PSO2 ~煌々たる白明~   作:クビキリサイクル

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鏡合わせの二人

 

 

 

 

 刺爪『ブラッドクロウ』。

 前にも取り出したことのある物騒な名前の自在槍だが、その用途は捕獲用に重きを置かれる。

 爪のカーブ部分から伸びる針。持ち手にあるボタンを押すとこの部分から更に無数の小さな棘が生えてくる仕様になっている。

 エネミーに針を刺し、そこから生やした棘から神経毒を流し込み、動かなくさせる。そういう武器だ。

 個体によって抗体は違うので、その都度針を変える。そう、着脱可能である。

 神経毒とは言ったが、他にも様々な毒を用意していて、用途によっては死に至らしめる毒もあるので、『死の爪(ブラッドクロウ)』と名付けた。『毒の爪(ポイズンクロウ)』と名付けてもよかったが、まぁエグさが伝わって良いかなって。

 まぁ、ダーカーに効く毒なんてないから、対エネミーに限られてしまうのだが。

 で、なんでいきなりこんな話を始めたかというと。

 デ・マルモスの動きを止める毒を注入しても、最終的に動かなくなったのは13回刺してからだったからだ。

 

 

「やっぱ巨体だと必要な量も違うね」

 

 

 横倒れになったデ・マルモス。マルモスを巨大化させたその姿を横目に、セラフィさんが転送してきた捕獲装置を起動させていく。

 勿論死んではいない。捕獲してチップ化させる以上、生け捕りでなければならないからだ。

 以前からちまちまと小さいエネミーを捕獲して、チップのスロットは満杯にしていた。が、それだけでは強化も僅かなものである。そこで、今回は大型エネミー捕獲に踏み出したわけだ。

 さっきセラフィさんに話したところ、この大型エネミーを捕獲すれば、そのサポートチップをこちらに回せるようにしてもらえるとのこと。

 

 

「なんかオレ、すっげー! すっげー!強くなったきがするぜ!」

 

「おう。お疲れさん」

 

「大型エネミーを危なげなく倒せたってことは、わたし達、強くなってますよね……っ!」

 

「そうだな。俺の方も、ドライブも並列起動も使わずに倒せたし」

 

 

 こちらも全くの無傷とはいかなかったが、苦戦という程ではない。

 大型エネミーの遭遇自体はこれまでも何度かあったが、捕獲に踏み出さなかったのは力量を鑑みてだ。捕獲に拘って戦闘できるかどうか。その判断が要された。

 今ならいけると考えて、捕獲を提案した。その期待通り、こうして重傷者も出さずに無事捕獲出来たというわけだ。

 

 

『みなさん、デ・マルモス撃破おめでとうございます。息もぴったりですね!』

 

「ええ。……っと、そろそろ装置の準備が出来るんで、そっちに転送しますねー」

 

 

 デ・マルモスの巨体を囲う捕獲装置は、起動してから完了するまでに時間が掛かる。厄介な事に、その間ずっとこの装置の円内にエネミーを捕えておかなければいけないのだ。

途中で出ていかれようものなら最初からやり直し。まぁ、アークスシップのエネミー保管場所にまで送るのだから、座標の指定だとかに時間が掛かるのだろう。

 俺は神経毒があるからいいが、この円内に捕えておく為に暴れるエネミーを抑えようと戦い、生け捕りに失敗する事が多々あるらしい。

 まぁ、俺には関係ないことだ。

 装置の転送が完了し、デ・マルモスの姿が消えていく。

 

 

「にしてもザッカ―ドのやつ、ぜんぜんみつかんないなー。どんどん強くなるオレにビビったんだな!」

 

「そ……そうかも、しれない……です……ね……」

 

 

 ふむ。そろそろか。

 ふらっと、力が抜けたように横へと倒れていくジェネを片腕で抱き止める。

 元々それに文句言うような奴ではないが、今はその元気もないようだ。

 

 

「ジェネ? おい、めちゃくちゃ顔色わるいぞ!」

 

『ジェネちゃん、大丈夫ですか?』

 

「…………」

 

「んー。ちょっと喋る元気がないみたいだし、このまま持って帰るか。モア、テレパイプ」

 

「え、あ、わ、わかったってば!」

 

 

 モアが起動させたテレパイプからキャンプシップに乗り込み、アークスシップへと帰還していった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「なぁなぁリーダー」

 

「ん?」

 

 

 ジェネをメディカルセンターに預け、ショップエリアで仕上げの作業をしていると、モアに声を掛けられた。

 その顔は浮かない。

 今はゆっくり眠っているであろうジェネの事を考えているのだろう。

 

 

「ジェネ、だいじょうぶかな? あいつ、けっこー身体弱いんじゃねーのか? 心配だぜ……」

 

「そう思う?」

 

「うん……。フォトンのコントロールが上手くないってのと、かんけいあんのかな……?」

 

「…………」

 

 

 説明するのだるいなぁ……。

 けど、いいか。どーせ後の作業は片手間に終わらせられるし。

 チームメンバーの弱点を把握させておくのもいいだろう。

 

 

「モアは、フォトンコントロールとフォトン感応力、フォトン積載量にどういう関係があると思ってる?」

 

「え? か、かんおうりょくと……せきさいりょう?」

 

「……そこからか」

 

 

 武器にも関係してくる話なのに、こいつとことん無知だな……。

 

 

「そうだな……。ここに貯水タンクがあるとするだろ」

 

「うん」

 

「フォトンをここに貯まってる水に置き換えて、その貯水タンクに入れられる水の量が、フォトン積載量。それが人一人が体内に貯められるフォトンの量になるわけだ」

 

 

 手を動かしながら横目に見るモアに、説明を続けていく。

 こいつの頭でどれだけ理解できているかはわからんが、とりあえず熱心に聞いてはいるようだ。

 

 

「んで、それを捻り出す蛇口の大きさがフォトン感応力。蛇口を捻って出す量を調整するのがフォトンコントロールってわけだ。ここまではOK?」

 

「お、おっけー」

 

 

 前にウルクに説明した時はあたかも適性=フォトンコントロールという風に言ったが、実際はこれの総合力がフォトンの適性となる。(次教える機会があったら暴露するつもり)

 ウルクは感応力こそ下の下だが、積載量自体は人の平均レベルだ。

 これで積載量まで下の下だったら目も当てられなかったが、まぁそれでなくとも別の道を模索してもいるようだし、それはいいか。

 モアが質問してくる。

 

 

「それで、それがジェネの身体が弱いのとどうかんけいあるんだよ? ジェネはフォトンが上手く使えないから、身体が弱いのか?」

 

「あいつはむしろ丈夫な方さ」

 

 

 そう。身体が弱いわけじゃない。

 あいつは、()()()()()()()()()()()のだ。

 類稀なる天賦の才が、ジェネの中で暴れているから。

 

 

「フォトン感応力が強過ぎるから」

 

「え?」

 

「積載量まで桁外れだからなんとか戦えているが、それを捻り出す蛇口が巨大過ぎる。だからあいつはすぐ倒れるんだよ」

 

 

 フォトンコントロールが上手く出来ない。

 それも当たり前だろう。

 持つのさえ一苦労する重さの剣を、我が身のように振るえる剣士がどこにいる。

 

 

「そんな巨大な蛇口でずっと全開のままでいてみろ。すぐに中の水が空っぽになる。しかも、勢いが強すぎるせいで貯水タンクにまで負荷が掛かる始末だ」

 

「え! じゃあ、じゃあ、ジェネは戦うたんびに傷付いてんのかよ!?」

 

「ああ」

 

 

 溢れ出したフォトンが自分の身体まで傷付けていく。だというのにコントロールが出来ないせいで武器に集中させることも出来ず、本来の威力を発揮することも叶わない。

 それでもパイロソーサーを持てばウォルガーダの片足を切断し、コアを貫く威力なのだ。

 それだけの力を戦闘中常時垂れ流し。倒れて当然というものだろう。

 

 

「……リーダーは、さいしょから気付いてたのか?」

 

「そうだな」

 

「じゃあ、なんで……」

 

「あいつなりに、覚悟を決めてるからだよ」

 

 

 その痛みを覚悟せず、耐える気力がなければ、すぐに音を上げる筈だ。

 たかだかチームリーダーの俺に、それを押してでもアークスを続けさせる権限なんてないし、そんなつもりもない。

 だというのにあいつときたら。

 自分が辛い癖に、まず他人に謝るんだ。

 

 

「あいつの両親は、ダーカーに殺された。そんな人がもう生まれないように、守りたい。だから戦うってよ。それにどれだけの覚悟があるか、あいつは身を以って証明してるわけだ」

 

「…………」

 

「お前に、それを止めるだけの理由があるか?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

「はい。お大事にどうぞ」

 

 

 メディカルセンターに勤めるフィリアさんに、深々と頭を下げるわたし。

 お見送りをしてくださった綺麗なその人は、にこやかに手を振って、職場へと戻っていきました。

 お世話になったメディカルセンターを後にして、溜息を一つ。

 

 

「はぁ……」

 

「ジェネちゃん、大丈夫? 元気がないけど……」

 

 

 そんなわたしを、傍にいたマトイちゃんは、心配そうに覗き込みます。

 ……ダメですね、わたし。マトイちゃんにまで心配かけて。

 努めて明るく笑って、わたしはそれに応えてみせます。

 

 

「大丈夫ですよ! しっかり休ませてもらえましたから、もう元気モリモリです!」

 

「……無理しなくてもいいんだよ?」

 

「う」

 

 

 見透かされてました。

 マトイちゃん、目敏い所があるから、隠し事が出来ないです……。わたしが全然嘘つけないのもあるのだと思いますけど。

 

 

「……その、本当に身体の方は元気になったんです。元気がないとしたら、別の事で」

 

「別の事……?」

 

「はい……。わたし、情けないなぁって思って」

 

 

 ゲートエリアのベンチに、二人一緒に腰掛けて、愚痴のような話をしていきます。

 わたしが戦いの後、いつもヘバッてしまうこと。

 それでいつも、ハクさんやモアに迷惑を掛けていること。

 それでなくとも、ハクさんの足手纏いになってしまっていること。

 本当はこんな話したくない。マトイちゃんとは楽しくお話したい。……でも、マトイちゃんの瞳に見つめられると、言葉がするすると口から出て行ってしまいました。

 

 

「今日なんか、戦いが終わったら倒れちゃって……。チームなのに、お荷物になってばかりなんです」

 

「そっか……」

 

 

 マトイちゃんは口を挟まず、わたしの話を聞いてくれます。

 本当にマトイちゃんは可愛くて良い子です。

 でも今は、そんなマトイちゃんに愚痴を聞かせている自分が情けなくて……。

 

 

「強くなってるって、そう思いたいです。でも、ハクさんはどんどん先に行ってる。一緒にいても、守られてばかりです」

 

 

 わたしがハクさんを守れたと思えた事が、一度もない。

 助けられてばかりで。

 守られてばかりで。

 そのお返しが出来ないまま。

 あの人……ゲッテムハルトさんの言うように、守られないようにすることが、出来ないまま。

 

 

「……全部、わたしが弱いのがいけないんですよね。ずっと、このままなくらいなら……」

 

「ねえ、ジェネちゃん」

 

「え?」

 

 

 マトイちゃんが、わたしの手を取りました。

 両手で包み込むように、ぎゅうっと。

 

 

「わたしが倒れた時、ジェネちゃんはこうして、手を握ってくれてたよね?」

 

「え、それは……」

 

「あの時のお礼、まだ言えてなかったよね。ありがとう、ジェネちゃん」

 

「そんな、お礼なんていいですよ。わたしがしたくてしたことなんですから」

 

「ハクメイも、きっとそう思ってる」

 

「え……?」

 

「ジェネちゃんが言うように、ジェネちゃんが弱くて、足手纏いだとしても、一緒にチームとして戦いたいから。だから、ハクメイはジェネちゃんと一緒に戦うんだと思う。それはきっとモア君も。ジェネちゃんは、そうじゃない?」

 

「……それは」

 

 

 …………わたしだって。

 わたしだって、二人と一緒に戦っていきたいです。

 でも、でもわたしは。

 

 

「強くなりたいって思うのは、素敵な事だよ」

 

 

 マトイちゃんは一層ぎゅっと、力を込めてわたしの手を握ります。

 

 

「でも、ジェネちゃんもハクメイも、戦えもしないわたしの手を握っててくれた。傍にいてくれた。それは、わたしが戦力になるからじゃないよね?」

 

「…………」

 

「ジェネちゃんが今より強くなりたいって頑張ってる事は、わたしだって知ってる。一緒に戦ってるハクメイが知らない訳ないもん。そんなジェネちゃんだから、ハクメイも助けてくれるんだよ」

 

「でも……」

 

 

 強くなりたいって、頑張ってるつもりです。それは嘘じゃないです。

 でも、と。わたしの口から出てくるのは弱音ばかりで。

 

 

「でも、わたしはハクさんみたいに強くなれる気がしないんです。ハクさんみたいに、才能があるわけじゃない。わたしには」

 

「それ、ハクメイさんに言ったら怒られちゃいますよ?」

 

 

 横合いからの突然の声。

 そこにいたのは、セラフィさんでした。

 二人一緒にちょっとびっくりして、そちらを向きます。

 

 

「いえ、呆れられるでしょうか? とにかく良く思われないですね」

 

「セラフィさん、良く思われないって……」

 

「確かにハクメイさんは優秀です。戦闘での立ち回り、戦局を見極める戦略眼、決断の早さ、何より生み出した独自の技術。どれをとっても一級品だと言えるでしょう」

 

 

 ですが、とセラフィさんは言います。

 

 

「アークスとしての才能、という一点だけは、そうはいきませんでした」

 

「? それってどういう―――」

 

 

 

 

 

「フォトン感応力が、通常ならアークスになることも出来ない程弱かったんです」

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

 

 フォトン感応力。それは聞かされた事があります。

 わたしが疲れやすいのも、それが強過ぎるから、それをコントロールする事が出来ないからだと。

 フォトンを扱った攻撃の威力を決める、フォトン感応力。

 それが……ハクさんは、弱い?

 

 

「ずっと不思議だったんです」

 

 

 セラフィさんは言います。

 

 

「あの時、ハクメイさんの武器を使ったジェネちゃんは、ウォルガーダの足を斬り落としていました。同じ武器を使ったハクメイさんはPA(フォトンアーツ)を使って傷をつけるのが精一杯だったのに。まるでバターでも切るかのように」

 

「あ……」

 

 

 そうでした。

 あの後は色々あったから有耶無耶になってしまいましたけど、わたしがハクさんの武器を使ったら、あの時の大型ダーカーの身体を自分でも驚くぐらいに簡単に切ってしまえたんです。

 

 

「ジェネちゃんの感応力が人並み外れてるだけかもしれないと思いましたが、それだけではないような気がして、調べてみたんです。そして知りました。ハクメイさんの感応力が士官学校入学当時から全く成長していないことと……その事が原因で、『落ちこぼれ』と呼ばれていたことを」

 

「そんな……だって、ハクさんは主席卒業者で、同期の中で一番強いアークスで」

 

「そうなれるまでに、どれだけの修練を積んだか想像できますか?」

 

「…………」

 

「いえ、入学前からそうだったのでしょう。修練を積んでも感応力が僅かでも成長しなかったということは、入学時点で既に極限まで鍛え上げたということです。知り合いにアークスがいたとしても、士官学校の施設もなしに鍛えるなんて、無謀極まりないと思われて当然なんですよ」

 

 

 それだけ鍛えて、落ちこぼれ。

 通常ならアークスにもなれない程に、弱い感応力。

 才能の無さ。

 

 

「そんな感応力でもアークスになれたのは、戦闘での強さ、アークスとしての知識、何よりフォトンのコントロールが誰よりも優れていたからなんですよ。きっと生まれた時から磨き続けてきたであろうそれを、『才能』という言葉で片付けるのは違うんじゃないでしょうか?」

 

「…………」

 

 

 わたしは、一体何をしていたんでしょうか。

 あの人が生まれ持つ事が出来なかった感応力を、才能を、持ち合わせておきながら。

 持つことが出来なかったあの人がアークスになる為に、必死に鍛錬を積み重ねている間に、わたしは―――。

 

 

「……ハクメイは、どうしてそんなに、アークスになろうと?」

 

 

 マトイちゃんが問い掛けます。

 

 

「詳しい理由は聞いていません。ただ、アフィンさんから聞くには『強欲だから』と。『欲を満たす為に、夢を叶える為に頑張るのは当然だと、相棒は考えてるんですよ』。そう言っていました」

 

 

 

(……夢を、叶える為に)

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「お、お待たせしましたーっ!!」

 

 

 ショップエリアに響く、ジェネの声。

 見ればジェネが俺達の方へと走ってきていた。

 

 

「お。もう大丈夫そうか?」

 

「はい! もうバッチリです!」

 

 

 むんっ、とマッスルポーズを取って見せるジェネ。可愛い。

 

 

「ならいいさ。もう聞いたかもだが、セラフィさんがザッカ―ドの生体反応を捉えられたってよ。これから出撃するぞ」

 

「はいっ」

 

「……うぅーん!」

 

「モア? どうしました? え? なになに? なんでそんなに変な顔をしてるんですか?」

 

「へ……変な顔っ? なんでもない! ザッカ―ド捕まえに行くぞ!」

 

「……??」

 

 

 そっぽを向いて、モアは飛んでいく。

 さっきのを聞いて、口出ししたくても出来ないってとこか。全く。

 遠ざかるモアの小さな背を追おうとすると。

 

 

「あの、ハクさん」

 

「ん?」

 

 

 ジェネに呼び止められた。

 

 

「…………」

 

「?」

 

「……頑張りましょうね! わたしも、頑張りますから」

 

「? ああ」

 

 

 

 

 

 




3/27
セラフィさんとマトイ、初対面じゃなかった。
ので修正しました。自分で書いたことを忘れるってヤバいですね。
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