「つまんねえよなぁ・・・」
川辺に寝転がった学ランの少年は呟く。時刻は正午過ぎ、恐らく彼と同い年の少年少女達は学校で勉学に励んでいる時間帯であるが、少年はそれを無視し、ヘッドフォンを付け寝転んでいた。
少年はヘッドフォンを外し、対岸を見やる。そこでは、何人かの少年達が、気弱そうな少年を囲んで暴力を振るっていた。それを少年は冷めた目で眺める。少し眺めて飽きたのか、再び寝転がる。
「・・・アホくせぇ」
そう呟いて立ち上がるとその場から移動を始める。勿論暴力を振られている少年の方では無く、自身の帰宅路だ。興味もねえよ、と言わんばかりに少年は足早に立ち去ろうとする。そんな少年の目の前に紙飛行機が飛ぶ。
何の気なしに少年が紙飛行機を掴むと、
宛名には、
「何だ何だ何だオイ、紙飛行機のプロでも居るってのか?変形する紙飛行機とは斬新だなオイ」
楽しそうに細められた目元と、楽しげな雰囲気を隠そうともせず、少年―逆廻十六夜はその場で愉快そうに笑った。
「うるさいったら無いわね・・・少しは静かにすることも出来ないのかしら?」
少女は庭に面した廊下で立ち止まり、泣き続ける蝉に文句を呟く。それと同時に今までうるさいと叫びたくなる程鳴いていた蝉の音がピタリと止まる。静寂が訪れた庭に面した廊下を再び少女は歩き出すが再び止まり、
「今までうるさかったのが急に静かになると、それはそれで不気味ね・・・。まあ黙らせたのは私なのだけれど」
そう呟いて再び歩き出す。とある一室の襖の前まで来ると、それを開け放つ。奥には大勢の人達が居り、少女が開いた襖の真正面。部屋の奥には、布団に入ったまま、背もたれのような物を使って起き上がっている老人が居る。
この部屋に集っているのは少女の家族を含めた親族一同。奥に居るのはその一番の年寄りで、財閥として有名な彼女の家のボスの様な存在である。本来ならば少女はその方に挨拶をし、末席に加わらなければいけない。しかし少女はズカズカとその老人の目の前まで歩くと、
「いつまでもギャアギャアギャアギャア駄々を捏ねないでください。財閥を解体しろと言われているのでしょう?ならばさっさと解体してくださるかしら?」
有無を言わさぬ口調で話す。それに対し老人は、
「わかった」
そう頷くだけで、無礼を咎めようとはしなかった。
用は済んだとばかりに少女は踵を返し、開けたままであった襖から出ていく。親族一同唖然とした顔をしているのを、影で嘲笑いながら。
「無能共が泣き付いてくるのも時間の問題かと思っていたけれど案外早かったものよね、と言うより、たかだか女子高生に一族の長の説得を頼むなんて」
無様よねえ。と笑いながら少女は自室の扉を開け、
「この部屋には私が来るまで誰も入っていない。
「はい。お嬢様以外誰も入っておりません」
「そうよね、下がっていいわよ」
水を運んできていたメイドを下がらせ、少女は再び封書を見る。宛名には、
「どこのどなたか知りませんが、密室投書とはやってくるれるわね」
そう言って少女―久遠飛鳥は嬉々として封を開いた。
「・・・雨は好きじゃないんですよ」
少女はそう呟く。家の窓から外を眺めながら。
行方不明だった父が帰ってきて、ペンダントを渡してくれた時。外は晴れていた。
帰ってくると父が約束した日は雨だった。父は帰ってこなかった。
父がくれた。動物と話せるようになるペンダント。それと一緒にくれた三毛猫。その三毛猫が死んだ日も雨だった。
その後も雨の日には必ず少女に良くないことが起きる。何かの因果かもしれないと少女は思うが、同時にくだらないと吐き捨てる。只の偶然だ。全て。
だから少女は雨を嫌う。雨の日は少女に偶然を運んでくるから。
ふと、リビングで何かが落ちる音がした。少女は窓を閉め、リビングのテーブルへと向かう。そこには、無かったはずの封書があり、宛名には、
「・・・さっきまではありませんでしたよね」
何故ここにあるのか、何故自身の名が刻まれているのか。不思議に思いつつも少女は封を切る。そして、
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
そのギフトを試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの〝箱庭〟に来られたし』
その文章を見た瞬間に少女―春日部耀ははるか上空に投げ出された。
こうして、少年少女達は異世界に呼び出された。
豪快な水音と共に水柱を上げ、湖の中に落下した三人は、ひとまず陸に上がる。
「チッ・・・、まさか呼び出されたのが湖の上とはな。あまりの愉快さに反吐が出そうだ」
「愉快なのに反吐が出そうなのね・・・。でもまあ確かにあまりいい気分では無いわね」
金髪に学ランの少年、十六夜の言葉に、黒いロングヘアの礼服の少女、飛鳥が応える。茶髪にラフな格好の少女、春日部は興味が無いとでも言わんばかりに、自身の服の水気を払っていた。三人はある程度自身の服の水気を払い、一息をついたところで顔を見合わせる。
「それで?当然でしょうけど確認しておくわ。貴方達もあの変な手紙を貰ってここに来た。という事でいいのかしら?」
「合ってるぜお嬢様、俺は逆廻十六夜だ。呼び方は何でも言い」
「そう、覚えておくわ十六夜君。だけどもお嬢様と言う呼称は止めてくれないかしら?私には久遠飛鳥と言う名があるの」
「あっそ、覚えとくぜお嬢様。テメェは?」
「テメェって呼ぶの止めてもらえますか?春日部耀です。テメェとかお前とか以外でなら好きに呼んでください」
ハッ、と鼻で笑う十六夜と楽しそうに笑う飛鳥、十六夜をジト目で見る春日部。と場はカオスになっている中、そのカオスをそばの草むらから眺める少女が居た。
水色のロングヘアにミニスカガーター、そして巨乳とどっかの誰かの趣味満載のような少女。しかしこの少女を見た時に一番目を引くのは頭部のウサミミだろう。そんなヘンテコな少女―黒ウサギは、この状況を見渡しながら焦っていた。
普通、こんな突然別世界へ来てしまえばパニックになる。そのパニックを収める形で出ていこうと思っていたのだが・・・、
「で?普通こういう状況だと説明役の奴が居て、そいつが現状を説明してくれるんじゃねえのか?このままだと動きようがねえんだが」
「あら、別に自由気ままに動いてもいいのでは無いかしら?探索をしても問題は無いのでしょう?」
「それでもいいがなお嬢様。俺達はほぼ手ぶらだし、この世界の地図も無ければ食料も知識も無いんだぜ?迷って餓死しました。なんてくだらねえ死に方したく無かったら辞めた方がいい」
俺は構わないがな。と付け足し十六夜は口を閉じる。
「なら仕方が無いわね・・・。まあ何処かに居るのでしょうし待ってみましょうか」
そう、この三人パニックになっていない。それどころか今の状況を冷静に分析し、行動しようとまでしている。思わず、皆さん落ち着きすぎなのですよ!と叫びだしたくもなったがそれをこらえ、これ以上グズグズしていると本当にどこかへ行ってしまいそうなので、腹括って出ていこうかとした矢先、
「で?
冷たい手で、心臓を鷲掴みにされた。一瞬、本気で黒ウサギはそう思った。それ程までに十六夜が発した言葉は威圧的で、温度がこもっていなかった。
「隠れてジロジロ見てんのは解ってたし実害も無ぇんなら放っとこうかとも思ったけどよ・・・、流石に何時までもジロジロ見られてんのを許してやるほど俺も寛容じゃ無ぇんだ」
再び温度のこもってない声が発せられ、十六夜の瞳は正確に黒ウサギのいる方向を向いている。他の二人も同じように黒ウサギの隠れる茂みを冷徹な眼差しで見ている。
「気付いていたのね十六夜君。全く触れないからてっきり気付いてないのかと思っていたわ」
「ハッ、冗談。あの程度で俺から隠れられるとか思ってんなら失望超えて哀れ過ぎるぜ。むしろ気づくなって方が無理だ」
その言葉を最後に再び冷徹な瞳を黒ウサギの隠れる茂みに向ける。これはまずいと思い、おちゃらけて出ようと思った瞬間。
「出てこないのなら仕方ありませんね」
その言葉と同時に春日部が左手を振るう。途端に旋風が巻き起こる。そして、黒ウサギは旋風に引きずり出され、三人の前へとスライディングで引っ張られた。頭から。
「流石に少し酷いのでは無いかしら春日部さん。頭からスライディングは痛いわよ?」
「私もいきなり呼び出されて湖に叩き込まれるなんて行為をした人を笑って許して挙げられるほど心が広くないということです」
そんな会話を他所に、十六夜が黒ウサギの耳を引っ張り無理矢理立たせる。
「で?テメェが俺達をここに呼び出した張本人ってことでいいのか?」
「痛い痛い!せめて起こすのなら腕とか掴んでくださいませんか!?黒ウサギの素敵耳は取っ手ではないのでございますよ!?」
「聞かれた事にぐらい答えろよウサ耳女。まあこの状況でまだ減らず口が叩ける度胸は称賛してやるがよ、俺はあんまり気が長くねえんだ。キィキィ喚くと、」
そこまでいった瞬間に、黒ウサギの顔の横スレスレを十六夜の拳が通過し、すぐ横の地面にクレーターを作る。あまりの威力に青ざめた黒ウサギが十六夜の方を向くと、凄まじくいい笑顔をしていた。
「こんな風に、ついうっかり潰しちまうかもしれねえからよ」
黒ウサギには青くなって頷く事しかできなかった。
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