ヒロアカの切島君がかっこよすぎたので、初投稿です。
……初投稿って、どういう意味なんですか?
生きていることが異常なほどの損傷。立っていることが不気味なほどの形状。なぜ死んでいないのかが分からない程の異形。
つい先刻までの理性的な声音は消え失せ、飢え、傷ついた獣のごとき唸り声のみを上げて、その複眼を炯々とぎらつかせる【クワズムシ】。相手を貪り喰い、腹を満たすことしか能がない獣の姿に、冷やりと背筋に冷たい汗が流れる。
足元から這い上がってくる怖気を闘争心にくべて、それを真正面に見据える。
「【クワズムシ】、こっちを見なさい。私を、見なさい」
小さく、しかしはっきりと声を響かせる。
理性が消し飛んだ獣にいったい、ただの声が届くのかと不安になったが、そんな杞憂は不要だった。今まであの化け物を支えていた理性がもう無いのなら、それはもう生に虐殺を送る魔物になったのと同じこと。ならばもはや、あの獣を縛るものはない。
結果など、あってないようなものだ。
『■■■――――!!』
「さぁ、先ほどの借りを返させてもらいましょう……《虚刀装填》ッ!」
スキル名を宣誓すると同時に、右手に持っていた【クワズムシ】の斬馬刀を胸の中央に挿し込む。
私が持つには大きすぎる斬馬刀が、胸の中央に向かって呑み込まれるように挿し込まれていく。不思議なことに血は流れず、痛みも感じない。あるのは体が作り変わっていく高揚感だけ。
手足が鋼の硬質を、刀の鋭さを帯びて変色する。雪のような白から、殺意的な鈍色へ。
斬馬刀のすべてが飲み込まれていくと同時に、周囲に半透明の結界が張られる。
その範囲に【クワズムシ】が入った途端、急速に視界が速くなる。力がみなぎる。
『準備は整ったな、マスター。あとは貴女の全てを出し切るだけだ』
「勝ちましょう。ここで、この化け物に」
『■■■■――――■■!!』
高速で、しかし視認できる速度で【クワズムシ】の拳が降り抜かれる。
それを半身になることでかわし、伸び切った腕に、こちらも抜き手を放つ。
――【クワズムシ】と
抜き手は硬い外骨格に塞がれた肉を貫通し、砕く。
硬直した【クワズムシ】から腕を引き抜き肉薄し、さらに抜き手を放とうとするが、立ち直った【クワズムシ】に避けられる。
大きく後退した【クワズムシ】は唸りながら、こちらを観察する。
結界から【クワズムシ】が出た瞬間、視界が遅くなり、満たされていた力がしぼんでいく。同時に【クワズムシ】には削られた力が還ったようで、確かめるように穴の空いた腕を振っている。
やはりそう簡単にはいかないか。
口の中で声を転がして、油断なく【クワズムシ】を観察する。いまだに穴が空いた腕の違和感が消えないのか、しきりに腕を振っている。
突如上がった私のステータスと、下がった【クワズムシ】の速度。ことの絡繰りは非常に単純で、簡単なものだ。
初めと今で違うもの。
そう、エンブリオの有無だ。
発現したエンブリオ、【虚刀錆女 ヤスリ】には二つのスキルが存在していた。
一つ目のスキルは、躰に刀を挿し込んだアレ。
〈虚刀装填〉
武器を自分の体の中に挿し込むことによって、自分の体に挿し込んだ――装填した武器の『鋭さ』と『硬さ』を、付与するスキルだ。
己の体を武器と変え、自分自身が刀となる。
そういうスキルだ。
二つ目のスキルは、今も私の周囲に展開している結界。
〈
〈虚刀装填〉を使用したときに、自身の周囲に結界を張るスキル。
結界に入った相手は、私の総合ステータスと、自分の総合ステータスを足して割った数値を、さらに各ステータスに均等に割り振られる。もちろん私もだ。
この能力は結界から出ると同時に解除される。つまりステータスは元の値に戻るのだ。
しかしどんな世にもうまいだけの話はない。このスキルのデメリットとして、私はこの〈錆鎧破〉を発動していないとき、常に全ステータスが最低値に固定される。
まるで、あのクソ野郎から貰った『チカラ』がないと生きていけない、『向こう』の私のように。
この二つのスキルを見たとき、私は思わず笑ってしまった。
嗚呼、なんておあつらえ向きのスキルなんだろう――と。
エンブリオはプレイヤーのパーソナルを解析して、そのパーソナルに沿った能力を身に付ける。まさかこのエンブリオが、ここまで私を見抜いていたのかと思うと、恐ろしく思う反面、嬉しくもある。私をちゃんと見てくれていた。ということだから。
同時に憎悪する。
どこまでも私を追いかけてくる、形のない悪意に。
一瞬、目を閉じて意識を集中する。
「いつまでそこにいるんですか。来ないなら、私から行きますよ」
『■■ッ』
少し離れた場所にいる【クワズムシ】のもとへ、一息でたどり着く。もともとこういう歩法が得意な私は、この程度の距離なら簡単に跳び移れる。
今度は腕の根元に向けて、突きを放つ。
「刺ィッ!」
「■■■!!』
読まれやすい単調な突きは、やはりというべきか、簡単に防がれた。
私の手が相手に届く前に、相手の指先が喉元に滑りこんできたからだ。
その指先を全身を傾かせることによって回避、その勢いのまま、浮いた足を脇腹に捻じり入れるように蹴りを放つ。これも蹴りの方向と同じ向きに動くことによっていなされる。
凄い。凄まじい熟練度だ。私がどれだけ攻撃を繰り返しても、絶対に有効打になることはなく、逆にこちらに致命傷を与えうる攻撃が的確に飛んでくる。
なんて技量。なんて熟練。
一撃一撃が流れを作って、こちらに息をさせない連撃が絶え間なく襲ってくる。
これが山姥を破った武術か。どこまでもついてくる連撃が、絶えることのない攻撃の嵐が、隙のない怒涛の攻めが。一度も同じ流れはない。
だけど――
「――その動きは、さっき見ました」
私には通用しない。
◇
月は既に天辺まで登っていた。
薄い月光に照らされた戦場は、異常な様を作り出していた。
「―――ふッ」
『■■■■ァッ!!』
片や嵐のように暴力を吹き荒らす獣。片や蝶のように舞い続ける白。
つい一刻前まで、一方的なワンサイドゲームになっていたと到底信じられない景色がそこにあった。
「先ほどから同じ型ばかりが続いてますね。もう次はないんですか?」
そう声をかける芳乃は息こそ乱れているが、その体にはまるで傷がついていない。あの暴力の嵐の中にあってあり得ないことに、攻撃を受けていなかった。
対して声をかけられた獣は、そんな声など聞こえていないのか、そもそも声を聴く器官すらないのか、一心不乱に攻撃を加え続ける。その激しさは最初の比を超え、視認可能な速度にあっても見えないほど。意識の隙をついて、タイミングをずらして、絶え間なく与えられる打撃はどんな達人であっても無傷で避け続けるのは難しいだろう。
しかしその絶技を受けているのはただの少女ではなかった。
その才、人に非ず。
実の父にして、世界指折りの達人である男でさえ、そう評価するしかなかった才能。
鬼才、龍洞寺芳乃。
こと
『■■■■■!!』
理性ない獣でも、焦りはあったのか。【クワズムシ】の動きが明らかに激しく、速くなっていく。
しかしその中でも芳乃に攻撃は当たることはない。それどころか攻撃した【クワズムシ】のほうが攻撃を受けている。
血が霧のように吹き荒れ、鈍い肉の色が弾ける。
白刃と血肉が交じり合い、切り結んでは離れる。
それは舞のように見事なものだった。死合の中にこそ生まれる芸術と呼ぶべきか、千切れる肉や閃く鋼。果ては暴力の化身のような武術と、相対する見切りの舞。
それがまるで一枚の絵にでもなりそうなほど、見事に掛け合っていた。
だからこそ、終わりは簡単に始まる。
「それでは、もう終わりにしましょう」
その一言と共に、戦況が傾く。
繰り出された【クワズムシ】の攻撃をいなし、ほんの数舜、【クワズムシ】の体制が崩れた瞬間。
『■、■■■■ッ!?』
「――――疾ッ」
今まで【クワズムシ】が放ってきた嵐が、そのまま同じ形で、同じタイミングで芳乃から繰り出された。
右の手刀から始まって左の足斧。かわるがわる打ち出される継ぎ目のない攻撃に、もはや【クワズムシ】は防ぐ術はない。
終わりのない攻撃が、端から徐々に体を削り、神経を削ぎ、そして【クワズムシ】の首を刈り取った。
◇
昔の事だ。
ある所に一匹の蟲がいた。
蟲に名は無く、ただ個ではなく群として、【喰わず塚】と呼ばれていた。
何を食うことも無く、一生をその大きく狭い塚の中で生きるその蟲達を、人は嘲りを込めて喰わずの塚と呼んでいた。
だが実際に蟲達は何も食わなかった訳ではない。
逆だ、何もかもを食って生きていたのだ。
生まれたその瞬間からが、生存競争の始まり。
一生を塚の中で、食うか食われるかの中で生きる蟲達は、外界に気を配る余裕も、必要性も感じず。
ただ、生き残ることだけを考えていた。
ある時、とある塚で勝者が生まれた。
先天的に躯の大きかったその個体は、瞬く間に塚の蟲を平らげた。
種としての、記念すべき偉大な勝利であると、その時の蟲は信じて疑わなかった。
だがそれは間違いであった。
強大であり過ぎたその個体は、自らの力によって苦しめられることになる。
食糧不足。
なんとも簡単で、単純な事だ。
今までこの種が誕生してから何十年、未だにどの個体も、互いを喰い合うという性質を持ちながら、どの個体も塚を食い上げたことは無かったのだ。
互いを食うことしか知らぬ故に、全てを平らげたこの個体には、食料が無くなってしまった。
しかしその個体は特別であった。
誰よりも強大だった蟲は、誰も試せなかった事を試してみる。
塚を、喰ったのだ。
餌が無いのであれば自分から餌のところに向かえばいい。自分はそれができる力がある。
理性などない蟲にも関わらず、蟲はそれを本能で理解したのだ。
そして暫くの後、この世界から【喰わず塚】という種は途絶えた。
あの日塚から出た一匹のデタラメに、一匹残らず食い尽くされた。そして生まれたのが、王である。
王は言った。
この星の全てが自分の食い物であると。
傲慢これに極まれり。
当たり前のように、王は存在する全てが自分のためにあるといってのけた。
それを信じてしまう様な力が、王にはあった。
だが、足りなかった。
すべてを喰らう大きな顎も、他の生物を越す背丈も、暴威を振るう力も、その全てはかの種族には足りなかった。
小さな顎、小さな背丈、小さな力――膨大な数。
人間。
彼らに王は破れた。
満身創痍の王は、瀕死の体になってまで、未だに信じていた。
この星の全てが自分の食い物であると。
死に体で、誇りも尊厳も投げ捨て、失いながらの敗走道中で、王は吠えた。顎は砕け、喉は裂け、肺はつぶれていたが、声にならない叫びを『魂』に刻んだ。それは果たしてどんな言葉で刻まれたのか。それで果たしてどんな意味が刻まれたのか。それを知るすべはない。
なにせ、200年前の話だ。
かくして王はこの森に流れ着いた。
この国の猛者達でさえ入ることを躊躇うほど、悍ましい生存競争が一時も休むことなく行われている、この恐ろしい山に。
大木を噛み砕く強靭な顎を持つ餓狼。
歴戦の猛者を退ける技量と力を合わせ持つ亡霊。
墓より蘇った戦を忘れられぬ骨達。
この国のどんな場所よりも恐ろしい。弱った王では一瞬たりとも生き延びられないその場所で、王は生き残った。
誇りを捨てた王は、戦いに敗れた餓狼を、戦士達の屍肉を貪った。――――マダダ
尊厳を失った王は、決して獣達の傍を歩めはしなかった。――――マダ、耐エルノダ
敗北した王は、二度と強者に立ち向かえなかった。――――イツノ日カ
王には、王の種であった「喰わず塚」にはある能力があった。――――我ガアノ王座二座ルマデ
それは「喰らった生物の特徴を獲得すること」――――耐エ続ケルノダ
餓狼を喰らった『強靭な顎』と『強靭な筋組織』を手に入れた。亡霊を喰らった『歴戦の技量』と『歴戦の力』を手に入れた。骨達を喰らった『頑丈な外骨格』と『消えぬ闘志』を手に入れた。――――ソウスレバ
かつての敗北の象徴を喰らった『理性と知恵』を手に入れた。――――我ハ永遠ノ王トナレル
そうして王は真の意味で『王』となった。
王を脅かす存在はなく。王を脅かした存在は、皆王に喰われ『弱者』となった。もう誰も王を阻むことも、脅かすことも、ましては負かすことなど――――
――――ナイト思ッテイタノダ。
◇
『■―――――ッGRWOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「なっ!?」
首を刈り取ろうとした瞬間、いきなり不可視の圧力に吹き飛ばされた。
いったい、何がおこってるんだ……これは、森にいるモンスターたちか?
みんな、強くなって――いや、元の強さに戻っている?
そして、今になって私はいつかの問いへの解を得た。
『おかしい。
何かがおかしい。
私が今居るこの恐山は、余りにも弱い。
明らかに私よりレベルが高いモンスター達。
――なぜ私より速い程度の速度なのか。
――なぜ5000リルで買った刀で切り捨てることが出来るのか。』
「……なるほど、そういうことでしたか」
呟いて、目の前の【クワズムシ】をにらむ。
そこには、五体満足どころか、最初に会敵したとき以上の力を内包した【クワズムシ】が、変わらず炯々とぎらつく複眼で私を見ていた。
それは、まるでこの森のモンスターの強さをすべて併せ持ったかのように、悍ましくも完成されていた。
いかがだったでしょうか。とりあえず、次回で【クワズムシ】戦は終わらせたいと思います。
感想があると、頑張れます。
では