チームで行動し、戦闘するに当たって、そのリーダーに最も求められるものは何か。
それは、戦略眼。
敵の実力を見極め、味方の戦力とを照らし合わせ、素早く判断する能力である。
先のブラックパウンドも、単純な実力より、リーダーの戦略眼が優れていたことが、チームメンバーを欠けさせることなく戦えていた要因だった。次元の違い過ぎた仮面の男と遭遇することさえなければ。
勝てると思えば戦い、勝てないと思ったならば逃げる。逃げられない戦いならば、せめて工夫する。
そうした判断を下せる能力を、チームリーダーには求められる。
そしてハクメイも、この戦略眼は優れている人材だった。
PMによる感知によって敵と味方の実力を計りやすいのもあるが、己の感覚を信用し、それに従う決断力も確かなものだ。
今回の戦いにおいても、ジェネとモアならば周りの小型ダーカーを15~20体程ならば倒せると判断し、自分はそれ以外のゼッシュレイダを含むダーカー達を倒せると断じた。
そして事実、ハクメイはゼッシュレイダを倒し、ジェネとモアも順調にダーカー達を倒していた。
ハクメイの戦略眼に間違いはなかった。
誤算があったとすれば―――
「ジェネ!!」
『!? ジェネちゃん!』
キュロクナーダの棍棒で打ち倒されたジェネを見て、セラフィが叫び、モアが飛び寄る。
「……ぅ、く」
ジェネから呻き声が聞こえ、生きていることを確認した。
しかし、モアに安堵はない。
少なくない血の量を初めて見た、というのもあるが、それだけではない。
頭部を打たれ、いつも笑顔を浮かべていたジェネの顔が、頭から流れた血に染まっている。知識をそれ程持たないモアでも、頭への衝撃と流血がどれだけ危険かは知っていた。
今は生きていても、このままでは死んでしまうのではないか。
モアの顔から血の気が引いた。
―――誤算があったとすれば、それはプロメテウスを使った戦闘の影響が、二人の戦闘にも出た事だった。
広場全体に行き渡る衝撃。それは足場を揺らされているとも同然であり、離れた場所にいた二人も例外ではなかった。モアは飛んで地に足をつけていなかったが、それでも腹の底に響く衝撃。足をつけていたジェネはそれ以上である。
それでもダーカーが最後の一体となるまで油断なく戦っていたが……肝心な時。
キュロクナーダが棍棒を振り上げたのを見て、ジェネがそれを回避しようとした時に、プロメテウスの『クリムゾンブラスト』によって足場が大きく揺れた。
それによって後ろに跳ぼうとして出来なかったジェネの頭に、キュロクナーダが容赦なく棍棒を叩きつけたのだ。
「ジェネ! おい、ジェネ! しっかりしろよ! 今回復するからなっ!!」
モアはアイテムパックからソルアトマイザー―――一定範囲内のアークスをまとめて回復させるアイテム―――を取り出し、すぐに使おうとする。
が、それを待ってくれるようなダーカーではない。
『! モアくん、後ろです!』
再びキュロクナーダが棍棒を振り上げる。
セラフィは叫ぶが、当のモアはジェネを回復させることにしか頭になく、セラフィの声も耳に入らない。
一秒先の光景を想像し、セラフィは目を瞑った。
が、そうはならなかった。
振り上げた棍棒が、ワイヤードランスに絡め取られたからだ。
『……え?』
棍棒を引っ張られ、キュロクナーダの体勢は崩れる。
そして絡めとったワイヤードランス―――刺爪『ブラッドクロウ』のワイヤーが急速に縮んでいく。
「グラップル……チャージッ!!」
ハクメイは勢いそのまま、キュロクナーダの一つ目にドロップキックを叩き込んだ。
PDで強化された蹴撃はキュロクナーダの身体を大きく飛ばし、広場外の湖に退場させた。広場の端ではあったが、本来はここまで飛ばせるものではない。
飛ばされただけで消滅したわけではないのだが、それに構う程暇ではない。湖に落ちたのを見届けもせず、ハクメイはジェネに駆け寄る。その背にいたプロメテウスは消えている。
モアが使ったソルアトマイザーが効果を発揮し、血は止まったが、依然立ち上がる気配は見せない。
「ジェネっ! おい、しっかりしろ! 倒したぞ、オレたち!」
「……っ、はい。……ザッカ―ド……捕まえて……、みんなで……帰ろ……」
朦朧とした意識でも笑って見せるジェネに、ハクメイは内心舌打ちした。
ジェネを責めてる訳ではない。
自分が下した判断を、自分の戦闘の影響で台無しにして、その結果ジェネが傷付いた。ハクメイはそれに気付いているのだ。
本来責められるべきは自分の筈。
だというのに、ジェネはそれを詰るでもなく、安心させるように笑っているのだ。
わたしは大丈夫だと。心配しないでくださいと。
今ここで立ち上がれもしない癖に。
「う、うわぁぁっ! なんだなんだっ!!?」
広場の揺れが、唐突に大きくなった。
『今の戦いで、足場が崩れ始めています! 危険です! 今すぐ退避してください!』
「チッ、本格的になってきやがったな。モア!」
ブラッドクロウをアイテムパックに仕舞い、ジェネを背負うハクメイ。
あまり頭を揺らしてしまいたくはないが、急いで退避しなければならない。代わりに背中の部分でフォトンの光輪を作り、固定する。
揺れる広場から外へと足を踏み出した所で、ジェネが弱弱しく呟いた。
「ハクさん……ザッカ―ドを……」
「…………」
「ばか! アイツつれてたらお前どうすんだよ! ジェネひとりじゃ動けねーだろ! リーダー! ジェネを連れてここからはなれようぜ!」
『ハクメイさん! 急いで脱出してください!!』
モアは先んじて飛んでいく。
ハクメイも、ジェネの呟きを意に介さず、走り出した。
「だ、だめです……! わたしは、大丈夫ですから……!」
「うるせぇ!!」
「命張って救われた命だろうが!! お前が大事にしないで、どうすんだ!!」
「っ!」
目先の地面にヒビが入った。
躊躇わず踏み出していく。
「……そうでした」
足元の地面が崩れ、体勢を崩し掛けた。
踏ん張って事無きを得る。
「……わたしを助ける為に、家族は犠牲になりました……。だから、わたし……まだ、死ねない」
広場から出る道が崩落し、途絶えた。
大きく飛び込んで、向こう側へと着地した。
「ハクさん……ごめんなさい」
ハクメイの背中にいたジェネは、そう言って意識を手放した。
「は……ははははははは!!! こわれろこわれろこわれろ!」
崩落していく遺跡広場の中、ザッカ―ドの狂笑が響く。
それを背中に受けながら、ハクメイとモアはその場を後にした。
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後日、崩落した遺跡エリアに別働隊が再調査に向かったが、そこでE.M.A研究所爆破事件の犯人、ザッカ―ドの生存は確認できなかった。
生体反応を広範囲におよんで調査するが、確認できず、上層部は犯人の死亡でこの事件を幕引きとした。
多数の死者を出したE.M.A研究所爆破事件は、原因が解明されぬまま、後味の悪い結末となった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うええええええっ!!! なんでチーム解散しなきゃいけないんだよ!」
ザッカ―ド捕縛作戦が失敗に終わってから、数日。
俺達はショップエリアの一角へと、セラフィさんに呼び出されていた。
内容はまぁ、モアが今叫んだ通りで。
「いいじゃんいいじゃん! ずーっと三人でやればさ!」
「とても残念ですが、このチームは実験的なものでしたので……」
セラフィさんの言によれば、ウェポノイドを入れた俺達試験チームの運用は成功とされ、単独で行動していたウェポノイド達もアークスチームの一人として扱うことになったそうだ。
既に俺達以外にもアークスと共に行動しているウェポノイドもいて、今後はモア以外にもアークスにつけられるウェポノイドが増えていくとのこと。
なので、試験としてウェポノイドのモアをつけていた俺達チームの存続理由は無く、これにてお役御免というわけだ。
「また、このメンバーで頑張りたいですね。本当にお疲れ様でした」
不満だぜ、と言わんばかりの膨れっ面を見せるモアが、口で何かを言う前に。
ジェネが口を開いた。
「モア、セラフィさん……ハクさん! 本当にありがとうございました!」
ジェネは、笑って見せる。
多分モアでもわかるくらいに、無理矢理。
「次に会う時には、わたしもっと強くなります!」
「…………ジェネ」
「…………」
……何かを言おうとして、何も言えなかったモアが、俺を見る。
これでいいのかよ、と。
まぁ、ジェネの考えてそうな事は大体分かる。
今は傷跡も後遺症もなく治って何の別状もないとはいえ、ジェネが怪我をした事が原因であの作戦は失敗に終わった。
ザッカ―ドを捕まえられず、崩落に巻き込まれて死んだ。
事件の経緯を知ることなく、オラクルで裁きを受けるでもなく、人一人の命が失われた。
それをジェネは、重く受け止めている。
自分があの場で倒れるような事が無ければ、もっと強ければ。
作戦は成功して、ザッカ―ドを捕まえられたんじゃないかと。
そういう風に考えてるのだろう。
「だから、絶対にまた会いましょうね!」
それを踏まえて。
俺は言った。
「なにお別れムード出してんの?」
「えぇっ!?」
驚愕の表情を浮かべるジェネ。というか三人。
「まさか、俺が『ああ、元気でやれよ』とか言ってお見送りするとでも思ったか?」
「で、ですがハクメイさん。先程も申し上げた通り、このチームは今回限りの実験的なものでして……」
「
スクリーンを呼び出す。
んで、ポチポチポチ……っと。
「? なにをして……!」
ジェネの方に通知が来たようだ。
スクリーンを呼び出し、ジェネはそれを確かめ、目を見開く。
「……これ、って」
「
それは、招待状。
オラクル上層部に組めと言われて組むチームではなく。
俺がチームリーダーとして自主的に組む、俺のチーム。
そのチームへの招待状が、ジェネの手元に展開されていた。
「――――――! なぁなぁリーダー! オレには!?」
「え? いや、別にお前はいいかなって」
「なんだよそれ! 仲間外れにすんなよな! オレもチーム入るってば!!」
「あーはいはい」
モアの方にも送って、来たと同時に承認される。
こいつが俺のチームメンバー第一号か……まぁいいや。
ジェネは招待状を見続け、未だ承認をしない。
「なんだジェネ、嫌か?」
「嫌なんかじゃないです!」
強くそう言われた。
ジェネは続ける。
「でもわたし、ハクさんの足手纏いで……ザッカ―ドの時だって、わたしがもっと、もっと……!」
だから。
あれは俺の判断ミスで、お前はちっとも悪くないんだって。
そう言ってもジェネには響かないんだろう。
どうしてこう、履き違えてばかりなんだろうか。
「もしも」
「……?」
「もしもの話だけどな」
だから、それは言わない。
響く言葉を選んで、言う。
「もしもお前が自分のフォトンを、身体に負担なく、最大限に発揮するようコントロール出来たら、どうなると思う?」
「えっと…………一人前に戦えるようになります?」
「三英雄を遥かに上回る最強のアークスの誕生だ」
「――――――え?」
「お前のフォトン感応力は、アークスとしての素質は、それ程までに天性のものだってことだ。そもそも感応力が高過ぎて身体に負担が掛かるアークスなんて聞いたことがあるか?」
事実、六芒均衡最強のレギアスだって、ジェネ程のフォトンは携えていなかった。
理不尽な話だろう。
それだけの力を持っていながら、得られた結果が普通以下のアークス。
俺のように弱いが故に操りやすい奴でない以上、独学でコントロールする努力をするのも限界がある。
だからこそ。
「そんな桁外れのフォトンをコントロールする術をお前に学ばせるのに、俺以上の適任がいるか?」
「…………」
「そんな将来有望な部下を、みすみす俺が手放してやるとでも思ったか?」
何もジェネだけが得する話じゃない。
部下であるジェネが強くなれば、俺にだって得はある。
俺の為に俺が鍛える。ただそれだけ。
「今力不足なことなんざ気に病むな。俺だって、才能がなくてアークスになれないって言われた自分を踏み越えて、今ここにいるんだ」
「……ハクさん」
俯いて、スクリーンを見ながら逡巡するジェネが、ぽつりぽつりと問い掛けてくる。
「わたし……強くなれるんでしょうか?」
「お前にその気があるならな」
「ハクさんと並んで、戦えるようになるんでしょうか?」
「追い越されないように、俺も強くならなきゃいけないような時も来るんじゃねぇの?」
「誰かを守れるわたしに、なれるんでしょうか?」
「ああ。なりたい自分に、なってやろうじゃねぇか」
「……なりたい、自分に」
そしてジェネは。
俺の招待を、承認した。
「頑張ろうな、ジェネ」
「…………っ、はいっ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ……はぁ……っ」
薄暗い闇の中、一人歩いていた。
右目が痛い。とても。とても痛い。痛くて泣き出しそうだ。なんでこんな事になったんでしょう。誰が私の目を……目を!
ああ……そうだそうでした。
私が―――
「目的……研究……なすべき、ぐぅっ……ごほっ……!」
血反吐を吐く。内臓を痛めたか……? いや、骨が内臓に刺さっているのか……?
まぁいい。今はそれよりも、なすべき事がある。
歩いて歩いて、ようやく辿り着いた。
そこは見慣れた研究設備。研究室。研究、研究研究研究!
「ふ……これ、で……ダーク……ファルス……が……ふふ……」
鼓動が、小さく鳴った。
文章力が迷走中。
ただ一つ言わせてもらいます。ここから二年もは絶対に必要なかった。
EP6始まりましたね。シバ様めっちゃイキりまくってて、でも敵だから最後は負けるんだなぁと思ったら、なんだか可哀想になってきました。原作のアークス達が今のところ太刀打ちできなさすぎなのですが、こっちで温めてるネタを考えると、開始時点で主人公楽勝かも……。どうしてくれましょう。
一応esストーリーは一旦終わりで、ちょろっと日常しながらリリーパに行きましょうかね。その前にブルージーさん辺りでも差し込むかな。
まぁ大半のウェポノイドがブルーノまで出てないという理由で出せないんですがね。
また色々(ファントムレベリング含め)忙しくなってきたので、更新は遅くなるかと思います(いつも)
最後になりましたが、☆10評価をつけてくださった
HNさん!
遅まきながら感謝を述べます。ありがとうございました!
これからも気長に作者とハクメイを見守っていてください!