PSO2 ~煌々たる白明~   作:クビキリサイクル

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あなたが優しい、その理由

 

 

 

 

 

 どこまでも、真っ黒だった。

 どこまでも、何もなかった。

 そんな世界に、ただ一つ、わたしだけがいた。

 

 

「……ここは、どこ?」

 

 

 空も、地面もない。

 上下も左右もない。

 光でさえも何もない世界で、わたしだけがわたしを認識できる。

 そんな世界で、わたしは浮いているのか落ちているのかも分からず、存在していた。

 わたしは、ここにいた。

 でも―――

 

 

「……ひとりぼっちだ」

 

 

 ここには、何もない。

 ここには、誰もいない。

 わたし以外の存在は、何一つとして存在しない。

 誰も、わたしと話さない。

 誰も、わたしに触れない。

 誰も、わたしを知らない。

 そんなの、いてもいなくても同じだ。

 わたしはいてもいなくてもいい存在。

 いようがいまいが、何も変わらない。

 悲しいくらいに、わたしは独り―――

 

 

『そんなことないわ、********』

 

「え?」

 

 

 声が、聞こえた。

 最後だけ聞こえなかったけれど、それは確かに声だった。

 そこを見ると、そこには。

 

 

 

 女の人がいた。

 

 

 

『ああ、本当はマトイなんだっけ? ごめんごめん。ずっとそう呼んでたから、慣れちゃってて』

 

「……誰?」

 

 

 知らない人だった。

 けれど、その人は、わたしと同い年ぐらいのその人は、わたしと同じ目線で、わたしの目を見て話し掛けてくる。

 

 

『……そっか。忘れちゃってるんだよね、わたしの事。あなたの事』

 

「……わたしの、事? あなた、わたしを知ってるの? わたしが忘れちゃった事、あなたは知ってるの?」

 

『それは……ううん。もしかしたら、あなたは知らないまま、忘れたままの方がいいのかもしれないわね。あなたにとっては、辛い記憶かもしれないから』

 

 

 辛い、記憶?

 その人は、悲し気に、でも優しく微笑む。

 

 

『でもね、マトイ。もしもそれを思い出してしまう事があるのだとしても、怖がることはないわ』

 

 

 わたしの手を、その人の両手が包み込む。

 温かい。

 じわぁって、優しさが流れてくるみたい。

 

 

『だってあなたには、ハクメイがいるんだもの。あの時も、そして今も』

 

「……ハク、メイ」

 

 

 そうだ。

 わたしには、ハクメイがいる。

 記憶も何もないわたしに、寄り添ってくれるあの人。

 わたしと話してくれる。

 わたしに触れてくれる。

 わたしを知ってくれる。

 そんな人が、いる。

 

 

『思い出せなくてもいいけど、思い出してもいいのよ。あなたにとってあの人がどれだけの存在なのか。それを思い出すのは、きっと幸せなことだから』

 

「……ハクメイの事、知ってるの? ねぇ、あなたは誰なの? どうして、そんなに悲しい顔してるの?」

 

『……私の方もちょっと、ショックな事が色々あってね。わたしが誰かは……あなたが思い出す事を選んだ時に、思い出すから』

 

 

 その人の手が、離れてしまう。

 その人自身も、離れてしまう。

 

 

「ま、待って……! まだ、聞きたい事が……!」

 

『決して忘れないで。あなたも、ハクメイも』

 

 

 

『あなた達は―――』

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「待って!」

 

「ぅお」

 

 

 ガバっと起き上がった。

 

 

「…………あれ?」

 

 

 景色が変わっていた。

 そこは、わたしが寝泊まりしている、メディカルセンターの一室。

 白い色がいっぱいの、刺激が少ない部屋。そこのベッドの上に、わたしはいた。

 あの世界じゃなかった。

 見渡す限り真っ黒の、何もない世界じゃない。

 そして、あの女の人もいなくなっていた。

 

 

「急に倒れたって聞いたから来てみたら、起きるのも急だなおい」

 

 

 そして、ベッドの左隣で、ハクメイが椅子に座っていた。

 わたしを見て、少し驚いた顔をしてる。

 

 

「……ハク、メイ?」

 

「ん。ハクメイさんですよっと」

 

 

 ハクメイの青い瞳が、じっとわたしを見る。

 

 

「ちっと魘されてたし、顔色もよくなさそうだが……大事はなさそうだな。ま、もうちょい寝とけ」

 

「……夢、だったの?」

 

「なにが?」

 

「……ううん。ごめん、なんでもないの」

 

「なんでもないって顔じゃねぇが、まぁいいか」

 

 

 あっさりと、ハクメイは引き下がる。

 ……よく見たら、わたしの左手はハクメイに握られていた。

 そっと、優しく。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「うん?」

 

「わたし、また迷惑かけちゃったよね」

 

「……そいつは俺より、そっちでぐーすか寝てるやつに言えよ」

 

「え?」

 

 

 ハクメイが顎でベッドの右隣を見るように促す。

 そこを見ると、ジェネちゃんがいた。

 ハクメイと同じように、ハクメイとは違って強く、わたしの右手を握って、握ったままベッドに頭を乗せて寝息を立てていた。

 

 

「ジェネちゃん……」

 

「大変だったんだぜー? お前と話してたら、急に頭痛が来たとかでいきなりぶっ倒れたんだって? 俺が来た時にも大慌てでよ。あんな戦闘があって―――あ、それは二日前か。探索終わって間もない身体で、フィリアさんがもういいって言っても聞かずに、ずっと看病してたんだと。俺が夜食でも買いに離れてたら、この通りだ」

 

「…………」

 

 

 そんなに、心配かけちゃったんだ。

 それはそうだよ。だって、目の前でいきなり倒れられたりなんかしたら、驚くどころの騒ぎじゃないもん。わたしだったら、どうしたらいいかわかんないまま棒立ちになっちゃいそう。

 ジェネちゃんは、今は気持ちよさそうに寝ている。

 その目元が赤く腫れてるのは、きっとわたしのせいなんだろう。

 

 

「……ジェネちゃんも、ごめんね」

 

 

 その頭を撫でてあげたいと思ったけど、今は両手が塞がってた。

 仕方がないから、言葉だけにする。

 今度起きてる時に、改めて伝えないと。

 

 

「その、……わたし、どれぐらい寝てた?」

 

「んー? お前達が話してた時間から、大体このぐらいまで」

 

 

 デバイスのスクリーンを表示させて、ハクメイはわたしに時刻が表示された画面を見せる。

 とっくに夜中だった。

 宇宙空間にある船で夜と言うのもおかしな話だけれど、オラクルでの時間という設定で出回ってるもので、一般的に非活動時間と言われる時間帯だ。

 

 

「わ、わたし、そんなに寝てたの?」

 

「うん」

 

「……その、ごめんなさい。探索後だっていうのに、こんな」

 

「気にすんなよ。俺は自己回復出来るから、なんなら一週間ぐらいは寝ずに活動できるし」

 

 

 なんてことないようにハクメイは言って、苦笑する。

 ……そうは言っても、夜になったら寝たくなるのが人間なのに。

 ハクメイは、未だにわたしの左手を握り続けている。

 それをわたしが見ているのに、ハクメイは気付いたみたいだった。

 

 

「ああ、これか? ジェネの真似して握ってみたら魘されなくなったけど、起きたわけだし、離そうか?」

 

「う、ううん……。その、まだ握っててほしい、かな……」

 

 

 きっと、ハクメイに迷惑がかかる。

 そう思っていても、わたしはそう懇願してしまった。

 まだわたしがあの夢を……真っ暗で誰もいない、ひとりぼっちの世界を引き摺っているから。

 こうして繋いでいる手の温かさがある内は、わたしは同じ夢を見ない。そんな気がする。

 ハクメイは嫌な顔一つせずに、わたしの願い通りにその手を繋いでいてくれた。

 

 

「……ねぇ、ハクメイ」

 

「うん?」

 

「どうしてハクメイは、わたしに優しくしてくれるの?」

 

 

 アフィンさんは、わたしの事を気に入ったからだって言ってた。

 ハクメイは気に入った人にしか優しくしないって言ってた。

 でも……わたしには、気に入られる要素なんてない。

 わたしはハクメイに何もしてあげられてないんだから。

 なのに、ハクメイはこうして、言われなくても手を握っていてくれた。それぐらい、優しくしてくれた。

 その疑問にハクメイは、あっけからんと答える。

 

 

 

 

 

「お前が可愛い美少女だから」

 

 

 

 

 

「びっ……!?」

 

 

 び、びしょうじょ!?

 びしょうじょって、あの美少女!?

 可愛い美少女って、わたしが!?

 

 

「か、かわ……え!?」

 

「なんだよ自覚なかったのか? 世間一般から見ても俺からしても、お前は完全無欠に美少女だぜ? 可愛くない所なんてないくらいにな。俺だったらな、いくら俺以外に覚えてることがなくて俺以外に頼る人がいなくても、お前がブ男とかだったりしたら普通に捨て置くぞ? 流石に救助はするけど」

 

「え、え、え、え!?」

 

「狼狽え過ぎだろ……ジェネだって、お前の事は可愛い可愛い言ってたろうが」

 

「そ、それはそうだけど……!」

 

 

 ジェネちゃんは優しい子だから、実際はそこまでじゃなくても可愛いって言ってくれる子だと思う。

 けど、ハクメイはそういう褒め言葉を盛ったりしない人だから、それはつまり、本心ってことで……あうー!

 

 

「か、かか、可愛い美少女っていうのは、その、ジェネちゃんみたいな子の事を言うんだよ? ほら、今寝てる顔だって、すっごく可愛いし……」

 

 

 右隣にいるジェネちゃんを見る。

 本当に、すやすや眠ってる顔も穏やかで優しくて、可愛くてしょうがない。

 それに髪もふわふわで、胸もおっきくて、腰は細くて、いつもニコニコ笑ってて。

 まるで太陽みたいな女の子。

 

 

「まあそれはそうだな」

 

「でしょ?」

 

「お前が可愛くない理由にはならんが」

 

「あぅ、ぅううー……」

 

 

 顔から火が出そう。

 手で隠してしまいたいけど、その両手はガッチリ掴まれてる。

 せめてもの抵抗で顔を俯かせるけど……恥ずかしいって認めてる気がしてならない。

 そんなわたしに、ハクメイは言葉を重ねる。

 

 

「言っとくけど、外見が全てって言ってるわけじゃねぇぞ? 外面ってのは多少内面が滲み出てくるもんだが、例え絶世の美女だろうと性格最悪だったら関わり合いになりたくないし。その点、お前は外も内もひっくるめて可愛い美少女だと評価してるわけだ」

 

「ぅぅぅ……」

 

「つーわけで、俺がこうしてるのも別にお前の為って訳じゃなくて、俺の自尊心を満たす為って事だ。男ってのはいつの時代も単純なモンで、可愛い子には懐かれたい。良く思われたいってのが根本にあるんだよ。所謂下心ってやつ?」

 

「そ、そんな」

 

 

 そんな言葉で、片付けていいのかな。

 ただの下心。

 それだけで、この左手にある温かさが、生まれるのかな。

 

 

 

 

 

『あなた達は――――――』

 

 

 

 

 

 不意に、夢の言葉を思い出した。

 

 

「…………」

 

 

 あの人の手も、温かかった。

 ジェネちゃんの手も、まるで太陽みたい。

 けれどハクメイの温かさは……もっと心地良い。

 ぎゅっと、その手を握り返す。

 

 

「? マトイ?」

 

「……ごめん。これからもう一回眠るから、それまでは手を握っててくれるかな?」

 

「んー、いいぞ。なんなら」

 

「わたしが寝たら、ハクメイもちゃんと寝てね?」

 

「ぬ……」

 

 

 ……ふふ。なんだか、また少しハクメイの事が分かってきたかも。

 もう一度横になったわたしに、ハクメイは布団を掛け直してくれる。手は繋いだまま。

 目を閉じて、世界は真っ暗になる。

 でも、もう悲しくなかった。

 だってこんなにもあったかい温もりが、両手にあるんだから。

 

 

 

 これからもまた、この手を離して、二人は戦いに行く。

 わたしが唯一頼れる人、ハクメイ。

 わたしのお友達になってくれた、ジェネちゃん。

 二人が危ない目に遭ったらって、いつも心配になる。

 だけど、絶対に帰ってきてくれるって、信じてるから。

 

 

 

 

 

 

 




短めですが、思ったよか早く仕上がったので投稿。
本当ならPSO2で金策してる頃なんですが、近々引っ越しすることになったので、その手続き諸々があって起動する気も起きない……。

マトイの夢に出てきた女性はまぁ……察しの良い人ならとっくにお気づきかと思いますが、敢えて伏せておきます。

次回からはesストーリー編という事で、あの変t……天才科学者に会いに行きます。
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