TS転生者はヒキゲーマー   作:猫の軍

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メリークリスマス!!



遅かったけど。


ep,11 それぞれの夜明け

【致死ダメージ】

 

【パーティ全滅】

 

【蘇生可能時間経過】

 

【デスペナルティ:ログイン制限――――

 

 

 

 

 

 

 電脳の世界から、意識が引き離され、現実に浮上する。しばらくの時間を経て、完全に意識が戻ってくる。

 瞼を上げると、目に飛び込んでくるのは薄暗い天井。ぼんやりと明るいのは、カーテンから入り込んでくる、朝日のせいか。

 

 ……いつの間にか、朝になってたみたいだな。

 

 寝不足で痛む頭を押さえて、ベットから降りる。フローリングの床は、初夏に入った今でも、少し冷たい。はだしの裏に朝の温度を感じながら、少し大きめの学習机に向かう。その上にあるのはノート型のPC。だいぶ前に発売された、型遅れの中古品だ。

 PCを立ち上げる。7月19日。しっかりと日を越していた。

 パスコードを打ち込んでPCを開き、ニュースを見る。

 

 □『<Infinite Dendrogram>』大反響。各国で品切れ。

 □『<Infinite Dendrogram>』に、評論家が語る。

 □夢のゲーム、遂に夢を実現!

 □無差別異種格闘技世界大会。優勝はまたも龍洞寺。無敗の王者に迫る。

 

 ……。

 

「龍洞寺……?」

 

 気になったオレは、普段だったら開くこともしないその記事を開く。

 長いロード時間を終えて開かれたニュースページには、大きく『世紀の天才、龍洞寺十二(りゅうどうじ とうじ)、その軌跡』と書かれていた。

 龍洞寺十二。その名前は、格闘技に興味のないオレでも知っているほどの、ビッグネームだ。昨今の格闘家には珍しく、弟子をとって、道場を開いているのは有名な話だ。しかしその弟子へ求めるハードルが高すぎて、一桁ほどしか弟子がいないのも有名な、苛烈なほどストイックな人物。

 その半生は、激動に満ちている。

 

 齢8にして両親を、事故により亡くす。それをきっかけに強さへの渇望を抱き、親戚であった龍洞寺家に引き取られる。この時、まだ名前は十二ではなかったようだ。当時から龍洞寺家は、武術の名門として名をはせていたが、今ほどのものではなかった。そこで養子として引き取られてからの龍洞寺選手は、学校にも行かずに武術の修行に明け暮れる。朝早く起きて夜遅くまで、養祖父である十蒔(とうじ)に稽古をつけられ、気絶して日を終えることも珍しくはなかったらしい。

 彼が15の時、初めて出場した大会。後のデスマッチ式格闘大会アンリミテッドパンクラチオン。それで初出場で優勝してからというもの、彼が出場した大会はすべて彼の優勝で終えている。しかし18になったとき、師匠であり養祖父であった十蒔を手にかける。十蒔翁の遺書には、自分が十二に殺された場合、両者合意のため罪に問うことを禁ず。と書いてあったため、裁判にかけられはしたが、無罪となった。しかし彼に疑惑を向ける人は少なくない。このときから、正式に十二を名乗り始める。

 23の時、龍洞寺家の一人娘、華と結婚。その一年後に長男、清華を授かる。その十四年後に、次女、芳乃を授かる――――

 

「ッ!?」

 

 芳乃。芳乃?

 その名前にガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。芳乃、龍洞寺芳乃。それはオレがさっきまで居た電脳世界で出会った、真っ白な少女の名前だ。名前だけを騙った偽物か。それとも本物か……いや、まさかな。

 

 混乱で頭痛が強くなったためニュースサイトを閉じる。いったいどうなってんだ。いやまったく、世界はどんなとこで繋がってるんだか。そう思いながら片手でニュースサイトを閉じると、メールを開く。

 一緒にデンドロを始めた友達からの、感激のメールから。いきなり目の前で消えて驚いた、どこに居るんだ。というメールまで、実に二十件。ふたりで十件づつ書いたのか。

 一つ一つに目をとおし、メールを送る。

 

 オレはもともと、初期国家はレジェンダリアだった。

 そこで友人と集まり、一緒にプレイしていた。だがちょうど昨日のことだ。外のフィールドでモンスターと戦っていたところだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なんか霧が濃くなってきてんじゃねぇか?」

「そうか?」

「なってきてるって。なぁ、もう帰ろうぜ。こんな濃霧の中じゃ、まともに戦闘なんてできやしねぇよ」

「んー……でももう少しでレベルが上がりそうなんだよな。な、僕のレベルが上がるまでしない?」

「えぇ、お前なぁ。なぁアベル。お前はどう思うよ」

 

 幻想的な森の中。しかし深く、濃い霧が辺りを覆っている。

 そんな中で、オレ達は三人で話し合っていた。オレは話しに参加してるわけではなかったが、辺りを警戒して、いつモンスターが出てきても問題ないようにしていた。

 しばらく二人は話していたが、赤い髪のバンダナ――ジャンクに意見を聞かれた。

 

「オレか?」

「お前しかアベルってやつはいねぇだろ。それで、どうする。こいつがレベル上がるまでやりてぇんだと」

「頼むアベル!僕、次のレベルで新しいジョブスキル。ゲットできそうなんだ!」

「んー……」

 

 顔の前で手を合わせる金髪眼鏡。左手にはまだ卵が――第零形態のエンブリオが埋まっており、オレとジャンクの二人にはそれぞれ紋章が刻まれている。

 早々と孵化したジャンクや、昨日孵化したオレ。なのにいまだに孵化しないことを焦っているのか、金髪眼鏡――やじゅうは必死に頼み込んでいる。三人ですでに孵化している〈マスター〉のもとに行って、どうやって孵化したのかを聞きこんだりして調べたのは昨日だ。

 そんなに焦ることはない、って言いたいが……

 

「いいじゃないか?そんな、一時間とかかかるわけじゃないんだろ」

「やった!ありがとアベル、感謝感謝!」

「おいおい、いいのかよ。なんか霧の濃い日はなんちゃらサークルが出るから云々っていわれたじゃねぇか」

「大丈夫だって!そんなポイポイ起こんないよ」

 

 だといいけど。と言葉をこぼすジャンク。

 なんだかんだ言いつつ、最後には手伝ってやるつもりだったのだろう。傍らにはしっかりとジャンクの〈エンブリオ〉が、戦闘形態で待機していた。

 そのことに、口の悪いこの友人の人情に微笑ましく思っていると、手元から――正確にはオレの握っている大剣から、声が聞こえた。

 

『おい、マスター。俺様、腹が減った。肉ないか、肉』

「我慢してくれ、お前さっきも食ったろ。あれで最後だ」

 

 声の主はオレのエンブリオ。孵化するや否や、オレにありったけの肉を要求した常識無し。この獣のような〈エンブリオ〉が本当にオレのパーソナルから生まれたのか、あのチェシャ猫に聞き直したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢する。

 正直、エンブリオ固有のスキルを確認したとき、確かにオレのパーソナルから生まれたものだと納得はしたが。それとこれとは別だ。

 〈エンブリオ〉を見ながらそんなことを考えていると、先頭を歩いていたやじゅうが声を上げる。どうやら獲物を見つけたみたいだ。斥候職のやじゅうは基本的に索敵や、姿を隠してからの奇襲を仕事としている。

 

「正面、十メートル先にロゥゴブリン。先手をとるよ」

「了解」

 

 こうして戦闘が始まった。

 

 

 

 戦闘自体は、あっさりと終わった。相手が一体だけで、やじゅうの先制攻撃が相手の喉をつぶし、仲間を呼べなくしたのもある。

 そうして簡単に終わった戦闘で、どうやらレベルが上がって、スキルを取得したらしい。やじゅうが大きく喜びを表している。それにおめでとうと、言おうとした時だった。ひときわ濃くなった霧が、別種の光を発し始めて――まずい、そう思った時にはもう遅かった。

 

 次に目を覚ましたのは、朽ちた民家の中。

 なぜ、どうして。そんな疑問を浮かべるよりも先に、駆け出していた。

 

『おい、マスター。どうした、そんなに慌てて』

 

 声が、聞こえた。

 

『声?』

 

 助けを求める声だ。助けを求める声だ。オレが、救わないといけない声だ。

 

『――――はッ、それがマスターが俺様を呼んだ理由か』

 

 

 

 オレは、この耳に聞こえるすべての救いを求める声を、救わなきゃいけない。

 

 

 

 飛び出した先、そこには化け物と、その化け物に目を奪われ、叫びを上げる少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから先は、思い出したくもない。

 オレはあの化け物から、少女を守って逃げることしかできなかった。挙句、【ヘラクレス】まで砕かれ、みじめなことこの上ない敗走だ。

 

 聞こえるすべての声を救わないといけない。

 

 だが、こんな力じゃ、何一つ救えやしない。

 

「強く、なりてぇなぁ……!」

 

 天井を見上げたまま、強く。血がにじむほど強く拳を、握りしめる。

 

 

 

鈴谷勇馬。

 

 

 

 オレは、すべての声を救う。そのために、たとえオレの命を使い捨ててでも。たとえ、かつての声をこの手にかけようと――――救わないといけない。

 

 

 

 

 

 

 目が、覚める。

 静かに、海から引き上げられるみたいに。激しく、現実に投げ捨てるみたいに。

 

「……あさ、ですか」

 

 ぽつりと声をこぼす。

 がらんどうな部屋には、声に返事する者はいない。虫の声も、人の声も、何もしない。完全な静寂。不気味なほどの、朝。

 立ち上がって、部屋を出る。

 雨戸まで締め切られた廊下に、温かい。ぬくもりの感じない、温かい蛍光灯が光っていた。いつでも夜。いつでも朝。代り映えのない、14年間の景色。

 

「かお、あらわないとですね。とてもひとに見せられる顔じゃありませんし」

 

 引き攣ってしまった顔を直すために、洗面所に向かい、温かい水を出す。

 すっかり手馴れてしまった、女の子の顔の洗い方。髪を上げ、水で濡れてしまわないようにして、やさしく洗う。

 洗いながら、考える。

 

 今回の私は、完全に今までの経験や、自分の能力に胡坐をかいていた。眼の学習速度が、相手の速度についていけていなかった。これは今まで私が訓練をサボっていた結果だ。それよりも、だ。

 

「足をもぎ取られたとき、私は、相手の動きを見取れなかった」

 

 それが問題だ。

 私の認識を超える技がある。それが問題だ。

 これでも私は世界各国の武術家たちを相手に、所見でも無敗を貫いてきている。所見殺しは効かない。そう思っていた矢先にあれだ。私はまだ未熟なんだろうか。多くの技を見て取ってきた、今回も【クワズムシ】の数多くの武術を見て取った。それでも足りないのか。

 

 どうすればあのクソ野郎を、殺し尽くせる技を、体得できるか。

 

 ぼんやりと考えていると、背後に気配を感じた。ゆるりと振り返ると、やはりそこには思った通りの人。私の、兄。

 

「やぁ、芳乃。久しぶり」

「……兄さま」

 

 龍洞寺清華。

 私が唯一、勝てない、人間。

 

 

 

 

 

 

「それで、俺に用だなんて。芳乃らしくないな」

「そうでしょうか。私は兄さまにらしさを言われるほど、理解されていたのですか」

 

 そういうと、薄く笑ってはぐらかす兄。

 

「そういうなよ。な?――――また、ぐちゃぐちゃに泣かしたくなる」

 

 この兄は、変態だ。

 尋常ではない強さ、武への理解。そして適応力。そのすべてを私を圧倒的な力量差で負かし、屈辱を与えて、敗北を与え。その姿に興奮して、悦ぶ、真正の変態。今も前回の私を思い出しているのだろう、ゾクゾクと背筋を震わしている。本当に、度し難い変態。

 

「それで、俺の芳乃が、俺以外の奴に敗北を与えられたんだろ?」

 

 ――――誰だ?

 その言葉が発せられた一瞬、瀑布のような緊張感が、降りかかる。

 息が苦しくなって、めまいがするほどの緊張感。こんな人外じみた圧力、あの【クワズムシ】でさえ持っていなかった。

 

「にいっ、さまには、関係ないことですっ」

「いいや、関係あるね。俺の大事な、大事な芳乃が、俺以外に膝を屈していいはずがない。そうだろう?」

「私はっ!」

 

 言葉を叫ぼうとした瞬間、私の顎を、凄まじい力でつかむ兄。

 笑っている。ああ、この笑顔。この顔は、ダメだ。

 

「なぁ、芳乃。俺は言えって、いってるんだよ。大人しく聞いてくれよ」

「クッ……」

「芳乃」

 

 兄が、私の名前を呼ぶと同時に、兄が私を押し倒す。

 馬乗りになった兄が、空いているもう片方の手で、髪をなでる。その手つきがあまりにも、あまりにも優しげで。喉からヒュッと、聞いたことがない音が鳴る。

 いや、まって。お願いだ、それだけは――――

 

「俺も、流石に実の妹を傷つけたくはないんだよ。なぁ、芳乃もそうだろう。傷つきたく、ないもんな?」

 

 イヤだ。近づかないで。こないで。

 

「っ、ひあ……あ。はいっ」

「うん、だよな」

 

 きっと私は心の底から怯えた顔で、兄を見ているのだろう。

 その証拠に、心の底から悦びを感じている兄の顔がある。

 

「じゃあ、言ってくれるよな」

 

 私は――――

 

 

 

 

 

 

 朝になっても暗い部屋。

 私は今日も伽藍洞の部屋の隅でうずくまっている。

 

ここに私の居場所はない。

 

この世界に私の居場所はない。

 

どこにならある?

 

私の現実は、どこだ?

 

俺の夢は、私の平穏は、どこにいけば。

 

 

 

龍洞寺芳乃。

 

 

 

 私は、この世界を飛び出していきたい。すべて、わたしの力が通用する世界へ

 

 

――――神を殺して。




さて、次回で一章は終わりです。
その次はまだ考えていませんが、できるだけ早く更新したいと思ってます。しばらくは、感想でいただいた、訂正箇所を訂正していきたいと思ってます。

感想があると頑張れます!
ではでは
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