの声が聞こえてなきゃどうなってたか。
あの領域に立つ為に、果たして俺に何が必要だ?
つかそもそも、あんだけの怪物が何で今まで発見報告とかされなかったんだよ。発見次第六芒全員で出動してもいいレベルだろ。
「…………いや、あいつだけは出来たか。あー、腹立つな……」
「…………」
「? ハクさん?」
「ん? ああ、悪い。考え事してた」
「いえ。……あの、もしよかったら、わたしにも教えてくれませんか!」
ゼノさんに向いて、ジェネは頭を深々と下げる。
「わたし、もっと強くなりたいんです! みんなを守れるように、ハクさんの足手纏いにならないように!」
「あー……その、熱意は買うんだけどな…………」
困ったように頭を掻くゼノさん。
その横から、エコーさんがフォローを入れる。
「さっきも言ったように、他の人達には全然出来なかったのよ。こいつ、説明ド下手でさ」
「悪かったな! ……ま、つまり俺自身も他人に教えられる訳じゃねぇんだ。見せるだけならいいんだけど」
「そ、そうなんですか……」
しゅん、と顔を俯かせるジェネ。
「ま、俺もゼノさんと同じ状況だけど、いずれは他人に教えられるくらいには理解を深めとくから」
「……ハクさん」
二人が「よくもまぁペラペラと……」と言いたげな顔で見てくるが、別に悪意あって嘘をついてるわけではないのだ。
そもそも、こいつにはそれ以前の問題がある。
「その前に、お前はフォトンを人並みには扱えないとな」
「え?」
「だってお前、コントロールが下手ですーぐバテちまうんだろ?」
「うぐっ!」
「俺にだって、これがどれだけ制御すんのが難しいのか分かってる。今のお前が扱おうとしても、ちっとも保てないならまだしも、最悪よりバテるのが早くなるだけだと思うぜ?」
「あぅうう……」
しょぼん、となってしまうジェネ。
まー、事情を加味せず実際に俺が教えたところで、そうなるだけなのだ。
ジェネくらいになら教えても問題ないかもしれないが、余計なこと教えて成長が滞っても仕方ない。
「あーそうだ二人もそうだが、ロジオも。一応これは守秘義務ってことで。あんまり広めたくないんで」
『そうですか。あなたの方にも事情はあるのでしょうね。この事は私の胸の内に秘めておきます』
「わ、わたしも、ちゃんと秘密にします」
『オレも、誰にも言わねぇからな!』
「……不安だな」
「えぇっ!?」
ジェネはうっかり言っちゃいそうという不安だが、モアはな……。
仕方ない。ちょっと一手打っとくか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「新たなマターボードが産まれた。これは、貴方の行為が意味を為し、事象の好転を示す」
アークスシップに帰還し、ショップエリアのシオンがいつもいる場所へと来た。
他の奴等とはゲートエリアで分かれ(モアはチップのままジェネにセラフィさんの所まで運ばれていった)、俺一人だけ会いに来たわけだ。
そして、やはりこの類の台詞である。
シオンは俺から見て背中側に向けていた視線を、俺の方へと向き直す。
「私と私達から、千の感謝を。易き道程でない事を、私達は知り、それでも私は貴方を頼った。応えたのは貴方だ。貴方の意思が応えた。故に、私は感謝する」
「まー確かにあの野郎とは命懸けの判断下すことになったが、知ってたんなら言ってくんないか? それとも、それもまた言えないってか?」
「……私は謝罪する」
……とはいえ、事前に知ってたら頑なに行かなかっただろうな俺は。
今回の時間遡行で手に入れた杖。
これが例え本物の創世器だったとしても、あいつと遭遇するくらいなら捨て置くだろう。隠密してゲットするにしてもリスクがあり過ぎる。
「貴方の認識において、優位事象の取得が行われている。得た物は貴方以外に得られぬ物となる」
シオンは、俺の腰辺り、アイテムパックがある辺りを見る。
「貴方が手にしたかの武器について、私は知らない。知り得ない。ただ、それが貴方にとっていずれ分かる事象であると私は知っている」
「……そんな曖昧なもんで、わざわざ時間遡行させますかねぇ?」
「これ以上語るべき言葉を私は持たない。……許してほしい」
ふむ。
何かは分からなくても、優位事象、俺に何かを齎す物だとは分かってるってことかね。
無機質ながら、申し訳なさそうな顔を浮かべるシオンは、続ける。
「そして、幾度となく貴方を頼らねばならない私を、どうか……許してほしい」
そう言って、シオンは消えた。
そして、再びブラックアウト。
「……戻ってきたか」
視界が開けた時、シオンはそこにいなかった。
今回の時間遡行が終わったということだろう。デバイスを開けば、新しいマターボード。
「ま、とりあえずこれが武器っぽいのは分かったし、ジグさんに見せに行くか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
前回会った時のテーブルに、ジグさんはいた。
「なんだ、お主か。何か見せようとでも言うのか? わしの情熱を呼び覚ますような?」
「…………」
開口一番、この台詞だ。
やさぐれてんなぁ。
気持ちは分からんでもないが、表に出しちゃうのは大人気ないと思うよ。
「ええ。ちょいと珍しいものを拾ったんで、あなたには見せておこうかと」
そう言って、アイテムパックからあの杖を取り出す。
「無駄だ、無駄無駄。冷めきったわしの情熱は、そんじゃそこらの武器……では……」
その杖をジグさんが認識した時。
あっという間に俺の手から奪われてしまった。
機械の身体でなければ、目の色を変え、見開かんばかりの声で、ジグさんは言う。
「なんだ、これは……! 無駄しかないようなフォルムで、その実、全てが噛み合っている……。この形状、どうやって作って……いや、それよりもこれだけのものを、どうやって錬成したというのだ……! お、おい……お主、これをどこで!」
杖に釘付けになっていた視線を俺の方に戻す。
今までの冷えた態度が嘘のようだった。それ程までに、豹変したとでも言わんばかりの食いつきようである。
……ふむ。怪しいけど力があるようには思えないが、ジグさんの興味関心は引けたか。
あんだけ苦労して手に入れたのに、それさえ出来ないようなら粉微塵にしてしまいかねない所だった。
「凍土エリアでちょっと。結晶体……今思えば、あれは氷の中だったのかな? それにしちゃおかしいか?」
「氷の中……じゃと? そんな……しかしこれは……っ、ええい! 悩むより行動じゃ!」
ジグさんはその杖をテーブルに置く。
が、手は離さない。
「お主、この壊れた武器の一部を貸してはくれまいか? わしなら、修復できるやもしれん」
「そうです―――」
「心配せんでも見返りを要求したりはせん!」
まだ何も言ってないんだが。
「むしろ逆じゃ。タダでとも言わん! 必要なら、お主の為に武器も作ろう!」
「おー……」
刀匠自らこう言って貰えるとは、出血大サービスだな。
俺の自作武器も、この人に頼めば機能を残したままグレードアップしてもらえるかもしれないし、なんなら要求する機能を付けた武器を作ってもらえるやもしれん。
ジグさんは視線を再び杖に戻す。
「武器の一部、それも破損状態……だのに、これ程の魅力を醸し出す、その真の姿……見てみたい!」
ふむ。
俺の見立てではパーツが足りないようだし、これ一つから全部修復は出来ないだろうが、あまり時間を割けない俺が持っててもしょうがないだろう。それなら、これ一つに時間を割けるこの人が持っていた方が有用だ。
というか、今から何言っても無駄っぽいし。
「わしの中で燻り、消えかかっていた情熱が、再び燃え上がってきたのだ! ふふ……ふふふ! 楽しみだ、楽しみだぞ! お前さんの真の姿は一体どんなものなのか! わくわくが止まらぬ!」
やっぱりキャストなので表情変化は窺えないが、言葉通り楽しそうなのでいいとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハクメイにとっては見知った人物なので、その存在を認識していても気に留めなかったが。
その二人のやり取りを見ている人影がいた。
そしてその人影は、ジグが持つ、破損した杖の一部を見て、呟く。
「……あれは」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
壊れた杖をジグさんに貸し終えた。
スキップでもしかねないあの人の背を見送り、背伸びを一つ。
「さて、この後はっと―――お?」
デバイスに、通信が入った。
ジェネからだ。
? なんだ? この時間だと確か、ジェネはマトイに会いに行ってた筈……。
回線を開く。
「どうした? なんかあった―――」
『ハクさん! ハクさんですか!? 今すぐにメディカルセンターに来てください!』
舌がもつれそうな声で、ジェネは続ける。
『マトイちゃんが……』
次回はちょっと、原作にない展開。
今回は短めですが、次回が終わればようやくこの章は終わりです。中途半端にes混ぜるから長くなりましたね。