前回、一話目にもかかわらず評価を頂きました。本当に有難う御座います。
作品が面白いと言って頂けるのは本当に嬉しいものです。
感想を下さった方、お気に入り登録をしてくださった方、感謝です。
そんなこんなで二話目です。
では、
※四月十五日、加筆修正。
ep,1 チュートリアルは草原で
「いらっしゃい。ここは〈Infinite Dendrogram〉入り口、つまり君たちの言うチュートリアルみたいなものだ」
気が付けば平原、だだっ広い新緑の大草原に言葉を話す兎と共に立っていた。
ザァと風が背の低い草を揺らせば、草原全体が波打ち、まるで大海のように見える。
「初めまして、ボクはこの〈Infinite Dendrogram〉の管理AI十二号、ラビット。君の案内人だ」
「あ、初めまして。龍洞寺芳乃です」
私の目の前に立つ服を着た兎は、何の感情も感じさせない顔でそんなことを言いながら、しげしげと私を見つめていた。
「あの、私に何か付いてますか?」
「いや、大した事じゃないんだけど………君のソレ、本物かい?」
私の髪と目を指差しながら聞いてくる兎――ラビット。
風に靡く純白の髪と、血の赤を鮮やかに写し上げる朱の瞳。
それらを指して聞かれた質問に、またかとウンザリしながらコクリと首を縦に振る。
「そう……気を悪くしたなら謝ろう、すまない。珍しい姿だったから、つい興味が湧いてしまってね」
――噓だ。
彼(?)の言葉に心の中で否定を告げる。
言葉を選ぶような合間と、ほんの少し揺れ動いた目。
それらから彼が嘘をついたのだと、簡単に分かってしまう。
「さて、お喋りはここまでにして。早速設定に移っていこう……先ずは描画選択からだ」
ラビットがそう言いながら指を鳴らすと、視界が一定時間ごとに変わり出した。
現実の様な風景からアニメ調な感じへ、そこからCGへ。ころころと変わる風景に驚きつつも、その感触を楽しむ。
……兎なのに、指なんて殆ど無いようなものなのに、なんで指が鳴らせるのかはこの際考えないで行こうと思う。世の中には知って良いことと悪い事があるんだ。
「このままが良い」
そう言うと、コロコロと変わっていた風景の描写が、ピタリと最初のリアルな風景で固定される。
改めてすごい技だと、実感する。目の前の兎の毛の一本一本まで細かく見えて、まるで本物の兎をゲームの中に閉じ込めたみたいだ。
感心していると、ラビットが急かすように言葉を続ける。
「じゃあ次に名前を決めて」
「龍洞寺芳乃。このままでお願い」
私がそう言うと、ラビットは少し眉を潜めるような雰囲気で、聞き返してきた。実際は彼に眉なんてないのだが、そこは感覚だ。
「いいのかい?」
「何か不都合があるの?」
「ああ、最悪リアルが割れる可能性も有る」
ああ何だ、そんな事か。
「大丈夫。リアルが割れても問題ない」
「ソレは何故?」
「だって私、引き篭もりですから」
「…………そうか」
反応が薄い、おかしいな。
ネットゲームをしてたとき、この話題で笑わない人は居なかったんだが……
依然として機械の表情を貫くラビットの、次の言葉は酷くつまらないもので。
「次は容姿の設定だが……」
スルーですか、はい。
当たり前の反応な気がした。
(閑話休題)
「じゃあ次は一般配布のアイテムを渡そう」
あの後、容姿設定で一切手を加えないリアルの姿……つまりリアルモジュールで登録をしようとして、冷たい目でやんわりと止められた。
だが、止めろと言われて止まるような私ではない。
この身体に転生して、鏡で成長していく自分を見ながら何度も考えた事だ。
それはつまり、
絶対にリアルモジュールでゲームをプレイしてやる
ということ。
特典で『美神の如き美貌』と書いた私の容姿は、見た者すべてを魅了する絶世の……いや、傾世の美少女と言える。
例えアバターのメイキングが出来たとしても、これ以上の物は作れない。そう思ったからこそのリアルモジュールである。
多少胸囲が寂しくても、これが完璧で完全な造形なのである。
多少、胸囲が寂しくても!
そういう訳で私は現在、実名でリアルモジュール。
つまり現実の私そのものなのである。
シュッ
なんてどこか明後日の思考をしていると、首の真横を大型のナイフが通り抜けた。
鏡のように滑らかで鋭利な輝きを持つそれは、私の首の皮を薄く切ると、後方の地面に突き刺さった。
「聞いてるかい?」
こいつ……今完全に殺す気で来てたな?
明らかに冗談の類では済まされない、尋常じゃない殺気が感じられたんだが。結構ヤベー奴なのか?こいつ。
「……まずこれが君専用の収納カバン。まぁアイテムボックスだ」
少し切れた首を押さえる私を無視して、ラビットは取り出したポーチを指しながら説明を始める。
……聞いていなかった私が悪いのだろうが、なんだ?こいつは。
頭を振って思考を追い出すと、目の前のポーチに目を向ける。
しっかりとした造りのポーチだけど、
「それって、どれぐらい入るんですか?」
「量は標準的な教室一部屋分。重量は約一トン。それと、この中には君の持ち物しか入らない様になっている。簡単な犯罪防止だよ」
「へー……便利なんですn「ただし」……何です?」
「相手を殺して奪った物や、《窃盗》スキルで盗んだ物なら君の物じゃなくても入れることができる」
「…………」
「それに《窃盗》スキルのレベルが高いと、このカバンの中の物も簡単に盗んで行くから気を付けるといい」
物騒すぎやしませんかね、このゲーム。
「気を付けろって言ってるだろ?」
どうやって対処しろと?
まさか某狩りゲームの様に黒猫に盗まれたら叩き潰せなんて言わないよな?
「(チラッ)」
「(スーン)」
そう言う事らしい。
そういう事、なのか?……まぁいい。
頑張らねば。
「さて、次に初期装備を決めて欲しい」
ラビットがそう言うと、目の前に大量の文字が並ぶウィンドウが浮かぶ。
その中には【和装】【洋装】【
私はその中から白と黒のシンプルな和服を選択した。
すると、一瞬だけ私の体が光る。
光が収まると、いつの間にか私は選択した和服に着替えていた。
弓道で使用される様な袴姿で、使い古されたかのような柔らかさが身に心地よかった。
「次に初期武器を選んで欲しい」
途端、目の前に現れる分厚いカタログ。
恐る恐る表紙をめくるとそこには膨大な量の文字がイラストを交えて書き綴られていた。
そっと表紙を閉じると、ラビットにカタログを返す。
「刀をください」
「いいのかい?」
「はい。とてもじゃないですけど全部見れる気がしないので、刀をください」
「そうか」
そう言うと、カタログをどこかへ仕舞うラビット。
それから彼が腕を軽く振ると、腰にズシッとした重みが発生する。
見るとそこには平凡な打刀が一本、ぶら下げられていた。
ふむ、刀の重みっていうのも悪く無いな。
満足そうに刀を見る私を見て、考えが読めない顔のラビットは暫く私を見ていた。
「なにか?」
また何かしたか?
もうナイフを投げられるのは嫌なんだが。
そう聞くとく首を横に振ったラビットは、次の設定に移るといった。
「さて、いよいよ君の〈エンブリオ〉を移植しようと思う」
「それが例の?」
「そう。左手を出して……これで移植は完了だ」
言われたとおりに左手を出すと、左手がほんのりと光る。
左手を見るとそこには丸い卵形の宝石が埋め込まれていた。
淡く光るそれは、微かに脈動しているように見えて少し不気味だった。
「〈エンブリオ〉の説明は要るかい?」
「一応お願い」
「分かった。まず、〈エンブリオ〉にはいくつかのカテゴリーがある。
プレイヤーが装備する武器や防具、道具型や義体型のTYPE:アームズ
プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー
プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ
プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル
プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー
この他にもレアカテゴリーって呼ばれる物もあって、プレイヤーによって千差万別。それこそ同じ物は今君の左手に嵌ってる卵――第0形態だけだ」
知らなかった。
一切のメディアで宣伝をせずに始まったゲームだからか、そういった情報は一切知らなかった。
なる程、プレイヤーによって千差万別。つまり同じ物が一切存在しない完全なオリジナルの装備、もしくは能力が手に入る訳だ……この〈エンブリオ〉があれば、ただのMMOでも飛ぶように売れたんじゃないか?
何にせよ、こんなに面白そうなシステムがあるんだ。これはかなり期待できそうだ。
左手に嵌った宝石を見て、呟くように話し掛ける。
「不気味だなんて言ってごめんね。よろしく、私の〈エンブリオ〉」
その声に応えたかのように強く光ったのは気のせいだろうか。
まぁ、今からこの子が孵化するのが楽しみだ。どんなカテゴリーになるだろう。アームズかな、ガードナーかな、それともレアカテゴリーかな。楽しみだ。
「……最後の設定だ。君の所属国家を決めて欲しい」
ラビットがそう言いながら地図を取り出す。
地面に広げないと全体を見れないこの大きな地図には、大陸や海に混じって、7つの光の柱が立っていた。
それぞれが選択できる国家のようで、名前と簡単な説明、街の風景が映されていた。
白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み
騎士の国『アルター王国』
桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭
刃の国『天地』
幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間
武仙の国『黄河帝国』
無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市
機械の国『ドライフ皇国』
見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ
商業都市郡『カルディナ』
大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地
海上国家『グランバロア』
深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園
妖精郷『レジェンダリア』
それぞれが魅力的で、見るだけでわくわくしてきたが、私の心はそれを一目見た時点で決まっていた。
「『天地』でお願いします」
「そ……これは軽いアンケートだけど、どうしてその国に?」
どうして、か。
「勘、ですかね」
「勘?」
「ええ、何となくこの『天地』だったら楽しい事が起りそうだったから、ですね」
「……ああそう」
何度か頷くと、ラビットは此方に向き直って聞いてきた。
なんだ?自分から聞いてきたくせに、その興味を亡くしたかのような態度は。いくらなんでも怒るぞ?
不機嫌を顔に出した私を無視して、話を進めるラビット。
ほんと、なんだこいつ。
「さて、これで君はもう世界に降りる準備は出来た訳だけど、何か質問はある?」
「そうですね……ああ、そういえばこのゲームは何を目的にしたらいいんです?」
今までやってきた多くのゲームには、大きかれ小さかれ、何かしらの目標があった。
このゲーム――<Infinite Dendrogram>にはどんな目的があるのだろう。
私の質問に、ラビットは眉を少しひそめて答えた。
「何でもいい」
「何でも……?」
「そう、善人になるのも悪人になるのも、勇者になるも魔王になるも、王になってもいいし、奴隷になってもいい。このゲームは何でも出来る。もう一つの現実、それが
「なんでも……」
ラビットの言ったその言葉が、溶けるように胸の奥に染み渡っていく。
何でも、何でも。
やりたい事がいっぱいある。
転生してからずっと、したいと思っていたことがある。
もし、この世界が何でも許されるのならば。
……私はこの世界で、私の現実を手に入れたい。
窓から眺めてるだけの景色じゃなくて、断絶された、手の届かない幻想じゃなくて。
自分の脚で世界を回って、
目で、耳で、肌で、世界を体験したい。
ずっと、家の中で過ごして来た。産まれてからずっと。
外に出ることは許されず、日に当たる事も許されず。
ただずっと家の中に閉じ籠って過ごして来た。
日に弱い貧弱な体では、外に出て遊ぶこともできず、毎日家の中にある道場で父が連れてきた世界に名だたる武術の達人と、戦わされる日々。
自由に生きたい。
それが、かなうのか?この
もしそれならば、私は今度こそ本当にこの世界に転生した目的を果たせるのかもしれない。
「そうか」
そして兎は言った。
「ようこそ<Infinite Dendrogram>へ、”僕達”は君の来訪を心から歓迎する」
ラビットがそう言った途端。
目の前の全てが消え失せた。
「ふぇ?」
一瞬の停止。そして落下。
雲を突き抜けた天空から、大地に向かって落ちる感覚。
「うわぁああああああああああ!!?」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!?
まって何これどういう状況!?これが歓迎?そんなバカな!
一体どういうつもりだっ――――――ッ
真っ白な雲を突き抜けたその先、大地を全貌する彼方の展望台で、世界を見た。
視界一面の大空と大地。遥か向こうには蒼と翠の境界線。
地平線に見える海の煌めき。輝きは、例え天空であっても色褪せず。
大地を彩る森の緑。既知なんて霞む程の未知。
空を飛ぶ見た事もない生物。それは幻想が現在する証明。
そのどれもが、初めての景色で。その全てが、あまりに美しくて。
少し、泣いてしまった。
ああ、認めよう。
ここは、現実だ。
感想、批評、あからさまな煽りでなければ、原動力になります。
何とぞ。
では、また次の話で。