「んむ?」
自分が押し切られてしまったという事実に打ちひしがれていると、誰かが話しかけてきた。
「そのかっこ、アークスでしょ? うわー、いいなー!」
「……誰?」
また知らない人だ。
褐色というわけではないが、白いわけでもない、少し日焼け気味のニューマンの女子だ。
フォトンを感じ取りやすいとかなんとかで耳が長いのが特徴的なニューマンにしてもとりわけ長く、上向いている。耳の先が頭の天辺と並ぶくらいだ。
ロングの茶髪を背中から三つ編みに纏めている。
上半分は黄色く、下は黒いデニムで、アークスらしい服装ではなく、恐らく一般人…………結構な巨乳だな。
「あ、ごめんごめん! わたし、ウルクっていうんだ」
俺のちょい下衆な思考を知ってか知らずか、彼女は明るく自己紹介する。
「昔っからアークスに憧れていたからさ、つい」
「? 憧れていた?」
……一般人?
いや、アークスを志望するなら、なる前だとしても研修生として、さっきのルベルトのように士官学校の制服を着る筈だ。
彼女は見るからに俺と同年代。
士官学校に入るのであれば、年齢基準はもっと前から満たしてる筈。
それなのにアークスのコスチュームどころか制服すら着用してないってことは……。
「入学時点で蹴られた、か」
「うん。才能がないんだってさ、わたし。フォトンを扱う才能がないんだって」
アークスになるには士官学校に入って訓練を積み、最終的に修了任務を終える必要がある。
個人によって卒業までが長いだけで、中退さえしなければアークスになれる。しかし、その士官学校も誰でも入れるわけではない。
フォトンを感じ取り、コントロールする適性。
フォトンの出力を高める感応力。
これらが基準値に達していない人間は、入学することすら出来ない。
「残念だけど、しょうがないよね。アークスってシビアなとこなんだし、無理は言えないもん」
「…………確かに。人手不足とはいえ、戦えない奴を戦場に送り出すわけにもいかないしな」
「ま、わたしのことは別にどうでもいいのよ」
切り替え早っ。
「それよりも気になるのは、わたしの友達のこと!」
「友達?」
「あいつ、引っ込み思案で臆病なのに。何をトチ狂ったか、急にアークスになるとか言い始めてさ。そんでもって、実際に才能があって、一人でアークスになっちゃったからもう大変!」
ひっどい言われようだな……。
ビビりのアフィンだってそこまで言われたことなかったぞ。
「一人でやっていけるのかな? 最近会いにも来ないし……。うーん、ちょっと心配かなぁ」
「……で、それを俺に知らせてどうしろと?」
「うん。依頼とかじゃないんだけどさ。そいつを見かけたら、ちょっと気にかけてやってほしいかなって」
「そう言われても、ただ働きはなー」
「そこをなんとか! 記憶の片隅に留めとくだけでもいいからさ!」
両手を合わせて、必死に頭を下げてくるウルク。
……聞く限り戦士には向いてなさそうな奴だが、戦えないなりに、そいつの為にこうして頭を下げ回ってるんだろうかね。
…………はぁ。
「……ちなみに名前は?」
「引き受けてくれるの!?」
「そいつを気に入ったらな。会ってどうするかは俺次第。で?」
「あ、名前はね。テオ」
「テオ」
「テオドールっていうの」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
数十分後。
俺はナベリウスに降り立っていた。
いやー、やっぱ転移ってすごいわ。
アークスシップからナベリウスまでって何光年も離れてる筈なのに、キャンプシップであっという間だもんな。
『それでは! よろしくお願いします、先生!!』
「……おう」
結局先生呼びは固定なのね。
通信から聞こえてくるルベルトは元気だ。
反比例して俺の元気が萎んでいく程に。
(さて、マターの事もあるが、俺一人が色々隠しながらでも戦えるか確認しないとな)
並列起動も同じく。
ディスク改造起動も……言い訳は聞くが、面倒だ。
自作武器に関しては、俺が作ったと知られなければいい。
(それじゃ、まずは探知っと)
レスタ個別回復を自分に掛け始めると同時に、体内のフォトンを薄く放出する。
支配下に置いたままのそれを限界まで伸ばしていき、ドームのように展開すれば
ふむふむ…………。
この二つの反応は……ゼノ先輩とエコー先輩かな。
(……何やってんだあの人達)
周りのエネミーの反応を次々と消していくゼノ先輩は、まぁいいだろう。
エコー先輩の方は、ガルフと思われる群れから離れるような感じだった。
離れるっつーか、逃げてるなこれ。
テクニック職とはいえ、こうも全力で逃げる必要あるか?
ま、こっちはゼノ先輩がいるから大丈夫か。
他にもいくつか反応はあるが……気になるのはこいつだな。
この、他のアークスより強い反応。
(エネミーではないな。周りのエネミーらしき反応が消えてるし)
今は囲まれてるようだが、一方向にいるエネミーらしき反応が一度に消えた。
どうやらやたら広範囲の攻撃で一気に蹴散らしてるようでって、また結構な数消えた。
普通はこうも多数のエネミーが消し飛んだりはしない。
(相当な火力持ちのアークスだな……。顔を見ておくか)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「スピードレイン!」
帯状の衝撃波を五発生み出す
探知を頼りに気になる反応を追いつつ、道中のエネミーを狩っているのだ。
ちなみに今のクラスはハンターとフォース、ということにしてある。
さっき駄目元でサブクラスを申請してみたのだが、士官学校時代に万遍なく訓練していたのが功を奏したらしく、特別早めに許可を頂いたのだ。
努力は俺を裏切らんね、ほんと。
んで、自作の長槍を使ってみてはいるが、問題はなさそうだ。
(
使うとして、高い位置にいるエネミーを刺すくらいか。
だが、機能を使わずとも十分やれている。
言うなりゃ自力の確認なのだが、小型のエネミーやダーカーをやる分には問題ないな。
考えながら歩いていくと、反応していたアークスの姿が見えた。
男のようだが、アフィンより小柄なその背に声を掛ける。
「よっす」
「ひ、ひぃ!」
「…………」
開口一番ビビられた。
「……あ、な、なんだ。アークスの人か……」
振り向いたそいつは、金髪のニューマンだった。
耳は平行に伸びていて、ニューマンとして通常サイズ。それに乗っかるように背高帽が上に伸びていて、低い身長を高く見せているようだ。
服装は、全体的に黒。近接には向かないものなので、恐らくフォースかテクターかだろう。
「……はぁ、よかったぁ。エネミーかと思いましたよ」
安堵の溜息をつかれる。
…………こいつが、さっきまでバンバンエネミーを消し飛ばしてた奴か?
気弱そうで、明らかにアークスらしくはない。
ベテランどころか新米のペーペーのようだし、恐らく同期だろう。
「お前、新人のアークスか? 俺もついこの前アークスになったばっかだけど、そんなビクつきながらで大丈夫かよ」
普段こういうお節介みたいなこと言わない俺だが、口出ししてしまった。
あまりにビクつかれるもんだから、つい。
「いや、ぼく、あんまり戦うのは好きじゃなくって、ですね……」
「そりゃまぁ……好きって奴の方が希少だろうけどよ」
「アークスになったのも、たまたま適性があったのと、人気があったからそうしただけで……」
……たまたま適性があった、なんてもんじゃねぇだろ。ありゃ。
テクニック職で相手取ったとするなら、テクニックで戦ってたってことだ。
しかし、並列起動もなしにあの数を一度に消し飛ばすとなれば、それだけ一発の威力が必要となる。
そしてこうして目にしてりゃ分かる。
こいつは……
(が、性格がこれじゃあ、な……。戦士としてやっていけんのかね)
「……正直、怖いことはしたくないんです。なんとかなりませんかね……ならないですよね……はぁ……」
一人で問い掛け、一人で自己完結し、一人溜息をつくそいつ。
ネガティブ方向に忙しない奴だなー、おい。
そういや、ウルクに頼まれてた奴も、引っ込み思案で臆病で、その癖才能があるっつー……ん?
「お前、名前は?」
「え? な、名前ですか? テオドールですけど……」
お ま え か よ。
なぁるほどねー。こりゃ心配になるわけだ。
才能は凄まじいけど、明らかに性格が戦士に向いてねぇからな。
さっきみたいに多数を相手取って、多分我武者羅にテクニックを撃ちまくったんだろうが、それじゃあこの先戦えないだろう。
どうすっかなー。
連れて歩くには、誤射ならぬ誤爆でテクニックを当てられた時が怖すぎるし。
かといってこのままほっとくのも寝覚めが悪い……やっぱ名前聞くんじゃなかったな。
こいつと三人ペアならまだいくらか安心だろうけど……ん?
「おい。ちょっと来い」
「え? は、……はい」
テオドールは歩く俺の背に付いてくる。
素直だなこいつ。
そうしてエネミーとも遭遇せずに短い距離を歩くと、目的の人物を見つけた。
「おっ? ハクメイか。それと……誰だそいつ? アフィンとじゃないんだな」
さっきまでエネミー多数を相手取っていた、ゼノ先輩とエコー先輩の二人組だ。
今は落ち着いて、立ち話中のようだった。
二人に挨拶と、紹介。
「こんにちは先輩。こいつはテオドールっていうらしいです」
「ど、どうも……」
「そっか。奇遇だな、こんなとこで会うなんてよ。元気にやってるか?」
いや、まぁ奇遇じゃないんですけどね。
探知で近く来てたのに気付いて、それを辿ってきたんですけどね。
テオドールがいるから言わないけど。
「さっき降りてきたばっかですけど、元気に狩ってますよ。アフィンはもうちょい落ち着いたらって」
「そうかい」
そう言うと、ゼノ先輩は頭を掻く。
「こんな森んなかで偶然会ったのも何かの縁ってやつだな。よし、ちょっと手伝わせろ」
「ちょ、ちょっとゼノ! あたしたちも任務中なんだけど?」
「細かいことは気にするなって」
ゼノ先輩の申し出に、エコー先輩が口を出す。
……もしかして、デート中でしたかね?
ゼノ先輩の方には全くそんな気がなさそうだけども。
デートのつもりで任務に行くから、恋人より相棒感覚が強くなるんじゃないでしょうか先輩。
「それに、こっちの任務はこっちの任務で、粗方ケリはつけておいた筈だぜ?」
「え……?」
スクリーンを呼び出し、確認していくエコー先輩。
任務の情報は、デバイスに記録された情報を基に確認できるようになっている。
ウーダンを十体討伐しろ、という任務で、五体討伐したら、五体討伐したことと、残り何体討伐すればいいのか。それがデバイスで確認できるのだ。
「……あ、あれ。本当だ。いつのまに?」
「お前が原生生物にビビって逃げ回ってる間にだよ」
「ビ、ビビってなんかない!」
……あの時か。
エコー先輩は拗ねたように言う。
「まったくもう! 好きにしなよ!」
「よしよし、許可も出た。それじゃ行こうぜハクメイ!」
「……折角のお誘い嬉しいですけど、俺はちょっと一人でどこまでやれるかってのの確認に来たので、今回はソロで」
「ん? そっか、そいつぁ残念」
大して気にして無さそうに言うゼノ先輩の傍で、ほっと溜息をつくエコー先輩。
そんなに二人きりになりたいか。
男であっても邪魔者か。
そして残念ながら、安心するのは早いです。
「代わりに、このテオドールを手伝ってやってくれません?」
今まで黙ってたテオドールが、驚いたように俺を見る。
「え? ぼ、……ぼくですか?」
「ん? そりゃいいが、そんな気ぃ遣う必要あるのか?」
「えぇ。ちょっとこいつ、あんまりにもビクついてるんで。野垂れ死なれても寝覚めが悪いですし、先輩の方からフォローしてあげた方がいいかと」
「そ、そんな……ぼくの為に先輩の手を煩わせるわけには……いや、でも……先輩がいた方が、僕もなんとか……ああ、ごめんなさい」
「謝んなよ。戦場が怖いのはみんなおんなじだ。うっし! じゃ、俺がちょいとアークスとしての心構えを伝授してやろうかね」
「お、お手柔らかに、お願いします…………」
秘技、人に頼る。
面倒見の良いゼノ先輩なら、ちょいと厄介な後輩であるテオドールもほっとかないだろう。
お節介したいゼノ先輩。テオドールを押し付けたい俺。極力戦いたくないテオドール。見事に三人が立つのだ。
エコー先輩が目に見えて落胆しているが、立つのだ。
「それでは先輩。テオドールをよろしくお願いしますね。俺は探索続けてるんで」
「おう……ところで、敬ってくれんのはいいが、ちょいと堅っ苦しいな。呼び方、変えてみねぇか?」
「え? うーん……先輩呼びじゃ不満ですか?」
「不満ってわけじゃないが、もっとフレンドリーに」
「むむ…………。じゃあ、ゼノさん。エコーさんでどうですか?」
「ま、そんなとこだな。そんじゃハクメイ。お前さんも気を付けろよ」
そうして、二人はテオドールを連れて去って行った。
(まぁ、これぐらいやりゃ寝覚めもいいだろう)
後々マトイに次ぐ作中最強格・テオドール。
ビビりな彼は、今のところ結構ヤバめな砲台です。