息子の剣を引き連れて、俺は柳瀬さんの家へと向かった。道中の剣は、美奈都の形見の内の一振りを手に握りながら、何かを考え込んでいた。…確実に可奈美のことを、考えている。俺は剣がいなければ、間違いなく発狂していただろう。
そんなふうに考えていると、柳瀬さんの家に着き、ある一室へと通された。その部屋はとても大きく、そして色々な機器がセットされていた。
「衛藤さん」
俺のことを確認したのか、舞衣ちゃんのお父さんであろう人が俺のもとに来た。
「あなたが、舞衣ちゃんのお父さんで?」
「はい。はじめまして、舞衣の父の木更と申します」
「こちらこそ。はじめまして、可奈美の父の晋作といいます。そして、こっちが息子の剣といいます」
俺の紹介に剣は考えを中断し、木更さんに頭を下げる。
「挨拶もほどほどにして、こちらへどうぞ」
「はい。行くぞ、剣」
「……」
俺と剣は木更さんに連れられて、部屋にあるソファーに腰掛ける。部屋の中は慌ただしく、人や情報が行き交っている。
「それで、どのような状況なのでしょうか?」
「…まずはこちらをご覧ください」
木更さんは手元のパソコンをこちらに向けると、ある動画を流した。
そこにはガムテープで話すことが出来ない状態の可奈美と舞衣ちゃんがいた。その目元は赤く、今も涙が溢れている。そして顔は見れないが、画面の端には誰かが横たわっているのが確認できる。他にも廃れた風景や壊れた機械からあることから、二人はどこかの廃工場にいるみたいだ。日差しが可奈美の顔を照らしていることから、この映像はどうやら朝に撮られたようだ。
『キコエテイルカナ、ヤナセキサラ?』
二人のことを見ていると、画面の外から機械的な声が聞こえている。
『ミテノトオリ、キミノムスメトソノトモダチハアズカッテイル』
⁉︎
声の後に出て来たのは、ピエロの面を被った人物だった。
『ワタシハキミニヨウキュウスル。コノフタリノイノチトヒキカエニ、××××マンエンヲヨウキュウスル』
やはり、これは舞衣ちゃんを標的にした誘拐だった。
ピエロは舞衣ちゃんと可奈美の後ろに移動すると…二人の首元にナイフを突きつけた。
『デハ、ヒキカエノジョウケンヲツケル。ヒトツ、ケイサツヘノツウホウヲキンシ…ソレダケダ。ツマリ、ヤナセキサラガジブンノチカラデサガスブンニハ、ナニモモンダイハナイトイウコトダネ。』
ピエロは舞衣ちゃんからは手を離したが、可奈美にはナイフを突きつけたままだ。
『チナミニ、ケイサツヘトツウホウシタナラバ、コノコヲコロス』
その言葉で可奈美は涙を大きくこぼし、恐怖に顔が凍る。舞衣ちゃんも何か言いたげではあるが、ガムテープが貼ってあり何も言えない。
『ミノシロキンノハナシハマタコンドニ。デハ、ケントウヲイノルヨ』
そして、映像は途切れた。
…俺は何も言えずに、ただ怒りに身を震わし拳を強く握り締める。
「衛藤さん…」
木更さんはパソコンを片付けており、俺と剣のことを心配そうに見ている。剣は俺と同じく体を震わし、刀を強く握っている。
「大丈夫、です」
木更さんも娘を誘拐されて辛いのに、俺だけ揺れるなんてそれはおかしい。
「では、整理します。舞衣と可奈美さんが連れ去られたのは、今日私の家から、博物館へと移動しているところを狙われました」
木更さんはパソコンの代わりに、タブレットを出しこの家から博物館までの経路を出す。
「拐われたのは、舞衣と可奈美、そして付き人の佐藤です」
佐藤というのは目にしたことがある。いつも舞衣ちゃんを送迎している付き人だ。
「では、映像の中で横たわっていたのは…」
「付き人の佐藤でしょう」
木更さんは残念そうに下を向く。
…もし、このまま可奈美が帰ってこなかったら…俺は…また、家族を失ってしまう、のか?
「佐藤には申し訳ないですが、このまま話を続けm「いや、もう結構です」…どうしてだい?」
話を中断したのは、ここまで無言を貫いていた剣だった。剣はそう言うと刀を腰に差し、立ち上がる。
「父さん、俺が可奈美と舞衣ちゃんを連れ帰ってくる」
「は⁉︎お前、何言ってるんだ⁉︎」
「そうだ剣君。まだ犯人が誰でどこにいるのかもわかっていないんだぞ」
俺と木更さんの制止にも、剣は止まろうとしない。
「犯人の正体はわかりました」
「「は⁈」」
その時俺と木更さんの声が重なった。そして部屋の中にいた人たちも、剣へと目が向けられた。
「場所は大体の場所がわかったので、これから虱潰しに行きます」
「…それは本当か?」
「ああ」
「もし、本当に分かったのならばなぜ君が一人で行くのか、聞いてもいいかい」
「……」
「剣?」
「剣君?」
「…うるせえな」
剣はそう言って、木更さんの胸ぐらを掴んで無理やり立たせた。
「可奈美が待ってるんだよ‼︎こう言ってる暇があったら、俺が探しに行く‼︎」
「グ…」
剣は木更をソファー突き飛ばすと、部屋から出て行った。
俺は出て行った剣の後を見ると、木更さんへと頭を下げる。周りの人は子どもの粗相とみなし、皆自分の作業へと戻っている。
「申し訳ない、うちの愚息がとんでもない粗相を」
「いや、こんなことになってしまったのだから、しょうがないです」
木更さんは服装をただすと、ソファーに座りなおす。
ピピピ…
「失礼」
ふと携帯が鳴るので、部屋から出る。そして画面を見ると、そこには剣の名前が表示されていた。
「あいつなんで今連絡を…。……なんだって…⁉︎」
そして剣からのメッセージを確認すると、俺は木更さんに伝え、部屋から出てもらいこのメールを見せた。
私のせいだ。私が今日、可奈美ちゃんと遊びたいなんて思わなければこんなことにはならなかった。
「………」
私をさらったピエロは目の前の椅子に座り、しきりに携帯の画面を気にしている。
「……」
目線を動かすと、可奈美ちゃんは項垂れながら涙を流している。…とても怖いのだろう。
「ククク…」
すると、目の前のピエロが笑いをこぼした。
「君のお兄ちゃん、犯人がわかったって言ってたよ」
ピエロの言葉に、可奈美ちゃんの顔が上がる。
「だけど、どうやら子どもの戯言だったようだけどね。ククク…‼︎」
だが、可奈美ちゃんの表情は一気に明るくなった。そうだ、あのお兄さんだ。可奈美ちゃんのためならなんだって、してくれるはず…‼︎
「なんだその顔は?」
しかし、その表情がピエロには気に食わなかったみたいだ。
「んん…‼︎」
「んん‼︎」
ピエロは可奈美ちゃんの髪を掴むと、可奈美ちゃんを立たせる。
やめて‼︎私はそう言いたかったが、口が塞がれて何も言えなかった。
「…殺す」
そして、ピエロは可奈美ちゃんに向かって、ナイフを刺そうと…振りかぶる…‼︎
〔助けて…剣さん…‼︎〕
私は目を閉じると、心の中で強くそう願った。
そして、その願いは叶った。
ーー阿弥陀流真空仏陀切りーー
「ぶげら⁈」
ピエロのその声を出すと、可奈美から手を離すと、後ろに思い切り吹っ飛ばされた。
「てめえ…」
声の方を向くと、そこにはあの人が立っていた。
「人の妹に手を出すってことは…」
御刀を持って一歩、また一歩とこちらに足音が近づいてくる。
「命はいらねえってことだよな?」
可奈美ちゃんのお兄さん、剣さんが怒りに顔を歪めてそこにいた。
ー阿弥陀流真空仏陀切りー
【登場作品】
シャーマンキング
【使用者】
阿弥陀丸、麻倉葉
【詳細】
作品内で使用された、阿弥陀流の技の一つ。原作では斬撃を飛ばす設定であるが、今作では刀を振り抜いた際の衝撃とする。