「姫和ちゃん、どこ行くの⁉︎」
「……」
衛藤可奈美の言葉を無視し、私ー十条姫和ーは小雨の中を走り抜ける。…失敗した。クソ‼︎タイミング、踏み込み、全てが完璧だったのに、なぜあいつに防がれた‼︎やはりあいつはお母さんの言う通り…
「姫和ちゃん‼︎」
「…⁉︎」
衛藤に肩を掴まれ、はっと意識を戻す。そうだ今は闇雲に逃げ回るよりかはどこかに潜んだほうがいいな。そう思い周りを見ると、おあつらえ向きに少しボロになった建物があった。
「あそこに入るぞ」
「う、うん…」
衛藤は私に引き続き、衛藤も建物に入る。よし、見た目はボロだが、雨風は防げるみたいだな。私が腰を下ろすと、衛藤も隣に腰を下ろす。
「…ねえ、姫和ちゃん」
「ああ、私もお前に聞きたいことがある。だが先に一つ聞かせてくれ。あの男、大鳥劔とはどんな関係なんだ?」
「大鳥…劔…?」
大鳥劔を…知らない?
「知らないのか、大鳥劔を⁉︎」
「う、うん。それって誰?」
「大鳥劔は…」
私が大鳥劔の説明をしようとした時、気配もなくもう一人の声がいきなりした。
「それは偽名だな。大鳥劔は仮の名前、本名衛藤剣、よろしく」
「「ぎにゃゃぁぁぁぁ⁉︎」」
私と衛藤が女のらしい悲鳴をあげたのは、この人のせいだ、間違いない。
「もう、お兄ちゃん‼︎いきなり現れないでよ⁉︎」
「あっはっは。悪い悪い、なんかお楽しみだったみたいだからなー」
折神紫と親衛隊との邂逅の後、俺は無事に可奈美と姫和ちゃんと合流できた。いやー、目の前でプンプンと怒ってる可奈美も可愛いなぁ。マジ最愛。おっと奥にいる姫和ちゃんが俺のことを不審そうに見てるから、話を先に進めないとな。
「しかし、二人とも無事に逃げられて良かった。捕まってたらめんどくさかった」
「…いくつか質問があるのですが」
「おお、どんとこい」
姫和ちゃんが慎重に俺に尋ねてきた。
「まず、あなたは本当に大鳥劔なのですか?」
「本物。証拠はまあないけど、信じてくれない?」
「あれを見せられたら、信じずにはいられませんよ」
む、姫和ちゃんが苦笑まじりに答える。なんかおかしいことしたかなーって思っていると、可奈美がムッとした顔で俺に近づいてくる。
「それよりもお兄ちゃん‼︎」
「はいはい、何でしょうかね」
「この三年間何してたか教えてよ‼︎」
「んー、確かに俺のことを話すのは大事だけど、それよりも今の状況を確認するほうが大事じゃないか?」
「それはそうだけど…」
可奈美が怯んだのを確認して、俺は続ける。
「それにこんなとこで俺の話をしたら、間違いなく捕まるだろ親衛隊とかに。だからここで話すのは、俺の三年間じゃなくて今何がどうなって可奈美たちがここで雨宿りをしているかなんじゃないか?」
「むう…」
それでも可奈美は顔をしかめるので、俺は可奈美の頭に手をのせる。
「まあまあ、可奈美は本当に可愛いなあ」
「ふにゃぁ…」
「ゔぅん…‼︎」
「おっと」
二人の世界に入っていたら、姫和ちゃんの咳払いで戻ることができた。可奈美は照れたのか、顔を赤くして俺の隣に腰掛け直す。
「じゃあ早速姫和ちゃんの話聞かせてくれない?」
「しかし…」
「何心配してるの?可奈美を巻き込んだこと?それなら巻き込まれに行った可奈美が悪いから、それにここまで来たなら最後まで首突っ込ませるのが筋だと思うよ」
可奈美も同意したのか、首を縦に振る。可奈美、お兄ちゃんはどこにもいかないから服橋をつまむのはやめなさい。お兄ちゃん、萌え死んじゃうから。
「はい、それなら…」
そこから話してくれたのは姫和ちゃんが今回のことを起こした理由を教えてくれた。
そもそも姫和ちゃんが騒動を起こそうと思ったのは、亡きお母さんからの手紙を発見したのが始まりだそうだ。その手紙には…そうまるで俺の母さんの手紙のように、折神紫の正体が記載されていて、さらにこの手紙を受け取った人に彼女を助けてほしいと言う願いも書いてあった。つまり、彼女がしたことは俺が起こしたかもしれない「if」だったのだ。
「うーん、聞いてる限りじゃわからなくもないけど無計画さも出てるね」
「うぐ…」
姫和ちゃんは図星を突かれて苦い顔をする。
「話は大体わかったけど、これからどうするんだ?ちなみに可奈美と姫和ちゃんの名前は伏せられてるけど、大々的に報道されてるからね」
「大々的ってどれくらい?」
「これくらい」
そう言って俺はスマホをテレビ画面にして、今世間を賑わせているニュースを見せる。そこには『折神家当主折神紫氏、同じ刀使に襲われる⁉︎』という話題で賑わっていた。
「ふえぇ…」
「これはさすがに…」
可奈美と姫和ちゃんで違う顔をする。可奈美はしでかしてしまったことの大きさを改めて確認し、姫和ちゃんは何かを得たように眉をひそめる。
「そう速すぎる」
俺は姫和ちゃんの話題に答えを出した。
「いくらなんでもこんなにも早く襲撃事件の話題が出るなんてありえない。本来なら少しは隠すと思うんだけど、今回は手段を選ばずに来てる」
「要因はわかりますか?」
「二つかな」
そう言って俺は姫和ちゃんと可奈美を指差す。
「一つは見られたらいけないものを見られてしまったから。心当たりがあるだろ?」
可奈美と姫和ちゃんは思い当たることがあり、あっという顔をする。
「それが一つ目」
「じゃあもう一つは?」
「このニュースを見ればわかる」
可奈美がもう一度ニュースの画面を見る。そこには何度も言うが刀使が折神紫を襲撃したことを話している。
「お兄ちゃんのこと言ってない?」
「正解、二つ目が俺だ」
可奈美に返答して、俺は背負っていたバックから荷物を取り出す。ちなみにバックはここにくるまでに隠していたもので、会場には持って行ってないから。
「連中の思惑としては二人を餌にして俺のことも捕まえたいんだろうね」
バックから俺は黒色のパーカーと携帯型の竹刀入れを取り出すと、二人に渡す。
「とりあえずそれ着て刀もしまってね。制服のまま行ったら気づかれるから、さ」
「はい」
「よく、わかったねサイズ」
「可奈美のお兄ちゃんだからな」
いやそれはおかしいって言う目を姫和ちゃんがしてくるけど、無視して俺もバックから黒色のロングコートを取り出し、それを着込む。
「ここで交わすべき情報はそのぐらいかな。それでだけどこれからの可奈美たちはそこに行くといいよ。んで、何日かしたら俺から迎えに行くから。そん時までそこでお世話になってね」
ポッケから持ち出した紙切れを姫和ちゃんに渡す。いや、可奈美に渡したらどっかに行っちゃうと思ってるからだよ?だからそんな目で俺のこと見ないで。
「ここは…?」
「俺の知り合いの住所。そこに着いたら書いてある連絡先に電話してね」
俺は身支度をすませると、フードを深く被り可奈美たちに別れを済ませる。
「じゃあ俺まだやることあるから、こっちから連絡するまでそこで動かないこと。わかった?」
「うん」
「……」
可奈美は了承してくれたが、姫和ちゃんは納得がいってないのか顔をしかめる。
「一つだけ聞いていいですか?」
「手短な内容なら」
姫和ちゃんと目を合わせるため、俺はフードを取る。
「なぜそこまでして私に協力してくれるんですか?妹が関わってるってだけで、折神紫に深入りしようなんて誰も思いません」
「んー…出来ることなら、俺もまだ時期尚早だと思ったんだけど、しゃあなしで介入したって感じかな」
「しゃあなし…⁉︎」
「それに可奈美が関わってるなら、俺にとっては最優先事項だよ」
そう言い残して、俺は二人の前から消えた。
さてと、俺はあの子に久々に会わないとな。何か三年ぶりだからな。