完結まで、よろしくお願いします。
では、
俺という人間は特に目立つ能力もなく、特別優れた何かがある訳でもない。
ただ平凡に生きて、平凡に人生を楽しんで、平凡に死んでいくのだろうと思っていた。
まぁ、要するに何処にでもいる学生Aだったわけなんだが、どうにもその認識は間違っていたらしい。
平凡だった事は認めるが、運が、良かったそうだ。
目の前に居る「おでん」と書かれた緩いシャツを着たおっさんは、その事をだらしなく寝そべったまま俺に伝える。……自称でも何でもいいけど、仮にも神を名乗るならもうちょっと威厳のある格好と態度を取ればいいだろうに。
隣に控える女神さんが頭痛を堪えるように眉間を押さえているのが痛ましい。
対して俺は皺が寄った寝間着をそのままに、あぐらをかいて卓袱台越しにおっさんの話を聞いている。
どうにも死んでしまったらしい。
いつもの様に朝起きるとすでにこの状況、混乱して取り乱さなかった俺を褒めてほしい。
「……で、そういう訳だからさ。ちゃちゃっと転生しちゃってよ……ね?」
「ね?じゃねぇっての。あんた馬鹿か?」
あらかた話し終わったのか、「おでん」Tシャツのおっさんはそんな巫山戯た事を、さも他人事かのように言った。いや、他人事なんだけどさ。
話の内容を纏めると、以下のようになる。
・色んなことがあって、俺は死んでしまった。
これに関してはものすんごく謝られた。それはもう、あんた本気でそう思ってんのかと言いたくなる程に。安っぽい謝罪の言葉があったもんだ。
・丁度その時に、「暇だからさ、何かこっちの不手際で死んだ奴らを転生させて、面白おかしく生きてもらおうぜ」的なことを言った目の前のおっさんが、唐突にくじ引きをして、当たったのが、俺。
これを聞いたときは開いた口が塞がらなかった。こいつマジで神なの?ただのクズなんじゃねーの?と、目線で女神さんに問いただすと申し訳なさそうに目を伏せられた。
・勝手に転生させるのはダメだから、本人呼んで確認と承諾をしてもらって、それが終わったらどこに転生したいか聞いて、可能な限りのお願いを聞いてあげよう。
ということらしい。
最後のは女神さんが、あんまりにも転生者が可哀想だからと、付け加えてくれたらしい。優しいね。
それじゃあまぁ、相談としましょうか。
「で、その転生、俺に拒否権はあんの?」
「んー?ないよ。まぁでもさ、望む世界に転生させてもらって、その上特典まで貰えるわけじゃん?……断る理由は無いと思うんだけどなぁ」
「あっそ。じゃあ元の世界に転生って出来んの?」
「無理だね。君がいた世界線上じゃあ、君はもう居ないものとなってる。これは『君』では無く君の『魂』、引いては『存在』がいてはいけない事になってるんだよ」
「んじゃあ輪廻転生とかってどうなってんだよ」
「あるよー?
「ふーん」
なるほど、聞けば聞くほど好待遇だ。こちらには損はない。寧ろ得しかないように思える。向こうも転生して生活してるだけで楽しめるって言うし……確かに、これ以上ないくらいいい話だ。
特典とか言ったっけ?それを上手く使えば人生イージーモードも夢じゃない……よし。
そうと決まれば、善は急げだ。
「オーケー分かった、転生しよう。さぁ、色々手続きとかあるんだろう?手早く進めようか」
「おお、唐突な変わり身だね」
「そりゃあまぁ。どこを取っても俺に損はないし、何より俺には拒否権がないんだろう?ならゴネてないでさっさと行動したほうが吉さ」
「うんうん、そう来なくっちゃ」
おっさんがそう言うと数枚の書類を俺に手渡す女神さん。
目を通すと、それは承諾書のようなものだった。見たことの無い材質で出来ており、筆記体で、各諸注意や転生の内容が空欄を交えてびっしりと書類を埋め尽くしていた。
これはまた、随分と時間がかかりそうだな。
仕方ない。じっくり取り組んで行こうじゃないか。
◇
書類を読み始めてから30分が経った。
書類自体は十分程度で読み終わったものの、そこから続く転生先や特典に頭を悩ませている最中である。
転生先は意外とすんなり決まった。
特にファンタジー願望など無いし、行って世界最強になったとしても、文明の利器に囲まれてぬくぬくと育ったゆとり世代の現代っ子の俺にはファンタジーの世界は合わない。
だが、剣と魔法の世界なんて憧れないはずが無い。ゲームのように命の危険なんて存在しない冒険がしたい。そう思ったところでふと思い出した。
ーそうだ、VRMMOがあるじゃないか!
そう、現代至るところで取り扱われているジャンル。VRゲーム。
人間の五感を完全に再現した仮想世界で、夢溢れる冒険ができるじゃないか!
そうと決まれば書くしかない。俺は手に持ったペンを書類に走らせる。一字一句間違えないように、慎重に書いていく。自慢じゃないが、俺の字はかなり汚い。適当に書いて間違った転生先に行くなんてゴメンだ。
丁寧に書類に書いたその文字は、以下の通り。
『完全没入型VRゲームが存在する世界』
完全没入型と書いたのは、現在発売されている不完全なVRゲームと勘違いしてほしく無かったから、意気揚々と転生したのにあれがVRゲームだと言われたら、ショックで引きこもる自身がある。
さて、決まらないのは特典の方である。
完全没入型と書いたからには、現実の動きがそのまま出来ると考えて良いのだろう。ならば、ファンタジー世界においても引けを取らない、プレイヤースキルが欲しいところだ。
だが習ってもいない武術を突然使えるのも不自然だ。そうだ、家が昔から続く由緒正しい家系という事にしておけば親、もしくは祖父から代々伝わる古武術みたいなのを引き継げたりとかしないだろうか。だが汗水垂らして熱血っぽく鍛錬に打ち込むのもなぁ……あ、そうだ、一度見たら完全に再現出来るような才能とかあればいいんじゃないか?よし、それで行こう。ええと……
『家が遥か昔から続く由緒正しい武術家系』
『一度見たら完全に技を理解、再現する才能』
よし、これでいい。
あと2つ、特典を決められるな。もう特に何が必要という訳じゃあ無いが、そうだな。
『美神の如き美貌』
『病気にならない健康な体』
どうせならイケメンになってモテたいし、病気で苦しみたくないからな。
こんなもんかな。
「終わったぞ」
「ん?ああ、終わったの?どれどれ……へぇ、ほー、ふーん」
何やら書き終わった書類を見てニヤニヤするおっさん。チラチラと此方を見てはその度にわざとらしく「ほーん」と頷いている。
「んだよ、何か問題でもあんのか?」
「いーやー?人は見掛けによらないんだなーって思ってただけだよ」
「はぁ?」
訳のわからないことを言うおっさん。
さっさと転生させろとせっつくと、面倒くさそうに立ち上がっててくてくと歩いていく。五分ほど歩いたところに、奇妙な魔法陣が書いてあった。ゲームで使われてる様な魔法陣を大小2つ、並べて描いて繋げたような形をしている。
手に持った書類をポイッと小さい方の魔法陣に入れて、俺に手招きをするおっさん。その手に連れられて魔法陣の中に入ると、おっさんの隣にいた女神さんが呪文っぽいのを唱え出す。
すると魔法陣が突如、輝き出した。そして同時に俺の体が宙に浮く。
「ああそうだ、君さぁ僕に対してかなり失礼な態度取ってたよね?」
唐突に喋りだしたおっさん、だが何やら雰囲気がおかしい。さっきまでのダラダラした巫山戯た態度ではなく、神として相応しい威容を称えた雰囲気へと変わっている。
「あれさ、僕じゃなきゃ即消滅させられたからね?実際、僕の隣にいた彼女なんか、君を消滅させようとするから必死に頑張って抑えてたんだよ?」
「え?」
驚愕して女神さんの方を向くと、そこには濁った瞳で此方を見る女神さんの姿が。
ゾワッと悪寒が背筋を駆け上る。何か大変なことが起こりかけている。脳が警鐘を鳴らすも最早意味は無く、空中に浮かんだままの俺は刑を待つ囚人のように顔を歪める。
「それなのに君は僕のことをおっさんおっさんって、まぁこの姿をとってた僕も悪いんだけど、さっ!」
そう言うと彼を中心に光が爆発する。
眩しくて目を瞑るが、光ったのは一瞬で、瞑った頃には既に光は収まっていた。
恐る恐る目を開けると、そこには素晴らしい意匠の服を着た隻眼の美丈夫が立っていた。
「これが僕の本当の姿。まぁ、もう見せてもなんの意味も無いけどね」
そう言ってニッコリ笑う男。その手にはいつの間にかペンが握られている。
途端、ブワッと汗が吹き出してきた。
あのペンはなんだ、一体何をする気なんだ、おいまさか嘘だろう?
嫌な予感は当たる。
男はもう一つの魔法陣の中にある書類を掴むと、ペンで何かを書き足した。その動作は俺の首を落とす為の準備に、手に持ったペンは死神の鎌のように見える。
書き終わった男は、クルクルとペンを回しながら俺を見る。
「さて、僕は今一体何を書き換えたでしょうか?」
「あ……あ……」
恐怖で口が動かない。
もし第三者の視点で今の俺が見れたなら、きっと目を見開いて、瞳を震わせて、無様に怯えていただろう。
俺の様子を見て、男は満足そうに頷く。
「うんうん、ちゃんと後悔してるっぽいね。……じゃあネタばらしだ、僕が書き換えたのは二つだけ。性別と、四つ目の特典だけさ」
性別と、四つ目の特典。
性別は男から女に、四つ目の特典はたしか『病気にならない健康な体』だったか?
一体、何が変わったっていうんだ?
「簡単さ、君を先天性白皮症にした。これで君は健康で丈夫だけど、生まれ持った病気のせいでロクに外に出ることもかなわなくった。なぁに、大丈夫さ。幸い君の転生先のお家は随分とお金持ちみたいじゃないか、君が引きこもってもひと一人くらいは余裕で養えるよ」
目の前が真っ暗になった。
恐怖が限界を超えて脳が処理しきれなくなったのか、俺の口には歪な笑みが張り付いていた。
段々と白んでいく景色で、男が一言。
「さぁ、僕らは彼……いや彼女の人生を見ながら楽しもうじゃないか」
そう言った。
◇
□西暦2043年 7月18日 【転生者】
締め切ったカーテンの外では、鴉が鳴き、幼い少年たちが手を振りながら明日の予定を叫んで伝える夕方。
カーテンの隙間から差し込む夕日を避けながら、
今日の朝にネットで見つけて、まさかとは思いながらも買ってきてもらったとあるゲーム。信じられない、だけど信じてみたい。そんな思いで蓋を開ける。
中にはヘルメット型のゲーム機と説明書。
部屋の電気を反射してメタリックに輝くゲーム機に、否が応でも期待が高まる。
説明書を流し読みをしながら、布団の上で横になる。素朴な色合いの布団は、まるで早くゲームを始めろとでも言いたげに、ぼふっと鳴る。
ようやく読み終わった説明書を横に置いて、ゲーム機を被る。
電気を消して、最近ようやく慣れてきた鈴が鳴るような綺麗な声で呟く。
「今度こそ……お願い」
その声を合図に、私はゲーム機のスイッチを入れた。
意識が、沈んでいく。
さぁ、冒険を始めよう。
どうだったでしょうか。
感想、批評、何でも下さい。あからさまな煽りじゃ無い限り、執筆の原動力になります。
ありがとうございました。