母が亡くなってから一年が経ち、五月になった。あれからも俺と可奈美はあいも変わらず刀を振り続けた。ついでに言うと、俺は十歳になり可奈美は五歳になった。
日曜日の朝、学校が休みということで部屋で横になっていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「にい‼︎きょうもしょうぶしょうぶ‼︎」
「ええ…?今日も?」
「うん‼︎」
可奈美はその口足らずながら、俺に稽古を申し込んできた。可奈美の手には、その外見に似つかわしくない刀を両手で持っている。可奈美は刀を持ちながら、ベットに寝ている俺に近寄ってくる。
「可奈美」
「はい‼︎」
「うんうん、いい返事だな」
「えへへへ…」
身内贔屓なしに可奈美はかわいい。頭を撫でると、可奈美のかわいい笑顔が溢れる。
「じゃあ俺寝るから」
「ええー‼︎にいしょうぶは⁉︎」
こんなに可愛い可奈美なんだから、可奈美の言うことはほとんど聞いてあげている。しかし、だがしかし、可奈美のこの稽古の話だけは毎回渋る。何故なら、俺は剣術が好きではないからだ。母が生きていた頃からの習慣になっているから、今でもある程度の練習はしている。それでも剣術にはいい思い出がない。それは母からのトラウマもあるし、それに…いや、これを言うのはやめておこう。まあ、そんな訳で俺は剣術が嫌いだ。
「可奈美、今日は何曜日だ?」
「にちようび‼︎」
「うんうん、プリキュ○は見たのか?」
「うん‼︎にいのかめんらいだーもみたよ‼︎」
「げ…もうそんな時間か、まあ録画したからいいけど。可奈美、日曜日ってのはなお休みの日なんだ」
「おやすみー?」
「ああ。おやすみだから、皆んなお休みしてるんだ。だから俺はベットに寝るんだ」
「ううん…そうなの?かなみよくわかんない」
「そうかわかんないかぁ」
「うん」
可奈美は俺の塩対応に俯いてしまう。くっ…俺の対応で可奈美の可愛い顔が暗くなってしまった。だが、ここで折れたら俺の安息の日曜日が潰されてしm「にい…?」あれ、可奈美?
「にいはかなみとしょうぶしないの?」
「よし、しよう。すぐにしよう」
可奈美の上目遣いを見てしまったからには、兄として動かないわけにはいかない。断じて、俺の妹が天使ばりに可愛いからってわけじゃないからな。
「しょうぶしてくれるの⁉︎」
「ああ可奈美のためにすぐにしよう。可奈美、庭に出て待っててくれる?」
「うん‼︎まってるね‼︎」
トタタターっという言葉が似合うように、部屋から出て行った。
「さ、てと…」
可奈美が出て行ってから、俺もゆっくりとベットから起き上がりジャージへと着替える。…実を言うと、このやり取りは毎回やっていている。そして、俺は可奈美のお願いならなんでも聞いてしまう。やっぱり、一年前に母が亡くなったからかな、どうしても可奈美に甘くなってしまう。
「はあ、このままでいいんだろうかねえ…」
「にい、はやくー!」
「ん、今行くからー」
下からの可奈美の声に、気の抜けた返事をして部屋を出て行く。部屋から出るのに携えたのは、母からの形見の内の一振りだ。
「うう…またまけたー‼︎」
昼になり可奈美と俺は、机を囲って昼食を食べている。昼食は可奈美の好きな焼きそばを用意した。まだ、可奈美は箸をうまく使えておらず、箸をグーで握って食べている。
「まだまだ可奈美には負けないな」
「んんー‼︎」
足をばたつかせて可奈美は悔しさをあらわにする。まあ、あの母の娘とはいえ、まだ五歳の可奈美にはまだ負けないな。
「そういえば可奈美も来年から小学生だな」
「うん」
可奈美は焼きそばを食べながら、にこやかに答える。かわいい、さすが剣術以外のことはパーフェクトだった母の娘だ。俺?俺はあまり容姿は良くない、言うならば学校の隅っこにいつもいる生徒Bぐらいだ。…おおっと可奈美が可愛いすぎて話がずれてしまった。
「やっぱり小学校は楽しみ?」
「うーん、じつは、かなまよってるの」
「迷ってる?普通に俺と同じ、○×小じゃないの?」
「じつはねかな、みのせきにいきたいの‼︎」
「………は?」
俺は焼きそばを食べていた箸を落としてしまう。
美濃関学園。全国に五校設立された中高一貫の特別刀剣類従事者訓練学校の内の一校である。それは刀使や、刀使をサポートするものを育成する学校である。可奈美が入学を希望しているのは、その附属校である美濃関学院附属小学校である。
「にい?」
「うん、ああ、ええと…とりあえず、どうして行きたいのか聞いてもいいか?」
可奈美に動揺がばれないように箸を机から回収し、可奈美の話に耳を傾ける。
「うんとね、かなねけんがすきなの」
「俺のこと?」
「にいはだいすきだよ」
「うんうん、嬉しいな可奈美」
「えへへへ」
可奈美の言葉に嬉しくなり、机越しに可奈美の頭を撫でる。
「それで剣が好きだからってどうして行きたいんだ?」
「けんがだいすきだからね、けんをならえるがっこうにいきたいの‼︎」
「そっか…本当に美濃関に行きたいんだな…」
可奈美の言うことに上を見上げて、考え込む。
美濃関にね…言わんとすることはわかるが、あんまり俺は行って欲しくないけど。
「父さんは何をどう言ってたんだ?」
「おとうさんはね、かなのすきにしていいっていったよ」
「ふむ…」
父さんは可奈美の進学先には、何も言うつもないがないらしい。
「あとね!」
「ん?」
どうやら他にも可奈美が美濃関に行きたい理由があるらしい。
「まいちゃんもみのせきにいくっていうから、かなもいくの‼︎」
「まいちゃんって、柳瀬舞衣ちゃん?」
「うん!」
「ふむふむ」
柳瀬舞衣ちゃんとは、近所の豪邸に住む大企業柳瀬グループの一人娘だ。可奈美とは幼稚園で友達になったらしく、今では親友と呼べるほどの仲だ。
それも吟味して俺は判断を下す。
「んー…まあ、いいんじゃないか。可奈美やってみれば?」
「いいの⁉︎」
「ああ」
「やったー‼︎」
結局、俺は可奈美の進学に賛成した。理由としては、可奈美の進学なのだからそれは可奈美が決めることだと思ったからだ。それに友達の舞衣ちゃんを出されたら、俺の意見でダメとはいえない。
「じゃあご飯食べたら、お勉強だな」
「ええー‼︎やだー‼︎」
「やだって、可奈美それじゃあ美濃関に行けないぞ?」
「やだー‼︎」
「じゃあ勉強しようよ…可奈美…」
可奈美は嫌がるが、勉強を見てあげないとな。
…これも母、美奈都から任されたのだから。